建設仮勘定と未成工事支出金の消費税の仕訳例

工事 建設

建設業は長期に渡る請負工事を受注することが多いため、消費税の計上時期をはじめとした処理方法に悩むことも多いでしょう。

建設工事を発注する側でもそれは同じです。
やはり長期に渡る工事を発注した場合、消費税の処理方法が気になるところですよね。

そこで、この記事では、建設仮勘定と未成工事支出金を中心に、消費税の処理方法について解説します。

1.建設仮勘定とは?        

建設仮勘定は建設中の建物や、製造中の機械などに支出した金額を仮に計上しておくための科目です。
未成工事支出金と混同しやすいのですが、建設仮勘定は「建物や機械を発注した側」が、建設代金等を支出した際に使用する科目であると覚えておきましょう。

建物は引渡しを受けるまで長期間を要することが想定されるので、契約金額の一部を前払いで支払うことが珍しくありません。
また、部分的に引渡しを受けて途中途中で工事代金を支払うこともあるでしょう。

このように、建設工事が完了する前に支出した金額が建設仮勘定に計上されます。
要するに、建設仮勘定とは工事が完成するまでに支出した金額をいったん資産計上しておくための科目であると言えるでしょう。

1-1.建設仮勘定の仕訳例

建設仮勘定の性質については解説した通りですが、いったん建設仮勘定に計上した金額は、建物や機械などの有形固定資産の完成引渡しを受け、事業の用に供した時点で「建物」や「機械設備」など正式な科目へと振替処理を行います。
以下の具体的な仕訳例を参考にしてください。

仕訳例:契約金額1億円でマンションの建設を発注したケース

①着手金として2,000万円を前払いした

借方 貸方
建設仮勘定 2,000万円 普通預金 2,000万円

②建物の一部の完成引渡しを受け、工事代金の一部(2,500万円)を支払った

借方 貸方
建設仮勘定 2,500万円 普通預金 2,500万円

③マンションの完成引渡しを受け、残額の支払いとともに事業の用に供した

借方 貸方
建物 1億円 普通預金 5,500万円
建設仮勘定 4,500万円

このように、建物の完成引き渡し前の支出を建設仮勘定に計上しておき、引き渡しを受けたタイミングで「建物」勘定に振り返ることとなります。

2.建設仮勘定の消費税処理方法    

契約金額の前払い分や途中引渡しを受けて支払った金額は一旦「建設仮勘定」に計上されるため、会計上は経費にならず、法人税法上も損金にはなりません。
しかし、消費税法上は取り扱いがそれらとは少し異なります。

消費税では建設仮勘定に計上した工事途中の支出も、原則として支払いのあった都度課税仕入れに計上することが認められているのです。会計処理とはここが明確に異なります。
ただし、その支出が単なる着手金や中間金の支払いなど、対価性のない支出である場合は課税仕入れに計上することはできません。

支出時に課税仕入れにできるケース 支出時に課税仕入れにできないケース
工事の目的物の
一部引渡しを受けた場合の支出
着手金や中間金など、
その支出とサービスの提供との
対応関係が明確でない支出
その他追加経費の支払など、
名目が請求書等で明確になっている支出

2-1.消費税処理の具体例

契約金額1億円でマンションの建設を発注したケース

①着手金として2,000万円を前払いした

借方 貸方
建設仮勘定 2,000万円(不課税仕入 普通預金 2,000万円

②建物の一部の完成引渡しを受け、工事代金の一部(2,500万円)を支払った

借方 貸方
建設仮勘定 2,500万円(課税仕入 普通預金 2,500万円

③マンションの完成引渡しを受け、残額の支払いとともに事業の用に供した

借方 貸方
建物 7,500万円(課税仕入) 普通預金 5,500万円
建物 2,500万円(不課税仕入) 建設仮勘定 4,500万円

消費税上では最初の着手金の支払いは課税仕入れとなりません。
これは先ほど説明した通り、物やサービスの対価として支払うものではなく、単なる前払金としての性質を持つためです。

逆に②の建物の一部完成引き渡しを受けた際の支出は、物の引き渡しの対価としての性質を持つため、消費税の課税仕入れに計上可能です。
最後に建設工事のすべてが完了し、建物の完成引き渡しを受けた時点で残額の7,500万円を課税仕入れに計上します。

2-2.建設仮勘定の消費税処理の例外

ここまで原則的な内容を解説してきましたが、例外処理も認められています。
例外処理は工事が完成し、建物の引渡しをうけた時点で全額を一括で課税仕入れに計上する方法です。

例外処理は引き渡しを受けた時点で全額計上という単純な考え方であるため、消費税処理に頭を悩ませる必要がありません。
しかし工事の完成まで長期に渡る場合、途中の課税期間で仕入税額控除を受けることができず、消費税額が負担となる可能性もあります。

原則と特例、どちらの方法によるかはケースバイケースで判断することをおすすめします。

3.未成工事支出金とは? 

