「年金は追納しないと損?」満額貰うための条件と方法を解説

老人夫婦

老後の生活を設計するうえで「年金はあてにならない」「資産運用をしなくては」とお考えの方が多いと思います。ただし、年金制度についていえば、いくつかの簡単なポイントを押さえておくことで将来の受給額を上げていくことが可能です。

この記事では、年金受給額を引き上げるために知っておきたい年金の仕組みの基礎知識や満額支給のためにとるべき手段について分かり易く解説していきます。

1.老後資金の基盤となる国民年金

「老後資金2,000万円」問題は、相変わらず話題として盛り上がるトピックスですが、そもそも論として、日本では老後資金の基盤は個人資産ではなく年金です。

つまり、日本人が老後生活を設計するにあたり、最初に知るべきは、「自分のライフプランによると65歳からの年金受給額はいくらになるのか?」です

それにもかかわらず、自分のライフプランと照らし合わせて、将来貰える年金額をきちんと把握している人はかなり少ないのが現状です。

「年金定期便は取り敢えず見ています…」という人が多いと思いますが、年金定期便は、50歳以上の方について、『今の年金保険料の水準がそのまま60歳まで続いた場合に65歳から貰える年金額を記したもの』に過ぎません。50代になると、多くの人が給料は頭打ちになります。銀行員などはむしろ下降する人も多くなります。また、早期退職をしてフリーランスになり国民年金に代わると、年金定期便の情報は全く当てにならなくなり、年金予定額はガラッと変わります。

そして、もっと重要なことで知って欲しいことは、かなりの人が国民年金を満額受給出来る条件を満たしていないので、自分の判断で今から国民年金の受給額を上げることが出来るということです。

次章から、国見年金制度で貰える年金額を把握する際に、何がポイントになるのか整理していきましょう。

2.国民年金を満額貰うためには?

2-1.年金を受給するには最低10年の加入が必要

会社員や公務員以外の人、主に自営業者やフリーランス、大学生の方々が支払っている国民年金保険料は、65歳になると受給出来る年金のうち、「老齢基礎年金」を受給するためのものです。

サラリーマンや公務員で職場の厚生年金(共済年金)に加入している人は、その厚生年金の保険料を支払うことで、国民年金にも加入していることになります。ですから、サラリーマンや公務員は、65歳になったら、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2つの種類の年金を受給することになります。

まず理解しておくべきは、年金を受給するためには、国民年金でも厚生年金でもどの年金制度でも構いませんが、最低でも10年間の加入期間が必要であるということです。その上で年金保険料の支払額と支払い期間に応じて年金額が決まるのです。

2-2.老齢基礎年金を満額受給するための条件

では、国民年金保険料を原資とする老齢基礎年金の受給条件を知りましょう。

2021年度において、国民年金保険料を原資とする老齢基礎年金の満額は、年間780,900円です。

そして満額を受け取るためには以下の二つが必要になります。

  • 原則として20歳から40歳まで40年間の国民年金加入期間
  • 定められた年金保険料を満額納めること(2021年度においては16,610円)

しかしながら、実際には老齢基礎年金を満額受け取っている人はかなり少ないのが現状です。

「えっ、私はもっと貰っているけど…」という人がいると思いますが、それは、サラリーマンや公務員として加入していた老齢厚生年金分を合算した合計額だからです。老齢基礎年金とそれに付加される老齢厚生年金では、年金支給額の算定ロジックは全く別になっています。

老齢厚生年金は給料に比例して多くなるので、基本的に年金受給額を自分で管理できるものではありません。けれども、老齢基礎年金は、40年間分きちんと国民年金保険料を支払うことで満額を貰えるので、その意味では、自分で受給額を管理できるのです。(具体的に3で説明します)

3.国民年金(老歴基礎年金)を満額貰えない原因

多くの人は、老齢厚生年金と老齢基礎年金を合算した年金合計額だけに注目をしているので、老齢基礎年金が満額ではないことに気が付かない人が多いようです。

では、なぜ老齢基礎年金を満額貰えない人が多いのでしょうか? 主な原因は以下の3つです。

  • 保険料の未納期間や免除期間がある
  • 大学時代の年金保険料を追納しなかった
  • 厚生年金等と国民年金の加入期間合計が10年に満たない人

それぞれ確認していきましょう。

3-1.保険料の未納期間や免除期間がある

未納の場合には、加入期間にカウントされませんので、当然年金額が減ります。

また、収入が少ない等の理由で市区町村で手続きをして、国民年金保険料を免除されて最終的に追納(一定の条件を満たした期間であれば、遡って保険料を支払うことが出来る制度)をしなかった場合には、加入期間はカウントされますが、免除されていた金額の割合に応じて、年金支給額が減額されます。

なお、未納には2つのケースが考えられます。「そもそも国民年金加入手続きをしていない人」と、「加入手続きはしたけれども保険料を支払わなかった人」です。どちらも未納として扱われることでは同じです。

3-2.大学時代の年金保険料を追納しなかった人

現在、日本では大学生や専門学校生なども国民年金に加入する義務があります

20歳になると、市区町村から加入に関する通知書類が送られてきます。多くの場合は、親が代わりに支払うか、経済的に苦しい場合には、一定の条件を満たした場合には、学生時代は支払いを猶予してもらう制度を利用することになります(学生納付特例制度)。大学時代に支払いを猶予してもらった人は、一定期間内に後から納付(追納)する必要があります。

