消費税増税のメリット&デメリット

2019年10月1日から消費税が10%になりました。「デフレになるのでは?景気が悪化するのでは?デメリットしかないのでは?」と感じている人は少なくないと思います。

しかし、税金の意義と消費税の位置づけを理解すると、税の負担感が少し減るかもしれません。

税と消費税には負担というデメリットだけでなく、行政サービスという利益を受けたり、世代間格差を小さくするメリットがあるからです。

1.消費税は「日本の3大税金」

税金は国(政府)や地方自治体(都道府県、市区町村)の収入になります。国民(住民)は税金を納めることで行政サービスを受けることができます。

行政サービスとは、道路やダム、学校、空港、上下水道、国立病院や自治体病院などのことで、これらを建設したり運営したり、職員に給料を支払ったりするには、莫大な費用がかかります。それを税金で賄うことになります。

税金には国(政府)が集める国税と、地方自治体が集める地方税があります。
そして国税の3大柱は所得税、法人税、そして消費税です。

2018年度に国が集めた税金の総額(国の税収)は59.1兆円でした。その構成割合は、消費税32.9%、所得税(個人)31.5%、法人税21.5%、その他の税14.1%(以上、計100%)となっています。消費税は国の財源のなかで最大規模を誇ります。

すなわち消費税を負担することは「国をしっかり支える」ことなのです。

2.消費税の性質

所得税と法人税は、労働や仕事や業務やビジネスや商取引などで得た所得や利益に課せられる税金です。利益を多くあげている人や企業ほど多くの行政サービスを使っていると考えられるので、原則、富裕層や大企業ほど多くの所得税や法人税を支払います。

一方で消費税は、簡単にいうと「消費(買い物)をしたとき」に課せられる税です。

財務省は消費税のことを、「事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付け、および役務の提供など」に課す税、と定義しています。つまり、商品やサービスを「消費」をしたときに課せられる税金、ということです。

消費税は正確には、「消費税(国税)と地方消費税(地方税)」を合わせたものです。そのため消費税のことを「消費税等」と呼ぶこともあります。そして2019年10月1日からの消費税10%の内訳は、「消費税(国税)7.8%と地方消費税(地方税)2.2%」となります。

3.消費税増税のメリット

それでは消費増税のメリットを考えていきましょう。

(1)社会保障が安定する

消費増税が実行されると、国民は社会保障が安定するメリットが得られます。

なぜ消費税は8%から10%に増税されるのでしょうか。財務省は「社会保障財源のため」と説明しています。社会保障とは、年金や医療保険、介護保険、生活保護などのことです。

社会保障費は元々多額の費用を必要としていましたが、それが少子高齢化によって膨れ上がっているのです。
そのため安定した税収が必要であり、増税は避けられませんでした。

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ではなぜ、所得税や法人税ではなく、消費税を上げるのでしょうか?

所得税も法人税も景気によって税収額が増減するので安定しません。社会保障は景気に関係なく費用が必要になるので、それでは制度運営に支障が出るかもしれません。

一方の消費税は、買い物に課せられます。買い物は不景気でも必ず実施されるので、消費税による税収は安定しています。
また消費税は買い物をした「その場」で徴収されるので、「脱税されにくい」という利点もあります。

(2)国だけでなく地方の税収も安定させることができる

消費増税が実行されると、住民は地方行政が安定するメリットが得られます。
消費税として徴収される税金は地方自治体(都道府県、市区町村)にも分配されるので、地方の行政が潤います。

地方自治体には、東京23区や名古屋市や大阪市などのように「裕福な自治体」もありますが、それ以外のほとんどの地方自治体は財政難にあえいでいます。北海道の夕張市は財政破綻してしまいました。

そこで消費税に含まれる地方消費税が活躍します。
消費税は全国一律に課せられ、そのお金が地方の財政が苦しい自治体に回ります。地方の行政が安定しているのは、消費税のお陰ともいえるのです。

