インボイス制度はひどい制度? 個人事業主へのデメリットとは?

インボイス制度はひどい制度?

1.インボイス制度はひどい制度? 個人事業主いじめ?

「個人事業主いじめ」だと話題になることも多いインボイス制度ですが、個人事業主に対してどのようなデメリットがあるのでしょうか。

ポイントとしては次の3点があげられます。

  • 取引相手からインボイスを受け取らないと消費税の仕入税額控除(売上時に受け取った消費税から仕入時に支払った消費税を差し引くこと)を原則受けられなくなる
  • インボイスを発行するためには登録事業者になる必要がある
  • 登録事業者になるためには消費税の課税事業者になる必要がある

仕入税額控除が利用できなければ、課税事業者の利益は目減りしてしまいます。

課税事業者が今後も仕入税額控除を利用するためには、

  • インボイスを発行できる課税事業者と取引する
  • インボイスを発行できない免税事業者とはできるだけ取引しない

という選択が必要になります。

そうなると困るのは免税事業者です。インボイス制度の導入によって、

  • 取引先から課税事業者になって貰えないかと打診を受ける
  • 今までの取引先から取引を停止される
  • 仕入税額控除が利用できないことをふまえて値下げを要求される

などの影響が考えられます。

こうしたことから、「インボイス制度はひどい制度」「個人事業主いじめだ」という意見が出てくるわけですね。

2.個人事業主が課税事業者になるとどうなる?

前章で「インボイスの登録事業者になるためには消費税の課税事業者になる必要がある」とお伝えしました。

消費税には、

2年前の売上が1,000万円以下の場合、その年は消費税の申告と納付を行う必要がない(申告と納付を免除される)

というルールがあります。

個人事業主の多くは、このルールがあるおかげでこれまで消費税の申告と納付を行う必要がありませんでした。

この点、インボイスを発行する場合は消費税の課税事業者になる必要があるため、2年前の売上が1,000万円以下であっても消費税の申告と納付を行う義務が生じてしまいます。

インボイス制度は、特にこれまで消費税の申告と納付を免除されていた個人事業主にとっては、

  • 「消費税の申告」と「インボイスの発行」という新たな事務負担
  • 「消費税の納付」という金銭的な負担

がダブルでのしかかってくることから、負担の重い制度だといえます(ただし、この負担を軽減するための各種特別措置が用意されているため、これらの特別措置を使えば負担は大幅に軽減されます)。

3.インボイス制度の影響が大きい業種は?

インボイス制度の影響が大きい業種は、いわゆる「B to B」の業種です。

顧客が企業(ほとんどの場合は消費税の課税事業者)の場合、顧客に対してインボイスを発行できないと、顧客側が消費税の仕入税額控除(売上時に受け取った消費税から仕入時に支払った消費税を差し引くことです)をすることができなくなるため、インボイスを発行できる事業者と比べると価格競争力が弱くなってしまいます。

B to Bの職種として、たとえば企業向けサービスを提供しているエンジニア、ライター、イラストレーターなどが挙げられます。

4.インボイス制度が与える影響はどのくらい大きい?

ここでは、企業向けの翻訳サービスを提供しているフリーランス翻訳家のAさんがインボイスを発行できるかどうかで、Aさんの顧客であるB社(売上高10億円)にどういった影響が生じるかを見てみましょう。

ある年において、

  • AさんはB社から翻訳料110万円(税抜100万円、消費税額10万円)を受け取った
  • B社は顧客であるC社から手数料11億円(税抜10億円、消費税額1億円)を受け取る取引のみを行った

とします(単純化のため源泉徴収および消費税の経過措置は考慮しません)。

Aさんがインボイスを発行できる場合

Aさんがインボイスを発行できる場合、B社はAさんに支払った翻訳料にかかる消費税額10万円をC社から受け取った消費税額1億円から差し引くことができます。

結果、B社が納付する消費税額は1億円から10万円を引いた9,990万円となります。

Aさんがインボイスを発行できない場合

一方、Aさんがインボイスを発行できない場合、B社はAさんに支払った翻訳料にかかる消費税額10万円をC社から受け取った消費税額から差し引くことができません。

その結果、B社が納付する消費税額は1億円となります。

Aさんが免税事業者であればB社の利益が減る

以上のように、自身がインボイスを発行できない場合は、顧客(AさんからみたB社)が影響を受けること、具体的にいうと顧客が納付する消費税額が増えることに留意する必要があります。

また、B社にとっても、インボイスを発行できない免税事業者との取引については下請法や独占禁止法の観点から多くの注意喚起がなされていることから、これらの法令に従って取引を検討するという労力が生じます。

5.インボイス制度開始後も課税事業者登録しないのはアリ?

学習塾、美容室、八百屋のようないわゆる「B to C」の業種の場合、インボイスを必要とする事業者が顧客となる機会はかなり限定的だと思われます。

こうした業種を営む個人事業主の場合は、あえてインボイスを発行できるようにする必要性は薄いため、免税事業者のままでいたほうが手間の観点からも税負担の観点からもよいでしょう。

6.まとめ

インボイス制度はひどい制度?

インボイス制度の導入で、BtoBの免税事業者には次のようなリスクが発生します。このため、インボイス制度のことをひどい制度だとする意見もあります。

  • 取引を停止されて仕事を失う可能性がある
  • 値引きを要求される可能性がある
  • 経理や申告が複雑になる

個人事業主が課税事業者になるとどうなる?

インボイスを発行するには、課税事業者になる必要があります。今まで免税事業者だった事業者が課税事業者になる場合、次のような負担が新たに発生します。

  • 「消費税の申告」と「インボイスの発行」という新たな事務負担
  • 「消費税の納付」という金銭的な負担
服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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