フリーランスになったら税金はいつ・どう納める?
この記事では、会社員の皆さんがフリーランスに転向するために必要な手続きについて前後編で解説しています。 本ページは後…[続きを読む]
最近では、様々なライフスタイルが受け入れられるようになり、会社を辞めてフリーランスとしてやっていく! という人も増えています。会社の定年退職前に退職して、今まで培ったスキルを活かして独立する50代、60代の人も多いようです。
フリーランス(個人事業主)になると、まずは「青色申告が出来るように準備をしなければ……」と考える人が多いと思いますが、実は青色申告の準備よりも前に、税金や社会保険の支払い方法が、サラリーマン時代とはガラッと変わることで困惑する人が多いのです。
今回は、何かと戸惑いが多いフリーランス1年目の税金と社会保険などの手続きと支払いについて、二部構成で分かり易く説明をしたいと思います。
前編となる本記事では以下の3点を、後編では個人事業主が支払う税金についてお伝えしていきます。
目次
最近では、フリーランスになるためのノウハウ本やネット上の情報は充実していますね。
など、目にしたことがある方も多いでしょう。
この記事では、「フリーランスの税金・社会保険料」の手続きについて……特に1年目、何を、いつ、どのように手続きや支払いをするのかを時系列で理解できるようにしたいと思います。準備万全な人も、そうでない人も、この記事がフリーランス1年目をスムーズに過ごせるように網羅したいと思います。
この章ではまず、本題の「フリーランス1年目のスケジュール」を確認する前に知っておきたいフリーランスの実情についてお伝えしておきます。
企業と業務委託契約を交わして仕事を受注している人は、一般的にフリーランスと呼ばれることが多いですが、職業分類としては、青色申告を活用することが出来る「個人事業主」に分類されます。
この記事では、必要に応じて、フリーランスと個人事業主を使い分けしますが、個人事業主には法人化していない個人商店なども含まれるので、フリーランスよりも該当者が広いものと理解してください。
「スケジュール」からは少し話題がずれるかもしれませんが、フリーランスになった方には知っておいてもらいたいことなので、ぜひ読んでください。
会社で事業計画を作る時、人件費の算出については、たいてい「年間給与額×1.3~1.5倍」の金額を一人当たりの人件費として計算します。ボーナス込みで400万円の人を雇うのに、会社は520万円から600万円が必要だということになります。
実際に従業員が受け取る金額と算出される一人当たりの人件費の額との差額は、社会保険料などの会社負担分、健康診断費用、会社の忘年会費用や法人契約の福利厚生サービスなどに充当されます。
それ以外にも、会社は、従業員が日々の暮らしの中で余計な雑務に煩わされないように、色々な手続きを代行してくれています。それらに掛かるコストをトータルで見積もって、このような人件費の計算をしているのです。
「フリーランスになる」ということは、この0.3~0.5倍に該当する部分をすべて自分が賄うということを意味します。言い換えれば、会社が見えないところで賄ってくれていた①金銭的な負担と、②手続きなどを行う手間暇をすべて自分で賄うということになります。
①の金銭的な負担については、多くは青色申告の際に収入から控除をする、経費として計上することが出来ますので、場合によっては、サラリーマン時代よりも税金が少なくなるかもしれません。
一方、②の手続きなどを行う手間暇は、何がいつ必要なのかを自分ですべて理解しないといけません。
フリーランスになると、サラリーマン時代と違い、誰も助けてくれませんし教えてくれません。そして、覚えていないと時間が掛かりますし、忘れてしまうと思わぬペナルティを課せられることもあります。
ですから、サラリーマン時代と同じ仕事の内容で同じ時間を拘束されるのであれば、フリーランスとしては、会社から貰っていたお給料よりも多い報酬でないと割が合わないということになります。
この記事で、フリーランスが行う手続きやその手間、支払うことになる保険料などを理解していくうえで、「同じ仕事を同じ条件でするならば、フリーランスはサラリーマン時代よりも多い報酬を貰う必要がある」と言われているのはどうしてなのか、理解していただけるのではないかと思います。