(3)世代間の格差を是正する

消費増税が実行されると、国民は世代間の格差が是正されるメリットが得られます。

先ほど、消費増税するのは税収として安定しているからと紹介しましたが、もうひとつ理由があります。それは、所得税や法人税を負担しているのは、現役世代だからです。

現役世代から徴収した所得税や法人税を、高齢者の社会保障費に使えば、現役世代から不満が出ます。すでに現在でも不満が出ています。
したがって今後さらに所得税や法人税を増税すれば、その不満が膨らみます。消費税は若い人も高齢者も同じく負担するので、現役世代の不満を減らすことができます。

ただ、消費税の世代間の格差を是正する機能については、異論を唱える専門家もいます。例えば、1個のおにぎりを買ったときの消費税額は、お金持ちも収入が少ない人も同額です。そうなると、1個のおにぎりの税負担感は、収入が少ない人のほうが大きくなります。

つまり預貯金額が多く資産をたくさん持っている裕福な高齢者のほうが、低額の時給で働いている若者より、消費税の負担が小さくなります。これでは世代間格差が広がってしまいます。

ただ「公式見解」としては、消費増税の目的のひとつに、世代間の公平性を確保が含まれています。このことは「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」の第1条に記載されています。

以上により消費税増税はデメリットしかないわけではなく、メリットもあることが分かります

4.消費税増税のデメリット

次に、消費増税のデメリットをみていきます。

(1)家計への負担が増える

消費税そのものデメリットや、消費税を増税することのデメリットとして挙げられるのが、家計への負担増です。消費税の増税によって、家計の消費が落ち込むことがわかっています。

前回の消費増税は2014年に行われ、このとき5%から8%になりました。内閣府は「2014年度において個人消費が落ち込んだ。特に60歳未満の低所得者層が消費を抑制した」と分析しています。

家計への負担が増えたことで、消費を減らしたわけです。

(2)低所得者の負担増|生活できない

先ほど紹介したとおり、おにぎり1個を買ったときの消費税の負担感は、低収入者ほど重くなります。税金の理想は富裕層が多く負担して、低所得者層の負担を軽くすることなので、消費増税はその理想に逆行する一面もあります。

酷い人は生活ができなくなり、生活保護に頼るほかなくなってしまうケースも考えられます。

(3)増税後、一時的に景気が悪化する

2014年の消費増税により、同年度の日本の実質GDP(国内総生産)の成長率は前年比0.9%減となりました。GDPは経済の強さの指標ですので、消費増税によって日本経済が弱くなりました。

特に問題になるのが駆け込み需要と、その反動減です。

消費増税前は、消費者が「消費税が上がる前に多くの買い物をしてしまおう」と考えるようになるので、大量にモノやサービスを購入します。これで景気は一時的によくなりますが、その次に反動減が生じるので、質のよい景気上昇とはいえません。

消費税増税が実施されると一気に消費が落ち込み景気悪化することが考えられます。企業や労働者は、この反動減のダメージをダイレクトに受けるので、トータルするとやはり消費増税は景気を冷え込ませます。

しかし景気に影響を与えるのは消費税だけではないので、そのほかの要因が順調であれば、消費増税後も景気は悪化から回復することが考えられます。

理想は「消費増税→社会保障が充実・国も地方も潤って行政が安定→国民が安心して働ける・企業が安心して事業を拡大できる→景気がよくなる」となることです。
実際に、2014年の消費増税が経済成長は一時鈍化しましたが、その後2018年終盤ごろまで企業業績や株価は上昇し続けました。

5.個人でできる増税対策

政府はこれまでの駆け込み需要と反動減を踏まえ、今回の消費増税ではそれらを再発させない「手だて」を打ち出しています。

  • 飲食料品の購入は持ち帰ると消費税が安くなる(軽減税率)
  • キャッシュレス決済にするとポイント還元される
  • 住宅購入関連の税が安くなる

これらの施策は個人の家計の自衛策になるので、ぜひ活用してください。

まとめ

財務省は「税は社会の会費」と説明しています。年金も医療も福祉も、水道も道路も教育も警察も消防も防衛も、多額の費用がかかります。このような公的サービスの費用を賄うのが税であり消費税です。

消費税を含む税金の負担を広く公平に分かち合うことで社会が成り立っているので「会費」というわけです。

消費税を喜んで支出する人はいないと思いますが、しかし消費税のメリットを理解すれば、嫌々支払わずに済むかもしれません。

 

 

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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