消費税の課税区分と不課税・非課税・免税の違い【図解】
消費税処理の基本である4つの税区分(課税・非課税・不課税・免税)と、それぞれの違いについて、図を使ってわかりやすく解…[続きを読む]
消費税の申告時に納税額を計算するうえで「課税売上割合」が重要になります。
なんだか難しそうなものですが、実際には、基本的な内容はそこまで難しくありません。
この記事では、課税売上割合とは何か、何に使うのか、計算方法はどのようなものか、具体例を使って分かりやすく解説していきます。
目次
消費税の計算を簡単に説明すると、次の式のようになります。
上の式の「仕入時に支払った消費税額」は商品の仕入れだけでなく、飲食店での食事代や事務用品の購入など、その課税期間に支払ったすべての消費税が対象となります。
しかし、「その課税期間に支払ったすべての消費税額」を控除できない場合もあるのです。
ここで登場するのが「課税売上割合」です。課税売上割合によって控除できる消費税額が変わることになります。
課税売上割合の計算式は次の通りです。
課税売上割合 | = | 課税売上高+免税売上高 | |
課税売上高+非課税売上高+免税売上高 |
上記の算式で算出された割合は、消費税額の計算上、大きな影響を及ぼします。
課税売上割合を見るうえで最も重要なポイントは、「95%ルール」です。
このように、課税売上割合が95%以上か未満かで消費税額の計算方法が変わるのです。
課税売上割合が95%以上(かつ、課税売上高5億円以下)であれば、支払った消費税額がすべて控除できるので、計算は簡単です。
問題は、課税売上割合が95%未満の場合、支払った消費税額をすべて控除できませんので、「個別対応方式」か「一括比例配分方式」という2つの計算方法を選択することになります。
これらの計算方法については後ほど詳しく解説します。
なお、次の場合は、課税売上割合を考慮する必要はありません。
大多数の事業者の売上は、通常は課税売上がメインとなります。
商品を販売したり、料理を提供したり、様々なサービスの提供はそのほとんどが課税売上です。
しかし、病院や身体障害者用の物品を販売する会社など、非課税売上をメインに行っている事業者も中にはいるでしょう。
また、普段は課税売上をメインとしている事業者でも、土地や有価証券を売却した場合、一時的に多額の非課税売上が生じることも考えられます。
このような非課税売上を生じさせるために費やした費用も控除の対象としてしまうことは、実態と即しているとは言えないのです。
課税売上割合を算出することによって、非課税売上の割合が多い事業者の控除税額を、適正値に近い数字に引き戻そうという考え方です。
逆に言えば、課税売上割合は「課税売上に対応した課税仕入れのみを控除対象とするための割合」とも言えるでしょう。
ややこしいですので、ちょっとした具体例で考えてみます。
たとえば、病院で食事を作るためにピーマンを100円+8円(消費税8%)で購入したとします。
病院で療養のために提供される病院食は非課税売上ですので、このために購入したピーマンの消費税は控除できません。
しかし、患者の要望に応じて、健康保険の範囲を超えて提供した特別な料理は課税売上ですので、このために購入したピーマンの消費税を控除できます。
ただ、実際には、売上用途に分けてピーマンを購入するわけではなく、まとめて購入します。ピーマンは、一般的な病院食と特別料理の両方に共通して使われます。このとき、課税売上割合の値を利用して、特別な料理(課税売上)に相当するピーマンの分の消費税を計算します。
「課税」「非課税」の課税区分についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。
課税売上割合の計算式は先ほど紹介しましたが、そのうちの「課税売上」「非課税売上」に含めるべき取引を知っておきましょう。
なお、課税売上割合の計算には国外取引や配当金収入などの不課税取引は含めません。
加えて「事業者向け電気通信利用役務の提供」と「特定役務の提供」も含めない点に留意してください。
課税売上割合の計算上、「課税売上」に含める取引は、基本的に全ての課税売上であると考えてください。
ただし、売上割引や売上返品などがあった金額は控除します。
一方、貸倒れが生じてもそれは課税売上割合の計算上、考慮しません。
