消費税の転嫁を拒否することは法律で禁止されています

消費税 転嫁

中小企業の経営者や個人事業主は、消費税増税が行われるときに起きやすい「消費税の転嫁拒否」問題に警戒してください。
消費税の転嫁拒否とは、小売店(買手)が納入業者(売手)に消費増税分の減額を求めたり、増税分の値上げを容認する代わりに利益提供を求めたりすることです。

消費税転嫁対策特別措置法は、消費税の転嫁拒否を禁じていて、公正取引委員会などが監視と取締りを強化しています。
有利な立場にある企業は、消費税の転嫁を拒否してはいけませんし、また転嫁拒否された事業者は、泣き寝入りすることなく公正取引委員会などに相談しましょう。

1.転嫁拒否は「正当な値下げ要請」ではない

消費税の転嫁拒否は、事業者と事業者の間で生じる問題です。そして転嫁拒否問題は、正当な値下げ要請とは区別されます。

1-1.正当な値下げ要請と転嫁拒否の違い

商品は、メーカーが卸会社に売り、卸会社が小売業者に売ります。このとき、卸会社はメーカーに消費税込価格を支払い、小売業者は卸会社に消費税込価格を支払います。正常な取引では、消費増税が実施されれば消費税込み価格が増税分引き上げられます。

ところが、買手(卸会社や小売業者)は強い立場にあるので、弱い立場にある売手(メーカーや卸売会社)に対し「消費増税分を減額するように」と要求することがあります。その要求が通ってしまったとき、消費税の転嫁拒否となります

ただ、卸会社がメーカーに対し、または、小売業者が卸会社に対して、例えば「大量に購入するから値下げしてほしい」と要請することは違法ではありません。事業者が納入業者に対して値下げ要求することは、店頭価格が値下がりすることにつながるので消費者の利益になるからです。
したがって消費税の転嫁拒否は正当な値下げ要請とは異なるのです。

1-2.転嫁拒否の禁止は2021年3月まで

消費税転嫁対策特別措置法は、取締りの対象を「2014年4月と2019年10月の消費増税の転嫁の阻害」だけに的を絞っています(同法第1条)。つまり、正当な値下げ要請は禁じていません。

また、同法の期限を2021年3月31日までとしています(同法第2条)。つまり、2021年4月1日からは、消費税の転嫁拒否が禁止されない、ということになりますが、次回の増税時には、また別途、特別措置がとられる可能性はあります。

2.規制対象となる特定事業者(買手)と保護対象の特定供給事業者(売手)について

消費税転嫁対策特別措置法について詳しくみていきましょう。
同法は、「特定供給事業者」(売手)から受ける商品またはサービス(以下、商品など)の供給に関して、「特定事業者」(買手)が消費税の転嫁拒否をしてはならないと定めています(同法第3条)。

特定供給事業者と特定事業者は次のように定義されます。

特定供給事業者(売手)

  • A:大規模小売事業者(※)に継続して商品またはサービスを供給する事業者
  • B:大規模小売事業者以外の特定事業者(買手)に商品またはサービスを供給する、個人事業主、人格のない社団、資本金の額が3億円以下の事業者など

※大規模小売事業者とは、一般消費者が日常的に使用する商品の小売業者であって前事業年度における売上高が100億円以上である事業者や、一定の面積の店舗を有する事業者をいいます。

特定事業者(買手)

  • Aの特定供給事業者から商品やサービスなどの供給を受けている大規模小売事業者
  • Bの特定供給事業者から商品やサービスなどの供給を受けている大規模小売事業者以外の事業者

同法は買手(特定事業者)を規制の対象とし、売手(特定供給事業者)を守る法律といえます。

3.禁止行為

消費税転嫁対策特別措置法で禁止されている行為は次の5つです。それぞれ具体例と、禁止行為に当てはまらない例を紹介します。

3-1.減額

減額とは、特定事業者(買手)が消費増税分の全部または一部を、事後的に減額して支払うことです。事後的というのは、「支払う段階になって」という意味です。これまで消費税額の端数を切り上げたり、または四捨五入したりしていたものを、特定事業者が一方的に切り捨てに変更することも違法な減額になります。

ただし、納入された商品に瑕疵(かし、傷のこと)があったり、納期に遅れたりした場合に事後的に減額して支払うことは禁じられていません。

3-2.買いたたき

買いたたきとは、特定事業者が、合理的な理由がなく通常の価格より低い金額を定め、実際にその金額を支払うことです。

例えば、増税前に税込価格を定めていて、増税後もその価格を据え置いたりすると、買いたたきに該当します。例え特定供給事業者(売手)から価格の引き上げ要請がなくても、買いたたきになります。

また、安売りセールを実施するといって価格据え置きを要請しながら、大量発注などのコスト削減につながる方策を取っていない場合、買いたたきと認定されます。
特定供給事業者が免税事業者であることを理由に消費税率引き上げ分を上乗せした金額を支払わないことも買いたたきになります。

