160万円の壁、年金受給者の減税額はいくら?178万円の壁との比較

年収の壁 160万円の壁 年金受給者

国民民主党が提案した「178万円の壁」への引き上げは、与党からは否定され、結局、「160万円の壁」で、3月4日に衆議院で可決されました。
ただ、この中身が非常に複雑です。また、年金受給者向けの詳細な内容はまだ発表されていません。

そこで、「160万円の壁」で年金受給者がどれくらい減税されるのか?独自で検証した結果をご紹介します。

また、「160万円の壁」とはどういうものか? 国民民主党が提案する「178万円の壁」との違いなど、わかりやすく解説します。

1.「160万円の壁」とは?

まず、最初に、今回、与党が提案した「160万円の壁」がどんなものか? かなり複雑な内容となっていますが、なるべくわかりやすく解説します。

現在、政府から発表されているものが、給与をもらっている人向けの情報しかありませんので、まずは、それを前提に解説し、あとで、年金受給者向けの内容を解説します。

(1)従来の案は、123万円の壁

もともと、与党は、次のような案を考え、2025年度の税制改正大綱に盛り込んでいました。

  • 基礎控除を48万円→58万円に引き上げ
  • 給与所得控除を55万円→65万円に引き上げ(ただし、給与年収190万円未満の人だけ
給与をもらっている人(給与所得者)の給与所得控除は10万円アップしますが、年金受給者の公的年金控除がアップするかどうかは発表されていません。
今回は、公的年金控除のアップはないものとして解説します。

基礎控除58万円と給与所得控除65万円を足した金額が123万円ですので、「123万円の壁」と言われています。

基礎控除58万円+給与所得控除65万円=123万円

年収の壁 123万円の壁

しかし、これでは引き上げ幅が小さく、減税される金額も少ないため、不満の声も多くあがっていました。
そこで、2025年2月28日、与党は、年収の壁を160万円に引き上げる案を国会に提出しました。

なお、今回、基礎控除の引き上げが予定されているのは、所得税のみです。
住民税の基礎控除額は現状の43万円のままです。

(2)160万円の壁の計算

最新の与党の案では、次のように引き上げます。

  • 基礎控除を48万円→95万円に引き上げ
  • 給与所得控除を55万円→65万円に引き上げ(ただし、給与年収190万円未満の人だけ

もともと、基礎控除を48万円→58万円に引き上げる検討をしていましたが、これよりさらに37万円上乗せして、基礎控除を引き上げます。

基礎控除95万円と給与所得控除65万円を足した金額が160万円です。

基礎控除95万円+給与所得控除65万円=160万円

年収の壁 160万円の壁

(3)「160万円の壁」の恩恵をフルに受けるのは、年収200万円以下の人だけ

「160万円の壁」の重要ポイントですが、この恩恵をフルに受けるのは、給与をもらっている人の場合でいうと、年収200万円の以下の人だけです。

今回の案では、年収200万円を超える人は、段階的に基礎控除の引き上げ幅が減ります。しかも、2年間だけの暫定的な内容になります。

給与年収によって、次のように5種類の基礎控除額があります。

給与年収
()内は所得
基礎控除額 従来の与党案からの
上乗せ幅
200万円以下
(132万円以下)
95万円 37万円
200万円超~475.2万円未満
(132万円超~336万円以下)
88万円 30万円
475.2万円以上~約665.6万円以下(※)
(336万円超~489万円以下)
68万円 10万円
約665.6万円超~850万円以下
(489万円超~655万円以下)
63万円 5万円
850万円超~
(655万円超~)
58万円 0

※正確には、6,655,556円以下

年収によって基礎控除額が異なりますので、かなり複雑な状況になります(下図参照)。

年収の壁 160万円の壁

年収200万円未満の人は、ずっと基礎控除額が95万円になるのに対して、年収200万円を超える人は、2年間だけの期間限定の引き上げであり、しかも、引き上げ幅も少なくなります。年収850万を超える人は、従来の案の58万円と同じです。

2.年金受給者はどうなる?

65歳以上の人であれば、最低110万円の公的年金控除がありますので、年金収入から、公的年金控除を差し引いて、所得(雑所得)を計算します。

雑所得=年金収入―公的年金控除
ここから、逆算して、年金収入と基礎控除額の関係を推測します。
年金収入(65歳以上) 所得 基礎控除額
242万円以下 132万円以下 95万円
242万円超~約476万円以下 132万円超~336万円以下 88万円
約476万円超~約656万円以下 336万円超~489万円以下 68万円
約656万円超~約843万円以下 489万円超~655万円以下 63万円
約843万円超~ 655万円超 58万円

繰り下げをしていない限り、どんなに多くても、年金収入は月30万円以下ですので、実質的には、

  • 年金収入242万円以下の人は、ずっと、基礎控除95万円
  • 年金収入242万円を超える人は、2年間限定で基礎控除88万円、2年後は基礎控除58万円

ということになります。

3.160万円の壁で年金受給者はいくら減税される?

