フリーランスになったら税金はいつ・どう納める?

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この記事では、会社員の皆さんがフリーランスに転向するために必要な手続きについて前後編で解説しています。

本ページは後編の「個人事業主の税金の支払い手続き」についてお伝えします。前編の「社会保険料の支払い手続き」については以下のページで解説しています。

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5.フリーランスの住民税の支払い

住民税は、フリーランスになった年は想定外に負担に感じるものです。

これは、サラリーマンの時には「住民税は、前年分を今年の6月から翌年5月まで分割して給料から天引きして支払っている」から。会社を退職する時には、この住民税の支払が途中になるので、残りの分の清算が必要になるからです。

更に、6月に納税額決定通知書が送られて来ますが、この支払が毎月均等額ではなく、4回に分けて分割で支払う必要があるので、結果的にサラリーマン時代と比較をすると早いタイミングで払うことになるからです。

5-1.退職時の住民税の清算

退職時は、それまで会社が毎月給料から天引きして市役所等に支払ってくれていた手続きがなくなります。

先述の通り、会社員の場合は前年分の住民税を6月から翌年5月までの12か月で支払う(給料から天引きされる)ので、ちょうど5月に退職するというケースを除いて、退職時に未払いとなる前年分の住民税を清算しなければなりません。

退職月が1~4月の場合

退職月が1月から4月の場合は、退職時に会社が最後の給料から一括徴収してくれますので、自分で支払いをする必要はありません。ただし、最後の給料が何かしらの理由で少なかった場合には、自分で支払い手続きをする必要があります。どちらにしても、最後の給料の額が少なくなるので、注意が必要です。

退職月が6~12月の場合

また、6月から12月に退職をした場合には普通徴収に変更されます。

つまり、退職してしばらくすると、市役所や町役場から、未払いとなっている住民税の納税書が送られてきて、所定の期日までに自分で支払うことになるわけです。

この場合には、この住民税の支払があることを予め想定していない人が大半です。ですから、お金のやり繰りが出来なくて、支払が遅れるということもあるかもしれません。

1か月以上遅れてしまう場合には、市役所に相談をすると、支払う金額や回数を変更して貰えることもありますので、黙って滞納するのではなく、早めに相談に行くことをお勧めします。

5-2.前年分の住民税について

住民税は、毎年6月に市区役所や町役場から納税額決定通知書と共に納付書が送られてきます。

住民税は前年の所得に基づいて計算されるので、所得税に対する確定申告のように自分で納税額を計算する必要はなく、役所や役場が税額を計算して送ってきてくれます。

サラリーマンの時の特別徴収(給料からの天引き)とは違って、その支払いは普通徴収と呼ばれるもので、毎月ではなく年に4回です。もちろん一括で支払っても良いですが、納税額の割引はありません。

国民健康保険料も6月からの支払いになりますので、6月に住民税含む各種納付通知書が来ると、一気に支払うべきものが多くなるというのが実際の感覚です。

特にフリーランスになって間もない場合には、パソコンやプリンター、Wifi接続機器など、何かと経費が嵩んで、手持ちの資金が心細いという方も多いと思います。

会社員時代のように住民税が報酬から天引きされる訳ではないので、ついつい支払いを後回しにしてしまう人も多いかもしれません。けれども、最近では、地方自治体は、住民税の滞納にも厳しいスタンスになっています。経済的に困窮している場合には、支払うタイミングを遅らせることが出来ないか、早めに相談することをお勧めします。

6.フリーランスの所得税の支払い

会社員時代は毎月の給料から所得税が天引きされ、年末調整で各種控除の申請を行うことができました。

フリーランスになったら、1年分の所得と所得税を計算したうえで翌年2月~3月に確定申告を行い、自分で所得税を納める必要があります。

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7.フリーランス1年目に注意すべきこと

最後に、ここまで各論で説明をしてきた以下の5点に関して、フリーランスになった1年目に直面する戸惑いについて説明をしたいと思います。

  • ①必要な手続き
  • ②所得税・青色申告(こちらは本記事では詳細は説明していません)
  • ③国民健康保険料
  • ④国民年金保険料の支払い
  • ⑤住民税

①サラリーマン時代との違いを誰も何も教えてくれない!

今はフリーランスになった時のノウハウ本などが充実しているので、総論的には何となく理解していても、実際には置かれた環境によって一人一人が適用される前提条件はかなり違いがあります。

特に、健康保険に関しては、サラリーマン時代に勤めていた会社の福利厚生制度が充実していればいるほど、フリーランスになるとその落差に驚くはずです。

中でも、企業単独で健康保険組合を運営している大企業になると、系列病院であれば本人の医療費は無料という企業もまだあります。また、家族の分も含めて健康診断が充実しているので、フリーランスになった後も同じレベルで健康管理をしようとすると、予想以上にお金が掛かるということも珍しくはないのです。

このようなサラリーマン時代とフリーランスになってからの処遇の様々な違いは、基本的に置かれている環境によって違うので、具体的には誰も何も教えてくれないものと考えないといけないのです。

特に、早期退職制度を使って大企業を退職して、フリーランスとして時間や組織に束縛されないで働きたい!と希望を持って独立した場合には、その落差に対する衝撃が大きいようです。

実は会社は社員の面倒を陰ながら見てくれていた有難い存在であると、フリーランスになって初めて気が付く人が大半です。そのようなことは、誰も教えてくれません。なぜならば、感じることが人によって違うからです。その落差や違いを乗り越えることも、フリーランス1年目の一つの大きなハードルだと覚悟をしておいた方が良いと思います。

②夏は支出が一気に増える!

