基礎控除引き上げ「178万円の壁」で年金生活者の税金負担も大幅減!

先日行われた衆院選で議席数を4倍に増やした国民民主党が「基礎控除等の引き上げで年収の壁を178万円にする」提言を行っています。政府・与党と協議を行う予定であり、実現も現実味を帯びてきました。

国民民主党の支持率は若い人に多いですが、年配層は少ないです。どちらかというと「現役で働く人の負担軽減」を政策としていますので、年金生活者の層には響いていないのかもしれません。

ただ、基礎控除を引き上げれば、年金生活者の税金負担も大きく減ります。給付金と違って一時的ではなく、ずっとになりますので、毎年、給付金をもらったのと同じような結果になります。

基礎控除額が引き上げられたら、年金生活者がいくら減税されるのかを検証しました。

1.基礎控除75万円引き上げによる年金生活者の減税額

まずは、所得税・住民税の基礎控除を75万円引き上げた場合に、年金生活者の税金負担がどのくらい減るのか、配偶者なし/あり、年金収入別にシミュレーションしてみました。

[前提]
・年金収入のみ
・国民健康保険または後期高齢者医療制度に加入
・控除は基礎控除・配偶者控除・社会保険料控除のみ
・税率・保険料率は2024年10月時点

▷単身者(独身者)の場合

65歳~74歳(国民健康保険加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 基礎控除+75万円
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 5,000 5,000 0
140,000 1,680,000 5,500 5,000 500
150,000 1,800,000 17,800 5,000 12,800
160,000 1,920,000 30,900 5,000 25,900
170,000 2,040,000 46,800 5,000 41,800
180,000 2,160,000 60,800 5,000 55,800
190,000 2,280,000 77,000 5,000 72,000
200,000 2,400,000 91,800 5,000 86,800
220,000 2,640,000 123,800 10,500 113,300
240,000 2,880,000 156,000 42,700 113,300
260,000 3,120,000 188,000 74,700 113,300
280,000 3,360,000 218,200 104,900 113,300
300,000 3,600,000 242,300 129,000 113,300

基礎控除が引き上げられると、年金収入が月額20万円以下の方は、住民税の均等割5,000円しかかからない状況となります。厚生年金の平均受給額は、月額14万円程度ですから、ほとんどの年金受給者が該当します。

年金収入が月額22万円以上の方については、毎年10万円の給付金をもらうのと同じ以上の効果があります

75歳~(後期高齢者医療制度加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 基礎控除+75万円
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 5,000 5,000 0
140,000 1,680,000 6,000 5,000 1,000
150,000 1,800,000 19,500 5,000 14,500
160,000 1,920,000 33,300 5,000 28,300
170,000 2,040,000 49,700 5,000 44,700
180,000 2,160,000 64,400 5,000 59,400
190,000 2,280,000 80,700 5,000 75,700
200,000 2,400,000 95,800 5,000 90,800
220,000 2,640,000 128,300 15,100 113,200
240,000 2,880,000 160,800 47,500 113,300
260,000 3,120,000 193,400 80,200 113,200
280,000 3,360,000 224,000 110,700 113,300
300,000 3,600,000 248,400 135,100 113,300

年金収入が月額20万円以下の方は、65歳~74歳の場合より、さらに減税額が数千円程度大きくなります。

▷扶養している配偶者がいる場合

65歳~74歳(国民健康保険加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 基礎控除+75万円
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 0 0 0
140,000 1,680,000 0 0 0
150,000 1,800,000 0 0 0
160,000 1,920,000 0 0 0
170,000 2,040,000 0 0 0
180,000 2,160,000 5,000 5,000 0
190,000 2,280,000 9,500 5,000 4,500
200,000 2,400,000 18,500 5,000 13,500
220,000 2,640,000 46,500 5,000 41,500
240,000 2,880,000 78,500 5,000 73,500
260,000 3,120,000 110,700 7,500 103,200
280,000 3,360,000 140,800 27,600 113,200
300,000 3,600,000 164,800 51,500 113,300

扶養している配偶者がいる場合、配偶者控除38万円が適用されますので、年金収入が月額24万円以下の方は、住民税の均等割5,000円しかかからない状況となります。

75歳~(後期高齢者医療制度加入)

年金収入
(月額)
年金収入
(年額)
現在の税金負担 基礎控除+75万円
での税金負担
減税額
60,000 720,000 0 0 0
68,000 816,000 0 0 0
80,000 960,000 0 0 0
90,000 1,080,000 0 0 0
100,000 1,200,000 0 0 0
110,000 1,320,000 0 0 0
120,000 1,440,000 0 0 0
130,000 1,560,000 0 0 0
140,000 1,680,000 0 0 0
150,000 1,800,000 0 0 0
160,000 1,920,000 0 0 0
170,000 2,040,000 0 0 0
180,000 2,160,000 5,000 5,000 0
190,000 2,280,000 10,500 5,000 5,500
200,000 2,400,000 21,900 5,000 16,900
220,000 2,640,000 51,000 5,000 46,000
240,000 2,880,000 83,500 5,000 78,500
260,000 3,120,000 116,000 9,200 106,800
280,000 3,360,000 146,500 33,200 113,300
300,000 3,600,000 171,100 57,800 113,300

2.基礎控除とは?

