簿記の勘定科目①資産編|小企業の経理の現場から解説

簿記の勉強をしたり、経理の仕事についたとき、たくさんある勘定科目の意味や使い方に迷うことが多いのではないでしょうか。
私は、創業した小さなITベンチャー企業で、自ら経理を10年以上やっていますが、その中で、迷ったり間違えたりしたことを中心に、簿記の勘定科目を解説します。
なお、私の会社でこうやっているという事例であり、すべての企業に当てはまるものではありませんので、ご了承ください。
それぞれの企業にあった、適切な勘定科目を利用するのが良いと思います。
流動資産
現金・小口現金
簿記では「現金」という勘定科目で登場します。決算書として作成される貸借対照表では「現金及び預金」として、セットになっています。
ところで、実際の経理の現場では「小口現金」という勘定科目もよく利用します。Freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトでも、最初から「小口現金」という勘定科目が設定されていることが多いです。
どちらも現金を表すものですが、大まかな違いは次のようになります。
- 現金:本社の金庫に保管されているような、大元の現金
- 小口現金:各部署(部門)や、経理職員などに、細かく分けて、あらかじめ付与している現金
一人でやっている会社や個人事業主であれば、「現金」という科目が一つあれば足りるでしょう。
でも、経理職員を雇ったり、別のフロア・事務所にいる部署が増えてくると、現金を細かく分けて、それぞれの担当者に預ける必要が出てきます。それが「小口現金」です。
現金
基本的には、本社の金庫に保管されているような、大元の大きな現金を指します。ですので、補助科目は作成せず、この勘定科目一つだけで利用します。
帳簿としては「現金出納帳」です。
一日のうちでも、そんなに頻繁に金庫からお金出し入れすることは少ないでしょうから、「現金」勘定科目での仕訳はそれほど多くはありません。
金額は1万円単位で出し入れすることが多いため、細かい金額になることは少ないでしょう。
金庫からの出し入れですので、ここの「現金」勘定で、現金の過不足が起こることは、通常ありえません。もし、ここで現金の過不足が発生していたら、それこそ、盗難に遭ったか、誰かが横領したかという話になるでしょう。
小口現金
各部署(部門)の担当者や、経理職員などが管理する細かいお金は、一般的には「小口現金」勘定科目を利用します。
それぞれの部署、職員ごとに、補助科目を作成して、仕訳をします。たとえば、こんな感じです。
- A部署
- B部署
- 経理職員X
- 経理職員Y
各部門での出張のための旅費や、経理職員が切手や事務用品を購入するためのお金は、毎回、金庫から出し入れしたら大変ですので、月初などにあらかじめ決めた金額を渡しておき、月末など決まった時期に精算することが多いです。
[月初の払出時] | |||
小口現金 経理職員X |
100,000 | 現金 | 100,000 |
[月末の払出時](切手と事務用品の精算) | |||
通信費 | 6,000 | 小口現金 経理職員X |
10,000 |
事務消耗品費 | 4,000 | ||
小口現金 経理職員X |
10,000 | 現金 | 10,000 |
帳簿としては「小口現金出納帳」です。
ただ、最近の、会計クラウドなど利用している企業では、実際に紙面の帳簿をつけることはほとんどないでしょう。複式簿記で仕訳を入力すれば、勝手に、小口現金出納帳も作成されます。
1円単位のやりとりをしますので、場合によっては、数円から数千円程度の、現金過不足は起こり得ます。会議用の飲料をコンビニで購入した際、レシートをもらい忘れてしまったなど、細かいミスはあるでしょう。
そういうことが、あまり連続すると問題ですが、ときどきで、かつ少額であれば、過不足の原因を追及するよりも、さっさと現金過不足で処理してしまったほうが、手っとり早いです。
ちなみに、最終的に、決算書の貸借対照表には、「小口現金」という勘定科目は登場せず、「現金及び預金」として一つの科目になります。
受取手形
受取手形(うけとりてがた)は、手形で売り上げたときや、手形を受領したときに、記入する勘定科目です。
簿記の検定試験では、頻繁に登場する科目です。次の項目の売掛金と合わせて、債権金額を合計し、そこに貸倒実績率をかけて、貸倒引当金を計算するということを、よくしますね。
ただ、伝統的な業界や大企業は別として、近年、創業した企業や中小企業では、あまり手形をやりとりすることは少ないのではないでしょうか。
東京商工リサーチによると、2023年の受取手形売上比率は3.29%、財務諸表に計上された受取手形残高は13兆9,779億円とのことです。
