課税売上割合とは?具体例でわかりやすく解説
消費税の計算方法を複雑に感じてしまう原因の一つとして、課税売上割合の存在が挙げられます。 「課税売上割合」という概念…[続きを読む]
企業の経理担当者が日々の仕訳業務で間違えやすいのが、消費税の課税区分ではないでしょうか。
新人経理担当者の第1関門は「課税かそうでないか」の区別です。その区別ができないと、本当は仕入税額控除できるのにそれをせずに会社に「損」を与えてしまいますし、逆に、間違って仕入税額控除してしまうと税務調査で指摘され会社の名誉を傷つけてしまいます。
そして第2関門は、不課税と非課税と免税の区別です。似た概念のものが3つもあるので、正確に理解しておかないと混同してしまいます。
2019年10月の消費増税では、軽減税率が導入されたり、請求書や領収書の様式が大幅に変わったりと「経理担当者の大変さ」が増します。そのため、消費税処理の基本である税区分について「今」覚えてしまいましょう。
目次
第1章では、消費税の税区分の「大枠」をみていきます。消費税区分を完全に覚えるには、大枠を把握してから詳細の学習に入ったほうがいいでしょう。
消費税の税区分には、課税・不課税・非課税・免税の4つがあります。税区分は取引の形態によってわけられます。
経済活動の基礎となる取引は、消費税がかかる取引と消費税がかからない取引があります。さらに、消費税がかからない取引に、不課税、非課税、免税があります。
課税とは消費税がかかる取引です。次の4つの条件にすべて当てはまるとき、課税されます。
資産の譲渡・貸付(①)は税務用語で、一般用語で翻訳すると「商品や物品の売り買いや貸し借り」です。
役務の提供(①)とは、土木工事、修繕、運送、保管などのサービスを提供することです。
そして消費税は、国内の取引(②)だけにかかります。例えばアメリカで日本人どうしで商売をしても、日本の消費税は課せられません。
事業(③)とは商売やビジネスのことで、対価(④)とはお金のことです。
例えば、対価が発生しないボランティア活動は、資産の譲渡や役務の提供があっても消費税は課せられません。
また対価が発生しても、事業でなければ消費税は課せられません。例えば、子供が親のお使いで買い物をして小遣いを得ても消費税は課せられませんが、買い物代行サービスをビジネスにしている企業では消費税が発生します。
そして不課税とは、課税されない取引のことです。従業員への給与や対価を得ない寄付や贈与、国外取引は不課税です。不課税の具体例を後段でさらに詳しく紹介します。
不課税の取引は「課税売上割合」の分母に含まれません。この点は後で詳しく解説します。
非課税は、消費税が課せられない取引のうち、課税対象になじまない取引のことです。土地や株式などの有価証券などの譲渡や、預貯金の利子や社会保険医療は非課税です。
土地や株式は「消費」しないので、消費税になじまないと考えられます。
後で非課税の具体例をさらに詳しく紹介します。
免税は、課税4条件(上記の①~④)に該当しても課税されない取引のことです。
非課税の対象は「消費税になじまないもの」ですが、免税は「消費税になじむが消費税を免除する処置」なのです。
したがって免税では「消費税を課さない」のではなく、「0%を課税する」と考えます。
商品の輸出、国際輸送、免税店での取引などは免税です。
免税の具体例も後段でさらに詳しく紹介します。
税区分の「大枠」を理解できたところで、不課税、非課税、免税の区別が重要になる経理処理をみていきます。
商品やサービスの購入者にとって、不課税・非課税・免税の違いは大きな問題ではありません。
不課税・非課税・免税の違いが問題になるのは、商品やサービスを販売したときです。
企業の取引には購入も販売もありますが、経理担当者が特に注意すべきは販売にかかる消費税の処理です。
不課税・非課税・免税の区別があいまいだと、仕入税額控除の算定と課税売上割合の計算が間違ってしまうのです。
仕入税額控除は、企業が税務署に納める消費税の額を減らす効果があります。納付する消費税の額は企業の利益に直結するので、仕入税額控除を算定する経理担当者の責任は重大です。
仕入税額控除についてさらに詳しくみていきましょう。
企業が顧客に商品やサービスを販売すると、顧客は企業に消費税を支払います。その消費税は企業が税務署に納付します。
しかし企業は、顧客から預かった消費税を全額税務署に納めるわけではありません。企業は原材料などを仕入れたときに仕入先に消費税を支払っています。
したがって企業が税務署に納付する消費税額は「顧客から預かった消費税額-仕入先に支払った消費税額」となります。
