103万円の壁の引き上げはいつから?減税額はいくら?

103万円の壁 178万円の壁
【最新情報】
2026年1月から壁引き上げをする予定で検討していることが判明しました。(2024/12/3)
・11月29日、臨時国会の所信表明演説で、石破総理大臣は「年収103万円の壁」の引き上げを表明しました。(2024/11/29)
・11月28日、国民民主党は、基礎控除75万円引き上げを盛り込んだ改正案を単独で国会に提出しました。(2024/11/29)

自民党・公明党・国民民主党の合意により、2024年11月20日、103万円の壁の引き上げが正式に決定されました。

気になるのは、壁を引き上げるのはいつからか? 壁の金額はいくらになるのか? いくら減税されるのか? などですね。わかっている範囲で解説します。

1.103万円の壁の引き上げとは?

▷103万円の壁は所得税の壁

「年収103万円の壁」は所得税のボーダーラインです。103万円の壁には、実は、2種類の壁があります

103万円の壁を超えると(年収103万円を超えると)

  • 所得税がかかる
  • 税金の扶養から外れる

という影響が出ます。

「所得税がかかる」壁の影響は小さい

103万円の壁を超えると「所得税がかかる」ことを気にされている方が多いですが、実は、影響は少ないです。

103万円を超えても、年収が低いうちは所得税の税率は5%です。仮に年収104万円になっても、かかる所得税は500円です(他に住民税が10%かかります)。500円を引いても収入は増えたのですから、そこまで大きな問題ではないでしょう。

「税金の扶養から外れる」壁の影響は非常に大きい

「税金の扶養から外れる」という壁の影響が非常に大きいです。

学生アルバイトで親の扶養に入っている場合、バイトの年収が103万円を超えると、親の扶養から外れます。親が扶養控除を受けられなくなり、税金が数万円から十数万円の範囲で増えてしまいます

扶養控除を受けたときと受けないときで税金がどれだけ変わるかを、年収別にシミュレーションした結果をあげておきます。

  • 社会保険:協会けんぽ加入(東京)、介護保険あり
  • 労働保険:一般の事業
  • 配偶者あり(配偶者控除なし)
  • 子供1人(大学生19歳)
年収 扶養控除なし
のときの税金
扶養控除あり
のときの税金
差額
300万円 111,400円 25,200円 86,200円
400万円 200,300円 114,200円 86,100円
500万円 303,700円 215,100円 88,600円
600万円 430,300円 322,000円 108,300円
700万円 565,800円 456,500円 109,300円
800万円 801,200円 627,500円 173,700円
900万円 1,073,400円 899,800円 173,600円
1000万円 1,358,600円 1,184,900円 173,700円

扶養控除を受けられないと、年収が低い場合でも、税金が8万円以上アップします。年収が高い場合には、税金が17万円以上もアップします。

19~22歳の特定扶養控除による減税額については、こちらの記事で詳しく説明しています。

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なお、夫婦の場合は、配偶者の年収が103万円を超えても特に影響はありません

▷「働き控え」をなくす

「103万円の壁の引き上げ」の目的の一つは、「働き控え」をなくすことです。

年収103万円以下に抑えるために、勤務時間を少なくして「働き控え」をするケースが多くあります。特に学生アルバイトでよく見かけます。

近年は人手不足が深刻化していますが、学生はもっと働きたいのに働けない、企業側はもっと働いて欲しいのに働いてもらえない、という矛盾が発生しています。

「年収103万円の壁」(扶養控除に関する壁)を引き上げることで、「働き控え」をなくし、人手不足を解消します。

▷「隠れ増税」をなくす

「103万円の壁の引き上げ」のもう一つの目的は、「隠れ増税」をなくすことです。

「103万円の壁」ができたのは1995年のことですが、それから約30年間で、最低賃金が大きくあがりました。
1995年の最低賃金の全国平均は611円でしたが、2024年10月時点では1,055円です。なんと、1.73倍に上がったのです。

にもかかわらず、「103万円の壁」(所得税がかかる壁)は同じままでしたので、実質増税となっています

賃金(給料)だけ上がっているのであれば良いのですが、インフレで物価も上がっていますので、実質賃金はマイナスとなっています。それで、税金だけとられるようになったのですから、「隠れ増税」といえるでしょう。

今まで、国と地方自治体は国民・住民から税金をとりすぎていたのですから、103万円の壁の引き上げは当然といえます。

2.103万円の壁の引き上げはいつから?

