株取引などの投資で得た所得の年末調整はどうする?

「年末調整」とは、会社員や公務員の収入を会社や地方自治体が計算し、所得税の金額を確定させる手続きです。

では、会社員や公務員が「株取引」を行っている場合、「年末調整」にその収益を含める必要があるのでしょうか。

今回は、株の収益についての年末調整手続きについて、わかりやすく紹介します。

1.株の利益は会社に申告しなくていい

株取引などの投資で得た所得(利益)には、次のように課税されます(主なものだけ掲載)。

  • 株式の売買で得た利益(譲渡益) → 譲渡所得
  • 株式の配当金 → 配当所得
  • 投資信託の分配金 → 配当所得
  • 公社債投資信託の分配金 → 利子所得
  • FXの決済で得た利益 → 雑所得

これらの所得(利益)については、会社に申告する必要はありません。つまり、「年末調整」に含める必要はありません。

年末調整に含めることができない」と言ったほうが正しいです。なぜなら、会社や地方自治体が行なう「年末調整」は、「給与所得」のみが計算されるからです。

これらの所得については「確定申告」で自分で税務署に申告します。

2.株の利益には確定申告

株の利益(所得)にかかる課税方式は、上場株式と非上場株式で方式が異なります。ここでは、上場株式の課税方式を説明します。

(1)上場株式等の株の利益や配当には「総合課税」と「申告分離課税」がある

株取引で得る利益にかかる「譲渡益課税」、株の配当にかかる「配当課税」には、課税方法が「申告分離課税」と「総合課税」の二種類があります。

申告分離課税」とは、他の所得と合算せずに分離して所得税を計算する方法です。「申告分離課税」を選んでいる場合で、1ヶ所からの給与しかない人は「年末調整」で所得税の金額が確定しているため「確定申告をしない」という選択をすることができます。

一方、「総合課税」とは、給与所得や事業所得等の他の所得と合算して所得税の計算を行なう方法です。

(2)株の利益や配当金を「申告分離課税」にするには

上場株式等の株取引や配当がある人で、確定申告をしたくない人は「申告分離課税」を選択することができます。

「申告分離課税」を選択するには、株を管理している証券会社の口座を「特定口座」にして、「源泉徴収あり口座」にします。

「申告分離課税」を選択した場合には、株で利益が出た場(株の売却金額がその株の取得価額よりも多かった場合)や配当があった場合に、その利益の20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が自動的に差し引かれます。

その都度利益の金額に課税が行われるため、その利益については確定申告で申告納税が必要ありません。

(3)株の利益や配当金が「総合課税」になる場合

ただし、上場株式等を「特定口座(源泉徴収あり)」にしていない場合は、株取引で得た利益や配当について確定申告が必要になります。

この場合は、年末調整で計算された給与所得やその他の所得と合算して所得税の計算を行ないます。

(4)「総合課税」と「申告分離課税」はどちらの方が、税金が安くなる?

「特定口座(源泉徴収あり)」を選択し、「申告分離課税」を選択している場合は、株取引や配当の額から一律20.315%が控除されます。一方、「総合課税」では、他の所得と合算して所得税の計算を行います。

では、どちらの方の税金が安くなるのでしょうか?

実は、どちらの税金が安くなるかどうかは、他の所得の金額や配当金の金額(配当控除)によって異なるため、「どちらがお得」になるかは一概には言うことはできません。

「申告分離課税の所得が全て配当金」の場合を見ていきましょう。

一般的には、その配当金の所得を含め、各種の控除を差し引いた後の課税所得が695万円以下の場合は「総合課税」を選択するほうが、税金が安くなります。給与に換算すると、だいたい約1065万円(介護保険なし、扶養家族なし、基礎控除・保険料控除のみの場合)です。

「申告分離課税の所得が全て株の譲渡益」の場合は、その譲渡益を含め、各種の控除を差し引いた後の課税所得が330万円以下の場合には「総合課税」を選択したほうが、税金が安くなります。給与に換算すると、だいたい約645万円(上記同様)です。

