103万円の壁の引き上げはいつから?減税額はいくら?

103万円の壁 178万円の壁

自民党・公明党・国民民主党の合意により、2024年11月20日、103万円の壁の引き上げが正式に決定されました。

気になるのは、壁を引き上げるのはいつからか? 壁の金額はいくらになるのか? いくら減税されるのか? などですね。わかっている範囲で解説します。

1.103万円の壁の引き上げとは?

▷103万円の壁は所得税の壁

「年収103万円の壁」は所得税のボーダーラインです。

103万円の壁を超えると(年収103万円を超えると)

  • 所得税がかかる
  • 税金の扶養から外れる

という影響が出ます。
特に、後者の「税金の扶養から外れる」という影響が大きいです。

学生アルバイトで親の扶養に入っている場合、バイトの年収が103万円を超えると、親の扶養から外れます。親が扶養控除を受けられなくなり、税金が数万円から十数万円の範囲で増えてしまいます

なお、夫婦の場合は、配偶者の年収が103万円を超えても特に影響はありません。

▷「働き控え」をなくす

「103万円の壁の引き上げ」の目的の一つは、「働き控え」をなくすことです。

年収103万円以下に抑えるために、勤務時間を少なくして「働き控え」をするケースが多くあります。特に学生アルバイトでよく見かけます。

近年は人手不足が深刻化していますが、学生はもっと働きたいのに働けない、企業側はもっと働いて欲しいのに働いてもらえない、という矛盾が発生しています。

「年収103万円の壁」を引き上げることで、「働き控え」をなくし、人手不足を解消します。

▷「隠れ増税」をなくす

「103万円の壁の引き上げ」のもう一つの目的は、「隠れ増税」をなくすことです。

「103万円の壁」ができたのは1995年のことですが、それから約30年間で、最低賃金が大きくあがりました。
1995年の最低賃金の全国平均は611円でしたが、2024年10月時点では1,055円です。なんと、1.73倍に上がったのです。

にもかかわらず、「103万円の壁」は同じままでしたので、実質増税となっています

賃金(給料)だけ上がっているのであれば良いのですが、インフレで物価も上がっていますので、実質賃金はマイナスとなっています。それで、税金だけとられるようになったのですから、「隠れ増税」といえるでしょう。

今まで、国と地方自治体は国民・住民から税金をとりすぎていたのですから、103万円の壁の引き上げは当然といえます。

2.103万円の壁の引き上げはいつから?

103万円の壁の引き上げの時期は、今のところ未定です。

「年収103万円の壁」は「所得税法」で定められていますので、国会での法律改正が必要です。

一般的な税制改正の流れは次のようなスケジュールになります。

  • 9~10月頃 政府税制調査会の議論
  • 11~12月頃 与党税制調査会の議論
  • 12月中旬 与党が税制改正大綱を発表
  • 12月下旬 政府が税制改正の大綱を発表
  • 1~3月 税制改正法案を国会で審議
  • 4月 改正税法が施行

12月の税制改正大綱にギリギリに改正案を滑り込ませたとして、来年1~3月に決定し、最短でも来年4月から引き上げというスケジュールになるでしょう。
遅れると、来年6月くらいになる可能性もあります。

3.103万円の壁をいくらに引き上げる?

国民民主党は、「103万円の壁」を「178万円の壁」に引き上げる提案をしていますが、引き上げ額については、政府与党と協議中であり未定です。

「178万円の壁」に引き上げると国税・地方税合わせて約7.6兆円の減収となるため、政府は、引き上げ額を狭めたいと考えています。

103万円と178万円の中間をとって140万円くらい、あるいは、10万円だけプラスして113万円など、いろいろな意見があります。

また、地方自治体の一部の知事や市長らが、住民税の税収が減ることを懸念して、住民税の基礎控除の引き上げに反対しているため、住民税を分離してそのままにし、所得税の壁だけ引き上げるという案も出ています。

4.103万円の壁の引き上げによる減税額はいくら?