103万円の壁の引き上げの時期は、今のところ未定です。

「年収103万円の壁」は「所得税法」で定められていますので、国会での法律改正が必要です。

一般的な税制改正の流れは次のようなスケジュールになります。

  • 9~10月頃 政府税制調査会の議論
  • 11~12月頃 与党税制調査会の議論
  • 12月中旬 与党が税制改正大綱を発表
  • 12月下旬 政府が税制改正の大綱を発表
  • 1~3月 税制改正法案を国会で審議
  • 4月 改正税法が施行

2024年12月3日の最新情報によれば、2026年1月からの壁引き上げを検討していることが判明しました。

企業側の事務負担・システム対応負担を考慮しないといけず、一定の周知期間が必要というのが理由です。
しかし、これが本当の理由かどうかは疑問です。単に、政府が減税を渋っているという可能性もあります。

1960~1970年代に何度か行われた所得税改正では、その年に改正の議論から法案成立まで行い、年末調整・確定申告で減税を反映させるということも行われました。過去にできたことが、システム化や効率化が進んだ現在でできないはずがありません。

いずれにしても、まだ決定ではありませんので、今後の動きが注目です。

3.103万円の壁をいくらに引き上げる?

国民民主党は、「103万円の壁」を「178万円の壁」に引き上げる提案をしていますが、引き上げ額については、政府与党と協議中であり未定です。

「178万円の壁」に引き上げると国税・地方税合わせて約7.6兆円の減収となるため、政府は、引き上げ額を狭めたいと考えています。

103万円と178万円の中間をとって140万円くらい、あるいは、10万円だけプラスして113万円など、いろいろな意見があります。

また、地方自治体の一部の知事や市長らが、住民税の税収が減ることを懸念して、住民税の基礎控除の引き上げに反対しているため、住民税を分離してそのままにし、所得税の壁だけ引き上げるという案も出ています。

▷「扶養から外れる壁」はどうなる?

103万円の壁には「所得税がかかる壁」「扶養から外れる壁」の2種類があると最初に説明しましたが、基礎控除を引き上げても、「扶養から外れる壁」は変わりません。

扶養の条件は、給与収入ではなく「給与所得が48万円以下」で判定します。

給与所得=給与収入-給与所得控除

となりますが、給与所得控除は55万円(給与額が低い人)ですので、ちょうど年収103万円のとき、103万円-55万円=所得48万円となります。年収が103万円を超えると、所得も48万円を超えるので、「103万円の壁」と呼ばれています。

給与所得控除

「基礎控除」はこの図の一番右側の「所得控除」の一つです。基礎控除を引き上げれば、所得税は安くなりますが、「給与所得」そのものは変わりません

そのため、「扶養から外れる壁」の基準も引き上げる必要があります。政府は、こちらの壁の引き上げも検討しています。

4.(年収別)103万円の壁の引き上げによる減税額はいくら?

ここでは、いろいろな引き上げ額のパターンと、それによる減税額を、年収別に紹介します。

▷「178万円の壁」に引き上げ

国民民主党が選挙時から提案している案です。「178万円」の根拠は、さきほど紹介した最低賃金の増額率です。1995年から2024年まで最低賃金が約1.73倍に上がりましたので、年収の壁も、103万円×1.73≒178万円に引き上げようというわけです。

具体的には、所得税と住民税の基礎控除をそれぞれ75万円ずつ引き上げます。

  • 所得税の基礎控除額:48万円→123万円(+75万円)
  • 住民税の基礎控除額:43万円→118万円(+75万円)

※基礎控除を75万円引き上げると、厳密には、所得税のボーダーラインは、年収187.2万円となるのですが、ここでは、「178万円の壁」としておきます。

その場合の減税額はこちらのようになります。

[前提]
・給与所得のみ
・協会けんぽ・東京
・介護保険なし(年齢40歳未満)
・控除は基礎控除・社会保険料控除のみ
・税率・保険料は2024年10月時点
給与年収 現在の税金負担 基礎控除
+75万円
での税金負担
減税額
年収に対する
減税割合
2,000,000 88,800 5,000 83,800 4.19%
3,000,000 170,600 57,300 113,300 3.78%
5,000,000 383,500 249,600 133,900 2.68%
6,000,000 513,200 361,600 151,600 2.53%
8,000,000 924,900 696,700 228,200 2.85%
10,000,000 1,487,000 1,258,900 228,100 2.28%
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▷「140万円の壁」に引き上げ