若い人に良く聞くケースですが、フリーランスになったら、「病院に行かなければ健康保険は入らなくてもよいからと放っておく」という人がいるようです。
けれども、するべき手続きをするべき時にしないと、実は費用負担を軽減できたはずなのに、その機会を逸したりするケースもありまsす。
フリーランスになる人の中には、当初は預金もなく困っている人もいると思います。その場合こそ、早めに手続きをすることで、市役所の担当者の方が善後策を考えてくれることもあります。この判断も自分自身でしなければいけません。
このように、「自分で考えて自分で判断する」ために費やす時間と、実際に手続きなどに費やす時間も、フリーランスとしてやっていくために必要になってくるのです。
それではいよいよ本題、「フリーランス1年目の手続きスケジュール」についてお話ししましょう。
まずは、フリーランス1年目の税金と社会保険の手続きスケジュールを表にして整理してみました。
※以下の表は、3月末に会社を退職することを想定しています
この記事を読んでいる方の中には、最初からフリーランスになろうとして会社を退職した人と、会社を退職してから求職活動をした後、結果的にフリーランスになる人がいると思います。
前者の場合には、この表を参考にして最初から計画的に手続きを進めれば良いですが、後者の場合には、国民年金の加入手続きなどをしないで放っておいた人もいると思います。
もし、会社を退職した後にしなかった手続きがある場合には、条件によっては遡入手続きが出来ることもあるので、なるべく早く手続きをするようにしてください。
なお、この記事では説明はしませんが、退職の時に会社から受け取らないといけない書類等はすべて受け取ったことを最初に確認しましょう。手続きのために必要になるからです。
会社を退職してフリーランスになる時に必ずしなければならない手続きは、国民健康保険加入手続きと国民年金加入手続きの2つになります。
どちらの手続きも、住民票がある市区役所または町村役場で行います。国民年金加入手続きには、年金手帳(または基礎年金番号通知書)が必要です。また、国民健康保険加入手続きには、離職票があるとスムーズになります。
どちらの手続きも、退職日の翌日から14日以内にするようにと市役所などのHPには書いてありますが、それより遅れても手続きはして貰えます。
経済的に保険料の支払いが難しい場合には、条件がありますが、保険料の減免や分割払いなどの相談に乗って貰えますので、どちらの手続きも早めにすることをお勧めします。
なお、健康保険については、比較的高額な給料を貰っていた人は、退職した会社が加入していた健康保険を任意継続する方が保険料が安くなる場合があります。
ただし、健康保険の任意継続手続きは、退職から20日以内に手続きを済ませる必要があり、一日でも遅れると手続きが出来なくなります。
任意継続手続きは、退職した会社に手続きの一部をお願いしなければならない健康保険組合もあるので、もし任意継続を希望する場合には、退職をしてすぐに手続きをすることをお勧めします。
国民年金は、40年間なにかしらの年金(厚生年金、公務員共済組合、国民年金等)に加入していれば、2021年基準で年間約78万円の年金が65歳から支給される老齢基礎年金を貰うためのものです。
サラリーマン時代に支払っていた厚生年金保険料は、この老齢基礎年金に加えて、上乗せ部分である厚生年金も貰えるものなので、国民年金に加入したからと言って、過去の厚生年金保険料が無駄になるわけではありません。
言い換えれば、国民年金は「将来年金を貰うために必要な基本的な年金保険料」ということになります。そしてその加入期間に応じて老齢基礎年金の額が決まります(無加入期間が長くなるほど年金受給額が下がります)ので、必ず加入手続きをしてください。
国民年金は、厚生年金と違い、自分の住民票がある市区役所や町村役場に行って、自分で手続きをしないと加入出来ません。会社を退職したら自動的に加入できるものではないことに注意が必要です。
国民年金保険料は、全国一律で2021年4月以降の保険料は月額16,610円となっています。
年金事務所から毎年3月下旬くらいに4月から翌年3月までに支払う保険料の納付書が送られてきます。退職した時に加入手続きをすると、その加入した月から翌年3月までに支払う保険料の納付書が送られてきます。