注意が必要なのは、課税売上の中には輸出免税売上も含まれるという点です。
輸出免税取引は広い意味で課税売上に該当することとされており、間違いやすい部分なので慎重に区分しましょう。
また、稀なケースではありますが、非課税資産の輸出取引も課税売上に含まれます。
非課税資産の輸出には「非課税資産の輸出販売」のほか、海外の預金口座に発生した利息などがこれに該当します。
課税売上割合の計算上、「非課税売上」には基本的にほとんどの非課税売上を含めると考えてください。
ただし一部例外がありますので、次で詳しく解説します。
非課税売上に該当する取引のうち、次のものは課税売上割合の計算には含めません。
なお、売掛金の売却のうち、課税売上割合に含めないのは「自己が販売した商品・サービスに対する売掛金」だけです。
他者から売掛金を購入し、その売掛金を譲渡する場合には「金銭債権の譲渡」に該当するため、売却価格の5%を計上することとなります。
また、「支払手段の販売」には通常の紙幣や硬貨の他に、小切手や手形、電子マネー、仮想通貨などが該当します。
さらに非課税売上で注意が必要なのは、有価証券や貸付金を売却した場合です。
これらの取引のうち課税売上割合の非課税売上に含める金額は、売却価格の5%のみとなります。
これは先ほどの「他者から購入した売掛金」を売却した場合と同様の取り扱いです。
上の計算式の場合、売却価格5,000,000円のうち、課税売上割合の非課税売上に含める金額は250,000円のみとなります。
株の売買などは事業者によっては比較的頻度が高い取引ですが、非課税売上に含めることを忘れがちです。間違った課税売上割合を算出しないよう十分注意してください。
記事前半で解説した通り、課税売上割合が95%未満の場合は
の2種類の方法のいずれかを選択して消費税額を計算します。
ここからはそれぞれの計算方法について解説します。
計算方法の解説に入る前に、「一括比例配分方式は2年間強制継続適用」という点に留意してください。
一括比例配分方式の方が簡便な方法ではあるのですが、安易に選択しないよう注意しましょう。
また、課税売上割合が95%以上でも、課税売上高が5億円を超える事業者は「個別対応方式」と「一括比例配分方式」のどちらかの方法によって計算しなければならない点にも留意してください。
個別対応方式を選択するためには、課税仕入れを次の3つに区分しなければなりません。
例えば販売する商品の仕入れは課税売上に直結するため、「①課税売上対応」に区分します。
店舗の家賃や包装資材の購入費、商品の運送費なども同様の理由で課税売上対応となります。
一方、株式を売却した際に証券会社に支払った取引手数料や、賃貸用の住宅の購入費用などは、非課税売上に直結する支出として「②非課税売上対応」に区分されます。
やや判断が難しいのが「③共通対応」です。
会社には課税売上と非課税売上が両方発生しているわけですから、課税売上と非課税売上に直接的に結びつかない費用は共通対応に区分されます。
一例を挙げると本社で使用する備品の購入費用や電話料金、水道光熱費、税理士報酬などが該当します。
また、不課税取引に対応する共通対応に分類されるものがあります。
例えば助成金を受け取る目的で社労士に支払った手数料や、株券の発行に当たって印刷業者に支払った印刷費なども共通対応に区分します。
個別対応方式の計算式は次の通りです。
上の計算式を読み解くと、①課税売上対応の課税仕入れは全額が控除対象となり、③共通対応仕入れは課税売上割合分のみが控除対象となることが分かります。
さらに、②非課税売上対応の課税仕入れは控除対象とはなりません。
なお、仕入割引や仕入割戻などがあった場合には、その金額は仕入額から控除します。
一括比例配分方式は課税仕入れを3つに区分する必要がないため、個別対応方式と比べて簡便な方法と言えます。
計算式は次の通りです。
このように、一括比例配分方式の計算式は非常に単純です。
ただし、個別対応方式では全額控除できた課税売上対応の仕入税額も、一括比例配分方式では課税売上割合分しか控除できないこととなります。
ここからは具体例をあげ、課税売上割合の計算と、個別対応方式と一括比例配分方式それぞれの方法により計算した際の控除できる仕入税額を見ていきましょう。