「160万円の壁」では、年金収入ごとにいくら減税されるのか、計算してみました。

[前提]
・年金収入のみ
・国民健康保険(65~74歳)または後期高齢者医療制度(75歳~)に加入
・控除は基礎控除・配偶者控除・社会保険料控除のみ
・配偶者は70歳未満
・税率・保険料率は2025年2月時点

(1)単身者(独身者)の場合

65歳~74歳(国民健康保険加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 160万円の壁の
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 5,000 5,000 0
140,000 1,680,000 6,200 6,200 0
150,000 1,800,000 17,800 14,300 3,500
160,000 1,920,000 33,900 25,000 8,900
170,000 2,040,000 46,800 33,500 13,300
180,000 2,160,000 62,900 44,200 18,700
190,000 2,280,000 77,000 53,500 23,500
200,000 2,400,000 91,800 67,800 24,000
220,000 2,640,000 123,800 103,400 20,400
240,000 2,880,000 156,000 135,600 20,400
260,000 3,120,000 188,000 167,600 20,400
280,000 3,360,000 218,200 197,700 20,500
300,000 3,600,000 242,300 221,900 20,400

年金収入が月額14万円以下の方については、もともと、所得税がほぼ発生していないため、減税効果はありません。

年金収入が月額17万円以下の方については、もともと、払っている税金が少ないため、減税効果は少ないです。

年金収入が月額18万円以上の方は、平均的に2万円程度、減税されます。

75歳~(後期高齢者医療制度加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 160万円の壁の
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 5,000 5,000 0
140,000 1,680,000 6,500 6,500 0
150,000 1,800,000 19,500 15,500 4,000
160,000 1,920,000 35,600 26,100 9,500
170,000 2,040,000 49,700 35,500 14,200
180,000 2,160,000 66,000 46,200 19,800
190,000 2,280,000 80,700 56,700 24,000
200,000 2,400,000 95,800 71,800 24,000
220,000 2,640,000 128,300 107,900 20,400
240,000 2,880,000 160,800 140,400 20,400
260,000 3,120,000 193,400 173,000 20,400
280,000 3,360,000 224,000 203,500 20,500
300,000 3,600,000 248,400 228,000 20,400

65歳~74歳の場合と、ほぼ同じ結果になります。

(2)扶養している配偶者がいる場合

65歳~74歳(国民健康保険加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 160万円の壁の
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 0 0 0
140,000 1,680,000 0 0 0
150,000 1,800,000 0 0 0
160,000 1,920,000 0 0 0
170,000 2,040,000 0 0 0
180,000 2,160,000 5,000 5,000 0
190,000 2,280,000 16,000 14,000 2,000
200,000 2,400,000 31,100 24,000 7,100
220,000 2,640,000 63,000 45,100 17,900
240,000 2,880,000 91,100 70,700 20,400
260,000 3,120,000 123,300 102,900 20,400
280,000 3,360,000 153,400 133,000 20,400
300,000 3,600,000 177,400 156,900 20,500

扶養している配偶者がいる場合、配偶者控除38万円が適用されますので、
年金収入が月額18万円以下の方については、もともと、所得税がほぼ発生していないため、減税効果はありません。

年金収入が月額20万円以下の方については、もともと、払っている税金が少ないため、減税効果は少ないです。

年金収入が月額22万円以上の方は、平均的に2万円程度、減税されます。

75歳~(後期高齢者医療制度加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 160万円の壁の
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 0 0 0
140,000 1,680,000 0 0 0
150,000 1,800,000 0 0 0
160,000 1,920,000 0 0 0
170,000 2,040,000 0 0 0
180,000 2,160,000 5,000 5,000 0
190,000 2,280,000 19,400 16,200 3,200
200,000 2,400,000 34,500 26,200 8,300
220,000 2,640,000 66,900 47,700 19,200
240,000 2,880,000 96,100 75,700 20,400
260,000 3,120,000 128,600 108,200 20,400
280,000 3,360,000 159,100 138,700 20,400
300,000 3,600,000 183,700 163,200 20,500

65歳~74歳の場合と、ほぼ同じ結果になります。

4.178万円の壁の場合の減税額はいくら?

年収の壁の引き上げの議論の発端となったのは、2024年11月に国民民主党が、178万円の壁への引き上げを提案したことです。

ここで、「178万円の壁」がどういうものか? 簡単に確認してみましょう。

(1)178万円の壁の計算

国民民主党の案では、次のように引き上げます。

  • 基礎控除を48万円→123万円に引き上げ(所得税と住民税の両方)
  • 給与所得控除は55万円のまま

基礎控除123万円と給与所得控除55万円を足した金額が178万円です。

基礎控除123万円+給与所得控除55万円=178万円

年収の壁 178万円の壁

178万円の壁の、年金収入ごとの減税額を、シミュレーションしました。

65歳~74歳と75歳以上では、ほとんど差がないため、65歳~74歳の場合のみ掲載します。

(2)単身者(独身者)の場合

65歳~74歳(国民健康保険加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 178万円の壁
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 5,000 5,000 0
140,000 1,680,000 6,200 5,000 1,200
150,000 1,800,000 17,800 5,000 12,800
160,000 1,920,000 30,900 5,000 28,900
170,000 2,040,000 46,800 5,000 41,800
180,000 2,160,000 62,900 5,000 57,900
190,000 2,280,000 77,000 5,000 72,000
200,000 2,400,000 91,800 5,000 86,800
220,000 2,640,000 123,800 10,500 113,300
240,000 2,880,000 156,000 42,700 113,300
260,000 3,120,000 188,000 74,700 113,300
280,000 3,360,000 218,200 104,900 113,300
300,000 3,600,000 242,300 129,000 113,300