未成工事支出金とは、まだ完成していない工事に支出した費用を計上する科目です。
こちらも建設仮勘定と混同しないよう注意して欲しいのですが、未成工事支出金は「建物の建設を受注した側」が、工事に必要な原材料や外注費などの経費を支出した際に使用する科目となります。

先ほどの建設仮勘定と違い、未成工事支出金は経費として支出した金額であるため、普通に考えれば支払った期に経費計上が可能のように思えます。

しかし、大前提として売上と仕入は対応させて計上しなければなりません。
工事完成基準を採用している場合、工事が完成した期にその工事の売上を計上しますよね。
したがってその工事売上を計上する期と原価を計上する期を対応させるため、完成前の工事についての支出は「未成工事支出金」という資産科目に計上しておくという考え方です。

3-1.未成工事支出金の仕訳例

建設仮勘定と同様に、いったん未成工事支出金に計上した金額は、工事が完成し、引渡しを完了した時点で「材料仕入高」や「外注加工費」などの科目へ振り替え、経費に計上します。
一連の流れの具体例を以下に示します。

仕訳例:契約金額1億円でマンションの建設を受注したケース

①マンション建設に要する材料を2,000万円仕入れた

借方 貸方
未成工事支出金 2,000万円 普通預金 2,000万円

②建設作業の一部を下請け業者に2,500万円で外注した

借方 貸方
未成工事支出金 2,500万円 普通預金 2,500万円

③マンション工事が完成し、引渡しを完了した

借方 貸方
材料仕入高 2,000万円 未成工事支出金 4,500万円
外注加工費 2,500万円

このように、材料仕入や外注費の支払い時には経費計上せず、工事の完成引き渡しが完了した時点で経費計上することとなります。

4.未成工事支出金の消費税処理方法           

先ほど解説したとおり、工事完成基準を採用している場合には、売上も費用も工事が完成した期に計上するのが原則です。

しかし、消費税における原則はこれとは異なります。
消費税上では工事に係る材料仕入や外注費の支出をした時点で課税仕入れに計上し、仕入税額控除の対象とするのが原則となります。
原則の処理方法が違うため混乱しないよう、次の具体例を見てしっかり理解しておきましょう。

4-1.消費税処理の具体例

契約金額1億円でマンションの建設を受注したケース

①マンション建設に要する材料を2,000万円仕入れた

借方 貸方
未成工事支出金 2,000万円(課税仕入 普通預金 2,000万円

②建設作業の一部を下請け業者に2,500万円で外注した

借方 貸方
未成工事支出金 2,500万円(課税仕入 普通預金 2,500万円

③マンション工事が完成し、引渡しを完了した

借方 貸方
材料仕入高 2,000万円(不課税仕入) 未成工事支出金 4,500万円
外注加工費 2,500万円(不課税仕入)

このように、消費税の処理上は支払った経費をその都度課税仕入れに計上するのが原則的な処理方法となります。
勘定科目だけを見てしまうと未成工事支出金は課税仕入れにならないように思えるかもしれませんが、消費税の計上時期は「材料の引き渡しを受けた時点」「外注先がその作業の全てを完了した時点」となる点に注意しましょう。

したがって外注費を支払っていたとしても、その作業が当期中に完了しない場合、その外注費は課税仕入れにはならないこととなります。
機械的に覚えるのではなく、一つ一つの取引の実態から判断するようにしましょう。

マンションの引き渡しが完了したら、会計上は未成工事支出金を材料仕入高や外注加工費などの科目に振り替えます。
支払い時に課税仕入れに計上しているため、科目振替時は課税仕入れに計上できない点に注意してください。

