扶養控除はなくなるの?廃止はいつから?どんな影響がある?

ニュースで「扶養控除が縮小される」「扶養控除がなくなるかも」という報道がされています。

物価高騰に伴い教育費も増加する中で、扶養控除の廃止は、子供を育てる世帯にとって負担増加となり「子育て罰」という言葉さえとびかっています。

本当に扶養控除がなくなるのか? いつから廃止されるのか? 扶養控除がなくなったらどんな影響があるのか? 今、わかっていることを解説します。

1.扶養控除とは?

扶養控除とは、家族を扶養している人の税金の負担を軽くする制度です。

扶養控除の適用を受けると、所得税と住民税の金額を大きく減らすことができます

(1)どのくらい控除される?

扶養控除で控除される金額は、扶養家族の年齢によって異なります。また、所得税と住民税でも金額が異なります。

扶養親族の年齢 扶養親族の区分 所得税の控除額 住民税の控除額
0~15歳以下 年少扶養親族 0円 0円
16~18歳以下 一般扶養親族 38万円 33万円
19~22歳以下 特定扶養親族 63万円 45万円
23~69歳以下 一般扶養親族 38万円 33万円
70歳以上(同居) 老人扶養親族
(同居老親等)
58万円 45万円
70歳以上(その他) 老人扶養親族
(その他)
48万円 38万円

0~15歳以下の子供については、かつては、扶養控除の対象でしたが、2011年1月から廃止されました。

2010年から、月額1万円~1万5千円の「児童手当(子ども手当)」が支給されるようになったからです。

どのくらい減税されるの?

ところで、上記の金額がそのまま減税されるわけではありません。

所得税(住民税)では、扶養控除や医療費控除など、いろいろな控除を適用した後に、税率をかけて計算しますので、減税額は年収(所得)によって異なります。

たとえば、年収600万円で16歳の子供1人を扶養している場合、所得税と住民税を合わせて、だいたい7万円くらい減税されると考えてよいでしょう。

2.高校生(16~18歳)の扶養控除が縮小されるかも

扶養控除の廃止については、政府内で議論はされていますが、まだ方向性が固まっているわけではなく、具体的な時期も見えてきていません。

そんな中、2023年12月5日の報道によれば、政府は、高校生(16~18歳)の扶養控除を一律で縮小することを検討しているようです。

16~18歳の扶養控除について、所得税が38万円→25万円に、住民税が33万円→12万円に引き下げられます

扶養控除はいつから縮小される

今後、詳細を検討し、2024年度税制改正大綱に盛り込む予定ですので、早ければ、2024年から、16~18歳の扶養控除が縮小されるかもしれません。

3.児童手当(子ども手当)を高校生にも支給

扶養控除を単純に縮小または廃止したら、それはまさに増税です。そんなことをしたら、子育て世帯はますます生活が苦しくなります。

そこで、政府は、現在、15歳以下の子どもに支給されている児童手当(子ども手当)を、高校生(16~18歳)にも支給することを検討しており、早ければ、2024年中に開始されます。

(1)子供の年齢と児童手当の金額

子供の年齢によって児童手当(子ども手当)の金額は異なります。現在、児童手当をもらえるのは中学生までですが、今後、高校生までもらえるようになる予定です。

  現在 2024年改正案
0~2歳 15,000円 15,000円(※)
3歳~小学生 10,000円
第3子以降15,000円
10,000円(※)
中学生 10,000円 10,000円(※)
高校生 なし 10,000円(※)
  所得制限あり  所得制限なし

※第3子以降30,000円

第3子以降は、現在は小学生まで15,000円ですが、改正案では、高校生まで30,000円になります。

また、現在は、所得制限があり、所得が高い人は支給額を減らされるか、またはもらえません。改正案では、所得制限が撤廃され、高所得者も児童手当(子ども手当)をもらえるようになります。

高校生だけが対象?