なお、国民年金保険料は、半年分、1年分、2年分の前納制度があります。前納制度を利用すると保険料が割安になります。また、クレジットカード決済も利用できますので、資金的に余裕がある場合には前納制度の利用はかなりお得なのでお勧めです。
フリーランスになったばかりの時にはお金に余裕がない人も多いと思います。
国民年金は、40年間保険料を支払うと満額の基礎年金が将来受給できますが、無加入期間が長くなるとそれだけ将来受給出来る基礎年金が少なくなります。
特に若い人の中には、「将来年金が貰えるかどうか分からないから、年金保険料は支払いたくない!」という人も多いと聞きます。
けれども、年金は、10年以上の加入期間がないと受給出来なくなります。その場合には、過去に支払った厚生年金保険料が無駄になってしまうわけです。
ですから、もしフリーランスになってお金に余裕がないのであれば、国民年金に関しては、「国民年金保険料の免除制度や納付猶予制度」を使うことを検討して下さい。
国民年金に関しては、年齢や前年度所得額、世帯年収などにより利用できる減免制度は多岐に渡ります。
「今は国民年金保険料を支払う余裕がない!」という方は、まずはこちらで自分が使える減免制度にはどのようなものがあるか? について、検討をするようにしてください。
健康保険については、会社を退職した時には以下の2つの選択肢があります。
どちらを選択しても、健康保険料の半分を負担してくれていた会社の存在がなくなりますので、保険料はかなり高くなります。
また、市区町村によって国民健康保険料は違っています。一般的に高齢者が多い地域の市町村では保険料が高く、人口が多くて若い人が多い市区町村では保険料が安くなる傾向があります。
更に、40歳以上の人は、介護保険料も健康保険料と併せて支払う必要があります。介護保険料も、会社が負担してくれる分がなくなるので、サラリーマン時代より負担額が上がるケースが大半です。
サラリーマン時代に会社が加入していた健康保険を任意継続できるのは、退職した日の翌日から2年間までです。
一般的に健康保険の方が、国民健康保険よりも病気になった場合に受けられる便益が高いですので、特に持病を持っていて通院をしている人の場合には任意継続制度を利用することを検討したほうが良いと思います。
任意継続をした場合、会社負担分も自分で支払うことになりますので、標準報酬額の上限である月額30万円以上の給料を貰っていた人以外は、かなり割高になるかもしれません。
また、勤めていた会社が加入していた健康保険の条件によっても保険料にかなり差がありますので、もし任意継続をしたいと考えている人は、退職をする前からきちんと調べておかないと、手続きの期限(退職の日から20日以内)内に判断をして、手続きを完了するのは難しいかもしれません。
また、任意継続制度を利用した場合、健康保険料を1日でも滞納すると必ず資格を喪失します。経済的に苦しくなったので保険料を減免してもらうことも、納付を猶予してもらうことも出来ませんので注意が必要です。
任意継続を選択するにせよ国保に入りなおすにせよ、健康保険は国民年金のように「将来の不利益には目をつぶって減免制度を利用できる」というものではありません。特段の事情があれば市区町村に相談することで保険料を減額してもらうことも可能ではありますが、ハードルは高いと言えます。
しかも、サラリーマンだった人の場合には、フリーランス1年目は、お給料を貰っていた前年の所得を基準にして保険料が決まるので、かなり負担額が上がるのが実情です。
ですから、もしフリーランスになることを計画している場合には、自分がフリーランス1年目に支払わないといけない保険料がいくらになるのか?については、予めシミュレーションしておくことをお勧めします。
今は、多くの市区町村で、国民健康保険料と介護保険料のシミュレーションを用意しています。
現在、日本全体で医療費が急騰していることもあり、各市区町村も厳しい財政運営が続いています。
そのため、国民健康保険料に関しては、各自治体が滞納に対してかなり厳しい対応を取っています。
以前は、数か月滞納しないと催促が来ないこともあったので、滞納を常習している人もいるようですが、今は、滞納が一定期間続くと、保険証の有効期限が短いものに変更されてしまうこともあります。また、それでも滞納を続けると、資産の差押えを受けることもあります。
