確定拠出年金の概要とメリット&デメリット、「iDeCo」スタート
2016年5月24日の改正確定拠出年金法成立以降、確定拠出年金に注目が集まっています。2017年1月から…[続きを読む]
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積立NISAとは、少額でも積立投資、分散投資ができるように2018年から新たに導入される積立投資制度です。
現行のNISA制度(少額投資非課税制度)の「長期積立バージョン」ともいえ、2018年1月1日から買付開始(受付開始は2017年10月1日から)となります。
非課税投資枠の年間投資上限額は40万円で、非課税保有期間は最長20年間です。そのため、投資可能期間は2018年から2037年までの20年となります。
現行NISA同様、積立NISAも制度が恒久化されているわけではありませんので、現在のところ、投資期間のエンドが設定されています。定期的かつ継続的な方法で買付けを行うことが求められます。
日本では、家計の金融資産が平均約1,800兆円あるといわれていますが、そのうち約52%(900兆円)が現預金です。
この傾向は以前からほとんど変わっていません。欧米と比べても、家計の金融資産における現預金の比率は高いといえます。「貯蓄から投資へ」というフレーズを耳にすることはありますが、そのとおりにはなっていないのが現状です。
この現状を変えるべく、2014年4月から税制優遇措置のある現行のNISA制度が開始されました。NISAの口座開設数は2016年末で1,000万口座を超え、また累積投資額も9兆円を超えるなど、NISAは家計の資産形成に一定の役割を果たしています。
ただし、NISAについては非稼働口座(一度も買付けが行われていない口座)が全体の50%超となっています。つまり、多くの人が「ハコだけ作って、運用はしていない」のです。
また、口座開設者を年齢別に見ると、50歳以上、60歳以上、70歳以上が多く、若い世代の口座開設は進んでいません。積立方式によるNISA口座の利用も全体の1割以下にとどまっており、少額からの積立投資はまだ十分に浸透していないといえます。
これらを踏まえると、今後、家計の資産形成を促進していくためには、次のような課題があることがわかります。
こうした課題を解決し、少額からの積立・分散投資による家計の安定的な資産形成を支援する制度として、今回積立NISAが導入されることになりました。
現行NISAと積立NISAの違いをまとめると、次の表のようになります。
NISA | 積立NISA | |
---|---|---|
対象者 | 20歳以上の居住者等 | 20歳以上の居住者等 |
年間の投資上限額 | 120万円 | 40万円 |
投資対象となる金融商品 | 上場株式および公募株式投資信託 (外国株・ETF・REIT含む) |
所定の要件を満たす 公募株式投資信託およびETF |
投資期間 | 2023年まで | 2018年から2037年まで |
非課税期間 | 5年(ロールオーバーは可能) | 20年 |
払い出し制限 | なし | なし |
積立NISAの最も重要なポイントは、年間の投資上限額が、現行NISAの120万円から40万円へと1/3になる代わりに、非課税期間が現行NISAの5年の4倍の20年とかなり長くなることです。つまり、毎月少額でも、長期間に渡って積立投資ができるようになっています。
なお、現行のNISAでは5年の非課税期間が終了したのち、ロールオーバーができるようになっていますが、積立NISAは最初から投資期間=非課税期間=20年となっていますので、ロールオーバーの概念はありません。
そして、投資対象となる金融商品についても、現行NISAより範囲が狭くなり、厳しい基準が課されています。これについては後述します。
現行NISAと積立NISAは、選択して使うことが可能です。もちろん、同じ年に両方の制度を使うことはできませんが、例えば1年ごとに現行NISAと積立NISAを切り替えて使うといったことも可能です。手元の余裕資金の額が毎年変動するような場合は、使い分けるのも一案でしょう。
積立NISAの投資商品は、所定の要件を満たす公募株式投資信託かETF(上場投資信託)に限られます。そのため、上場株式や公社債投資信託は対象外です。
このうち、公募株式投資信託については、特に厳しい基準が定められています。
これは、「2-3.家計の資産形成の促進に向けた課題」のうちの「金融機関が、これまで顧客本位(真に顧客の利益になる)の商品・サービスを提供してこなかった」ことを重く見て、投資初心者でも安心して商品を購入できるよう、フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営に関する原則)に沿った商品のみを投資対象としたからです。
そのため、これまで隆盛を誇った「毎月分配型投資信託」は投資対象商品に入っていません。
このフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営に関する原則)という言葉は、2017年に入り金融庁が取り上げ、急速に注目されてきました。
金融庁は各金融機関(銀行や証券会社に限らず、保険会社や保険代理店なども含みます)に対し採択することを求めており、さらに、採択する場合は、「顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針」を策定・公表した上で、「当該方針に係る取組状況を定期的に公表するとともに、当該方針を定期的に見直す」ことも求めています。
金融庁の2017年8月1日の発表によれば、2017年6月30日時点で計469の金融事業者が本原則を採択し、取組方針を公表しています。
それでは、投資対象商品の要件について詳しく見てみましょう。
