現在では、60歳以降で定年になっても再雇用や再就職で働くのが当たり前の時代です。65歳以降も、働いている人がたちが3…[続きを読む]
在職老齢年金の62万円引き上げはいつから?年金カットはいくらに?
政府は、働きながら年金をもらう人が年金カットされる(在職老齢年金の)基準額50万円を、62万円または71万円に引き上げることを検討しています。
在職老齢年金の引き上げはいつから? 年金カットの金額はいくらになるのか? などを、わかっている範囲でわかりやすく説明します。
目次
1.在職老齢年金とは?
「在職老齢年金」とは、60歳以降、働きながら年金をもらう人の、年金の一部または全部がカットされる(支給停止される)仕組みです。
現状、年金の月額(老齢厚生年金の報酬比例部分)と月給(※)の合計が50万円を超えた場合に、超えた分の2分の1の金額が年金からカットされます。
※正確には、社会保険の標準報酬月額と、賞与を合計して12で割って足した、「総報酬月額相当額」です。
ここでいう「年金の月額」とは、老齢厚生年金の報酬比例部分のことだけであり、老齢基礎年金は含みません。
また、カットされる年金は老齢厚生年金だけであり、老齢基礎年金はカットされません。
たとえば、年金月額(老齢厚生年金の報酬比例部分)が10万円、月給が45万円の場合には、次のようになります。
年金カット金額:(10万円+45万円-50万円)/2=2.5万円
もらえる年金の金額:10万円-2.5万円=7.5万円
もらえる年金の金額:10万円-2.5万円=7.5万円
カットされる年金額が、年金月額以上になると、全額カットされます。
「在職老齢年金」制度の詳細はこちらをご覧ください。
2.在職老齢年金の引き上げで、年金カットの金額はいくらになる?
2024年11月25日に実施された、第21回社会保障審議会(年金部会)において、在職老齢年金の制度を見直す次の3つの案が検討されました。
- ①年金カット(支給停止)の基準額を62万円に引き上げ
- ②年金カット(支給停止)の基準額を71万円に引き上げ
- ③年金カット(支給停止)を廃止
まだ検討段階ですが、①案の62万円に引き上げられる可能性が高いと思われます。
ここでは、①②案のように年金カットの基準額が引き上げられた場合、年金カットの金額がいくらになるかを早見表で紹介します。
(1)基準額を62万円に引き上げ
在職老齢年金の基準額を62万円に引き上げたとき、年金カットされる金額の早見表です。
(緑色の箇所はカットなし、赤色の箇所は全額カット)
62万円の根拠
50歳代の平均的な給料(ボーナス含む賃金月額49.1万円)に、2022年~2024年の名目賃金変動率を反映すると、52万円になります。これに、厚生年金加入期間25年以上の人の報酬比例部分の年金額9.7万円(賃金変動を反映済み)をプラスすると、約62万円となります。
(2)基準額を71万円に引き上げ
在職老齢年金の基準額を71万円に引き上げたとき、年金カットされる金額の早見表です。
71万円の根拠
勤続年数25年以上の平均的な給料(ボーナス含む賃金月額58.3万円)に、2022年~2024年の名目賃金変動率を反映すると、61.7万円になります。これに、厚生年金加入期間25年以上の人の報酬比例部分の年金額9.7万円(賃金変動を反映済み)をプラスすると、約71万円となります。
3.在職老齢年金の引き上げの目的は?
在職老齢年金の引き上げの目的は、「働き損」を解消して、高齢者の就労を促し、人手不足の解消につなげることです。
65歳以降で働きながら年金をもらっている人は、2022年時点で308万人いますが、このうち16%の約50万人が、年金カット(支給停止)されています。
支給停止額は4,500億円です。
年金カット(支給停止)の基準額を62万円に引き上げると、対象者は約30万人まで減り、支給停止額は約2900億円となります。
年金カット(支給停止)の基準額を71万円に引き上げると、対象者は約23万人まで減り、支給停止額は約1600億円となります。
4.在職老齢年金の引き上げは意味があるの?
筆者の意見ですが、「高齢者の就労を促す」という目的を達しようとするならば、在職老齢年金の引き上げや撤廃はあまり影響がないと考えます。
なぜなら、現在、年金カット(支給停止)の対象になっているのは、月給がおおよそ40万円以上、年収換算で約480万円以上の人です。これは、平均年収(約460万円)よりも高い金額です。
65歳以降で、現役世代より高い給料をもらって働き続ける人は、それなりのスキルや技能がある人であり、知的労働を中心とするホワイトワーカーでしょう。体力が衰えても、頭が回るかぎりは、今後も高収入が見込めます。
このような人たちからすると、月給に対する厚生年金の年金額(10万円~20万円程度)は、お小遣い程度に過ぎません。実際のところ、現状でも、働きたい人は年金カットを気にせずに働いているのではないでしょうか。65歳以降も働く理由は、生活の資金を得るためというよりも、生きがいや、人生の充実のほうが大きいでしょう。
そのため、在職老齢年金の基準を引き上げたとしても、働く高齢者が増えるとは考えにくいです。
一方で、「不公平感をなくす」という意味においては、在職老齢年金の引き上げは意味があると考えます。
高収入を得るということは、過去から努力し、そして今もなお、努力し続けているからこその結果です。そのような人たちは、過去の収入もそれなりに高く、平均よりも多くの厚生年金保険料を払ってきたはずです。にもかかわらず、年金をカットするということは、不公平感があります。ある意味、努力して働く人に対する罰則のようなものといえます。
在職老齢年金の基準額をあげる、または廃止すれば、不公平感はなくなるでしょう。
5.在職老齢年金の引き上げは、ここ数年で3回行われている
1954年(昭和29年)に厚生年金の仕組みを全面改正したときの考え方としては、厚生年金は退職した人に支給されるものであり、働いている(在職している)人には支給されないものでした。
1965年(昭和40年)の改正で、65歳以上の働きながら年金をもらう人に対して8割が支給される「在職老齢年金」の制度ができました。その後、支給割合が変更されたり、60歳代前半にも対象が拡大さえるなど、何度も改正を繰り返してきました。
ここ数年では、3回、引き上げが行われています。
- 2022年4月から:60~64歳の基準額を28万円→47万円に引き上げ(65歳以上と同額に)
- 2023年4月から:基準額を47万円→48万円に引き上げ(全年齢)
- 2024年4月から:基準額を48万円→50万円に引き上げ(全年齢)
今回の、基準の引き上げの議論は、この延長ともいえます。
今までは、1, 2万円程度、少しずつ引き上げられましたが、今回は、50万円→62万円、または50万円→71万円と大幅に引き上げる検討がされています。
金額の根拠はすでに紹介しましたが、現役世代(50歳代)並みの給料を得て働いても、年金がカットされないようにするのが目的です。