相続・贈与があったら年末調整・確定申告は必要なの?

相続 事業承継

相続したり贈与を受けたりして、財産をたくさん受け取ったら、年末調整や確定申告は必要なのでしょうか? 配偶者が親から財産をもらったら、配偶者控除はどうなるのでしょうか?

実は、相続・贈与と年末調整・確定申告はまったく関係ありません。ただし、相続した、または贈与を受けた後に、財産を売却した場合には、所得税がかかることもありますので、注意が必要です。また、自分ではなく、被相続人の確定申告(準確定申告)が必要なこともあります。

相続・贈与後の年末調整や確定申告についてポイントを解説します。

1.相続でかかるのは相続税、年末調整・確定申告は所得税のこと

年末調整や確定申告は所得税にかかわる話です。所得(収入)があったとき、年末調整や確定申告をします。「所得」というのは、働いたり、株式で儲けたりするなど、自分の身内ではなく外部からお金を得ることです。

一方、相続で財産をたくさん受け取った場合、かかるのは相続税です。「相続」は、親や配偶者などの身内から財産を受け継ぐことであり、所得(収入)ではありません。そのため、相続しても、年末調整・確定申告は必要ありません

また、配偶者が相続しても、扶養を外れることはありません。相続財産は所得(収入)ではないからです。配偶者の所得が48万円(収入が103万円)以下であれば、相続とは関係なく、配偶者控除を受けることができます。

2.贈与でかかるのは贈与税

被相続人が生きているうちに、本人から直接、財産をもらうことを「贈与」といいますが、贈与を受けた場合にかかるのは贈与税です。贈与税には110万円の基礎控除額がありますので、110万円を超える贈与を受けたときに贈与税がかかります。

贈与は誰かから一方的にもらうものであり所得ではありませんので、所得税・住民税はかかりません。贈与を受けても、年末調整・確定申告は必要ありません

3.相続税・贈与税を、年末調整・確定申告で控除することはできない

相続財産が一定金額(3000万円+600万円×法定相続人の数)以上あると、相続税がかかります。不動産しか財産がない場合などは、相続税は現金で払いますので、現金を捻出しなければなりません。

相続した人からすると、その年は大幅な出費となり、家計は赤字になりますので、「年末調整や確定申告で控除できるかも?」と思うかもしれません。

残念ながら、払った相続税を年末調整や確定申告で控除することはできません。相続税と所得税はまったく別の税金であり、どちらかを払ったからといって、もう片方で経費にすることはできないのです。

贈与税についても同様です。贈与税をいくら払ったとしても、その払った贈与税を年末調整や確定申告で控除することはできません。

4.相続財産を売却したら所得税がかかることがある

相続財産のうち、土地・建物・株式などを売却して、利益が発生すると、譲渡所得として所得税がかかります

所得税がかかるかどうかは、取得費がいくらであったか、つまり、被相続人が当初いくらで購入したかで決まります。

たとえば、被相続人が若い頃に1,000万円で購入した自宅を、相続後、1億円で売却した場合は、9,000万円の利益が発生したとして、所得税がかかります。これは、「譲渡所得」と呼ばれ、給与所得とは別の方法で計算します。年末調整をすることはできず、確定申告をします

(1)譲渡所得の計算方法

譲渡所得の計算方法は、やや複雑ですが、ここでは概要だけあげておきます。

譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

取得費は当初の購入費用ですが、不明な場合は、収入金額の5%とします。

譲渡費用は、不動産売却であれば、仲介手数料、広告費用、契約書の印紙代などです。

特別控除額には、いろいろな種類がありますが、もっともよく利用されるのは、自宅を売却した場合の3,000万円の控除です。

譲渡所得を計算したら、税率をかけますが、その財産の所有期間によって税率が違います。

  • 長期譲渡所得(譲渡した年の1月1日現在で所有期間5年超):所得税15%、住民税5%
  • 短期譲渡所得(譲渡した年の1月1日現在で所有期間5年以下):所得税30%、住民税9%

所有期間は、被相続人が所有していた期間を引き継ぎますので、相続財産であれば、通常は、長期譲渡所得になることが多いです。

譲渡所得は「分離課税」といって、給与所得などとは別に計算して、上記の税率で課税されます。

譲渡所得の確定申告の詳細はこちらをご覧ください。

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(2)払った相続税の一部を考慮して、所得税を減らせる

相続税と所得税は関係ないと、さきほど述べましたが、実は、ひとつだけ特例があります。

相続開始から3年以内に相続財産を売却した場合、払った相続税の一部を、取得費に加算することができます。つまり、譲渡に係る所得税を減らすことができます。

これを「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」といいます。

計算はやや複雑なため、詳しくは、姉妹サイトのこちらの記事をご覧ください。

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5.被相続人の準確定申告が必要なことがある

相続しても、自分自身の年末調整・確定申告は必要ありませんが、被相続人の準確定申告が必要なことがあります。

準確定申告とは、被相続人(亡くなった方)の収入に対する確定申告のことです。被相続人に一定以上の収入があれば確定申告が必要ですが、本人は亡くなっていますので、相続人が代わりに行います。

ポイントは、期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。通常の確定申告の期限は3月15日ですが、これとは異なります。それ以外は、やり方は、通常の確定申告とほぼ同じです。条件に該当すれば、医療費控除、寄付金控除なども受けることができます。

被相続人の準確定申告が必要になるのは、以下のようなケースです。

給与所得者 ・死亡した年の給与による収入が2,000万円を超えた場合
・給与所得、退職所得以外の所得金額が20万円を超えた場合
・複数の会社から給与をもらっていた場合
公的年金等
の受給者
・公的年金等による収入が400万円を超えた場合
・公的年金による雑所得以外の所得金額が20万円を超えた場合
自営業者 ・所得が38万円を超えた場合

準確定申告について詳しくは、姉妹サイトのこちらの記事をご覧ください。

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服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を1000本以上、執筆・監修。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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