なぜ消費税をうっかり滞納してしまうのか【対策方法を解説】

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税金の滞納は、たとえ悪意がなくとも許されません。滞納し続ければ、後で追徴課税を受けますし、最悪の場合「脱税」とみなされます。

とはいえ、消費税の納税方法は複雑ですので、事業者が「ついうっかり」滞納してしまうこともあるでしょう。

「うっかり」ミスのために追徴課税されるのは、事業者にとっても経理担当者にとってももったいないことです。

この記事では、納付漏れやそれに伴うペナルティを防ぐために必要な対策をお伝えします。

1.消費税の滞納額は多い

消費税の滞納額は、その他の税の滞納額をはるかに上回ります。

国税庁によると、2018年のすべての税の新規発生滞納額は6,143億円でした(※1)。そのうち消費税の滞納額は3,521億円で、全体の57.3%にもなります。

2番目に多い所得税の滞納額でも1,581億円で、消費税の滞納額の半分以下です。

※1:国税庁:平成30年度租税滞納状況について

2.なぜ消費税を滞納してしまうのか

この記事では、悪意ある消費税滞納については検討しません。また「滞納」のなかには、消費税は納めているのに、本来の額より少なかった場合も含みます。

悪意がないのにうっかり消費税を滞納してしまうのは、

  1. 税込経理方式を採用しているから
  2. 「預かっている」という認識が足りないから
  3. 増税時に価格転嫁できないから

という3つの理由がありそうです。

2-1.税込経理方式がミスを生む

課税事業者は、税込経理方式と税抜経理方式のいずれかを選択できます。

税込経理方式とは、消費税額を売上高や仕入高などに含めて経理する方法です。
税抜経理方式は、消費税抜きの価格で売上高や仕入高などを経理して、さらに消費税だけを別途計算する方法です。

税込経理方式は、日常の経理業務を簡便化できるメリットがあるのですが、納税する消費税の額を算出するときに、売上高や仕入高から「消費税を切り分ける」作業が発生します。
このとき、正確に切り分けないと、消費税額を誤ってしまいます。消費税額を本来より多く計算してしまうと会社は損しますし、本来より少なく計算してしまうと滞納もしくは脱税になってしまいます。

税込経理方式は、売上高や仕入高に消費税額が埋もれて見えづらくなる欠点があり、これがうっかりミスを誘います。

詳しくは、「税込経理方式の流れと仕訳、消費税を租税公課で計上」をご覧ください。

2-2.「預かっている」という認識が足りないとミスを生む

消費税と所得税・法人税は、かなり性質が異なる税です。

事業者による消費税の納付は、「お客さんから預かった消費税を納める」行為です。
一方で、所得税や法人税の納付は、「利益に課せられる税を納める」行為です。
そして納税者の多くは、税は利益に課せられるものという意識を持っているので、事業が赤字になると税を払わなくてよい、という気持ちになりがちです。

所得税・法人税であれば、赤字なら税を払わなくてよいのですが、消費税はお客さんから預かっているものなので、赤字でも税務署に納めなければなりません

「赤字だから消費税も支払わなくていいのかと思った」といううっかりは、うっかりのなかでも悪質なものなのですぐに意識を変えたほうがよいでしょう。

2-3.増税されても価格転嫁できていないとミスを生む

2019年10月から、消費税が8%から10%に増税になりました。しかし事業者のなかには、消費税込みの販売価格を据え置いているところもあるでしょう。
その場合でも、お客さんから受け取っている消費税は10%なので、10%分を納税しなければなりません。

例えば、ある商品を2019年9月まで、税抜価格1,000円(消費税80円、総額1,080円)で販売していたとします。このときの納税額は80円です。
しかし10月以降も総額1,080円で販売し続けたら、その内訳は「税抜価格982円、消費税98円」になります。98円を納税しなければなりません。

事業者は、仮にお客さんに「うちは消費税据え置きでやっています」とPRしたとしても、実際は、税抜価格を値下げしているのであり、消費税を今までよりも多く預かっていることを認識しなければならないでしょう。

2-4.免税事業者は税込経理しか採用できない

免税事業者は、税込経理しか採用できません。
そのため、中小・零細企業の多くは、「免税事業者のころの名残り」から、税込経理を採用しているところが多いようです。また、中小・零細企業では売上規模が大きくないので、税込経理の悪影響をそれほど受けないので、それならば、慣れていて経理事務が楽な税込経理のほうがメリットがある、と考えることもできます。