よく「高校生に児童手当を支給」と報道されていますが、高校生だけが対象ではなく、16~18歳の子供が対象です。ちょうど、その年齢の子供が高校生であるケースがほとんどであるため、わかりやすく、そういう表現がされているのでしょう。

高校に通っておらず、専門学校生や社会人であっても、親と生計が同じで扶養されている状態にあれば、児童手当が支給されます。ただ、子どもが働いていて自分で生計を立てていれば、支給されません。

4.扶養控除縮小で損をする?得をする?

扶養控除が縮小されて、児童手当(子ども手当)を支給されたら、損をするのか得をするのか、どちらになるのかシミュレーションしてみましょう。

(1)16~18歳の扶養控除を縮小した場合

仮に次の条件で、扶養控除を受けたときと受けないときで税金がどれだけ変わるかを、年収別にシミュレーションしてみます。

  • 社会保険:協会けんぽ加入(東京)、介護保険あり
  • 労働保険:一般の事業
  • 配偶者あり(配偶者控除なし)
  • 子供1人(16歳)
  • 現在の扶養控除額:所得税38万円、住民税33万円
  • 縮小後の扶養控除額:所得税25万円、住民税12万円

こちらが、今の扶養控除金額での所得税と住民税の合計と、扶養控除が縮小された後の所得税と住民税の合計の比較です。

年収 今の扶養控除
での税金
扶養控除縮小
された時の税金
差額
300万円 111,400円 135,000円 23,600円
400万円 200,300円 224,000円 23,700円
500万円 303,700円 336,900円 33,200円
600万円 430,300円 464,600円 34,300円
700万円 565,800円 606,300円 40,500円
800万円 801,200円 848,700円 47,500円
900万円 1,073,400円 1,121,000円 47,600円
1000万円 1,358,600円 1,406,100円 47,500円
1100万円 1,639,300円 1,686,800円 47,500円
1200万円 1,955,200円 2,066,800円 51,600円
1500万円 3,039,700円 3,104,500円 64,800円

扶養控除が縮小されると、年収が低い場合でも、税金が2万円以上アップします。年収が高い場合には、税金が6万円以上アップします。

(2)児童手当(子ども手当)をもらった場合

子ども1人当りの児童手当(子ども手当)の金額は、

  • 0~2歳:15,000円
  • 3~18歳:10,000円

です(第3子は増額)。

16~18歳の子どもがいる場合、10,000円×12ヶ月=120,000円です。

(3)損をする?得をする?

扶養控除が縮小されることによる増税分と、児童手当が支給されることによる収入増加分を比較してみました。

年収 扶養控除縮小
による増税分
児童手当の
増加分
いくら
得か?
300万円 23,600円 120,000円 96,400円
400万円 23,700円 96,300円
500万円 33,200円 86,800円
600万円 34,300円 85,700円
700万円 40,500円 79,500円
800万円 47,500円 72,500円
900万円 47,600円 72,400円
1000万円 47,500円 72,500円
1100万円 51,600円 72,500円
1200万円 51,500円 68,400円
1500万円 64,800円 55,200円

どの年収でも、扶養控除を縮小されても児童手当をもらえば、現在よりも手取り額が増えて得をするようになります。

5.扶養控除と児童手当(子ども手当)はどちらがお得?

そのうち、扶養控除が廃止される可能性もあります。そこで、現在の扶養控除がある場合と、扶養控除が廃止されて児童手当が支給される場合、どちらがお得かをシミュレーションしてみました。