つまり、株の譲渡所得や配当所得を含めた所得が330万円以下の場合は「総合課税」695万円以上の場合は「分離課税」を選択したほうが、税金が安くなります。

330万円~695万円の間の所得の場合は、どちらがお得になるか検討する必要があります。

(5)「申告分離課税」を選んでいても「確定申告」することはできる

「総合課税」と「申告分離課税」は、他の所得によってどちらがお得になるか異なります。しかし、前もって1年間の所得を計算することは不可能です。

上場株式等の証券口座に「特定口座(源泉徴収あり)」を選択している場合は、「申告分離課税」にすることができます。また、「特定口座(源泉徴収あり)」を選択している場合でも、確定申告をすることにより「総合課税」にすることができます。

ご自分の所得が分からない場合は、初めから「特定口座(源泉徴収あり)」を選択することをおすすめします。

3.「特定口座(源泉徴収あり)」を選択していなくても株の確定申告をしなくていいケース

上場株式等の証券会社の口座を「特定口座(源泉徴収あり)」にしていない場合(普通口座)、原則「確定申告が必要」になります。

しかし、普通口座で株の取引をして利益を得ている場合でも確定申告をしなくていいケースがあります。

詳細はこちらの記事でご確認ください。

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4.株の取引にはどんな税金がかかる?

株の取引、株の配当には「所得税」と「住民税」がかかります。上場株式等の証券口座を「普通口座」にしている場合、通常、「総合課税」に該当するため確定申告が必要です。

株 税率

確定申告では、株の取引による利益は「株式等の譲渡所得等」に該当し、配当は「配当所得」に該当します。所得税の税率は、累進課税になっています。総合課税の住民税については、他の所得と合計した所得に10%が課税されます。

上場株式等の証券口座を「特定口座(源泉徴収あり)」にしている場合は「申告分離課税」になり、株の取引については利益部分と配当額に20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が課税され、差し引かれた金額が証券口座に入金になります。

「申告分離課税」を選択している場合であっても、確定申告をすることで「総合課税」にすることができます。他の給与所得や事業所得が少ない場合は、確定申告することで自動的に差し引かれた税金の還付を受けることができます。

5.新NISAの非課税枠について

ここまでご紹介したとおり、株の取引による利益や配当には所得税及び住民税が課税されます。しかし、新NISAの非課税枠を活用することで税金を非課税にすることができます。

(1)新NISA口座とは?

NISA(ニーサ・Nippon Individual Savings Account)とは、個人投資家のための税制優遇制度のことです。2024年に制度が改正され、非課税枠が拡大され、年数も無期限となりました。

毎年最大360万円(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)までの非課税投資額が設定されており、この非課税投資枠の中での株式の譲渡益や配当金には税金がかかりません。

また、非課税となる保有限度額は合計1,800万円です。途中で売買しても、この枠内であれば、投資額の利益が非課税になります。

期間に制限はありません。

(2)新NISAのデメリットは?

新NISAでの株の運用は利益を得た時はメリットになりますが、損失が出た場合はデメリットになります。

新NISAの非課税枠内で利益を得ることができた場合は、その利益は非課税になりますが、もし利益が出なかった場合は新NISAの税制優遇のメリットを受けることができません。また、通常、株の取引で損失が出た場合は確定申告をすることで、他の証券口座で利益が出ているものと損益通算することができますが、新NISAで株の取引をしている場合は「損益通算」することができません。

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まとめ

株の取引で得た利益は年末調整に含めることはできません。

原則的に確定申告で「総合課税」により、他の所得と合算して所得税の計算が行われます。しかし、上場株式等を「特定口座(源泉徴収あり)」で運用することにより「申告分離課税」にすることができます。

「申告分離課税」を選択することにより、確定申告をする必要がない場合があります。「総合課税」で確定申告をした方がいいのか、それとも「申告分離課税」で確定申告をしない方がお得なのか、よく検討する必要があります。

配当金についても、「配当所得」という分類で課税されることがあります。こちらの記事を是非ご参照ください。

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服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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