3.消費税のうっかり滞納への対策

うっかり消費税滞納を予防するには、

  1. 消費税分を取り分ける
  2. 簡易課税を選択する
  3. 税抜経理方式を採用する

といった方法があります。

3-1.毎月、消費税相当分の現金を取り分ける

最も単純かつ効果的なのは、毎月、消費税相当分の現金を取り分けておく方法です。売上高から、お客さんから預かった消費税を抜き出して、税抜売上高とは別に管理するだけです。

この現金取り分け法なら、これまでの税込経理方式を継続することができます。
この作業を税理士に依頼してもよいでしょう。

3-2.簡易課税を選択する

簡易課税を選択すると、うっかりミスをかなり減らすことができます。

簡易課税の話題の前に、通常の消費税の納付額の簡易的な計算方法を紹介します。

  • 通常の消費税の納付額=売上時に受け取った消費税-仕入時に支払った消費税

この計算方法では、「売上時に受け取った消費税」と「仕入時に支払った消費税」の2つの計算をしなければならず、手間がかかります。手間がかかれば、うっかりミスのリスクが高まります。

簡易課税であれば、売上時に受け取った消費税の金額に応じて仕入控除税額が決まりますので、簡単に計算することができます。これなら、いちいち課税仕入の税額を計算する必要がありません。

簡易課税の計算式は次のようになります。

  • 簡易課税の消費税の納付額=売上時に受け取った消費税-(売上時に受け取った消費税×みなし仕入率)

事業者が計算するのは「売上時に受け取った消費税」を計算するだけで済みます。「みなし仕入率」は業種別に6種類あります。

みなし仕入率
事業区分 割合
第一種事業(卸売業) 90%
第二種事業(小売業) 80%
第三種事業(製造業等) 70%
第四種事業(その他の事業) 60%
第五種事業(サービス業等) 50%
第六種事業(不動産業) 40%

簡易課税は「簡易」に計算できるので経理事務を大幅に簡素化できますが、簡易課税を選択できるのは、前々年または前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下の中小事業者です。
また、事前に税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。

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3-3.税抜経理方式を採用する

税込経理方式を採用している企業なら、税抜経理方式に変えれば、消費税のうっかり滞納を防止できるかもしれません。

税抜経理方式は、取引のたびに、つまり販売したり仕入れたりするたびに、1回1回消費税を計算しなければなりません。販売したら、売上高に含まれる消費税を「仮受消費税等」に仕訳け、仕入れたら、仕入高に含まれる消費税を「仮払消費税等」に仕訳けます。

税抜経理の仕訳方法を紹介します。

ある商品を税込16,500円(税抜15,000円、消費税10%1,500円)で販売し、代金を現金で受け取ったときの仕訳を紹介します。

借方 金額 貸方 金額
現金 16,500円 売上 15,000円
    仮受消費税 1,500円

このとき、消費税を「仮に」受け取っているので「仮受消費税」を使います。

では次に、ある商品を税込11,000円(税抜10,000円、消費税10%1,000円)で購入し(仕入れ)、代金を現金で支払ったとします。

借方 金額 貸方 金額
仕入 10,000円 現金 11,000円
仮払消費税 1,000円    

このとき、消費税を「仮に」支払っているので「仮払消費税」を使います。

このように税抜経理方式では毎日、消費税の納付額の見通しがわかります。経営者としては、より正確に利益を確認できるようになります。

まとめ

消費税のうっかり滞納は、経理方式や意識などによって発生することがあります。ミスを防ぐには、消費税相当分の現金を毎月取り分けておいたり、簡易課税や税抜経理方式を採用したりする方法があります。

うっかりミスで追徴課税を受けたり、最悪、脱税と疑われることはもったいないことですので、経営者や経理の責任者は対策を講じたほうがよいでしょう。

消費税を滞納してしまう原因は?

悪意がないのにうっかり消費税を滞納してしまう主な原因としては次の3点があげられます。

  • 税込経理方式を採用している
  • 税金を「預かっている」という認識が足りない
  • 増税時に価格転嫁できない

消費税の納付忘れを防ぐにはどうすればいい?

消費税を滞納しないようにするには、次のような対策が有効です。

  • 毎月、消費税相当分の現金を取り分ける
  • 簡易課税を選択する
  • 税抜経理方式を採用する
服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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