世界の消費税率と軽減税率の比較

グローバル 世界

日本では、2019年10月に、消費税の増税に伴い軽減税率が導入されました。
テイクアウトと外食で税率が異なるなど、会計時に混乱が生じるのではと心配されましたが、想像したほどのトラブルは起きませんでした。

しかし、海外では、何種類もの軽減税率がある国があり、混乱を招いている軽減税率制度もたくさんあります。

今回は、世界の消費税率と軽減税率の一覧と、かなり特徴的な軽減税率の制度について紹介します。

1.海外の標準税率と軽減税率の比較

日本を含めた世界各国の標準税率と、食料品の軽減税率を、標準税率が高い順に一覧表でまとめました。

国名 標準税率
(%)
軽減税率
(%)
(食料品)
ハンガリー 27 18
クロアチア 25 5
スウェーデン 25 12
デンマーク 25 25
ノルウェー 25 15
アイスランド 24 11
ギリシャ 24 13
フィンランド 24 14
アイルランド 23 0
ポルトガル 23 6
イタリア 22 10
スロベニア 22 9.5
ポーランド 22 5
オランダ 21 9
スペイン 21 10
チェコ 21 15
ベルギー 21 6
ラトビア 21 21
リトアニア 21 21
英国 20 0
エストニア 20 20
オーストリア 20 10
スロバキア 20 10
フランス 20 5.5
ブルガリア 20 20
コロンビア 19 5
チリ 19 19
キプロス 19 5
ドイツ 19 7
ルーマニア 19 9
トルコ 18 1
マルタ 18 0
イスラエル 17 0
ルクセンブルク 17 0
メキシコ 16 0
ニュージーランド 15 15
中国 13 9
カナダ 13 0
コスタリカ 13 1
フィリピン 12 非課税
インドネシア 11 11
韓国 10 非課税
カンボジア 10 非課税
ベトナム 10 5
日本 10 8
オーストラリア 10 非課税
シンガポール 8 8
スイス 7.7 2.5
タイ 7 非課税
ラオス 7 非課税
台湾 5 非課税

一覧表のように国ごとに税率は異なっており、さまざまな特徴が見られます。

例えば、EU加盟国は標準税率を15%以上と定められています。そのため、EU加盟国では全て15%以上の標準税率となっています。

標準税率が高い国でも、食料品の軽減税率が低い国や、非課税の国もあります。

ただし、すべての食料品が軽減税率であるわけではなく、国が指定した、原材料や食品、あるいは国産品のみ軽減税率である国も多いです。

2.消費税の種類

日本で「消費税」と呼ばれているものに似たものとして、世界にはいくつかの種類があります。

(1)付加価値税(VAT)、物品サービス税(GST)

日本で導入されている消費税は「付加価値税」と呼ばれる税制の一種で、商品やサービスの購買時に課せられる税金です。多くの国では、付加価値税(VAT:Value Added Tax)が導入されています。

国によっては、物品サービス税(GST:Goods & Services Tax)と呼ばれるものもありますが、付加価値税(VAT)とほぼ同じ内容です

「付加価値税」はその名の通り、事業者が生み出した「付加価値」に対して税金が課せられます。つまり、事業者は、物品・サービスの販売で受け取った消費税から、仕入で支払った消費税を引いた差額を納税します。

事業者は、付加価値税の分を価格に上乗せして販売しますので、実質的な負担者は消費者となります。

ただし、消費税は幅広く購入者が負担するという特徴があり、小売店へ商品を流通させる卸業者へも課せられています。そのため、メーカーから消費者へ届く間に卸業者が多いほど、同じ商品でも販売価格が消費税分上乗せされるというリスクがあります。

つまり、消費者にとっても業者にとっても負担が重くなり、わずかな税率のアップでも影響が大きい制度となっています。

(2)売上税

消費税に似た税金として「売上税(Sales Tax)」があります。消費税との違いは、消費税が、中間事業者を含めて、すべての購入者に対して幅広く課せられるのに対して、売上税では、特定の購入者のみが負担することです。

アメリカなどで導入されている売上税は、「小売売上税」とも呼ばれ、最終消費者だけが支払う税金です。つまり、卸業者が製品を入荷する際には売上税がかからないため、卸業者が複数になっても税金による商品価格の値上がりが起きません。

3.海外の軽減税率制度

(1)イギリス

イギリスの軽減税率制度では、生活必需品の税率が5%あるいは0%になります。
家庭用の燃料や電力、介護用品などが5%の対象となり、書籍や食品などの生活に必要な日用品やサービスは0%の対象になっています。

一方で、イギリスの軽減税率制度では食品に対する区分が細かいことが問題視されています。例えば、同じお菓子でもビスケットやマシュマロは非課税となりますが、チョコレートやアイスクリームは贅沢品として20%の消費税が課されます。

この区分の違いについては「ポテチ裁判」という争いが有名です。この裁判は、ポテトチップスは贅沢品として標準の税率がかかることが発端となっています。訴えたメーカーは、自社で販売しているポテトチップスには、原料であるじゃがいもは50%以下しか使用されていないため、税率0%のビスケットであると主張したのです。

結果は、高い税率を逃れるための裁判だとみなされ、ビスケットではなくポテトチップスであると裁判所が判断しました。この判決により、当初のポテトチップスと同じ税率が課されるようになりました。

また、テイクアウトとイートインでは税率が変わるのですが、提供方法以外にも温度を基準に税率が分けられるという考え方があります。そのため、室温以上に温めた飲食物はテイクアウトでもイートインと同じ税率になるのです。

