消費税の積上げ計算の特例は軽減税率導入後も適用できる?

積上げ計算の特例

消費税額の計算には様々な特例があり、積上げ計算の特例もそのうちの一つです。
軽減税率制度導入後も積上げ計算の特例は今までどおり適用することが可能です。

ただ、制度がどうなるか、変更点を確認しておきたい方もいるでしょう。
そこでこの記事では、積み上げ計算のやり方を振り返りつつ、注意点を解説します。

1.消費税の積上げ計算とは

消費税額計算の原則は次の通りです。

  1. 「課税売上高の合計額×100/108=課税標準額」
  2. 「課税標準額×6.3%=消費税額」

原則計算の一方、消費税は積上げ計算の特例で税額を求めることも認められています。

積上げ計算とは、税抜価格を前提に、一取引単位の消費税額を積上げて計算する方法をいいます。
このような特例が設けられている理由は、取引金額が少額である商品を大量に取引する業態だと、販売の都度端数処理をした1円未満の金額が膨大になってしまうためです。

【例】本体価格499円の商品の場合

  • 端数切り捨ての場合:499円×1.08=538円
  • 端数切り上げまたは四捨五入の場合:499円×1.08=539円

1回の取引では1円の差しか生じませんが、このような少額な取引を大量に行う事業者の場合、積み重なって大きな差が生じる可能性があります。
このような事態を想定して規定されたのが積上げ計算の特例なのです。

一般消費者が主な取引相手となる小売店などでは、積上げ計算の特例により消費税額を算出した方が得なケースも多いのではないでしょうか。

なお、積上げ計算の特例を適用するためには、領収書等に消費税額が記載されていることが条件となります。

1-1.積上げ計算は経過措置で認められている

積上げ計算の特例は、総額表示方式の導入により平成16年4月に廃止されています。

総額表示方式とは、店によって表示価格が税抜きだったり税込みだったりと消費者を混乱させる価格表示を避けるため、消費税込みの金額を表示することを義務付ける制度です。

ただし、現在、総額表示方式は特例として税抜き表示することも認められています。
それに伴い積上げ計算の特例の廃止にも経過措置が設けられており、現在でも積上げ計算によって税額を求めることが可能となっています。

1-2.消費税の端数処理の問題

ここまで読んで「消費税額の端数処理に規定はないの?」と疑問に思った方もいるかもしれません。
実は消費税の端数処理方法には法律の規定はありません。

切り上げ、切り捨て、四捨五入どの方法を選択するかは販売者側が自由に決めることができるのです。

ただし、実際には消費税額の端数は切り捨てが一般的と言えるでしょう。
また、事業者間の取引ではトラブルを避けるため、事前に消費税額の端数処理について取り決めを交わすこともあるようです。

2.消費税の積上げ計算による税額の違い

ここで、先ほどの例を利用して計算方法ごとの税額の違い確認しておきましょう。
考えられる計算パターンは下の表のとおり4通りあります。

【例】本体価格499円の商品を年間100万個販売した場合

本体価格499円×1.08=538.92円の端数処理方法別に下の表を参考にしてください。

計算方法 税込価格 消費税額 課税標準額に
対する消費税額
積上げ計算(切り捨て) 538円 39円 39,000,000円
原則計算(切り捨て) 538円 39円 39,851,840円※
積上げ計算(切り上げ・四捨五入) 539円 40円 40,000,000円
原則計算(切り上げ・四捨五入) 539円 40円 39,925,920円※

※計算の詳細は、本記事の最後に記載しました。

このように比較すると、消費税の端数を切り捨て処理した場合、積上げ計算の特例の方が原則計算より有利なことが分かります。

ただし、これはあくまでも一例なので一概に積上げ計算が有利とは限りません。
実際に積上げ計算の特例を適用する場合には、あらかじめ試算しておくことをおすすめします。

3.軽減税率導入後も積上げ計算は適用できる

軽減税率制度導入後も積上げ計算の特例は今までどおり適用することが可能です。

一点だけ変わる部分として、軽減税率制度の導入後は税率が複数となるため、税率ごとに端数処理を行うこととなります。

具体的には、一取引単位で税率ごとに1円未満の端数処理を行った場合、税率ごとに端数処理を行った後の消費税相当額を基礎として納付すべき消費税額の計算を行うこととなります。

4.適格請求書等保存方式導入後の積上げ計算

軽減税率制度導入からしばらく後、2023年10月1日には適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入が予定されています。

このインボイス制度の元でも積上げ計算は利用可能とされています。
インボイス制度の導入に伴い積上げ計算の特例が新たに規定されるため、同時に現在の経過措置は廃止となります。

インボイス制度下でも積上げ計算の特例が認められているとなれば、今後しばらくは廃止の心配はないと思われます。

なお、売上税額を「積上げ計算」する場合には、仕入税額も「積上げ計算」しなければならない点には注意が必要です。
これは端数処理を利用した益税を防止するためのルールとされています。

まとめ

現在は経過措置として認められている積上げ計算の特例ですが、軽減税率導入後も積上適用できると知って安心した方も多いのではないでしょうか。
さらにインボイス制度の導入に伴い新たに積上げ計算の特例が規定されるため、近いうちに廃止される心配もしなくて良いでしょう。

計算方法による有利不利の判定は簡単ではありませんので、今後積上げ計算の特例により消費税額を計算しようと考えている方は、正式に採用する前に一度試算してみることが大切です。

【参考】原則計算での消費税額の算出

原則計算(切り捨て)の場合

①原則計算の場合、まずは、税込価格から税抜金額を求めます。
538×100万個=538,000,000円
538,000,000÷1.08=498,148,148円

②税抜処理した金額の千円未満を切り捨て、課税標準額を求めます。
498,148,000円(課税標準額)

③課税標準額に税率8%を乗じて、課税標準額に対する消費税額を求めます
498,148,000×8%=39,851,840円

原則計算(切り上げ・四捨五入)

①原則計算の場合、まずは、税込価格から税抜金額を求めます。
539×100万個=539,000,000円
539,000,000÷1.08=499,074,074円

②税抜処理した金額の千円未満を切り捨て、課税標準額を求めます。
499,074,000円(課税標準額)

③課税標準額に税率8%を乗じて、課税標準額に対する消費税額を求めます
499,074,000×8%=39,925,920円

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2023年時点)。
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