源泉徴収と消費税の計算方法、どっちが先?税込み/税抜き?
請求書を書くとき、源泉徴収と消費税のどちらを先に記載するのが良いか?源泉徴収は、税込み/税抜き、どちらの金額をもとに…[続きを読む]
講師などへのお礼として、個人に「謝礼金」を支払った場合でも、消費税はかかります。
名目が「謝礼金」でも、内容は「報酬」であり、課税取引だからです。
ただし、インボイス制度では、免税事業者である個人に支払った場合、消費税を控除できなくなります。
謝礼金と消費税の関係について、インボイス制度でどうなるのか? 源泉徴収の方法についてなど、謝礼金に関する経理について詳しく解説します。
目次
謝礼金も報酬も給与も、何かをした見返りに受け取るお金という点では共通しています。
しかし、「謝礼金」は「報酬」とほぼ同じですが、「給与」とはまったく異なります。
給与の支払いは、労働をしてもらう会社と労働する人の間に雇用という関係が前提となります。雇用契約を結んで、給与を支払った場合、消費税はかかりません。
社員やアルバイトやパートが、会社に「労働力を売っている」のに、会社から消費税を受け取らないのは、このルールがあるからです。
一方、「報酬」は、社外の個人事業主など雇用契約を結んでいない人に支払うお金です。こちらは消費税が発生し、さらに、ライターやデザイナーなどの一部の業種の個人事業主には源泉徴収も必要になります。
「謝礼金」は言葉が違うだけで、報酬と同じです。
謝礼金以外でも、社外の人に何かをしてもらった見返りとして渡すお金であれば、調査費、研究費、取材費、交通費など他の名称でも消費税がかかります。
免税事業者の個人事業主に仕事を発注しても、消費税は発生します。
会社が個人事業主に仕事を依頼し、仕事が完了したことで謝礼金(または報酬)を支払ったとします。
このとき、その個人事業主が免税事業者であっても、会社は消費税を加えて支払わなければなりません。
例えば、会社と個人事業主の間で「税抜10万円の謝礼金」を約束した場合、この内訳は次のようになります。
個人事業主は上記の内容を記した請求書を作成し、会社に渡します。
会社は上記の内容を明細書にして個人事業主に渡します。
また、会社と個人事業主の間で「税込10万円の謝礼金」を約束した場合は、以下のようになります。
請求書と明細書には上記のように記載してください。
仕事を頼む会社も、仕事を受ける個人事業主も、契約をするときに「税別なのか税込なのか」をしっかり確認するようにしてください。
会社が個人事業主に仕事を依頼するときに、「税別なのか税込なのか」を明示せず、「10万円でお願いします」とだけ個人事業主に伝えると、トラブルの元になります。会社側はしっかりと「税込(または税別)10万円でお願いします」と伝えましょう。
また、個人事業主側も「10万円でお願いします」と言われたら「税別ですか、税込ですか」と確認しましょう。
例えば、ある会社が、消費税が8%だったころに、個人事業主に「税込10万円」で仕事を発注していたとします。この内訳は次のようになります。
この取引が2019年10月1日の消費増税後(税率10%)も続き、総額が「税込10万円」で変わらなければ、実質的な値下げになってしまいます。
消費税10%での「税込10万円」の内訳は次のとおりです。
本体価格が、消費税8%のころの92,539円から90,909円へと1.8%ほど値下がりしています。業務内容が8%のころと10%になってからで変わっていなければ、「総額10万円のまま」はトラブルの原因になるかもしれません。
もちろん、業務内容が簡単になったり、材料費が値下がりしたりしたために値下げをするのであれば、合理的な判断といえます。しかし、その場合でも会社と個人事業主の間で「合理的な値下げ」であることを合意しておいたほうがよいでしょう。
謝礼金や報酬が、原稿料やデザイン料に相当する場合、源泉徴収が必要です。
あらかじめ源泉徴収税額分を差し引いたうえで、個人事業主に対して報酬を支払い、別途、源泉徴収税額を税務署に納税します。
原則は、税込み金額に対して源泉徴収をします。
ここで、原稿料11万円(本体10万円+消費税1万円)のケースを例にすると、源泉徴収額と振込額の計算は次のようになります。