4-2.未成工事支出金の消費税処理の例外

未成工事支出金の消費税の原則処理について解説してきましたが、こちらも例外処理が認められています。
工事完成基準を採用している場合、継続適用を条件として工事の完成引渡し時にまとめて仕入税額控除することも可能です。

原則と例外の処理方法は、「今年は消費税の納税額が増えそうだから原則にしよう」などと好き勝手に選択できるわけではありません。
あくまで原則は原則であり、例外処理を採用する場合には毎期継続して適用しなければなりません。

処理方法をコロコロ変えていると税務調査で否認されるリスクもありますので十分注意してください。

5.消費税増税をまたいだ場合の消費税処理 

消費税の増税が間近に迫っていますが、建設仮勘定、未成工事支出金の消費税処理には注意すべき点がいくつかあります。

5-1.建設仮勘定の場合

消費税増税近いタイミングで建設仮勘定を計上する場合、契約した時期が問題となります。具体的な処理は次の通りです。

  • 原則:引き渡し時の税率
  • 経過措置:2019年3月31日までに契約した請負工事は、引渡しが消費税増税後となっても消費税率は8%が適用される

まず、2019年10月1日以前に工事が完成し、引き渡しを受けた場合には必ず消費税率8%が適用されます。これは当たり前ですね。

一方、引き渡しを受けた日が2019年10月1日以後である場合、新税率の10%が適用されることとなります。

ただし、引き渡しが2019年10月1日以後であっても、2019年3月31日までに契約を締結した工事については、旧税率である8%が適用されるという経過措置が設けられています。

経過措置の適用を受ける場合、相手への通知が必要?

2019年3月31日までに契約を締結した工事について、ちゃんと8%の税率が適用されるのかどうか気になる方も多いことでしょう。
実は経過措置の適用を受ける工事を行った事業者は、経過措置が適用された工事であることを相手方に書面で通知することとされています。

したがって工事の契約書や請求書に、「消費税法経過措置に基づき、請負工事価格は消費税率8%を適用しています。」のような文言があるかどうかを確認しておきましょう。

5-2.未成工事支出金の場合

未成工事支出金に計上されるのは工事の材料費や外注費などです。
したがってそれぞれの経費の支出時の税率に従うこととなります。

経過措置は規定されていないため、例外処理である「工事完成時に未成工事支出金に計上した金額を一括で課税仕入れに計上する方法」を採用していたとしても、その処理方法は変わりません。

6.相手方と処理方法を合わせる必要はあるのか

ここまでご覧になって、「発注側と受注側で消費税の計上タイミングが異なっても良いのか?」という疑問を持った方もいるかもしれません。

例えば次のようなケースです。例で登場するA社とB社はともに3月決算法人とします。

  1. 2019年4月、建設業者であるA社は、自社が請け負ったビル建設工事のうち、空調工事の部分をB社に外注した
  2. 2019年8月、B社はA社から発注された空調工事を完成させ、役務の提供の全てを完了した
  3. 2020年3月、B社はA社から発注された工事代金を、消費税の計算上、課税売上に含めて消費税の申告をした
  4. 2020年3月、ビル建設工事はまだ進行中であるため、A社はB社に対する外注費の支払いを未成工事支出金勘定で処理、消費税の仕入税額控除をしなかった
  5. 2020年8月、A社はビル建設工事の全てを完了し、相手方に引き渡した
  6. 2021年3月、A社はビル建設工事の請負金額を課税売上として計上するとともに、未成工事支出金に計上した金額を課税仕入れに計上した

このケースでは、B社が依頼された工事を完了した時点で課税売上を計上しています。
一方A社は未成工事支出金の例外処理を適用し、ビル建設工事の全てを終えるまで課税仕入れを計上していません。
結果的にB社の課税売上計上と、A社の課税仕入れ計上が1期ズレてしまっています。

しかし結論を言うと、このズレは気にする必要はありません。
そもそも相手方と計上時期を合わせようとすると、未成工事支出金の例外処理の方法は適用できないこととなってしまいます。
例外処理として認められている以上、相手方との対応関係は気にしなくてOKと考えて良いでしょう。

まとめ   

理解しにくい建設仮勘定と未成工事支出金の消費税処理の方法について解説してきました。

まずはそれぞれの科目の特性を理解するとともに、原則処理と例外処理の2通りの処理方法があることを頭に入れておきましょう。
建設業であれば頻繁に遭遇する取引なので、理解をあいまいにしておかないことが大切です。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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