高額な医療費を支払ったら確定申告すべき?|高額療養費と医療費控除

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日本には医療費の負担を和らげるための制度として「高額療養費制度」と「医療費控除」があります。なんとなく混同しがちな制度ですが、どのような違いがあるのでしょうか。今回はこの2つの制度の違いや利用の仕方について解説していきます。

1.高額療養費と医療費控除とは?

高額医療費の支給制度(高額療養費制度)と医療費控除は、どちらも個人が支払った医療費の負担を軽減するための制度ですが、その内容や必要な手続きは大きく異なります(所管省庁も違います。前者は厚生労働省、後者は財務省です)。

高額療養費制度とは

「高額療養費制度」は、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の額が1か月で上限額(自己負担限度額)を超えた場合、その超えた額が支給される制度です。高額療養費制度の重要なポイントは以下の3つです。

  • 1か月の自己負担限度額を超えて支払った医療費の額が健康保険から支給される制度
  • 「自己負担限度額」は被保険者(保険に加入している人)の年齢、収入などで異なる
  • 対象は健康保険適用対象の医療費のみであり、健康保険不適用の医療費(たとえばレーシック手術の費用)や差額のベッド代は制度の適用対象外

医療費控除とは

一方、「医療費控除」は、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の額が1年間で一定額を超えた場合、その超えた額について所得税と住民税の軽減を受けられる制度です。

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高額療養費制度と医療費控除の違いのまとめ

二つの制度の違いを下記の表で比べてみましょう。制度の内容や申請先・申請方法の違いがよくわかるかと思います。

  高額療養費制度 医療費控除
申請方法 申請先への書類提出で申請する 確定申告で申請する
申請先 ・国民健康保険⇒市役所・区役所
・その他⇒加入先の医療保険
(協会けんぽ、健康保険組合など)
税務署
計算期間 1か月 1年(暦年)
効果 個人負担限度額を超えて支払った医療費の額が申請先から支給される 年10万円を超えて支払った医療費の額が所得から控除されて所得税・住民税額が減る
対象 健康保険適用対象の医療費のみ 健康保険適用対象外の医療費の一部も対象

2.高額療養費制度と医療費控除は併用できる?

高額療養費制度と医療費控除は元から別物なので、併用することが可能です。ただし、医療費控除で使う「医療費の額」は、高額療養費制度の支給を受けた後の金額であることに留意が必要です。

たとえば、健康保険適用後(窓口負担)の医療費の額が50万円で、高額療養費制度によって30万円の支給を受けたときは、医療費控除で使う医療費の額は50万円ではなく20万円です。

(1)高額療養費制度と医療費控除を併用する際の手続き方法は?

高額療養費の申請は、「高額療養費支給申請書」で行います。支給が決定されると、たとえば国民健康保険の場合は「国民健康保険高額療養費決定通知書」が郵送され、そこに支給額が記載されています。

医療費控除を受ける際は、医療機関の窓口で支払った金額(医療機関の領収証に記載されています)から上記の「決定通知書」に書かれた支給額を引いた金額を確定申告で使用します。

(2)高額療養費制度と医療費控除を併用する際の注意点は?

高額療養費の申請には、医療機関から受け取った領収証の原本の提出が必要な場合があります。

ここでコピーを取っておかないと、医療費控除計算時に医療機関で支払った金額が分からず困ることになる可能性があるので、原本を提出する場合は必ずコピーを取って提出するようにしましょう。

なお、確定申告書に医療機関の領収証の添付は不要ですが、確定申告から5年間はコピーを保管する必要があるので、確定申告が終わったからといってすぐにコピーを捨てないようにしてください。

(3)高額療養費の支給が確定申告期限に間に合わない場合はどうすればいい?

高額療養費の支給が確定申告期限に間に合わない場合は、支給額の見積額を自分で計算して、窓口で支払った金額からその見積額を引いた金額を医療費控除の計算で使用します。

その上で、見積額と実際の支給額との間に差があって、確定申告済みの所得税額が変動する場合は、修正申告(税額が増える場合)または更正の請求(税額が減る場合)を行います。

3.高額療養費の申請・受給に確定申告は必要?

