消費税の仕入税額控除計上のタイミングの原則と特例

仕入税額控除

日々の経理の中で、その取引をいつ計上すべきなのか悩むことがあると思います。
特に消費税の仕入税額控除の計上タイミングは、会計や法人税とは違った基準が規定されている取引が多く、混同しないよう注意が必要です。

この記事では仕入税額控除の計上タイミングの原則から、特殊な取引の計上タイミングまで詳しく解説します。

1.仕入税額控除計上タイミングの原則

まずは仕入税額控除の計上タイミングの原則を解説します。

1-1.資産の譲り受けの場合

販売する商品の仕入れや、事務用品等の消耗品の購入をした場合の消費税の計上時期は、「商品の引き渡しを受けたとき」です。

例えばネット通販で商品を購入した場合、注文日やクレジットカードの決済日ではなく、商品が到着した日が仕入税額控除の計上時期となります。
間違いやすいポイントなので注意しましょう。

1-2.資産の借り受けの場合

オフィスの賃料やリースを受けた場合など、資産を借り受けた際の仕入税額控除計上タイミングは、次のとおり2パターンあります。

  • 契約や慣習で支払日が定められている場合…定められた支払日
  • 支払日が定められていない場合…実際に支払った日

オフィスの家賃などは通常、「毎月20日に支払うこと」のように支払日が契約書に定められています。
このようなケースでは実際の支払日ではなく、契約で定められた「毎月20日」に仕入税額控除を計上します。
ほとんどの資産の借り受けがこれに該当するのではないでしょうか。

1-3.役務の提供を受けた場合

サービスの提供を受けた場合の仕入税額控除計上タイミングは、物の引渡しを要するかどうかで変わります。

  • 物の引き渡しを要するもの…物が完成し、その物を引き渡したとき
  • 物の引き渡しを要しないもの…サービスの提供のすべてを完了したとき

物の引渡しを要するサービスの提供には、注文住宅の建設やシステム開発、特注機械の製造などが該当します。
このような物の引き渡しを伴うサービスの提供は、その物が完成し、その物の引き渡しを受けた時点で消費税を計上します。

一方、物の引き渡しを要しないサービスには飲食店での外食やコンサルティングなどが該当します。
これらはサービスの提供が全て完了した時点で消費税を計上します。

2.固定資産の仕入税額控除計上タイミング

建物や機械設備など、固定資産に計上するべき物を購入した場合、法人税上は減価償却によって費用を各期に配分することになります。

しかし、消費税上は減価償却すべき固定資産を購入した場合であっても、資産の引き渡しを受けた時点で仕入税額控除を一括計上します。
これは資産の譲り受けを受けた場合の原則と同じ考え方ですね。

3.繰延資産や短期前払費用の仕入税額控除計上タイミング

創立費や開業費、開発費などの繰延資産は、法人税上は各期に均等償却するのが基本です。
しかし消費税の計算上は、その課税仕入れを行った日に仕入税額控除を計上します。

繰延資産に計上する費用は資産の譲り受け、借り受け、役務の提供など様々だと思いますが、それぞれ最初に解説した仕入税額控除計上タイミングの原則と同様の考え方となります。

一方、短期前払費用については少し考え方が違います。
短期前払費用とは、前払費用のうち支払日から1年以内にサービスの提供を受けるものをいいます。

この短期前払費用については、役務の提供が完了していなくても仕入税額控除の計上が認められています。
ただし、法人税上で損金算入していることが計上の条件となるので注意しましょう。

4.郵便切手類の仕入税額控除計上タイミング

郵便切手類は少し特殊な考え方をします。
購入時は非課税仕入れに該当し、郵便配達というサービスの提供を受けた時点で課税仕入れに計上するという考え方です。

ただし、郵便切手の使用状況をいちいち管理するのは大変ですよね。
そういう方のために、郵便切手類の購入時に課税仕入れとする処理を継続して行っている場合は、購入時に仕入税額控除を計上することが認められています

