クラウドソーシングにおける源泉徴収の問題と解決策
クラウドソーシングという働き方をする個人事業主やフリーランサーが増えました。こうした働き方をする人の源泉…[続きを読む]
新人の経理担当者にとって源泉徴収と消費税の関係は、複雑に感じるはずです。2つの税金のルールが混在しているうえに、ルールがあいまいな部分があるからです。
しかも、源泉徴収と消費税の両方が関係する「個人事業主への報酬の支払い」は、あまり発生しないため一度処理したことがあっても忘れてしまうことがあります。
そして報酬を得る側の個人事業主(クラウドワーカーやフリーランスなど)も、源泉徴収と消費税は自身の収入に直結することなのでしっかり把握しておいたほうがよいでしょう。
新人経理担当者と個人事業主が身につけておいたほうがよい、源泉徴収と消費税の基礎知識について解説します。
目次
まずは源泉徴収について解説します。
源泉徴収は、所得税法で定められた所得税の納税方法の例外になります。
所得税は原則、所得を得た者(所得者)が自分で所得金額とそれに対する所得税の額を計算し、税務署に申告して納付します。これを申告納税制度といいます。
しかし、サラリーマンについては例外的に、所得の支払者(会社や自治体など)が所得を支払うときに所得税を徴収する(つまり、給与から所得税分を天引きする)ことになっています。そして所得の支払者が、所得者に代わって所得税を税務署に納めます。これが源泉徴収制度です。
源泉徴収制度には、概算で所得税を徴収して年末に税額の過不足を調整する仕組みもあります。これを年末調整といいます。
もし徴収しすぎていたら、戻ってきますので、最終的には、自分で申告する場合と同じ税額になります。
なぜサラリーマンに対して源泉徴収制度を用いているのかというと、政府が税金を確実に確保するためです。
申告納税制度の場合、100人の所得者(納税者)がいたら、税務署は100人に対し税の徴収業務を行わなければなりません。しかし源泉徴収制度なら、例えば会社に対して徴収業務を行えば、その会社の全従業員の徴収業務を済ますことができます。
また、概算で所得税を納付させるので、政府は徴収漏れを防ぐことができます。
先ほど企業が自社の従業員から源泉徴収するケースを紹介しましたが、企業は外注先の個人事業主に仕事を依頼して報酬を支払うときも源泉徴収しなければなりません。
源泉徴収が必要になる報酬は、主に次のとおりです(一部のみ)。
源泉徴収する額は、次の計算式で算出します。
報酬額が100万円以下の場合 | 報酬額×10.21% |
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報酬額が100万円超の場合 | (報酬額-100万円)×20.42%+100万円×10.21% |
つまり、100万円を超える報酬を支払う場合、100万円以下の部分の税率は10.21%で、100万円を超えた部分の税率は20.42%になります。
この10.21%や20.42%は、所得税の税率と復興特別所得税の税率を合算した数字です。
なお、源泉徴収に関して詳細は、関連姉妹サイトで解説しています。
例えば150万円の原稿料を個人事業主に支払う企業は、原稿料から所得税分204,200円を差し引いた1,295,800円を個人事業主に渡すことになります。税額の計算式は以下のとおりです。
個人事業主の銀行口座にお金を振り込む経理担当者はこの計算式を覚えていなければなりません。また、報酬を受け取る側の個人事業主もこの計算式を覚えておかないと入金額が正しいのかどうかわかりません。
大抵は、契約書には「原稿料150万円」と書かれてあるからです。この計算式を知っておかないと、「なぜ原稿料150万円の仕事の入金額が1,295,800円なのか」がわからないでしょう。
経理担当者は、個人事業主に報酬を支払うとき、消費税についても気を配らなければなりません。
個人事業主が企業に請求するときに、請求書に単に「原稿料150万円」としか書かなかったとします。その場合でも企業は、この150万円には「消費税が含まれているものとして」計算します。
原稿料150万円の内訳はこうなります(税率10%とします)。
