インボイス制度、個人事業主の本名をネットで公開!
インボイス制度では、個人事業主の本名がネットで公開されています。当初は、本名の全名簿リストをダウンロード可能でしたが、個人情報保護の観点からやめて欲しいという要望が多かったため、リストのダウンロードはできなくなりました。
本名公開について、経緯とともに詳細を紹介していきます。
目次
1.適格請求書発行事業者公表サイト(インボイス登録事業者を公表)
国税庁が、インボイス登録事業者を公開するサイトを作っています。
【外部サイト】適格請求書発行事業者公表サイト
「適格請求書発行事業者」とありますが、これは、インボイス制度に登録していて、インボイスを発行できる事業者のことです。請求書に記載されている番号をもとに、インボイス登録事業者かどうかを確認するために利用するものです。
検索機能
登録番号を検索して、ヒットしたら、適格請求書発行事業者に該当しますので、消費税を控除できます。ヒットしなければ、適格請求書発行事業者に該当しませんので、消費税を控除できません。
登録番号というのは、アルファベットのTで始まる、13桁の番号です。個人事業主には独自の番号がつけられます。法人は、基本的には、法人番号です。
検索ボタンを押してヒットすると、個人事業主の場合は、氏名または名称、つまり、本名が表示されます。法人の場合は、会社名、住所が表示されます。
WEB-API機能
検索とは別に、WEB-API機能があります。インボイス発行事業者の情報を、手動ではなく、システム的に自動で取得できます。調べたい番号が大量にあるときに便利です。
当初は、個人事業主の全員のリストをダウンロードできた!
ところで、当初、問題になったのが、公表情報ダウンロードというものです。
インボイス発行事業者として登録している、全員の情報をダウンロードできました。CSV形式とは、カンマ記号で区切られた形式で、Excelで開けます。ファイルは、法人と個人にわかれていますが、クリックするとファイルをダウンロードできます。
こちらは、登録した個人事業主のリストです。
登録番号は、T+13桁の番号です。登録日は、一律で2023年10月1日になっています。更新日というのが、実際に登録した日です。個人事業主の場合、住所と屋号は、希望した場合にだけ公開されますが、氏名は全員公開されていました。氏名というのは本名です。個人名が丸見え状態だったのです。
本名ではなく、屋号で公開できないのか?
「本名ではなく、屋号で公開できないの?」という質問がありますが、回答が国税庁のQ&Aに掲載されています。
まず、本名は必須です。
屋号は、あくまでも、本人の申し出にもとづき追加で公表できる情報です。
本名の代わりに、住民票に併記されている、外国人の通称や、旧姓を公表することは可能です。いずれにしても、本名は必ず公開されてしまいます。
なんでこんなものが公開されているかというと、消費税法という法律に定められているからです。第57条の2 第4項に「政令で定めるところにより、登録簿に登載された事項を速やかに公表しなければならない」と記載されています。
【外部サイト】昭和六十三年法律第百八号 消費税法
政令で定めるところというのは、消費税法施行令です。「氏名または名称、登録番号、法人の場合は、本店または主たる事務所の所在地」と記載されています。
【外部サイト】昭和六十三年政令第三百六十号 消費税法施行令
2.個人名公開の懸念点
個人名が公開されてしまうことの懸念点を紹介します。
(1)本名がバレる
ペンネーム、芸名、源氏名などで仕事をしている、フリーランス・個人事業主は、本名がバレる可能性が大きいです。漫画家・作家・アーティスト・芸人・風俗関係などの職業が該当するでしょう。
公開されている情報は氏名だけですので、すぐにバレるというわけではありませんが、請求書を受け取った人は本名がわかりますので、何かの拍子に本名を誰かに伝えてしまえば、バレてしまうでしょう。
それなりの有名人の場合、本名がバレると、生活や家族に影響が及ぶかもしれません。
インボイス制度では、請求書にこのような登録番号が記載されますが、この登録番号で検索すれば、本名がわかります。本名を第三者に伝えないことを約束してもらうなど、取引先と特殊な秘密保持契約が必要になるかもしれませんね。
(2)副業がバレる
会社に内緒で副業をやっている人は、副業がバレる可能性があります。
会社の人事部は、このリストと従業員名簿を、照らし合わせるかもしれません。公開されている情報は氏名だけですので、同姓同名の可能性もありますが、疑いの目は向けられるかもしれませんね。
【画像引用】パーソル総合研究所:副業に関する調査結果(企業編)
ちなみに、副業に関する調査結果によると、2021年時点で、45%の会社が、まだ副業を全面的に禁止しています。対策としては、副業をやめるか、インボイス登録せずに、収入が下がるのを我慢するしかないですね。いずれにしても、副業がやりづらくなります。
(3)営業や勧誘に利用される
国税庁が、事業をしている個人の名簿を、無料で公開しているようなものです。名簿業者もビックリですね。営業や勧誘に利用される可能性は大きいです。
既にもっている個人名簿と、公表サイトからダウンロードした個人名簿をかけあわせれば、事業者だけを抽出して、営業・勧誘ができてしまいます。
3.個人事業主の本名リスト公開は中止された!
個人事業主の本名リスト公開をやめて欲しいという要望が各方面からあがっていましたが、2022年9月22日、赤松健議員と山田太郎議員が、国税庁に申し入れをしました。
その結果、翌日、突然、本名のリスト公開が中止されました。
それから約1ヶ月後に、個人事業主の本名は表示されない状態で、再び、番号リストだけダウンロード可能になりました(法人は以前と同様に、会社名や住所が記載されたリストをダウンロードできます)。
国会議員からの要望とはいえ、たった1回、申し入れをしただけで、中止するとは、逆に驚きでもあります。そんなに簡単に中止できるのであれば、なぜもっと早く中止しなかったのか? なぜこのタイミングで突然中止したのか? 疑問が残るところです。
それに、すでにダウンロードされてしまった個人事業主の本名リストは回収できませんので、早めに登録していた人の名前は、名簿業者などにわたった可能性も高いです。
インボイス制度は、このように、突然、何かが変更されるということが起こりそうですので、今後も目を離せない状況です。