消費税の仕入税額控除とは?計算方法をわかりやすく解説
売上で受け取った消費税から、仕入で支払った消費税を差し引くのが、仕入税額控除。概要と、対象となるのはどのような取引か…[続きを読む]
病院での医療費・診察料などには、消費税がかかるものとかからないものがあります。
公的医療保険(以下、保険)が適用されれば医療費にも薬代にも消費税はかかりませんが、例えば健康診断など、保険適用外の医療費には消費税がかかります。
また、保険による診療には消費税がかからないのですが、実は、消費税分が上乗せされています。
この記事では、医療費・診察料と消費税のちょっと難しい関係、軽減税率かどうかなどを解説していきます。
目次
健康保険などの保険が適用される医療費・診察料や薬代は、国が非課税取引としています。
したがって、患者さんが病院などの医療機関で保険を使って治療を受けた場合、医療費の3割(高齢者など一部の人を除く)を負担しますが、そのお金に消費税は加算されていません。医師の処方による薬(処方薬)も非課税です。医療機関は患者さんに消費税の支払いを求めません。
また医療費の残りの7割は、保険を運営している健康保険組合や市区町村などの保険者が負担しますが、保険者が医療機関に支払う医療費にも消費税は加算されていません。医療機関は保険者に消費税の支払いを求めません。
これは歯科クリニックでも同じです。
医療機関では保険が適用される医療の他に、保険の適用外の医療も提供しています。それを自由診療といいます。
健康診断、美容整形、インフルエンザワクチンの接種、医療相談、金歯、先進的な治療などは自由診療であり、医療費は患者さんが全額(100%)負担します(10割負担)。これらはすべて消費税がかかります。
医師の処方によらない薬(市販薬)も課税されます。
2019年10月より軽減税率制度が始まりましたので、軽減税率8%と標準税率10%とに分かれます。
先ほど、保険が適用される医療費は、国が非課税取引としていると解説しましたが、「法的」にはそのとおりでも、「実質的」には非課税とはなっていません。
なぜなら政府はこれまで、消費税の税率が上がるたびに、診療報酬と薬科を値上げしてきたからです。
診療報酬と薬科について解説したうえで、消費税との関係を説明します。
保険適用の医療には、診療報酬という「値段」がついています。例えば、胃がんの患者さんの胃を摘出する手術は「悪性腫瘍手術」といい55,870点という診療報酬がつけられています(2018年4月時点)。診療報酬では1点10円で計算するので、「胃がんの手術は558,700円」となります。
このうち、原則3割である167,610円を患者さんが負担して、391,090円を保険者が負担します。これ以外にも検査費や入院費などがかかりますが、それらにも診療報酬が決まっています。
薬の価格には薬科があり、これも1点10円で表記されています。
診療報酬と薬科には
という特徴があります。
診療報酬と薬科によって医療機関の収入が決まります。つまり医療機関の売上高は、厚生労働省によって決まる一面もあるのです。
厚生労働省は、消費増税が行われるたびに、診療報酬と薬科を値上げしてきました。そして税率を8%から10%に上げる2019年10月の消費増税でも、診療報酬を値上げしました。
診療報酬は、全体で0.41%(医科0.48%、歯科0.57%、調剤(薬代)0.12%)上昇しました。
薬価については、増税対応で0.42%増加するのですが、実勢価格改定でマイナス0.93%となり、0.51%減少しました。
この処置は「医療機関の収入を増やす」ためです。なぜ、厚生労働省はこのような処置を取るのでしょうか。それは保険診療をする医療機関が、消費税を受け取れないからです。
ここで、ちょっと消費税の仕組みをおさらいしてみましょう。
たとえば、小売業では、小売店が客から受け取った消費税は自分たちの収入ではなく、税務署に納税します。
でも、医療機関は患者さんから消費税を受け取っていないので、税務署に渡すお金もないはずです。したがって、消費増税が行われても、診療報酬と薬科を値上げして医療機関を「助けてあげる」必要はないように思えます。
しかしそうではないのです。
「医療機関の控除対象外消費税」という問題があるために、診療報酬と薬科を値上げして医療機関を「助けてあげる」必要があるのです。
控除対象外消費税は、少し難しい仕組みです。
再び小売業を例に取ると、小売店は、顧客から消費税を受け取っています。したがって、小売店が税務署に納める消費税の額は、顧客から受け取った消費税の額から、小売店が卸会社に支払った消費税を差し引くことができます(仕入税額控除)。
しかし、医療機関は患者さんや保険者から消費税を受け取っていないので、医療機関が卸会社に支払った消費税を控除できません。控除できない分、税務署に多くの消費税を納める必要があります。これを控除対象外消費税といいます。
次の章でさらに控除対象外消費税について解説します。
医療機関が保険診療を患者さんに提供しても消費税を受け取ることはできませんが、医療機関が保険診療に使う医薬品や検査器具などの設備を購入するとき、業者には消費税を支払っています。
つまり医療機関は、消費税を支払っているのに、消費税は受け取らない、珍しい事業者なのです。これが「医療機関の控除対象外消費税」問題を生んでいます。これを理解するには、仕入税額控除というルールを知っておく必要があります。
仕入税額控除の理解を助けるために、先ほどの解説と重複する部分がありますが、再び小売店を例にとって解説します。
例えば、小売店が、税別価格50円で仕入れたペンを、税別価格100円で販売したとします。このとき小売店は、仕入先の文房具メーカーに税別価格50円と消費税5円(税率10%の場合、以下同)を支払います。そして客からは、税別価格100円と消費税10円を受け取ります。
この小売店が税務署に納める消費税は、客から受け取った消費税10円から、文房具メーカーに渡した消費税5円を引いた額(控除した額)の5円となります。
仕入れをしたときに支払った消費税分を控除しているので、この計算を仕入税額控除といいます。仕入税額控除を行うと税務署に納める消費税額が減ります。
しかし医療機関が行う保険適用の医療では、仕入税額控除が生じません。
ある病院が手術用の電気メスを、卸会社から購入したとします。このとき病院は電気メスの本体価格に消費税を上乗せして、卸会社に代金を支払います。
ところが病院の収入(患者さんの自己負担分3割と、保険者からの7割)には、消費税が上乗せされません。つまり患者さんからも保険者からも消費税を受取りません。消費税を受け取っていない以上、消費税を税務署に納めることはできません。
医療機関は、業者(つまり仕入先)には消費税を支払っているのに、客(患者さんや保険者)からは消費税を受け取っていません。そうなると仕入税額控除を行うことができません。
つまり、保険診療を行っている医療機関は、業者に支払った消費税の分だけ、損をしています。業者(仕入先)に消費税を支払っているのに控除というメリットを受けられないので、これを控除対象外消費税と呼ぶわけです。
控除対象外消費税(業者に支払う消費税)は、医療機関にとって純粋なコストになってしまいます。
消費増税が行われると控除対象外消費税の額も増えるので、医療機関の経済的負担はさらに増えます。
そこで厚生労働省が医療機関の経済的負担を減らすために収入を増やす方法を講じるのです。それが診療報酬と薬科を、消費増税のタイミングで値上げする理由です。
本文の内容を簡単にまとめます。
そして厚生労働省は医療機関の消費税負担を減らすため、消費増税のタイミングで診療報酬と薬科の値上げを実施します。
その理由は、医療機関は患者さんから消費税をもらっておらず、業者に支払った消費税を控除できませんので、医療機関の増税負担を減らすためです。