このとき企業は、個人事業主に支払った消費税136,634円を仕入税額控除に加算することができます。仕入税額控除は節税効果に直結しますので、経理担当者は注意が必要です。
一方で個人事業主のほうは、自身が免税事業者であれば受け取った消費税を税務署に納付する必要はなく、自身の収入にすることができます。個人事業主にとって「消費税が収入になる」ことは、売上管理をするうえでとても重要になります。
ここまでの流れを整理しておきましょう。
原稿料150万円の内訳と源泉徴収額は以下のとおりでした。
そして企業の経理担当者と個人事業主は次のような状態になっています。
ここで注目したいのは、個人事業主が「★所得税204,200円の納付を企業に代行してもらっている」点です。
個人事業主は1月1日から12月31日までの1年間の所得にかかる所得税を、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告をして納付しなければなりませんが、原稿料150万円分の所得税204,200円はすでに、企業によって徴収されているわけです。
したがって確定申告では「原稿料150万円分の所得税204,200円はすでに企業に源泉徴収されている」といった内容の報告をしなければなりません。
もしその個人事業主の収支が赤字であれば所得税を支払う必要がないので、企業に徴収された所得税分204,200円が税務署から個人事業主に還付されます。還付とは「税金の払い戻し」のようなものです。
確定申告について、もう少し詳しく見てみましょう。
サラリーマンの給与の場合は、会社から発行される源泉徴収票を添付するのですが、個人事業主の報酬の場合は、特に書類を添付する必要がありません。
源泉徴収された金額を自分で計算して報告すれば大丈夫です。
とはいっても、いくら源泉徴収されたか計算に不安なこともありますので、源泉徴収をした企業が個人事業主に「支払調書」を送ることが慣例的に行われています。
「慣例的に」と記述したのは、「支払調書」はあくまでも税務署に提出するものであり、個人事業主への発行は義務ではないからです。
そのため、個人事業主に対して支払調書を発行しなくても問題はありません。
ただ、支払調書を発行してあげたほうが親切であるでしょうし、互いに源泉徴収額の認識が合うというメリットがあります。
個人事業主としては、源泉徴収した企業から支払調書が届かなかったら、企業に支払調書の発行を依頼しましょう。
それでも支払調書が届かなかったら、個人事業主は確定申告の書類に、報酬の入金がわかる書類と源泉徴収された金額を記載した用紙を添付すれば間違いがありません。報酬の入金がわかる書類は、銀行通帳のコピーで対応できます。
先ほど、以下のように解説しました。
<原稿料150万円の場合>
これは、税込価格(150万円)に所得税率(10.21%または20.42%)をかけて所得税額を算出しています。
個人事業主側が本体価格と消費税額を明確にわけて企業に請求した場合、本体価格(税別価格)に税率をかけても差し支えありません。
つまり以下のような計算方法も成立するのです。
<原稿料150万円を本体価格と消費税にわけて請求した場合>
税込み金額に対して源泉徴収する場合との差額は、27,846円になります。
源泉徴収される側の個人事業主としては、多く源泉徴収されても少なく源泉徴収されても後で確定申告をして還付されるので、トータルとして「損得」はありません。
ただ報酬を受けるときの手取り額(入金額)を増やすには、本体価格と消費税を分離して請求書を作成する必要があります。
クラウドワークスやランサーズなどのシステムを利用している場合は、通常、本体価格(税抜き価格)と消費税を分離して請求額が表示され、本体価格に対して源泉徴収をすることが多いです。
企業の経理担当者は、源泉徴収は自社の従業員の給与だけでなく、外注の個人事業主の報酬に対しても行わなければなりません。
個人事業主は、報酬として銀行口座に入金される金額は、契約した報酬額から所得税分が差し引かれていることを知っておいてください。
税率は10.21%と20.42%の2つしかありません。計算式も含めて覚えておけば、入金される前に手取り額がわかりますし、また確定申告時の還付金の額がわかります。
個人事業主は資金繰りが重要になるので、こうしたお金の「出と入り」はしっかり押さえておきましょう。