(1)16~18歳の扶養控除を廃止した場合

扶養控除を受けたときと受けないときで税金がどれだけ変わるかを、年収別にシミュレーションしてみます。

  • 社会保険:協会けんぽ加入(東京)、介護保険あり
  • 労働保険:一般の事業
  • 配偶者あり(配偶者控除なし)
  • 子供1人(16歳)
年収 扶養控除なし
のときの税金
扶養控除あり
のときの税金
差額
300万円 166,300円 111,400円 54,900円
400万円 255,200円 200,300円 54,900円
500万円 374,500円 303,700円 70,800円
600万円 502,100円 430,300円 71,800円
700万円 669,300円 565,800円 109,300円
800万円 911,800円 801,200円 110,600円
900万円 1,184,000円 1,073,400円 110,600円
1000万円 1,469,200円 1,358,600円 110,600円
1100万円 1,756,400円 1,639,300円 117,100円
1200万円 2,077,500円 1,955,200円 122,300円
1500万円 3,200,800円 3,039,700円 161,100円

扶養控除を受けられないと、年収が低い場合でも、税金が5万円以上アップします。年収が高い場合には、税金が16万円以上もアップします。

(2)どちらがお得?

16~18歳の児童手当(子ども手当)は、すでに計算したとおり、親の年収(所得)に関係なく一律で支給される予定で、10,000円×12ヶ月=120,000円です。

年収1100万円以下であれば、児童手当のほうが年間の金額が多いため、児童手当のほうがお得です。

年収1200万円以上だと、児童手当のほうが年間の金額が少ないため、損になります。

年収 扶養控除廃止
による増税分
児童手当の
増加分
いくら
お得か
300万円 54,900円 120,000円 65,100円
400万円 54,900円 65,100円
500万円 70,800円 49,200円
600万円 71,800円 49,200円
700万円 109,300円 10,700円
800万円 110,600円 9,400円
900万円 110,600円 9,400円
1000万円 110,600円 9,400円
1100万円 117,100円 2,900円
1200万円 122,300円 -2,300円
1500万円 161,100円 -41,100円

6.なぜ扶養控除を廃止(縮小)するの?

高所得者でないかぎり、扶養控除を廃止しても児童手当を支給すれば、お得になります。ただ、お得になる金額は多くても数万円程度で、そこまで高い金額ではありません。

それでは、なぜ、わざわざ扶養控除を廃止(または縮小)して、代わりに、児童手当を支給するのでしょうか?

ここからは、筆者の予想ですが、考えられる理由をあげてみます。

(1)低所得者の支援

扶養控除の所得税の控除額は38万円ですが、その恩恵を受けるには、ある程度の年収(所得)が必要です。低所得者層では、扶養者控除などの各種の控除を受けると所得が48万円以下になってしまい、所得税がかからなくなるケースもあります。その場合、扶養控除の恩恵をフルに受けることができません。

一方、児童手当であれば、一定金額が支給されますので、低所得者の方も恩恵を受けることができます。

(2)児童手当を支給したほうが国民の受けがいいかも

会社員の方は、会社の年末調整で扶養控除を受けますが、計算や申告は会社が行いますので、いくら税金が減税されているのか、わかりにくいです。

一方、児童手当は、毎月、一定の金額が口座に振り込まれますので、もらっていることが明確です。

目に見えるお金を支給したほうが国民の受けがいいだろう、と政府は考えているのでしょう。

(3)児童手当のほうが運営が簡単

扶養控除は所得税や住民税に関わる内容です。扶養控除の金額を変更したり、対象者を変更したりすると、いろいろな箇所の実務に影響します。

社員の給与計算をしている会社は、変更内容を給与システムに反映しなければなりません。また、e-Taxなど国税庁で利用されている納税システムも改修が必要ですし、住民税の計算をしている自治体も対応が必要です。税制の変更というのは、各所に大きな影響をもたらします。

一方、児童手当は、自治体が一定金額を個人の口座に振り込みますので、会社や税務署が関係することはありません。金額も一律で決まっていますのでミスも起こりにくいです。

政府としては、扶養控除を廃止して、児童手当を支給したほうが、今後、金額や対象者を変えたりと、何かと運営がしやすいのでしょう。2

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を1000本以上、執筆・監修。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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