イギリスの軽減税率制度は細かいところまで決められていますが、決めすぎたために事業者が混乱する事態を招いています。

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(2)ドイツ

ドイツの軽減税率ではテイクアウトかイートインかが1つのポイントになっており、テイクアウトなら7%、イートインなら19%の課税が行われています。ただし、嗜好品や贅沢品は軽減税率の対象外となるため注意が必要です。

例えば、ソーセージとパン、卵を購入した際には食品であるため軽減税率が適用されています。しかし、飲み物であるミネラルウォーターを購入した際には、このミネラルウォーターには贅沢品として軽減税率は適用されないのです。

また、料理をテイクアウトした場合も同様で、ミネラルウォーターをテイクアウトする場合にも軽減税率は適用されません。つまり、嗜好品や贅沢品に当てはまるかどうかがドイツの軽減税率では重要になり、どのように区分けを行うかが現在でも議論の中心になっています。

(3)フランス

フランスの軽減税率では、同じ食品のジャンルでも税率の区分が異なっているのが特徴です。
それでは、どのように異なっているのかその違いを一覧表で考えてみましょう。

標準税率(20%) 軽減税率(5.5%)
キャビア フォアグラ、トリュフ
マーガリン バター
ミルクチョコレート
(カカオ50%未満のチョコレート)
ブラックチョコレート
(カカオ50%以上のチョコレート)

税率の違いは産業の形態によって異なっています。
例えば、キャビアは輸入品が種であるため標準税率、フォアグラとトリュフは国内で生産されているため軽減税率となっています。

また、バターは酪農家が生産し、マーガリンは工場によって生産されています。つまり、国内の畜産業を守るためにバターは軽減税率によって保護されています。
チョコレートはカカオの含有率で分けることで、消費者が自由に選び購入できるようにしています。

このようにフランスの軽減税率は国内産業を保護したり、一律にかけず選択肢の幅を増やしたりすることを目的として税率が決められています。そのため、一見理解しにくいようですが、実は理にかなった制度になっているといえます。

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(4)アメリカ

先に触れたように、アメリカでは「小売売上税」が導入されています。ただ、アメリカの小売売上税で注意が必要なのは、州や都市ごとに独自の税制を定めていることです。アメリカは国土が広く、州ごとに法律を定める権利を持っていますので、税率や軽減税率の内容も異なっています。小売売上税がない州もあります。

例えば、ロサンゼルス州のサンタモニカ市では9.5%、カリフォルニア州では7.5%など、州や市ごとに税率が異なっています。さらに、カットされたベーグルは課税対象だがテイクアウトすれば非課税など、州ごとにさまざまな軽減税率制度が定められています。
旅行時に複数の州で買い物をする際には、同じ買い物をしても高額な税率が課される州や都市もありますので注意が必要です。

また、アメリカでは季節や時間によって、軽減税率が適用されることがあります。新学期が始まる時期は衣料品が非課税に、朝だけコーヒーが非課税になるなど、1日単位で変わるものもあります。

さらに、食品に手間をかけているかどうかも税率が変わるポイントになります。例のようにベーグルをカットするかそのまま渡すかでも、贅沢品かどうかの重要な線引となるのです。

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(5)カナダ

カナダの税制度には連邦付加価値税と州売上税、統一売上税などがあり、同じ国内であっても税制度が異なっています。これらの税金は納める相手が異なっており、国と州にそれぞれ収めなくてはいけません。そのため、1つの製品やサービスに2つの税金が課せられる状況になっているのです。

カナダの軽減税率で有名なのは、ドーナツの個数による問題です。カナダではドーナツを購入する際に5個以内であれば標準課税、6個以上になると非課税となります。これは、5個以内であれば店内で食べられるとみなされ「外食」と扱われるからです。

私たちからすると区分の意味が分かりませんが、カナダではドーナツが非常に愛されており、多くの国民が日々食しています。つまり、その地域の食文化などを背景に軽減税率が決められています。

(6)中国

中国では「増値税」と呼ばれる消費税に近いものが課税されており、13%、9%、6%、0%の4段階に分かれています。

日本では誰もが自由に領収書を発行できますが、中国では税務局の管理下にある「発票」というものを領収書として発行します。事業者は、税務局が印刷した「発票」を購入し、販売時に消費者に発票を発行しますが、この際に増値税が発生します。

発票が発行されるとその金額や内訳の詳細が国に記録され、税金の徴収漏れがなくなりますので国にとっては大きなメリットです。

納税を嫌がる事業者は、販売時に「発票」を発行しないこともあります。一般消費者では問題ありませんが、事業者の場合は、発票がないと仕入として控除することができませんので、購買時には必ず発票を発行してもらう必要があります。

発票の発行は取引ごとに行われるため、中間業者が多くなると結果的に二重三重の課税が行われることがあります。そこで、国内企業には取りすぎた増値税を還付する制度が設けられています。

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(7)韓国

日本の隣国である韓国は、日本とよく似た標準税率となっています。ただし、韓国では軽減税率が導入されており、未加工の食料品や教育、医療に必要なものは全て非課税です。

実際に、軽減税率が導入された際にも会計処理がスムーズに行われたこともあり、区分が大きく行われていることから国民の理解も得やすかったといわれています。

まとめ

世界の特徴的な国の軽減税率制度は、紹介したように国ごとに様々な区分けが行われていいます。これは、その国の歴史的な背景や習慣に基づいて区分されているため、自国以外の人には特殊に見えてしまうことがあります。

軽減税率を導入している国の中には、現在でもある商品が軽減税率に当てはまるかどうかが争われているところもあります。

これらの海外の複雑な軽減税率制度と比較すると、日本の軽減税率制度はまだシンプルな制度といえるかもしれません。

しかし、日本も財政的に厳しい状況にあり、将来、消費税のさらなる増税とともに、軽減税率も複雑になる可能性がありますので、世界各国の制度をよく見ておくと良いでしょう。

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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