消費税の増税は歯科医院にどんな影響がある?

歯医者 歯科医院

10月1日から消費税率が10%に増税されました。低所得者向けの負担を減らすための軽減税率もスタートしています。 歯科医院の経営にとって消費増税は大きな問題です。
今回は消費税と歯科医院の関係について案内し、実際に適用される税率などをわかりやすくまとめました。

1.歯科医院と消費税の関係

まずは消費税について簡単にに確認しておきましょう。
消費税は物品の購入やサービスを「消費」する行為に対して課税される税金です。
消費者が負担して事業者が納付します。

1-1.本則課税と簡易課税

消費税は事業者からみると消費者から預かり、事業者が仕入れのために支払った消費税を預かった税額から控除した残りを納付します。
控除すべき消費税の計算は実際に支払った課税対象となる取引をすべて合算して計算します。これを本則課税といいます。

一方、本則課税による納税は計算や記録の手間もかかるため、中小の人手の少ない事業者にとっては大きな負担となる場合があります。
このような事務負担の軽減のため、簡易課税という制度があります。

簡易課税制度を利用するには、届出や課税売上高が5,000万円以下など一定の条件を満たす必要があります。この制度を利用すると、消費税の税額の計算の際に課税売り上げに対して一定の割合(業種によって異なる)を掛け算して、簡便的に控除すべき金額を支払ったものとみなすことが出来ます。事務負担が軽減されるほか、事業者によっては節税となることもあります。

本則課税と簡易課税制度のどちらが節税に対して有利かは事業者ごとや事業年度ごとによって異なります。このあたり詳しくは税理士などにご相談されるとよいでしょう。

1-2.消費税の非課税事業者

また課税売上高がある事業者であっても消費税が非課税となる場合があります。
例えば、前々年度(個人事業主は前々年)の課税売上高が1,000万円以下の事業者です。
このため開業の初年度とその翌年度は消費税が課税されません。

消費税の基礎知識について詳しくは当サイト内コラム「個人事業主・法人向け基礎知識」でも解説しています。あわせてご参照下さい。

2.消費税の課税、非課税の決まり方|インプラント・歯列矯正・検診等

消費税は国内での物販やサービスの提供などに対して課税されます。
ただし、社会保険診療は政策的な配慮などもあり非課税とされています。

一方インプラント、ホワイトニング、歯列矯正などの自由診療、歯科検診、歯ブラシなどの物販等は消費税の課税対象となっています。

2-1.売上に消費税がかかるもの

歯科医院では具体的に以下のような売上に消費税が課税されます。

  • 自由診療
  • 物販
  • 不動産の貸し付け収入(貸店舗、月極駐車場など)
  • 事業用の固定資産の売却(自動車の下取りなど)
  • その他雑収入

2-2.売上に消費税がかからないもの

以下のような売上には消費税がかかりません。

  • 保険診療
  • 労災、自賠責などによる治療
  • 住宅や土地の貸し付けなどによる不動産収入

2-3.軽減税率の対象は|キシリトールガム等

10月1日から実施された10%への消費増税において、低所得者へ経済的な配慮をする目的で食品や新聞などは例外的に8%の軽減税率が適用される場合があります。

歯科医院の物販の中で キシリトールガム、キシリトールグミなどの食品は8%の軽減税率の対象となります。一方、歯ブラシ、テープなどは 10%の標準税率が適用されます。

3.消費税がかかる経費とかからない経費

仕入れにかかる諸経費なども項目によって消費税がかかるものとかからないものがあります。

3-1.消費税がかかる諸経費

  • 薬代
  • 材料代
  • 歯科技工費
  • 不動産費
  • 機械
  • リース代

3-2.消費税がかからない諸経費

  • 人件費
  • 減価償却費
  • 保険料

3-3.増税で歯科医の負担が増える? 

歯科医の診療のうち保険診療は非課税のため患者さんから消費税は受け取りません。
保険診療を行うための薬代、材料代や機械設備には、消費税を業者に支払っています。
そのため保険診療で行うための仕入れにかかる消費税は控除出来ないため歯科医院の負担となってしまいます。

このような負担増をカバーするために厚生労働省が定める保険診療の診療報酬や薬価は増税などのタイミングで引き上げられてきています。
ただし、すべての負担増をカバー出来るわけではないので、保険診療など非課税売上が増えると歯科医のコストが増えてしまう点には注意が必要です。

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4.増税で注意すべきことはある?

その他に消費税増税に関連して注意しておきたい点は以下のとおりです。

4-1.10月1日以降の治療であれば税率10%

自由診療にかかる消費税の増税のタイミングについては、実際の治療を行った日付によって決まります。例えば増税前に治療の契約を結んでいたとしても、実際の治療が増税後であれば10%の税率が適用されます。

4-2.キャッシュレス決済は還元対象外

消費税増税にあわせて政府がポイント還元などの補助を行う「キャッシュレス・消費者還元事業」が始まっています。
医院の会計に便利なのでキャッシュレス決済を導入されている歯科医院も多いかと思います。ただ注意点としてこの「キャッシュレス・消費者還元事業」については医療機関での支払いは補助の対象になりません。

まとめ

ご案内したように消費税の増税は歯科医の経営に比較的大きな影響があります。

またインプラント・歯列矯正・検診・キシリトールガムなどは、消費税が課税されることも学びました。

特に保険診療を行うための薬代や機械設備の支払いの際の消費税が医院のコストとなってしまう場合があることは以前より医療界においても疑問視されています。

このような状況をふまえ、税制面で不利にならないようにきちんとポイントを理解して頂ければ幸いです。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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