基礎控除が引き上げられると、年金収入が月額20万円以下の方は、住民税の均等割5,000円しかかからない状況となります。厚生年金の平均受給額は、月額14万円程度ですから、ほとんどの年金受給者が該当します。

年金収入が月額22万円以上の方については、毎年10万円の給付金をもらうのと同じ以上の効果があります

(3)扶養している配偶者がいる場合

65歳~74歳(国民健康保険加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 基礎控除+75万円
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 0 0 0
140,000 1,680,000 0 0 0
150,000 1,800,000 0 0 0
160,000 1,920,000 0 0 0
170,000 2,040,000 0 0 0
180,000 2,160,000 5,000 5,000 0
190,000 2,280,000 16,000 5,000 11,000
200,000 2,400,000 31,100 5,000 26,100
220,000 2,640,000 63,000 5,000 58,000
240,000 2,880,000 91,100 5,000 86,100
260,000 3,120,000 123,300 7,500 115,800
280,000 3,360,000 153,400 27,600 125,800
300,000 3,600,000 177,400 51,500 125,900

扶養している配偶者がいる場合、配偶者控除38万円が適用されますので、年金収入が月額24万円以下の方は、住民税の均等割5,000円しかかからない状況となります。

5.「160万円の壁」と「178万円の壁」の比較

与党が提案する「160万円の壁」と、国民民主党が提案する「178万円の壁」を比較し、決定的な違いを見てみましょう。

(1)減税額の比較

年収別に、「160万円の壁」と「178万円の壁」の減税額を比較しました。

単身者(独身者)の場合(65~74歳)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
160万円の壁の
での税金負担
178万円の壁の
での税金負担
60,000 720,000 0 0
68,000 816,000 0 0
80,000 960,000 0 0
90,000 1,080,000 0 0
100,000 1,200,000 0 0
110,000 1,320,000 0 0
120,000 1,440,000 0 0
130,000 1,560,000 5,000 5,000
140,000 1,680,000 6,200 5,000
150,000 1,800,000 14,300 5,000
160,000 1,920,000 25,000 5,000
170,000 2,040,000 33,500 5,000
180,000 2,160,000 44,200 5,000
190,000 2,280,000 53,500 5,000
200,000 2,400,000 67,800 5,000
220,000 2,640,000 103,400 10,500
240,000 2,880,000 135,600 42,700
260,000 3,120,000 167,600 74,700
280,000 3,360,000 197,700 104,900
300,000 3,600,000 221,900 129,000

どの年金収入でも、「178万円の壁」の減税額のほうが、「160万円の壁」の減税額より圧倒的に大きいです。

扶養している配偶者がいる場合(65~74歳)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
160万円の壁の
での税金負担
178万円の壁の
での税金負担
60,000 720,000 0 0
68,000 816,000 0 0
80,000 960,000 0 0
90,000 1,080,000 0 0
100,000 1,200,000 0 0
110,000 1,320,000 0 0
120,000 1,440,000 0 0
130,000 1,560,000 0 0
140,000 1,680,000 0 0
150,000 1,800,000 0 0
160,000 1,920,000 0 0
170,000 2,040,000 0 0
180,000 2,160,000 5,000 5,000
190,000 2,280,000 14,000 5,000
200,000 2,400,000 24,000 5,000
220,000 2,640,000 45,100 5,000
240,000 2,880,000 70,700 5,000
260,000 3,120,000 102,900 7,500
280,000 3,360,000 133,000 27,600
300,000 3,600,000 156,900 51,500

(2)「160万円の壁」と「178万円の壁」の違い

「160万円の壁」と「178万円の壁」の違いを表で整理します。

  160万円の壁 178万円の壁
基礎控除額 58~95万円
(年収によって異なる)
123万円
(ほぼ全員)
公的年金控除額 改正なし(推測) 改正なし(推測)
対象の税金 所得税のみ 所得税と住民税の両方
フルで恩恵を受ける人 年金収入242万円以下の人 ほぼ全員
年収850万円を超える人 減税額2万円程度 減税額最大13万円程度
期間 年金収入242万円超の
基礎控除上乗せは
2年間限定
恒久的

与党が提案する「160万円の壁」は、基礎控除額が年収によって異なり、かなり複雑です。しかも、年金収入242万円を超える人の上乗せは2年間限定です。
減税額はどの年収でもほぼ同じで、2万円程度です。

国民民主党が提案する「178万円の壁」は、ほぼ全員、基礎控除額は大幅に引き上げられます。所得税と住民税の両方が対象であるため、特に、繰り下げをして年金収入が多い人ほど、減税額も大きくなります。期間は恒久的です。

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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