報酬を支払う相手の個人から、税抜き価格と消費税額が明確に区別されて記載された請求書を発行された場合は、税抜き金額に対して源泉徴収することも可能です。
原稿料11万円(本体10万円+消費税1万円)のケースで、税抜き金額に対して源泉徴収する場合です。
源泉徴収と消費税については、次の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
2023年10月からのインボイス制度開始後も、源泉徴収の方法に変更はありませんので、今まで通りに行います。
源泉徴収においては、個人事業主から発行を受ける請求書が、インボイス(適格請求書)である必要はなく、通常の請求書であれば問題ありません。
報酬を支払う個人が免税事業者の場合は、通常の請求書を発行してもらい、そこに記載された金額を基に、源泉徴収をすれば大丈夫です。
【引用】国税庁:インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収
インボイス制度では、源泉徴収には影響はありませんが、消費税の仕入税額控除に問題が生じます。
インボイス制度開始後は、インボイス(適格請求書)がないと、個人に支払った消費税を仕入税額控除することができません。
インボイスを発行できるのは課税事業者だけですので、相手が免税事業者であればインボイスを発行できません。
つまり、会社は、免税事業者の個人事業主に支払った消費税を、仕入税額控除に計上できなくなるわけです。仕入税額控除ができないと、その消費税分、会社の負担が大きくなります。
インボイス制度が導入されると、仕入税額控除による節税効果がどのように失われるのか、みていきましょう。
例えば、ある会社がセミナーを開催して、55万円(本体50万円+消費税5万円)を売り上げ、免税事業者の個人事業主に、11万円(本体10万円+消費税1万円)の謝礼金を支払ったとします。
現行であれば、会社は、個人事業主に支払った消費税1万円を仕入税額控除に計上できます。
しかしインボイス制度が導入されると、消費税1万円を仕入税額控除に計上することはできません。そうなると、会社が税務署に支払う消費税額が増えてしまいます。
そのためインボイス制度が導入されると、会社は、「免税事業者の個人事業主に発注するより、課税事業者の個人事業主に発注したほうがよい」と考えることができます。
もちろん、この判断は、仕事の質や謝礼金の額によって変わってきます。
免税事業者であっても、質の高い業務をこなす人であれば、結果的にはその人に発注したほうが、売上に貢献する場合もあるでしょう。
インボイス制度には経過措置があり、一定期間は、免税事業者からの仕入れに対しても、一部の消費税を仕入税額控除することが可能です。
また、少額特例があり、2023年10月1日~2029年9月30日の期間、税込み1万円未満の取引については、インボイスがなくても、帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能です。1万円未満の謝礼金であれば、相手が免税事業者であっても、消費税を控除することができます。
会社が個人事業主に仕事を発注したときに支払う謝礼金には、消費税がかかります。
会社も個人事業主も、謝礼金(または報酬)の金額を決めるときは「税込なのか税別なのか」を明確にしておきましょう。
インボイス制度が導入されると、免税事業者に支払った消費税の仕入税額控除ができなくなります(一定期間は一部可能)。
会社は仕入税額控除を考慮しながら、免税事業者の個人事業主に発注を継続するかどうか検討する必要があるでしょう。
免税事業者の個人事業主は、対策を練る必要があるでしょう。
免税事業者であっても、取引に消費税は発生していますので、消費税を払わないということはできません。
本体価格を値下げすることは交渉次第で可能ですが、一方的に値下げすることは、下請法違反に当たる可能性もありますので、慎重に行われたほうが良いでしょう。
今までずっと取引を継続していた場合、免税事業者であることを理由に、突然、一方的に取引を停止することは、問題となる可能性があります。
まずは、免税事業者に対してインボイス登録することを依頼したり、本体価格を値下げする交渉をしたりするなど、相手にも選択の余地を与える必要はあるでしょう。