(1)高額療養費の申請に確定申告は不要

上述したとおり、高額療養費制度と医療費控除は別物ですので、高額療養費の支給申請時に確定申告をする必要はありません。

高額療養費の支給申請は、市役所・区役所(国民健康保険の場合)や、加入している協会けんぽや健康保険組合へ行います。

(2)高額療養費を受給しても確定申告は不要

高額療養費の支給を受けた場合は、これを支払った医療費の額の修正と考えますから、所得税法上は課税の対象とならず、それゆえ高額療養費の支給を受けたことに対する確定申告は不要です。

当然ながら、課税の対象とならないため、収入として申告する必要もありません。ただ、上述したとおり、支給を受けた場合は医療費控除においてその支給を受けた金額を調整する必要があるので、その点はご留意ください。

4.高額療養費支給の申請方法は?

ここからは、高額療養費を受給するための申請方法を具体的に説明していきます。

(1) どこで申請を行うか

支給の申請方法や手続きは、加入している健康保険・医療保険によって異なりますが、健康保険・医療保険の提出窓口に申請書を提出または郵送する方法によって申請するのが一般的です。以下では、例として「国民健康保険に加入している神戸市民の場合」における申請の方法などについて紹介します。

(2) 申請の方法

国民健康保険に加入している場合、自治体にもよりますが、たとえば神戸市の場合、高額療養費の支給額が1,000円以上あることが見込まれ、かつ保険料の未納がないときは、高額療養費の支給申請書が市から郵送されてきます(請求せずとも郵送されてきます)。

被保険者は、その郵送されてきた申請書に必要事項を記入して、同封の返信用封筒にて申請書を提出します。

一方たとえば盛岡市では、自治体から申請書が送付がされてくるわけではないため、ご自身で役所の窓口に赴くか、自治体のHPで申請書をダウンロード・印刷して必要事項を記入したものを郵送します。なお、窓口で申請する際に必要な持ち物はお住まいの自治体のHPで確認する必要がありますが、最低限下記を持っていきましょう。

  • 医療費領収書
  • 印鑑
  • 保険証
  • 銀行の口座番号がわかるもの

会社員の方は国民健康保険ではなく社会保険(健康保険)に加入しているかと思います。その場合は加入先の医療保険のHPで申請書をダウンロードして送付しましょう。

(3) 申請の期限

診療日の翌月1日から2年を過ぎると、時効により申請することができなくなります。

(4) 提出書類

次の書類の提出が必要です。

  • 国民健康保険高額療養費支給申請書
  • 支払った医療費の請求書(原本)
  • 保険証のコピー
  • 振込先の預金通帳等のコピー

(5) 申請書の記載方法

「国民健康保険高額療養費支給申請書」において、申請者が記載するのは、「申請者記入欄」の欄です。記入が必要なのは次の事項です。

  • 振込先の口座情報
  • 申請日
  • 世帯主の氏名・住所・電話番号

5.高額療養費はいつ、いくら支給される?

高額療養費制度では「自己負担額」を超える医療費を支払った時にその差額が支給されます。それではこの自己負担額とは実際いくらぐらいなのでしょう。支給される金額や時期はどうなっているのでしょうか、確認していきましょう。

(1)高額療養費は申請してすぐ支給されるわけではない

高額療養費の支給は、病院などの窓口で医療費を支払った日から数えて概ね3~4か月後に行われます。

この間は、支給される分の医療費をいわば「立て替えている」状態になるので、その金銭的負担が苦しい方向けに、次の制度が用意されています。

  • 高額療養費貸付制度
  • 限度額適用認定証

高額療養費貸付制度とは

「高額療養費貸付制度」は、高額療養費支給見込額の8割から9割程度を無利息で貸付する制度です。たとえば、国民健康保険に加入している永平寺町民の場合、永平寺町への申請によって高額療養費支給見込額の8割の貸付を受けることができます(高額療養費支給時に、残りの2割が支給されます)。

限度額適用認定証とは

「限度額適用認定証」は、これを医療機関の窓口で提示すると、医療機関に支払う金額が高額療養費制度の支給額を控除した金額で済むようになるものです。この認定証の申請は、国民健康保険の場合お住まいの市役所・区役所で行います。

(2)高額医療費の「自己負担額」は年齢・収入で決まる

高額医療費の自己負担額は、次の要素で変動します。

  • 被保険者の年齢……被保険者が70歳未満かどうかで計算のルールが異なります
  • 被保険者の収入……収入が大きいほど自己負担額も大きくなります
  • 高額療養費の支給を受けた回数……支給頻度が多いと自己負担額が低くなります

国民健康保険の場合、被保険者の年齢が70歳未満の場合の自己負担額は次のとおりです。なお、「所得」とは、収入から必要経費を引き、更に基礎控除額(2020年は33万円、2021年以降は43万円)を控除した金額をいいます。