まず、売上は下の表のとおりとします(税率10%を想定)。
消費税区分 | 売上金額 | 受け取った消費税額 |
---|---|---|
課税売上 | 16,000,000円 | 1,600,000円 |
非課税売上 | 4,000,000円 | - |
合計 | 20,000,000円 | 1,600,000円 |
課税売上割合を計算すると、次のとおり80%となります。
次に、下の表のとおり課税仕入れを区分したと仮定します(税率10%を想定)。
消費税区分 | 仕入金額 | 支払った消費税額 |
---|---|---|
課税売上対応 | 8,000,000円 | 800,000円 |
非課税売上対応 | 500,000円 | 50,000円 |
共通対応 | 4,500,000円 | 450,000円 |
合計 | 13,000,000円 | 1,300,000円 |
先ほど解説した通り、課税売上対応の消費税額と、共通対応の消費税額に課税売上割合を乗じた額を合計して求めた額が控除できる仕入税額となります。
こちらは個別対応方式と比べて単純で、支払った消費税額の合計に課税売上割合を乗じるのみです。
しかし、課税売上対応仕入にも課税売上割合を乗じるため、このケースでは、個別対応方式よりも控除できる仕入税額は少なく計算されることが分かります。
個別対応方式と一括比例配分方式、どちらが有利であるかはケースバイケースです。
課税売上割合が90%台と高く、非課税売上対応の仕入れが多ければ一括比例配分方式の方が有利となるケースもあります。
実際の数字を使って試算してみることをおすすめします。
ここまで課税売上割合について解説してきましたが、この課税売上割合に代えて、「課税売上割合に準ずる割合」を適用できる場合があります。
課税売上割合に準ずる割合とは、例えば課税売上割合が70%であった場合に、「実態は課税売上割合が90%である」という合理的な理由がある場合に適用できる割合です。
要するに、「課税売上割合は70%だが、全従業員のうち90%が課税売上に対応する業務に従事している」などといった場合に、従業員基準での割合を適用できるといったイメージです。
課税売上割合に準ずる割合を適用したい場合には、「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を税務署に提出し、税務署長の承認を受ける必要があります。
この申請書を「適用したい課税期間中」に届け出て承認を受けることができれば、その課税期間から準ずる割合を適用することができます。
課税売上割合に準ずる割合として使用する割合の一例を挙げると、先ほどの従業員基準も含めて次のような基準が考えられます。
課税売上割合に準ずる割合は、事業全体に適用する必要はなく、事業の種類ごとや、事業場ごとに適用することも可能です。
課税売上割合が業務実態とかけ離れている場合には、課税売上割合に準ずる割合の適用を検討してみることをおすすめします。
なお、課税売上割合に準ずる割合は個別対応方式による場合のみ適用可能です。
一括比例配分方式によって計算する場合には適用できませんので注意してください。
課税売上割合は、消費税の計算上、欠かすことのできないルールですが、課税売上割合が95%以上となる事業者の方が多いため、あまり意識したことがない方も多いと思います。
しかし、イレギュラーな取引によって95%未満となってしまった場合に焦ることのないよう、基本的な知識はしっかり身につけておきましょう。
また、課税売上割合が95%以上でも課税売上高が5億円を超える事業者は全額控除できないため、個別対応方式と一括比例配分方式の計算方法も理解しておくことが必要です。
本業の売上がすべて課税売上でも、株式などの有価証券を売却すると非課税売上が発生しますので、課税売上割合を計算する必要があります。
課税売上割合の計算上、有価証券の譲渡価格の5%だけが非課税売上に計上されますが、有価証券の譲渡価格が高い場合には、課税売上割合が95%未満になり、消費税を全額控除できなくなることもありますので、注意が必要です。
役員や従業員に貸している社宅の家賃収入は、非課税売上となります。この非課税売上が、売上全体の5%を超えてしまうと、仕入れで支払った消費税の全額を控除できなくなり、個別の計算が必要になりますので、注意が必要です。