なお、商品券やビール券などの物品切手等も郵便切手類と同様の考え方をします。
ただし物品切手等の場合、自ら使用するより他人への贈答用として購入するケースが多いでしょうから、その場合は非課税仕入れとなるので注意が必要です。

5.分割払いやリース取引の仕入税額控除計上タイミング

商品を分割払いで購入した場合でも、原則同様その商品の引渡し等を受けた日に仕入税額控除を計上します。
例えば200万円の車をローンで購入した場合も、支払い時ではなく、車の納車時に200万円を一括計上することになります。

消費税上は支払い方法にかかわらず、あくまでその商品の引渡し状況によって仕入税額控除を計上すると考えておきましょう。

5-1.リース取引の特例

リース取引の場合も分割払いと同様、リース資産の引き渡しを受けた日に仕入税額控除を一括計上するのが原則です。
ただし、リース取引には仕入税額控除の計上の特例が規定されており、リース料の支払い時にそのリース料分の課税仕入れを行ったものとして処理することが認められています。

6.未成工事支出金や建設仮勘定の仕入税額控除計上タイミング

工事関係の支出は仕入税額控除の計上タイミングが分かりづらい部分があります。
特に建設仮勘定や未成工事支出金など、資産計上するものについては原則と特例があるのでしっかり区別して覚えましょう。

6-1.未成工事支出金

未成工事支出金とは、完成前の工事に要した原材料や外注費等の支払いを計上する科目です。
法人税の目線で考えると、建設業における工事の売上計上タイミングは「工事が完成し、物を引き渡したとき」なので、費用も工事の完成に合わせて計上するのが原則です。

ただし、消費税上は違う考え方をします。未成工事支出金に計上した課税仕入れについては、その課税仕入れをした日に仕入税額控除を計上するのが原則です。
要するに、消費税上は収益と費用の計上タイミングを対応させる必要がないのです。

ただし、未成工事支出金に計上した課税仕入れを工事完成時に一括して計上することも認められています。
この場合、継続適用が要件となります。

原則の方法を採用した場合、工事が完成していないので売上高に計上する消費税はありません。
一方、未完成の工事に要した費用は仕入税額控除を計上することができるため、消費税の還付が発生しやすくなります。
長期的に見ればトータルの結果は同じですが、どちらの方法を選択するか方針を定めておく必要があるでしょう。

6-2.建設仮勘定

建物や機械などを注文した際に建設仮勘定に計上した費用の取り扱いも未成工事支出金と同様の考え方をします。
消費税上はあくまで課税仕入れをした日に仕入税額控除を計上するのが原則です。

この原則処理を採用する場合、仕入税額控除を計上できるのはあくまで引き渡しやサービスの提供が完了している支出のみです。
前払金の性質を持つ支出は計上できないので混同しないように注意しましょう。

一方、建設仮勘定の仕入税額控除の特例として、建設仮勘定に計上した支出を、その工事や製造が完成した時点で課税仕入れに一括計上する処理も認められています。
特例の方が費用の計上タイミングが特定されるので処理は簡単ですが、各期ごとの消費税額に大きな影響を与えるので慎重に検討してください。

まとめ

仕入税額控除の計上タイミングについて解説してきました。

まずは冒頭で解説した、仕入税額控除計上の原則をしっかり覚えておきましょう。
固定資産や繰延資産も原則と同様の考え方で計上しますので、原則を覚えておくだけで大半の取引は迷わず計上できるはずです。

一方、リースや工事絡みの取引には複数の方法が認められているため、どういった方針を取るか決断する必要があります。

数年間のスパンで見れば納める消費税額は同じでも、目先の負担に目が向いてしまうのは仕方のないことです。
原則の方法を採用するのか、特例を採用するのか、資金繰り面も考慮して慎重に判断しましょう。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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