この「仕入先に支払った消費税額を差し引く」ことを、仕入税額控除といいます。
したがって企業としては仕入課税控除を「増やしたい」モチベーションが働きますが、税区分によって仕入課税控除に計上できるかどうかが変わってくるのです。
以下のとおりです。
不課税売上 | そもそも消費税の対象外なので消費税を支払っていない。 したがって、その仕入や経費にかかった消費税を 仕入課税控除に計上できない。 |
---|---|
非課税売上 | 仕入・経費にかかった消費税は「原則」仕入課税控除に計上できない。 |
免税売上 | 仕入・経費にかかった消費税を仕入課税控除に計上できる。 |
注目しなければならないのは非課税売上です。非課税売上に対応する仕入・経費にかかった消費税は「原則」仕入課税控除に計上できないのですが、「例外」があります。
それは「課税売上と非課税売上に共通して対応する仕入・経費にかかった消費税」で、これは「一部」を仕入課税控除に計上できます。
この「一部」を算出するには、次節で解説する「課税売上割合」の計算が必要になります。
ややこしいため、介護サービスを例にして具体例をあげてみます。
介護サービスで提供する食事は非課税売上となりますので、仕入れにかかった消費税を控除できません。
(ここでは、まずは、「原則」控除できないものとして計算します)。
・非課税売上8,000円(税なし)、一般食材の仕入4,000+320円(8%税)
→仕入れにかかった消費税320円を控除できない。
ただし、要介護者が特別に要求した個別の食事は課税されますので、仕入れにかかった消費税を控除できます。
・課税売上2,000+160円(8%税)、一般食材の仕入500+40円(8%税)、特別食材の仕入500+40円(8%税込)
→納付する消費税:160円-40円-40円=80円
さて、上の例では、同じ食事の提供でも、非課税売上/課税売上になるパターンに分かれましたが、どちらにも使用される一般食材については、通常、一緒に仕入れを行っており、どちらの分と分けるのは難しいはずです。
そこで、共通部分の仕入れの税額控除については、課税売上と非課税売上の割合で計算します。
仕入課税控除に計上できる「課税売上と非課税売上に共通して対応する仕入・経費にかかった消費税」額の一部は、次の式で計算します。
そして、課税売上割合は次の計算式で出します。
課税売上割合 | = | 課税売上+免税売上 | |
課税売上+免税売上+非課税売上 |
これらの計算式がそろうと、仕入税額控除の額を算出することができ、以下のようになります。
仕入税額控除=①+②
①「課税売上に対応する課税仕入れの消費税額」
②「課税売上と非課税売上に共通して対応する仕入・経費にかかった消費税」×課税売上割合
4つの税区分のうち、課税、非課税、免税はこの式のなかに入っていますが、不課税は入っていません。
先ほどの介護サービスの例で計算してみましょう。
・非課税売上8,000円(税なし)
・課税売上2,000+160円(8%税)
・一般食材の仕入4,500+360円(8%税)(共通部分)
・特別食材の仕入500+40円(8%税)(課税仕入のみに対応する部分)
このとき、
・①課税売上のみに対応する消費税額:40円
・課税売上と非課税売上に共通する消費税額:360円
・課税売上割合=2,000÷(2,000+8,000)=20%
・②課税売上と非課税売上に共通する消費税のうち控除できる額=360円×20%=72円
・控除できる消費税額=①+②=40円+72円=112円
となります。
なお、課税売上高5億円以下で、かつ、課税売上割合が95%以上であれば、上記のような計算はせずに、すべての仕入れを控除できます。
不課税(消費税の対象外)の対象になるものは、以下のとおりです。
非課税の対象になるものは、以下のとおりです。
免税の対象になるものは、以下のとおりです。
税区分の理解を難しいのは、不課税と非課税と免税の概念が似ているからです。したがって、以下の表はしっかり押さえておいてください。
不課税 | 課税されない取引。 給与、寄付金、無償の試供品など。 |
---|---|
非課税 | 課税になじまない取引。 土地、株式、郵便切手など。 |
免税 | 課税になじむが消費税の負担がなく免除される取引。 輸出取引、免税店での取引など。 |
そして、4つの税区分が経理実務で重要な意味を持つのは、「仕入税額控除」と「課税売上割合」を算出するときです。
消費税は払いすぎても少なすぎても会社に「損」を与えることになります。経理担当者は税の知識を持ち、正確に算定しなければなりません。