基礎控除申告書、公的年金収入+給料の書き方|控除額に要注意

年金

年末調整書類の基礎控除申告書の「給与所得以外の所得の合計」欄には、公的年金の収入にかかる雑所得も記入する必要があります。

ただ、公的年金と給料の両方がある場合、計算がやや複雑です。

公的年金と給料の両方をもらっている場合の、所得の計算方法と、基礎控除申告書の書き方を、図解でわかりやすく解説します。

1.基礎控除申告書に、公的年金も記入する必要があるの?

(1)公的年金そのものは、年末調整の対象外

誤解がないように、まず最初に、重要なことを述べますが、年末調整の対象は、会社から支給される給料だけです。

公的年金収入そのものは、年末調整の対象ではありません

公的年金にかかる税金は、一部のケースを除いて、通常、年金が振り込まれるときに「源泉徴収」という形で、年金の額面金額から引かれたうえで、振り込まれます。

(2)基礎控除申告書に、公的年金の収入(所得)の金額だけ記入が必要

基礎控除申告書に、公的年金の収入(所得)だけ記入が必要です。下図の赤枠で囲った箇所、「給与所得以外の所得の合計額」欄に記入します。

基礎控除申告書 令和7年分 給与所得以外

「給与所得以外の所得」という名称のとおり、公的年金の収入だけでなく、副業の収入や、不動産の売却収入、株式の譲渡収入(「源泉あり」を除く)など、いろいろな収入の合計を記入します。たとえ、1円でも収入(所得)があれば、記入が必要です

それぞれの収入(所得)の内訳を記入する必要はなく、合計額だけ記入します。そのため、それが何の収入であるか、会社にはわかりません

それは良くも悪くもあります。良い意味では、会社に副業や株式の収入など伝わらなくてすみますが、悪い意味では、仮に金額が間違っていても、会社側で修正はできませんので、間違えないように記入する必要があります。

2.基礎控除申告書へ公的年金収入を記入しないとどうなる?

(1)記入しないと、基礎控除額を正しく計算できない

基礎控除申告書に公的年金の収入(所得)を記載しない場合、正しい基礎控除額を算出できなくなります。その結果、状況によっては申告内容が過少となり、意図的と判断されれば脱税とみなされる可能性があります。

以下では、具体例を用いて説明します。

公的年金がないケース

基礎控除申告書 令和7年分

上の図は、給与年収200万円の場合の基礎控除申告書です。「給与所得を計算」すると、給与所得の金額は、132万円です。

合計所得は「132万円超~336万円以下」に該当しますので、基礎控除額は95万円です。
(2025年から、基礎控除額は、年収によって大きく変わります。詳細は下記をご覧ください)

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公的年金の収入があるケース

こんどは、公的年金の収入130万円があるケースです。

基礎控除申告書 令和7年分

公的年金については、収入金額ではなく、所得(雑所得)の金額を記入します。公的年金の雑所得を計算すると、20万円です。また、給与所得は10万円少なくなり、122万円となります(計算方法は「給料と公的年金の両方がある場合の、合計所得の計算方法」の箇所で説明します)。

給与所得の金額122万円に、公的年金の雑所得20万円を足すと、合計所得金額は、142万円円です。

すると、合計所得は「132万円超~336万円以下」の範囲に該当しますので、基礎控除額は88万円です。

公的年金の収入があると、基礎控除額が7万円も下がってしまいました。ただし、この場合に、増加する税金は、約3,500円です。

そこまで大きな金額ではありませんが、年収が200万円などの境目に近い場合、公的年金収入(所得)を記入するかしないかで、基礎控除額が変わってしまいますの。

(2)以前からあったが、2025年(令和7年)から大きな問題に

「基礎控除申告書に公的年金を記入する」なんて聞いたことがないという人も多いのではないでしょうか?

実は、2020年(令和2年)から、記入が必要でした。しかし、2024年までは、合計所得2,400万円(給与収入2,595万円)以下の人は、基礎控除額は、全員一律で48万円でしたので、よほどの高所得者でないかぎり、公的年金収入を記入してもしなくても影響がなかったのです。
(下図は、令和6年分の基礎控除申告書です。)

基礎控除申告書 令和6年分

ところが、2025年(令和7年)から、所得によって、基礎控除額が大きく異なることになりました(下図は、給与年収と基礎控除額を図示したもの)。

そのため、公的年金収入の記入あり/なしが、影響するようになってしまったのです。

年収の壁 160万円の壁 基礎控除

3.給料と公的年金の両方がある場合の計算と、基礎控除申告書の書き方

給料と公的年金の両方がある場合、合計所得の計算はかなり複雑です。

次の3つのステップで計算します。

  1. 給与所得の計算
  2. 公的年金の雑所得の計算
  3. 所得金額調整控除の計算、給与所得を調整

(1)給与所得の計算

基礎控除申告書に記入する金額は、給与年収だけでなく、給与所得もあります。

「給与所得=給与収入-給与所得控除」という計算です。給与所得者の経費のようなものです。

給与所得控除

給与所得の金額は次のように計算します。

給与収入額 給与所得の金額
~651,000円未満 0円
651,000円以上~1,900,000円未満 (A)-650,000円
1,900,000円以上~3,600,000円未満 (A)÷4(千円未満切捨て)=(B)
(B)×2.8-80,000円
3,600,000円以上~6,600,000円未満 (A)÷4(千円未満切捨て)=(B)
(B)×3.2-440,000円
6,600,000円以上~8,500,000円未満 (A)×90%-1,100,000円
8,500,000円以上 (A)-1,950,000円

給与年収200万円の場合

給与年収200万円の場合、このような計算です。

200万円÷4=50万円(千円未満切捨)
50万円×2.8-80,000円=132万円 → 給与所得
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(2)公的年金等に係る雑所得の計算