また、国民健康保険料の納付方法については、全国一律となっている住民税とは異なり、市区町村によってかなり違います。保険料が違うだけではなく、支払回数や支払方法も違ってきます。一部の市区町村では、滞納防止のため口座振替制度を強制しているところもあります。
また、比較的若い人に多いのですが、「病気になったら保険に加入すれば良い」と安易に考えていると、遡って国民健康保険に加入出来ずに、高額な医療費を100%自費で支払うことになる事例も増えています。
これは、以前、多くのネット情報サイトで、「国民健康保険料を安くする方法」として、意図的に法律の盲点を突くような方法を紹介しているのに対して、フリーライダー※を防止するために、自治体が対策を強化したためです。
現在では、国民健康保険制度はかなり厳格に運営されているので、フリーランスになって、「私は病院に通っていないから、国民健康保険には加入しなくても良い」と安易に判断して手続をしないでいることは得策ではないことを肝に銘じてください。
※「フリーライダー」とは、健康保険のような「相互扶助」をベースにしている公共サービスを、本来負担すべき費用を負担せずにサービスだけ受ける人を指します
繰り返しになりますが、国民健康保険料は、会社で加入する健康保険料よりもかなり高くなります。また、国民年金保険料のように、全国一律ではありません。今後は、ますますその差が大きくなることが予想されます。
更に、保険料に差が出るだけではなく、保険料を納めていると無料又は低額で受けられる各種健康診断の充実度も自治体によってかなり違っています。
ですから、フリーランスになって住むところを自由に選べるのであれば、市区町村のHPなどで、社会保障サービス全般について良く調べて、自分の年代にとって比較的充実したサービス内容となっている市区町村に住むようにするというのも選択肢の一つです。
特に、結婚をしていて子供がいる場合には、子育て支援の一環として子供の医療費は無料又は一定額の負担にしている自治体もあります。健康保険に関しては、保険料だけではなく、このようなサービス内容まで考えて、住む場所を考えることも必要になっている時代です。
こちらの記事では、この辺りで説明を終わらせたいと思いますが、参考までに、東京都の2つの区の国民健康保険料を算出してみました。
35歳、前年所得200万円、その他の所得10万円の場合
地方の高齢化が進んでいる自治体では、もっと高いところもありますので、フリーランスになるのを機に地方移住を考えている人は特に留意しましょう。
サラリーマン時代には会社任せにしておけば良かったことで、フリーランスになると何かと判断に迷うことが多いのは、健康保険に関することだと思います。
サラリーマンであれば、毎年受けなければならない健康診断も会社に任せておけば良かった訳ですが、フリーランスになると、健康管理をおろそかにすると仕事の継続も難しくなることもあるので、その点はサラリーマン時代よりも気を付けなければいけません。
それ以外に、国民健康保険の加入に関して留意すべきことは次の通りとなります。
自宅で家族と暮らしていて、世帯主が親で親がまだ働いているケースでは、一定の所得以下である等の条件を満たした場合には、親が入っている健康保険に入れてもらうことが出来る場合もあります。
また、親が国民健康保険に加入している場合には、親が納めている保険料が変わる可能性があります(所得が合算されるケース)ので注意が必要です。
なお、健康保険に関しては、事実婚であっても同一世帯であると見做してくれます。ですから、もし当初収入が低いのであれば、パートナーの健康保険の扶養者になることも場合によっては可能になりますので、条件が該当する場合には検討すると良いでしょう。
特に前年度に所得が多かった場合、今年になってリストラ等で失業したケースでは、保険料の算定基準で考慮してくれることがあります。これは、自治体によって救済策が違ってきますので、個別に相談することをお勧めします。
ここまで、フリーランス1年目、退職時・退職直後に手続きが必要な手続きについてお伝えしました。
後半ではフリーランスが支払う「税金」の手続きについて詳しくお伝えしていきます。