ただし、特定事業者が大量発注や共同配送、共同購入などを行い、特定供給事業者にコスト削減効果が客観的に認められれば、価格交渉をすることで値下げが実現しても買いたたきにはなりません。

3-3.商品購入、役務利用、利益提供の要請

商品購入、役務利用、利益提供の要請とは、特定事業者(買手)が消費税の転嫁を認める代わりに、特定供給事業者(売手)に特定の商品を購入させたり、特定のサービス(役務)を利用させたり、経済上の利益を提供させたりすることです。

例えば、納入業者にイベントのチケットを購入させたり、自社の宿泊施設の利用を要請したり、協賛金を募ったり、納入業者の従業員を自社に派遣するよう依頼したりすることが、これに該当します。

また、取引先に、消費増税に対応した受発注システムの変更の費用を負担させたり、商品の値札の変更作業をさせたりすることも禁じられています。

3-4.本体価格での交渉の拒否

本体価格での交渉の拒否とは、買手(特定事業者)と売手(特定供給事業者)が価格交渉をするとき、特定供給事業者が消費税を含まない本体価格での交渉を申し出ているのに、特定事業者がそれを拒否することです。

特定供給事業者が本体価格と消費税額を区別して表記した見積書を提出したのに、特定事業者が税込価格のみを記載した見積書を再提出させることは禁じられています。

法律が本体価格での交渉の拒否を禁じるのは、消費税率がみえにくくなってしまうからです。例えば、見積書に「税込価格1,000円」としか記載されていないと、「本体価格926円、消費税8%74円、税込価格1,000円」なのか「本体価格909円、消費税10%91円、税込価格1,000円」なのかわかりません。
これでは、実際は「本体価格926円、消費税8%74円、税込価格1,000円」だった場合でも、特定事業者が「本体価格909円、消費税10%91円、税込価格1,000円だと思っていた」と言い逃れできてしまいます。

3-5.報復行為

報復行為とは、特定供給事業者が公正取引委員会などに消費税の転嫁拒否があったことを知らせたときに、特定事業者がそれを理由にして取引数量を減らしたり、取引を停止したり、不利益な取り扱いをすることで、これも禁じられています。

4.軽減税率制度での注意点

2019年10月からの消費増税では、飲食料品などの税率が8%に据え置かれる軽減税率制度が始まります。

例えば、ある飲料メーカーが缶ジュースを販売していたとします。缶ジュースは飲料のため軽減税率8%の対象ですが、缶自体は飲料ではないため、缶の仕入れは10%となります。

このときメーカーは、缶の納入業者には10%の消費税を支払いますが、缶ジュースの納品先からは8%の消費税を受け取ることになります。
このことを理由に、特定事業者(ここではメーカー)が特定供給事業者(ここでは納入業者)に8%の消費税しか支払わない場合、買いたたきに該当し禁止行為と認定されます。

5.監視を強化し、不当行為にはペナルティ

消費税の転嫁拒否問題に対し、公正取引委員会などは「転嫁Gメン」を結成し、監視を強化しています。また、消費税の転嫁拒否にはペナルティもあります。

5-1.転嫁Gメンによる監視

公正取引委員会、関連大臣、中小企業庁長官などは、転嫁拒否の監視を強化すると宣言しています。
公正取引委員会と中小企業庁は合同で、特定供給事業者などに対し、問題となる行為が発生していないかアンケート調査を行っています。アンケートでは、買いたたきや商品購入の要請などが行われているかどうか尋ねています。

5-2.ペナルティ

消費税の転嫁拒否が疑われると、公正取引委員会または関連大臣または中小企業庁長官などが対象の特定事業者に対し報告を求めたり立ち入り検査を行ったりします。
それでも是正されない場合、指導、勧告、事実の公表とペナルティが強くなっていきます。

不当な行為を受けたら、以下のお近くの公正取引委員会・消費税転嫁対策調査室に相談してみてください。

  • 北海道事務所:011(271)8481
  • 東北事務所:022(217)4260
  • 取引部取引企画課消費税転嫁対策調査室(東京):03(3581)3379
  • 中部事務所:052(961)9493
  • 近畿中国四国事務所:06(6941)2206
  • 近畿中国四国事務所中国支所:082(228)1520
  • 近畿中国四国事務所四国支所:087(811)1758
  • 九州事務所:092(437)2756
  • 内閣府 沖縄総合事務局総務部:098(866)0034

まとめ

特定供給事業者(売手)は、消費税の転嫁を拒否されたら泣き寝入りせず、公正取引委員会に相談しましょう。消費税の転嫁を拒否され、それを受忍してしまうと経営に悪影響を及ぼしかねません。

そして特定事業者(買手)は、消費増税分を上乗せした価格で商品などを購入しましょう。それが公正な取引だからです。また、転嫁を拒否して行政機関からペナルティを受けると会社の信用に傷がつきます。

特定供給事業者も特定事業者も、減額の禁止や買いたたきの禁止など、禁止5項目を覚えておいてください。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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