所得金額調整控除とは?夫婦共働きでも適用可能
所得金額調整控除の制度の概要から控除額の計算方法まで、具体例を交えて、わかりやすく解説します。[続きを読む]
2021年(令和3年)に行う確定申告(令和2年分の確定申告)で控除額が大幅に改正されます。
ここでは、6つの変更点をご紹介します。どのように改正されるのか把握して、確定申告に備えましょう。
変更点 | 対象 | |
---|---|---|
① | 基礎控除10万円増額 | 会社員、個人事業主 |
② | 青色申告特別控除が65万・55万・10万円の3種類に | 個人事業主 |
③ | 給与所得控除10万円減額 | 会社員 |
④ | 所得金額調整控除の新設 | 会社員 |
⑤ | 未婚のひとり親も寡婦控除の対象に | 会社員、個人事業主 |
⑥ | 配偶者控除、扶養控除などの 合計所得金額要件の変更 |
会社員、個人事業主 |
目次
基礎控除額が10万円増額されます。
基礎控除額とは、改正前は、全ての人が一律で38万円控除(住民税33万円)を受けられた所得税および住民税の控除の1つです。
この基礎控除が2020年の改正により10万円増額され、所得税48万円(住民税43万円)に引き上げられます。
基礎控除額は10万円増額されますが、その一方で、給与所得や事業所得などを合算した「所得金額合計」が2,400万円を超える人は段階的に基礎控除の額が引き下げられ、2,500万円を超えると基礎控除が適用されなくなります。
所得制限が設定された背景としては、基礎控除が生活保障的な性質と考えられており、生活に十分余裕がある高所得者には控除は必要ないという考え方があります。
この所得制限により、所得再分配機能の強化につながると期待されています。
合計所得金額 | 2020年改正 | 2019年まで | ||
---|---|---|---|---|
所得税 | 住民税 | 所得税 | 住民税 | |
2,400万円以下 | 48万円 | 43万円 | 38万円 | 33万円 |
2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 | 29万円 | ||
2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 | 15万円 | ||
2,500万円超 | 適用なし | 適用なし |
個人事業主の「青色申告特別控除」は65万円または10万円でしたが、65万円・55万円・10万円の3種類に変更されます。
従来の青色申告の65万円控除の控除額は55万円になり、10万円減額されます。
一方、従来の65万円控除の要件に、
のいずれかを満たす場合には引き続き65万円控除が適用になります。
青色申告特別控除を受けるための要件と、基礎控除との合計額を整理します。
65万円控除 | 55万円控除 | 10万円控除 | |
---|---|---|---|
帳簿 | 複式簿記 | 複式簿記 | 単式簿記 |
決算書 | 貸借対照表 損益計算書 |
貸借対照表 損益計算書 |
損益計算書 |
新要件 | e-Taxによる電子申告 または 電子帳簿保存 |
- | - |
基礎控除 との合計額 |
113万円 | 103万円 | 58万円 |
新要件に対応できれば、基礎控除+青色申告特別控除=113万円となり、従来より10万円増額されて、結果的に、減税になります。
新要件に対応できず従来どおりであれば、基礎控除+青色申告特別控除=103万円となり、変化はありません。
会社員には個人事業者と異なり、原則的に必要経費などの収入から控除できるものがありません。
そのため、必要経費に代わるものとして給与収入から差引くことができる控除枠を「給与所得控除」と言います。
給与所得控除額が10万円減額されます。
さらに、上限が220万から195万円に引き下げられます。
所得税の計算では、給料収入から給与所得控除を差し引いた「給与所得」を基に所得税の金額を計算しますので、給与所得控除が減額すると所得税の増税につながることになります。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | |
---|---|---|
2020年改正 | 改正前 (2017~2019年) |
|
162.5万円以下 | 55万円 | 65万円 |
162.5万円超 180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 | 収入金額×40% |
180万円超 360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円超 660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円超 850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 | 収入金額×10%+120万円 |
850万円超 1,000万円以下 | 195万円(上限) | |
1,000万円超 | 220万円(上限) |
給与所得控除が10万円減額された一方で、基礎控除が10万円増額されたため、会社員など多くの給与所得者はプラスマイナスゼロとなり増税にも減税にもなりません。しかし、一部の給与収入の高い方は増税になります。
ここでは、給与収入別に給与所得控除額と基礎控除額がどのように変化するか見ていきましょう。
【改正前】給与所得控除額174万円+基礎控除額38万円=212万円
【改正後】給与所得控除額164万円+基礎控除額48万円=212万円
※改正の影響なし
【改正前】給与所得控除額210万円+基礎控除額38万円=248万円
【改正後】給与所得控除額195万円+基礎控除額48万円=243万円
※改正の影響で所得控除額が5万円減額になるため増税になる。
【改正前】給与所得控除額220万円+基礎控除額38万円=258万円
【改正後】給与所得控除額195万円+基礎控除額0円=195万円
※改正の影響で所得控除額が63万円減額になるため大幅な増税になる。高所得者ほど所得税率も高いため、実質的な税負担も大きくなる。
2020年の改正により、給与所得控除の上限は、給与収入850万円超で195万円となっているため、給与収入が850万円を超える方は段階的に増税になります。
給与所得控除の減額により、給与収入850万円を超える方は増税になりますが、その中で一定の要件に該当する人は税負担を軽減する「所得金額調整控除」の対象になり、増税を回避することができます。
給与収入が850万円を超える人のうち、次の3つのいずれかを満たす場合に所得金額調整控除の対象になります。
所得金額調整控除額の計算式は、次の通りです。
例として、給与収入が900万円の場合の所得金額調整控除額は、
前章の「パターン②給料収入900万円の場合」では、給与所得控除と基礎控除を合計した額が5万円減額になりますが、所得金額調整控除に該当することで控除額が5万円増加するため増税を回避することができます。
改正前は、同じシングルマザー・シングルファザーの場合でも、未婚のひとり親に対しては「寡婦(寡夫)控除」の対象になっていませんでした。
状況が同じでも、婚姻の有無により所得控除が異なることは公平ではないと言う観点から、次の改正が行われました。
新設された「ひとり親控除」は、次の3つの要件に当てはまる人が対象になります。
性別や婚姻歴に関わらず、所得金額48万円未満の子を扶養している場合は「ひとり親控除」が適用になり、35万円控除が受けられます。
今までの「特別の寡婦」および「寡夫」は廃止されて、「ひとり親控除」に統一されました。
子どもがいない寡婦については、今までと同様に27万円の寡婦控除の適用の対象になります。ただし、所得制限が設けられ、所得500万円以下の場合にのみ適用されます。
【出典】財務省:令和2年度税制改正
給与所得控除の減額と基礎控除額の増額の影響により、以下のように、配偶者控除や扶養控除などを受けるための合計所得金額要件が変更になります。
ただし、給与所得控除と基礎控除の割合が見直されただけのため、給与収入のみの方については実質的な変更はありません。
合計所得金額要件 | 改正後 | 改正前 |
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同一生計配偶者 | 48万円 | 38万円 |
扶養親族 | 48万円 | 38万円 |
源泉控除対象配偶者 | 95万円 | 85万円 |
配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 48万円超 123万円以下 |
38万円超 123万円以下 |
勤労学生 | 75万円 | 65万円 |
例えば、「同一生計配偶者の合計所得金額要件」は38万円から48万円と見直しが行われています。しかし、給与所得控除額が65万円から55万円に変更になるため、給与収入ベースでは年収103万円以下が扶養の範囲となり、改正前と変更はありません。