ここでは、いろいろな引き上げ額のパターンと、それによる減税額を紹介します。

▷「178万円の壁」に引き上げ

国民民主党が選挙時から提案している案です。「178万円」の根拠は、さきほど紹介した最低賃金の増額率です。1995年から2024年まで最低賃金が約1.73倍に上がりましたので、年収の壁も、103万円×1.73≒178万円に引き上げようというわけです。

具体的には、所得税と住民税の基礎控除をそれぞれ75万円ずつ引き上げます。

  • 所得税の基礎控除額:48万円→123万円(+75万円)
  • 住民税の基礎控除額:43万円→118万円(+75万円)

※基礎控除を75万円引き上げると、厳密には、所得税のボーダーラインは、年収187.2万円となるのですが、ここでは、「178万円の壁」としておきます。

その場合の減税額はこちらのようになります。

[前提]
・給与所得のみ
・協会けんぽ・東京
・介護保険なし(年齢40歳未満)
・控除は基礎控除・社会保険料控除のみ
・税率・保険料は2024年10月時点
給与年収 現在の税金負担 基礎控除
+75万円
での税金負担
減税額
年収に対する
減税割合
2,000,000 88,800 5,000 83,800 4.19%
3,000,000 170,600 57,300 113,300 3.78%
5,000,000 383,500 249,600 133,900 2.68%
6,000,000 513,200 361,600 151,600 2.53%
8,000,000 924,900 696,700 228,200 2.85%
10,000,000 1,487,000 1,258,900 228,100 2.28%
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▷「140万円の壁」に引き上げ

103万円と178万円の間である「140万円の壁」に引き上げた場合の減税額です(基礎控除を37万円引き上げ)。

給与年収 現在の税金負担 基礎控除
+37万円
での税金負担
減税額
年収に対する
減税割合
2,000,000 88,800 32,900 55,900 2.80%
3,000,000 170,600 114,700 55,900 1.86%
5,000,000 383,500 308,800 74,700 1.49%
6,000,000 513,200 438,400 74,800 1.25%
8,000,000 924,900 812,300 112,600 1.41%
10,000,000 1,487,000 1,374,500 112,500 1.13%

▷「120万円の壁」に引き上げ

「120万円の壁」に引き上げた場合の減税額です(基礎控除を17万円引き上げ)。

給与年収 現在の税金負担 基礎控除
+17万円
での税金負担
減税額
年収に対する
減税割合
2,000,000 88,800 63,100 25,700 1.29%
3,000,000 170,600 144,900 25,700 0.86%
5,000,000 383,500 349,200 34,300 0.69%
6,000,000 513,200 478,800 34,400 0.57%
8,000,000 924,900 873,200 51,700 0.65%
10,000,000 1,487,000 1,435,300 51,700 0.52%

▷「113万円の壁」に引き上げ

「113万円の壁」に引き上げた場合の減税額です(基礎控除を10万円引き上げ)。

給与年収 現在の税金負担 基礎控除+10万円
での税金負担
減税額
年収に対する減税割合
2,000,000 88,800 73,700 15,100 0.76%
3,000,000 170,600 155,500 15,100 0.50%
5,000,000 383,500 363,300 20,200 0.40%
6,000,000 513,200 493,000 20,200 0.34%
8,000,000 924,900 894,400 30,500 0.38%
10,000,000 1,487,000 1,456,600 30,400 0.30%

5.103万円の壁の引き上げは、どういう方法で行われる?

「103万円の壁」の引き上げ方法は未定ですが、予想される内容を紹介します。

▷会社員・公務員の場合

所得税

会社員・公務員など給料をもらって働いている人は、「源泉徴収」という仕組みで、毎月の給料から所得税が差し引かれています。その差し引かれる金額が少なると考えられます。

早ければ、改正後の法律が施行された月の給料から減税されるでしょう(4月くらい)。遅くても、6~7月の賞与の時期までには法律が施行され、賞与から差し引かれる税金も減税される可能性があります。

住民税

住民税は、「特別徴収」という仕組みで、翌年に毎月の給料から差し引かれます。法律が施行された年の税金はそのままで、その翌年から減税されることになるでしょう。

▷年金生活者の場合

所得税

65歳以上の人の場合、月額の年金額から社会保険料を差し引いた金額が135,000円を超えると、年金から所得税が差し引かれますので(源泉徴収)、そのときから減税されます(65歳未満の場合は、90,000円を超えたとき)。

それ以外の人は、確定申告が必要な方のみ、確定申告をするときに減税されます。確定申告が不要な方は、もともと所得税が安いため、減税される余地は少ないでしょう。

住民税

65歳以上の人で年金支給額が年間で18万円以上の場合、年金から住民税が差し引かれます(特別徴収)。住民税は翌年にかかりますので、翌年から減税されます。

それ以外の人は、もともと住民税が安いため、減税される余地はほとんどないでしょう。

▷フリーランス・個人事業主の場合

所得税

翌年に確定申告をするときに減税されます。それまでは所得税を払っていませんので、納税する所得税が安くなるという形で実現します。

住民税

翌年に自分で納税するときに減税されます。それまでは住民税を払っていませんので、納税する住民税が安くなるという形で実現します。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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