フランスの消費税と軽減税率、免税手続き方法
2019年10月に消費税率が10%へと引き上げられ、同時に軽減税率が導入される日本。食料品や新聞などは8%のまま据え置かれますが、たとえば外食は軽減税率の対象から除外されます。
「では、外食の定義は?」といった素朴な疑問をはじめ、他国の消費税はどうなっているのだろうと関心が高まるところです。
この点、参考になるのが「消費税の母国」と呼ばれるフランス。1968年に世界で先駆けて消費税を導入し50年もの長い歴史を持ちますが、今や何種類もの軽減税率が入り乱れ、煩わしいと評されているのも事実です。ここでは、そんなフランスの消費税の現状をご紹介し、併せて、フランスへの旅行を計画中の方に役立つ免税手続きをご案内します。
目次
1.フランスの消費税(付加価値税)とは
フランスでは、消費税を付加価値税と呼びます(VAT、フランス語では、Le taxe sur la valeur ajoutee:TVA)。
ほとんどの商品やサービスは標準税率に分類され20%の税率が課せられますが、食品やレストランのサービスなどは軽減税率に該当します。さらに軽減税率は、対象によって、10%、5.5%、2.1%と細分化されています。
付加価値税は、基本的にはすべて内税なので、価格は税込価格で表示されます。そのため買物時にはあまり税額を意識しないかもしれませんが、ネット通販などでは外税価格で記載されている場合もあります。
(TTCの表示があれば内税価格、HTの表示があれば外税価格。)
税率 | 適用品目 |
---|---|
10% | ・食料調理品または農業生産品のための未加工の農水産物 ・レストランでの食事 ・即時消費のための調理済食品、ケータリング(酒類を除く) ・ホテル、キャンプ場などでの宿泊 ・旅客運送 ・動物園や博物館などの入場料 など |
5.5% | ・水、非酒飲料、食品(菓子、チョコレート、マーガリン、キャビアを除く) ・書籍 ・演劇やコンサート料金、映画館入場料 など |
2.1% | ・演劇やコンサートの初演(140回目まで) ・一部の医薬品 ・雑誌や新聞 など |
非課税 | ・医療 ・学校教育 ・印紙や郵便切手 ・ロト、競馬、スポーツくじ など |
2.フランス国民も混乱しがちな軽減税率
実はフランスの軽減税率は日本で導入される軽減税率より遥かに複雑です。
2-1.わかりづらい軽減税率の例
上の表で示した税率区分や事例はフランス政府のWEBにも掲載されていますが、例外が多いうえ、税率自体頻繁に変更されるため、混乱が多いといわれます。特に分かりづらいと指摘されることが多い例を6つご紹介します。
(1)食料品
食品の税率は基本的に5.5%ですが、10%や20%の適用になる例外もあります。パンを例にとってみると、パン屋でのフランスパンは5.5%であるのに対し、サンドイッチは10%です。
また同じサンドイッチでも、別の場所で作られ売店で販売されていれば5.5%ですが、自家製の場合は10%、セットメニューでアルコールと組み合わせ提供されると20%です。
(2)外食
レストランなどの飲食店で提供される飲食には、10%の税率が適用されます。しかし店内で食べずテイクアウトする場合は、食品の販売として税率5.5%の対象になります。
(3)飲料
アルコール以外の通常の飲料の場合、基本的にすぐに消費するなら税率は10%ですが、持って帰り後で飲むと5.5%になります。したがって、レストランでの飲料水に対しては10%課税されます。
また、飲料水の容器によっても税率は異なります。瓶や缶、紙パックなら5.5%、コップやプラスチックの場合は10%です。
(4)チョコレート
チョコレートは従来贅沢品とみなされており、ミルクチョコやホワイトチョコは20%の標準税率ですが、家庭での製菓材料であるブラックチョコレートは生活必需品として5.5%の軽減税率が適用されます。
庶民が一般的に購入する、カカオ含有率50%未満の板チョコや、スーパーに並ぶチョコレート菓子なども5.5%です。
(5)乳製品
バターの税率が5.5%であるのに対し、マーガリンは20%です。酪農大国フランスでは、国内畜産業を保護する観点からバターには軽減税率を適用し、工業製品のマーガリンと差別化を図ることが目的といわれます。