被保険者の所得 自己負担額の計算式 自己負担額の例
[月の医療費が10万だった場合]
901万円超 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 100,000円
(全額自己負担)
600万円超
901万円以下
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% 100,000円
(全額自己負担)
210万円超
600万円以下
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%  80,100円
(支給額は19,900円)
210万円以下 57,600円 57,600円
(支給額は42,400円)
市民税非課税世帯 35,400円 35,400円
(支給額は64,600円)

被保険者の所得が大きくなるほど自己負担額が大きくなる(支給額が下がる)ことがお分かりいただけるかと思います。

(3)自己負担額は世帯で合算できる

自己負担額は世帯(被保険者と被扶養者)で合算することができます。また、自己負担額の計算は原則として医療機関ごとに行いますが、同じ医療機関でも入院(歯科以外)、外来(歯科以外)、入院(歯科)、外来(歯科)はそれぞれ別のものとして扱います。

なお、70歳未満の方は、上記の区分で算定した自己負担額が21,000円を超えるものについてのみ合算を行うことができますが、70歳以上の方は全て合算することができます。

上記を踏まえて、世帯合算の簡単な事例を紹介します。以下のような家族があったとしましょう。

モデルケースの条件

  • 夫婦(35歳の会社員)と子(未就学児)一人の三人家族
  • 夫の所得は600万円、妻の年収は800万円で、それぞれ別の健康保険組合の被保険者である
  • N月に支払った医療費は次のとおり
  • 夫の入院(歯科ではない)費用10万円
  • 妻の入院(歯科ではない)費用7万円、外来(歯科)費用2万円
  • 子の外来(歯科ではない)費用8万円

世帯合算と結論

  • 夫と妻は別々の健康保険組合の被保険者であるため、それぞれの医療費は合算できません
  • 妻と健康保険上の被扶養者である子の医療費は合算できます
  • 妻の外来(歯科)費用は2万円であるため、入院費用7万円とは合算できません
  • 夫の自己負担額は10万円、合算後の妻の自己負担額は15万円であり、それぞれ所得600万円超901万円以下の場合の自己負担額を下回るため、この場合は高額療養費の支給を受けることはできません

補足

家庭内に複数の被保険者がいる場合、扶養される者(たとえば子ども)はどちらの被扶養者となるかという問題があります。この点、健康保険が政府管掌であったときに出された通達によれば、原則としては年収の高い方の被扶養者となるとされているため、この事例もそのように設定しています。

(4)高額療養費のを頻繁に受給する場合は自己負担額が低くなる|多数該当

高額療養費として支給を受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3か月以上あったときは、4か月目から自己負担限度額がさらに引き下げられますが、この制度のことを「多数該当」といいます。

(5)高齢者の高額療養費の自己負担額

被保険者の年齢が70歳以上75歳未満の場合の自己負担額の計算は、70歳未満の場合と比べるとかなり複雑です。以下、概要だけを簡潔に紹介します。

世帯区分は、被保険者の収入に応じて以下の3グループに分かれます。

  • 現役並み
  • 一般
  • 低所得

「一般」及び「低所得」では、外来と入院で自己負担額の計算が異なります。外来は個人単位、入院は世帯単位で計算します。

また、「現役並み」は更に以下の3グループに分かれます。

  • 「現役並みⅢ」の自己負担額……70歳未満の「901万円超」と同様
  • 「現役並みⅡ」の自己負担額……70歳未満の「600万円超901万円以下」と同様
  • 「現役並みⅠ」の自己負担額……70歳未満の「210万円超600万円以下」と同様

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は高額療養費制度と医療費控除について解説しました。最後にこの記事のおさらいをしましょう。

高額な医療費を払った時に利用できる制度は……

  • 高額療養費制度は健康保険の仕組みで、一か月の医療費が自己負担額をこえた時に差額を支給される制度
  • 医療費控除は一年の医療費が一定額をこえた時に税金の負担が軽くなる制度
  • 高額療養費制度の利用に確定申告は必要ない

その他、類似の制度についてまだ解決していない疑問がある方は以下の記事もお勧めです。ぜひ併せてご覧ください。

医療費負担の軽減制度についてもっと詳しく!

税理士
執筆
杉谷 大輔(すぎや だいすけ)
税理士事務所代表。2017年に官報合格。税金の「困った」を「分かった」に出来るよう、日々奮闘しています。
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