【参照】東京商工リサーチ「中小企業では「受取手形等」の売上比率は低下傾向 卸売業・製造業では手形取引の商慣習が根強く残る」
売上比率は低下傾向であるものの、依然として残っており、受取手形残高は横ばいで推移しています。
ただ、商慣習で仕方なくやっているだけで、できれば手形による取引をやめたいという企業は多いようです。
【参照】一般社団法人全国銀行協会「産業界における手形・小切手の利用実態等に関する調査」
なお、2026年度末(2027年3月末)をもって、原則的には、紙の手形・小切手は全面的に電子化され、廃止される予定です。そして、簿記でも、ときどき登場する、次の項目に変わります。
- 受取手形 →「電子記録債権」
- 支払手形 →「電子記録債務」
私の会社では、一度も手形取引をしたことがありません。そのため、残念ながら、この項目については、記載できることがほとんどありません。
売掛金
売掛金(うりかけきん)は、現金ではなく掛けで売り上げたときに、記入する勘定科目です。
現金商売の店舗は別として、事業者どうしの売買やサービスのやりとりでは、掛売上がほとんどです。納品したその日に現場で現金をいただくということはほとんどなく、後日、請求書を送付して、月末または翌月末までに払っていただく、ということが多いのではないでしょうか。それに、現場の社員が売上のお金を受け取るというのは、管理上あまり好ましいものではないため(特に大金の場合)、掛売上が基本的になります。
そのため、実務では、最も、仕訳量が多くなる勘定科目の一つです。
実際には、顧客・取引先ごとに補助科目を作成して管理します。つまり、顧客が100社いれば、補助科目が100個できあがることになります。
- 顧客A
- 顧客B
- 顧客C
- ・・・
起業したばかりで顧客が少ないうちは、一つの勘定科目だけでもなんとかなりますが、顧客が増えてくると、支障が生じてきます。
毎月一定のタイミングで売掛金が入金されたか確認したり、未入金の場合は、いくら未入金なのか確認して、該当の顧客に支払いの督促の連絡をしたりしますが、補助科目で分かれていると、入金の仕訳さえすれば、顧客ごとの売掛金の残高が一目でわかりますので、やりやすいです。
正直、ここは、いろいろな方法があると思います。私は、当初は、Excelなど別シートで作成して管理していたこともありますが、管理するものが増えてくると、やはりミスが発生しやすくなりますし、Excelからまた帳簿に入力する作業が発生するなど、手間になります。そのため、顧客・取引先ごとに、補助科目を分けてしまったほうが、管理しやすいと感じています。
その際、補助科目名は、取引先の名称にすると管理しやすいです。名称が長いと、会計ソフト上、表示しきれないことがありますので、短い略称を利用します。
ただし、重複はしないように注意してください。正確な名称にはこだわらず、経理に携わる職員等が間違えずに作業できることが大切です。
たとえば、同名の企業がある場合には、場所や、最初の取引年などで、分けるとやりやすいです。
- 佐藤商事(新宿)
- 佐藤商事(横浜)
- 鈴木オート(2015)
- 鈴木オート(2024)
貯蔵品
購入したが使用しなかった、切手や収入印紙については、経費にすることはできませんので、決算で貯蔵品に振り替えます。
簿記の問題では、よく登場する項目ですね。
「通信費には未使用の切手100円が含まれている、租税公課には未使用の収入印紙300円が含まれている」というような、問題文があり、貯蔵品に振り替える仕訳をします。
正確には、そういう処理をすべきだと思うのですが、実際、そのような処理をすることは、あまりないかもしれません。
小さな企業で購入する切手や収入印紙は、まとめて購入したとしても数千円程度です。決算で実際、いくら残っているか数えて、貯蔵品に振り返る作業のほうが面倒です。
というより、起業したばかりだと、そんな知識すらないことがほとんどです。私も、起業当初は、そんなことは知らずに、切手や収入印紙を購入した時点ですべて経費に計上していました。
間違って経費計上した未使用の切手や収入印紙は、確かに所得税法上、または法人税法上、違反ではありますが、購入金額が数千円程度なら、それで税務調査で指摘されることはあまりないでしょう。
税務職員も、わずか数千円の経費計上ミスを指摘したところで、翌年になれば経費計上されるわけですから、とれるのは、延滞税・加算税の部分だけでわずか数百円です。切手の購入額が数百万円とかなら怪しまれますが、そうでなければ、わざわざ時間をとって調査に来ることはないでしょう。
ちなみに、収入印紙は、むしろ、貼るべき書類に貼っていないほうが、税務調査の対象になります。本来なら数千円の収入印紙を貼るべき契約書が、何十枚も見つかったら、それだけで、10万円くらい軽く追徴課税できますからね。