(6)世界三大珍味
フォアグラとトリュフの税率は5.5%であるのに対し、キャビアは20%です。国内のフォアグラ・トリュフ産業を保護するため適用を異にしています。
2-2.複雑な軽減税率の問題点
このように複雑な軽減税率にはフランス国民でさえも戸惑いがちで、下記の問題点が指摘されています。
- 対象になる食料品の線引きが難しく、どの税率に該当するかの判断も煩雑。
- 店内飲食かテイクアウトかをめぐって、税務当局とトラブルが多発。
- 食料品に限らず、各方面から軽減税率追加要請が相次ぐため、政治力により税率が左右されて公平さに疑問。
3.フランスへの旅行者の免税手続き
もっとも、日本人旅行者がフランスで買物をして日本へ持ち帰る場合、原則として付加価値税は課税されません。
なぜなら「消費税=消費される場所で発生する税」との定義上、EU圏内で買ったものを消費する場所がEU圏外(たとえば日本)なら、課税対象から外れるからです。
このため日本人がフランスで条件を満たす買物をした場合、付加価値税は免除され、出国する際に免税手続きを受けることができます。買物をしてフランスを出国するまでの流れは次のとおりです。
3-1.買物時の手続き
(1)1日1ショップで総額175ユーロ以上の買物をすると、免税の対象となります。デパートの場合は建物全体を1ショップとみなすので、各テナントで購入した総額をもって判断されます。ただし食品や一部書物は、免税対象外です。
(2)一般の路面店などでは、パスポート(写しでも可の場合が大半)を提示し、免税書類を作成してもらいます。デパートでは、専門のサービスカウンターに、各テナントの購入レシートと商品をすべて持っていけば、免税書類を作成してもらえます。免税店では既に免税された金額で販売されているので、その後の手続きは不要です。
免税手続きを頼むときのフランス語は、「Detaxe s’il vous plait (デタックス スィル ヴ プレ)」です。
(3)店から免税手続き用紙と免税専用封筒を受け取ります。重要なのは、免税手続きが完了するまで商品未使用であることです。タグやチケットがないと、免税手続き時に商品の現物チェックを受けた際、既に使用したと判断され免税対象外になってしまうので気をつけましょう。
3-2.空港での手続き
(4)免税手続き用紙、免税専用封筒、パスポート、帰国の航空券(又はEチケット、 搭乗手続きを行った後は搭乗券)、購入した商品(現物チェックが行われることがあるため)が必要です。
(5)シャルル・ド・ゴール空港(CDG空港)での免税申請方法は次の2通りです。
- ① VAT還付ターミナルの端末機PABLO(日本語での説明あり)を使う方法
- ② 窓口で係員に書類を提示する方法
① 対応しているのはPABLOマークのある免税用紙のみですが、大手デパートの免税手続き用紙のほとんどは対応可能です。免税が認められると、緑の画面で「認証済み免税証」と表示されます。認証後もレシート、スタンプなどの印字は表示されず、画面のみでの確認となります。前もってPABLOの説明ビデオを参照しておくと安心でしょう。
【参考サイト】Bornes de détaxe Pablo
② フライト発着が重なる時間帯は、長蛇の行列となることがあります。搭乗時刻まで十分な余裕をみて空港に到着するようおすすめします。免税手続き用紙、パスポート、帰国の航空券-Eチケットを係員に提示し、求められたら購入した商品を提示します。係員が免税手続き用紙に免税印スタンプを押して返却してくれます。
(6)免税申請後、払い戻しの手続きを行います。クレジットカードでの払い戻しを希望する場合は、免税手続き用紙の原本1枚目を免税用封筒に入れて郵便ポストに投函します。現金を希望する場合は、免税手続き用紙を空港内の両替所「Travelex」に提出すると、払い戻しが受けられます。返金はユーロであることと、店側に払った税額から手数料が引かれた金額となることに注意しましょう。
まとめ
フランスの消費税は日本より20年以上古い歴史を持ちますが、政治的圧力なども絡み、国民にとって真に使いやすい税とはいえないのが現状です。
日本でもこれから軽減税率の具体的検討が進みますが、フランスの複雑な税率は反面教師としても参考になりそうです。