フリーランスの社会保険料・税金の支払いスケジュール(下図)を見て頂ければわかると思いますが、フリーランスになると、税金や各種保険料の支払いが、サラリーマン時代と比較して全般的に前倒しになります。

フリーランス1年目スケジュール(支払い)

特に住民税が1回目の支払いと2回目の支払いが夏の3か月の間にあるために、フリーランスになると夏は支出が一気に増えることになります。

これは、4月と5月に支払いがないからということが影響しているのですが、フリーランスになるために3月に会社を退職すると、4月と5月は何かと支出が多くなるケースが多く、また、ボーナスを貰っていた人はボーナスがなくなるので、夏の支出が想定以上に重荷に感じる人が多いのです。

③住所が変わる場合には特に負担が大きくなることがある

ここまで説明をしてきたことは、基本的に同じ市にずっと住んでいることを前提にしています。

もし、フリーランスになることを機会に引っ越しをした場合には、ここで説明をしてきたよりも多くの負担が生じる可能性があることに注意をしてください。

これは、実際に筆者が経験したことなのですが、引っ越しをすると、一般的に国民健康保険料は年間を通じると割高になるケースが多いです。

細かい計算方法は難しいので詳細説明は省きますが、健康保険料の算出方法に、どの自治体でも、所得に関係なく均等額を付加する項目が入っているからです。

更に、自宅が持ち家である場合には、特に固定資産税額に応じて負担する項目も加わるので、単純に前年の所得に比例する訳ではないからです。

特に国民健康保険料は、自治体の財政状態や人口に占める高齢者の割合などによって、かなり差があることは何度も説明をしていますが、この点は、引っ越しをする時には事前に調べておくことを強くお勧めしたいと思います。

8.まとめ

この記事を読んでいる方の中には、前向きにフリーランスになった人とそうでない人がいらっしゃると思います。また、既にフリーランスになってしまった人もいらっしゃれば、これから希望を持ってフリーランスなろうと思っている方もいらっしゃることでしょう。

最近では、社会の仕組みも多様化が尊重されてきているので、サラリーマンを辞めることのハードルは下がっていると思います。

けれども、どのようなケースであっても、フリーランス1年目に必ず支払いが伴う税金と各種保険料については、きちんと調べて必要な資金を準備しておくことをお勧めしたいと思います。

これは、それだけの準備がなければフリーランスになるべきではないということではなく、もし仮に1年目に支払うべき税金と各種保険料を賄うには心もとない収入と貯金しかない場合には、減免制度を最大限に活用することをお勧めしたいからです。

「自治体の支援」に関する情報を常にリサーチしよう

会社とは意外と有り難い存在で、病気で休んでも有給休暇を使えますし、病気が長引けば、健康保険組合であれば療養金を貰うこともあります。では、フリーランスになったら、このような便益は一切なくなるのでしょうか?

いいえ、そんなことはありません。

市区町村のHPを隅から隅まで熟読すると分かるのですが、生活に困ったり病気になったりすると使うことが出来る公的サービスは意外に多いのです。けれども、それは、会社にいる時と違い、すべて自分で調べて、自分で手続きをしないといけないのが、サラリーマンとフリーランスの最大の違いです。

フリーランスになると、時間は自由に使えるようになりますが、このようなリサーチや相談に費やす時間を確保することもとても大切なことになります。ですから、これからフリーランスになる人には、そのようなリサーチを最初から習慣付けておいて欲しいというのが、フリーランス歴10年以上となる筆者の経験に基づくアドバイスです。

個人事業主、本当におすすめ?

最後に、この記事では触れなかった青色申告について、筆者も一応公認会計士なので、少しだけ説明を加えたいと思います。

世の中には、『色々な節税が出来る青色申告を使える!』ということで、個人事業主であるフリーランスを勧める記事が多くなっていると感じます。けれども、青色申告を使う節税を正しく活用するためには、この記事で説明をさせて頂いた社会保険の仕組みや、様々な行政サービスに関する手続きを正しく理解することが必要になります。

そして、これらの社会保険関連費用などが予想以上に高く、また、個人事業主は健康管理から仕事に関するすべてのことを自分で賄う必要があるから、様々な節税が個人事業主には許容されているということに気が付いて欲しいと思います。

同じ仕事ならサラリーマン時代の1.5倍は稼げないと割に合わない

個人事業主であるフリーランスは、将来貰える年金が、国民年金がメインとなるのでサラリーマンの方々よりもかなり少なくなります。また、退職金制度もありませんし、健康診断などの福利厚生も自前で賄わないといけなくなります。

ですから、一般的に、同じような仕事をしているのであれば、生活全般のレベルを維持するためには、フリーランスはサラリーマン時代よりも理想として2倍程度の収入を稼ぐ必要があります。2倍が無理だとしても、1.5倍くらいは稼ぎたいというのが実情です。

この1.5倍というのが、パート①でお話させて頂いた「会社の事業計画での人件費の計算方法」に繋がります。

とはいえ、筆者もフリーランスを長く続けていますが、基本的に時間を自由に使えるフリーランスには魅力的なことも多いです。そのようなフリーランス生活を満喫するためにも、1年目のハードルを頑張って乗り越えて欲しいと思います。

執筆
荒井 薫(あらい かおる)
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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