基礎控除申告書では、公的年金の収入を記入する欄はなく、所得だけ記入します。この所得のことを「公的年金等に係る雑所得」といいます。

「雑所得=公的年金収入-公的年金等控除額」という計算です。年金受給者の経費のようなものです。

所得税 計算 雑所得

公的年金等控除額は、65歳未満/65歳以上、公的年金以外の所得の金額で異なります。

公的年金以外の所得が1,000万円以下の場合、公的年金等控除額の最低額はこのようになります。

  • 65歳未満:最低60万円
  • 65歳以上:最低110万円

また、公的年金の収入が高くなると、式による計算となります。

65歳以上

公的年金収入 公的年金等控除額 雑所得
110万円以下  110万円 0円
110万円超~330万円未満 収入金額-110万円
330万円以上~410万円未満 収入金額×25%+27.5万円 収入金額×75%-27.5万円

65歳未満

公的年金収入 公的年金等控除額 雑所得
60万円以下  60万円 0円
60万円超~130万円未満 収入金額-60万円
130万円以上~410万円未満 収入金額×25%+27.5万円 収入金額×75%-27.5万円

公的年金収入130万円の場合

公的年金年収130万円で65歳以上の場合、このような計算です。

140円-110万円=30万円 → 雑所得
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(3)所得金額調整控除の計算、給与所得を調整

さいごに、最もややこしい部分です。

「所得金額調整控除」とは、給料と公的年金の両方をもらっている場合、給与所得から最大10万円を、控除できるものです。次のような計算をします。

①給与所得控除後の給与等の金額(最大10万円)+②公的年金等に係る雑所得の所得金額(最大10万円)-10万円=所得金額調整控除額

給与収入65万円超、公的年金収入110万円超(65歳未満は60万円超)の人は、所得金額調整控除を受けられます。

給与収入200万円、公的年金収入130万円の場合

給与収入200万円、公的年金収入130万円の場合の計算です。

①給与所得控除後の給与等の金額:132万円→最大10万円
②公的年金等に係る雑所得の金額:30万円→最大10万円
所得金額調整控除額=10万円+10万円-10万円=10万円

この金額を、給与所得から差し引きます。

給与所得(調整後)=132万円-10万円=122万円

結果、基礎控除申告書には、この図のような記入となります。

所得金額調整控除額10万円分だけ、給与所得が10万円少なくなるのがポイントです。

基礎控除申告書 令和7年分

4.雑所得と所得金額調整控除額の計算ミスに要注意

給料と年金の両方をもらっている人のほとんどは65歳以上で、フルタイムでなくパートタイムで働いている人が多いでしょう。年収は100~200万円くらいの人が多いです。

また、公的年金収入も80~200万円くらいの人が多いでしょう。

すると、給与所得+雑所得の合計所得が132万円前後の人が多いのですが、基礎控除額が変化する境目ですので、記入を少し間違えるだけで、基礎控除額が変わってしまい、過少申告になったり、逆に損をしたりする人が続出します

たとえば、こちらは、給与収入200万円、公的年金収入120万円、65歳以上のケースで、基礎控除申告書に正しく記入したものです。合計所得は132万円以下の範囲ですので、基礎控除額は95万円です。

基礎控除申告書 令和7年分 公的年金

(1)所得金額調整控除を忘れると損する

ここで、所得金額調整控除10万円を控除し忘れて、給与所得が10万円高いままだと、合計所得が132万円~336万円以下の範囲となり、基礎控除額が88万円になります。

基礎控除申告書 令和7年分 公的年金

本来、基礎控除額は95万円なのに、88万円に下がってしまい、損をしてしまいます

会社側としては、「給与所得以外の所得の合計額」が公的年金収入であるかどうかはわかりませんので、間違っていても修正のしようがありません

(2)雑所得ではなく、年金収入の金額を記入すると損する

こんどは、公的年金の雑所得ではなく、間違って、収入金額120万円を「所得金額」欄に記入してしまったケースです。こちらも同じく、合計所得が132万円~336万円以下の範囲となり、基礎控除額が88万円になります。

基礎控除申告書 令和7年分 公的年金

本来より所得が大幅に増えてしまい、損をする可能性が高まります。

(3)給料+公的年金の所得計算ツール

給料と公的年金の両方がある場合の所得計算は、非常に複雑で間違いが起こりやすいです。

そこで、給料+公的年金の所得計算ツールを用意しました。ご自由にご利用ください。

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5.個人年金など私的年金は、別計算

ここまで説明したのは、公的年金に関する収入についてです。

  • 老齢基礎年金
  • 老齢厚生年金
  • 国民年金基金
  • 厚生年金基金
  • iDeCo(個人型確定拠出年金)
  • DC(企業型確定拠出年金)

これらに該当しない「個人年金」などの私的年金は、公的年金とは別の計算をします。「私的年金」とは、個人的に保険会社と契約して保険料を払い込み、その後、一定期間、年金形式で支給されるものです。

公的年金と同じ「雑所得」ですが、「公的年金等に係る雑所得」とは別のものであり、別々に計算した後に、合計します。

雑所得=総収入金額-必要経費
必要経費=年間の年金額×(払込保険料の合計額)/(年金の総支給見込額)

たとえば、年間の年金額:50万円、払込保険料の合計額:900万円、年金の総支給見込額:50万円×20年=1,000万円の場合の計算です。

必要経費=50万円×900万円/(50万円×20年)=45万円
雑所得=50万円-45万円=5万円

もし、公的年金の収入200万円(雑所得90万円)があれば、合算します。

雑所得の合計額=90万円+5万円=95万円

個人年金については、くれぐれも、支給された金額そのものを雑所得に加算せず、経費を引くように、ご注意ください。

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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