公募株式投資信託は、指定インデックス投資信託(いわゆるインデックス投信)と、指定インデックス投資信託以外の投資信託(いわゆるアクティブ投信)に分けられます。
指定インデックス投資信託の主な要件は、次のとおりです。
インデックス投信については、厳しい要件が課されていることがわかります。
指定インデックス投資信託以外の投資信託の主な要件は、次のとおりです。
アクティブ投信については、インデックス投信よりさらに、非常に厳しい要件が課されていることがわかります。
ETF(上場投資信託)の主な要件は、次のとおりです。
ETFについても、アクティブ投信、インデックス投信同様、厳しい要件が課されていることがわかります。
上記のように投資対象商品に厳しい要件が課されているため、公募株式投資信託については、現在のところ(2017年8月13日時点)、積立NISAの投資対象商品となりうるものは約50本程度しかないといわれています。
金融機関にとっても、商品提供によるメリット(儲け)は薄いのが現状であるため、一部の金融機関からは不満の声も上がっており、そのことは金融庁も認識しています。今後の各金融機関の積立NISAに対するスタンスがどうなるか注目されます。
ではここからは、積立NISAのメリットとデメリットを見てみましょう。
積立NISAのメリットは、何といっても投資期間(非課税期間)が長いことです。このため、「毎月○万円」といった形で、積立式でドル・コスト平均法を活用して投資していくことにより、リスクを抑えながら長期投資・分散投資の効果を享受することができます。
合計の非課税枠は800万円(40万円×20年間)と、現行NISAの600万円(120万円×5)より大きい点も魅力です。
また、「5-3-3.投資対象となる商品数」で触れているとおり、投資対象商品数は少ないですが、これは、裏返せば「金融庁が、フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営に関する原則)に則った、つまり「顧客の最善の利益の追求」を主眼に置いた(例えば、信託報酬や販売手数料が不当に高くないなど)商品を用意してくれている」ということもできます。この点も、投資初心者が積立NISAを始める上では安心といえます。
通常の投資信託を選ぶ場合は、現在ある5,000本以上の投資信託の中から自分に合う商品を自分で探すことになり、信託報酬が不当に高い商品を誤って購入してしまう可能性があるなど、投資初心者にとってはハードルが高いといえます。しかしながら、積立NISAの場合はその心配がほとんどないといえるでしょう。
また、引き出しが自由なため、運用した資金の使途に制限がないこともメリットといえます。
積立NISAのデメリットは、毎年の投資上限額が40万円と小さいため、資産を大きく増やすことを考えている人にとっては物足りなく、それだけでは資産運用を完結するのが難しい点です。
また、投資対象商品が公募株式投資信託とETFに限られているため、自分のポートフォリオ全体でリスク許容度を調整する場合は、そのことを考慮する必要があります。資産運用についてある程度の知識がある人にとっても、運用する「ハコ」としては、積立NISAは物足りないといえるかもしれません。
積立NISAを開始する場合は、まず証券会社や銀行など金融機関に申し込みましょう。前述のとおり、受付開始は2017年10月1日からとなります。
積立NISAは、同じく税制優遇があるiDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金の愛称)とよく比較されます。
iDeCo(イデコ)のポイントは、次のとおりです。
加入者の属性(今後の運用可能年数)にもよりますが、一般的にiDeCo(イデコ)は、積立NISAよりも非課税枠の総額が大きいです。しかしながらiDeCo(イデコ)の最大のネックは60歳になるまで資金を引き出せないことで、この点に十分注意する必要があります。
積立NISA、現行のNISA、iDeCo(イデコ)は、目的に応じて使い分けるのが良いでしょう。例えば、ライフプランにおいて必要となる各資金については、
といった使い方が考えられます。
一例として、30歳の結婚直後の夫婦の場合で考えてみましょう。
住宅取得資金については、5年後をめどに頭金を作る目的で現行のNISAで積極運用して準備します。
子どもが生まれたら、教育資金については、子どもの想定進路も勘案し、費用が発生するタイミングをにらみながら積立NISAを活用して準備します。
そして老後資金については、運用期間が約30年と長いiDeCo(イデコ)を活用してゆっくり準備します。
このような感じで、積立NISA、現行のNISA、iDeCo(イデコ)を目的に応じて使い分けるのがよいでしょう。
ただし、住宅取得資金については、他に住宅財形も選択肢に挙げられます。教育資金についても、他に児童手当や自動積立定期も使うことが考えられます。老後資金については、生命保険の個人年金保険などを併用することも選択肢となるでしょう。
積立NISA、現行のNISA、iDeCo(イデコ)のいずれにもメリット、デメリットがありますので、それらをよく理解しておく必要があります。
ただし、無理に3制度すべてを利用する必要はありません。「お金を貯める(増やす)目的」、「将来必要となるお金の額」、「運用期間」、「リスク許容度」を総合的に勘案した上で、あくまでも自分のライフプランの必要に応じて利用しましょう。
積立NISAは、家計の安定的な資産形成の実現に向け、国が本腰を入れて取り組む制度です。特に、これまで投資に縁がない若い人にとっては、投資を始めるきっかけとして最適といえます。
今後、そういった投資初心者が金融リテラシーを高めていくために、さまざまな施策も行われるでしょう。積立NISAに興味がある人は、制度内容とメリット、デメリットを理解した上で、まずは余裕資金の範囲内で始めてみるとよいでしょう。