年金生活者の「基礎控除」について、簡単に説明しておきます。

「基礎控除」とは「所得控除」の一つです。

年金受給者の所得税の計算では、次の図のように計算します。
まず、「年金収入」から「公的年金等控除」を引いて「雑所得」を計算します。
次に、「雑所得」から「所得控除」を引いて、課税される所得(税金がかかる所得)を計算します。

年金 雑所得

「所得控除」には、よく知られたものとして、配偶者控除、扶養控除、医療費控除などがありますが、基礎控除もこのうちの一つです。

▷基礎控除は、所得税48万円・住民税43万円

基礎控除は、所得2,500万円以下に適用されます。

金額は、所得によって少し異なりますが、所得2,400万円以下の人は全員一律で、所得税は48万円、住民税は43万円です。

年金収入だけで所得2,400万円を超える人はいませんので、全員が、上記の金額の基礎控除を受けています。

▷基礎控除の歴史

基礎控除額は、物価の上昇とともに、少しずつ上がってきましたが、近年は、大幅な物価の上昇はなく、基礎控除額も一定でした。

所得税の基礎控除額の変遷
期間 基礎控除額
1984年(昭和59年)~1988年(昭和63年) 33万円
1989年(平成元年)~1994年(平成6年) 35万円
1995年(平成7年)~2019年(令和元年) 38万円
2020年(令和2年)~ 48万円

※2020年(令和2年)に基礎控除額が38万円→48万円に引き上げられたのは、物価の要因ではなく、給与所得控除額が10万円引き下げされたため、整合性をとるためです。

基礎控除について、さらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

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3.基礎控除引き上げで、155万円の壁、211万円の壁はどうなる?

働いている人には「103万円の壁」「130万円の壁」があるように、年金生活者にも、「155万円の壁」「211万円の壁」があります。

ただ、基礎控除額を75万円引き上げても、残念ながら、年金受給者の壁は変わりません

そもそも、働く人の「103万円の壁」「130万円の壁」と、年金生活者の「155万円の壁」「211万円の壁」では意味合いが異なるからです。

年金生活者の「155万円の壁」「211万円の壁」は、住民税非課税となる基準(ライン)を示しています。
65歳以上で独身の方の場合は、年間の年金収入155万円以下で住民税非課税になります。
扶養している配偶者がいる方の場合は、年間の年金収入211万円以下で住民税非課税になります。

ちなみに、年金収入の金額で書きましたが、実際には、「公的年金控除」を引いた後の「雑所得」で判定します。

65歳以上の方の住民税非課税の基準
  雑所得 年金収入
独身の方 45万円 155万円
扶養している配偶者がいる方 101万円 211万円

参考までに、繰り上げ受給をした60歳~64歳の方は、「公的年金控除」の金額が少なく、このようになります。

60歳~64歳の方の住民税非課税の基準
  雑所得 年金収入
独身の方 45万円 105万円
扶養している配偶者がいる方 101万円 161万円

▷基礎控除は住民税非課税の基準には影響しない

さきほども説明しましたが、「基礎控除」は「所得控除」の一種です(図の一番右側の青い部分)。
基礎控除の金額を引き上げても、「雑所得」の金額には影響しません。ということは、住民税非課税の基準も変わりません

年金 雑所得

ちなみに、国民民主党は「基礎控除等の合計を103万円から178万円に引き上げます」と主張していますが、「基礎控除額を75万円引き上げます」とは言っていませんので、もしかすると、年金生活者が関連するほかの控除の金額も変更するかもしれません。

4.基礎控除の引き上げで年金はどうなる?

基礎控除を75万円引き上げると、国と地方で7.6兆円の税収減となると、政府が発表しました。税収が減ると、社会保障費等の財源の確保が大変になります。

もしかしたら、年金受給額も減らされるのでは?と心配になるかもしれませんね。
ただ、その心配は不要です。

年金は、税金ではなく、現役世代の年金保険料と、積立金の取り崩しで賄われています。国民年金は2分の1の国庫負担(2024年時点で11兆円程度)がありますが、保険料収入41兆円と比較すると、4分の1程度です。

また、過去からずっと積み立ててきた年金積立金が2024年時点で250兆円を超えています。年間の年金支払額は約52兆円ですから、約5倍も積み上がっていることになります。全世界の株式・債権の好調により、この積立金は今もなお増えています。

そういう意味では、国の財政が厳しくなったとしても、年金受給額が減らされることはありません。

現役世代の税金負担が減って、どんどんお金を使うようになり、経済が活性化して現役世代の給料が増えれば、保険料収入もますます増えますので、年金財政もさらにうるおいます。

基礎控除引き上げの影響は、こちらの記事もご覧ください。

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服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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