103万円と178万円の間である「140万円の壁」に引き上げた場合の減税額です(基礎控除を37万円引き上げ)。

給与年収 現在の税金負担 基礎控除
+37万円
での税金負担
減税額
年収に対する
減税割合
2,000,000 88,800 32,900 55,900 2.80%
3,000,000 170,600 114,700 55,900 1.86%
5,000,000 383,500 308,800 74,700 1.49%
6,000,000 513,200 438,400 74,800 1.25%
8,000,000 924,900 812,300 112,600 1.41%
10,000,000 1,487,000 1,374,500 112,500 1.13%

▷「120万円の壁」に引き上げ

「120万円の壁」に引き上げた場合の減税額です(基礎控除を17万円引き上げ)。

給与年収 現在の税金負担 基礎控除
+17万円
での税金負担
減税額
年収に対する
減税割合
2,000,000 88,800 63,100 25,700 1.29%
3,000,000 170,600 144,900 25,700 0.86%
5,000,000 383,500 349,200 34,300 0.69%
6,000,000 513,200 478,800 34,400 0.57%
8,000,000 924,900 873,200 51,700 0.65%
10,000,000 1,487,000 1,435,300 51,700 0.52%

▷「113万円の壁」に引き上げ

「113万円の壁」に引き上げた場合の減税額です(基礎控除を10万円引き上げ)。

給与年収 現在の税金負担 基礎控除+10万円
での税金負担
減税額
年収に対する減税割合
2,000,000 88,800 73,700 15,100 0.76%
3,000,000 170,600 155,500 15,100 0.50%
5,000,000 383,500 363,300 20,200 0.40%
6,000,000 513,200 493,000 20,200 0.34%
8,000,000 924,900 894,400 30,500 0.38%
10,000,000 1,487,000 1,456,600 30,400 0.30%

5.103万円の壁の引き上げは、どういう方法で行われる?

「103万円の壁」の引き上げ方法は未定ですが、予想される内容を紹介します。

▷会社員・公務員の場合

所得税

会社員・公務員など給料をもらって働いている人は、「源泉徴収」という仕組みで、毎月の給料から所得税が差し引かれています。その差し引かれる金額が少なると考えられます。

2026年1月から壁引き上げということであれば、その月から源泉徴収される金額が少なくなります。

住民税

住民税は、「特別徴収」という仕組みで、翌年に毎月の給料から差し引かれます。法律が施行された年の税金はそのままで、その翌年から減税されることになるでしょう。

▷年金生活者の場合

所得税

65歳以上の人の場合、月額の年金額から社会保険料を差し引いた金額が135,000円を超えると、年金から所得税が差し引かれますので(源泉徴収)、そのときから減税されます(65歳未満の場合は、90,000円を超えたとき)。

それ以外の人は、確定申告が必要な方のみ、確定申告をするときに減税されます。確定申告が不要な方は、もともと所得税が安いため、減税される余地は少ないでしょう。

住民税

65歳以上の人で年金支給額が年間で18万円以上の場合、年金から住民税が差し引かれます(特別徴収)。住民税は翌年にかかりますので、翌年から減税されます。

それ以外の人は、もともと住民税が安いため、減税される余地はほとんどないでしょう。

▷フリーランス・個人事業主の場合

所得税

翌年に確定申告をするときに減税されます。それまでは所得税を払っていませんので、納税する所得税が安くなるという形で実現します。

住民税

翌年に自分で納税するときに減税されます。それまでは住民税を払っていませんので、納税する住民税が安くなるという形で実現します。

6.「103万円の壁引き上げ」減税額の計算シミュレーション

103万円の壁が引き上げられ、178万円の壁になることによる減税額は、ご自身の年収や家族構成によって異なります。
実際にいくら減税されるのか、計算できるツールを用意しました。ご自由にご利用ください。

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服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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