最終的に追納しなかった場合には、年金額が減額されます。

ただし、学生納付特例制度を利用した場合には、受給期間にはカウントされます。制度を利用せずに納付しなかった場合には、結果的に未納となり、加入期間にもカウントされません。

なお、1991年3月以前に大学生だった人は、大学時代は国民年金が任意加入であったため、ほとんどの人は大学時代に国民年金には加入していません。

その後、一定期間、追納可能期間に設けたのですが、当時は年金制度への不信も強く、また年金定期便もなかったので、追納のメリットを理解した人も少なかったのが実情です。したがって、この条件に該当する人は、結果的に満額受給は出来ないわけです。。

3-3.厚生年金等と国民年金の加入期間合計が10年に満たない人

最初に説明をしましたが、そもそも10年間何かの年金に加入をして、年金保険料の支払いをしなければ、年金を貰うこと自体が出来ません。

以前は、この年金受給に必要な加入期間が25年だったのですが、「年金保険料を支払うだけ損だ!」という不信感を助長して、国民年金保険料の納付率が低下したのです。そのため、2017年より10年に短縮されました。

加入必要期間が25年だった時代に自営業になった人の中には、サラリーマンを辞めた後、敢えて国民年金に入らなかった人も多いため、厚生年金の加入期間だけで10年を満たす人には年金は支給されるようになったのですが、年金支給額は少なくなっています。

4.国民年金保険料を後から支払う方法について

国民年金保険料は2021年度で16,610円となっています。決して少ない負担ではないので、経済的に苦しい時に条件に該当したら減免制度を使ってしまう人も多いのが事実です。

けれども、その後、追納制度や任意加入制度を利用することで、後から年金保険料を納付することが可能となっています。その納付をすることに関して、過去の未納に関してペナルティを問われることもありません。

このように、金保険料を後から納付することで年金額を増やすことが出来るのです。

4-1.追納制度を活用する

追納制度とは、『保険料の免除・納付猶予や学生納付特例の承認を受けた期間の保険料について、後から納付(追納)することで、将来受け取る老齢基礎年金額の算定の際に通常通り年金保険料を支払った場合と同じ条件にすることが出来る』制度です。

この制度を利用することで、老齢基礎年金の年金額を増やすことが出来る訳です。

「国民年金保険料の免除・納付猶予制度」について、「国民健康保険制度の減免制度」と混乱して勘違いする人が多いので、分かり易く説明をしたいと思います。ポイントは以下の3点です。

  • 国民年金保険料は、経済的に苦しい場合には条件を満たすと減免して貰える
  • しかしながら、減免して貰うと加入期間にはカウントされるが、将来貰う老齢基礎年金は一定の条件に従って減額される
  • 減免された期間も満額貰えるようにしたければ、一定期間内に追納する必要がある

国民年金保険料は減免条件が比較的緩いので、市区町村の役所に行って減免を相談すると条件に合えば、減免を認めてくれます。

けれども、減免された分を後から納付(追納)しないと、貰える年金額は減額されます(加入期間に算入されるのは10年という最低限必要な加入期間に満たなくなるのを防ぐためです)。

国民健康保険料は減免されると、後から追納する必要はなく普通に健康保険を使えるため、この点を勘違いする人が多いのです。

つまり、老齢基礎年金の年金額を計算するときに、保険料の免除・納付猶予や学生納付特例の承認を受けた期間がある場合は、保険料を全額納付した場合と比べて年金額が低額となるのです。

4-2.国民年金任意加入制度を活用する

50歳になると、年金定期便に65歳の時に貰えるであろう年金額が記載されるようになります。

その時になると、年金額が思っていたよりも少なくて慌てる人も少なくないようです。けれども、追納制度は、減免等された後一定期間しか認めて貰えません。ですから、うっかり追納しなかったり、転職活動中に国民年金に加入手続きをしなかった場合には、追納制度は活用することが出来ないのです。

けれども、その場合でも、国民年金の「任意加入制度」を利用することは出来ます

任意加入制度とは?

「任意加入制度」とは、60歳になる前に、何かしらの理由で国民年金加入期間が40年に満たなかった場合に、65歳になるまでの5年間の間任意の期間で国民年金保険料を納めることにより、65歳から受給する老齢基礎年金を増額することが出来る制度です。

ただし、この任意加入制度を利用するには、自分が年金事務所に申出をして手続きをする必要があります。また、その加入期間は申し込みをした後65歳になるまでの期間であり遡っての加入できません。

任意加入が出来る条件は?

次のすべての条件を満たす方が任意加入をすることができます。

  • ①日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方
  • ②老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない方
  • ③20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満の方
  • ④厚生年金保険、共済組合等に加入していない方
  • ⑤日本国籍を有しない方で、在留資格が「特定活動(医療滞在または医療滞在者の付添人)」や「特定活動(観光・保養等を目的とする長期滞在または長期滞在者の同行配偶者)」で滞在する方ではない方

また、年金の受給資格期間である10年間を満たしていない場合には、65歳以上70歳未満の方も加入することが出来ます。そして、外国に居住する日本人であれば、20歳以上65歳未満の方も加入できます。

5.任意加入はどれくらい得?

国民年金の任意加入制度を知らない人はかなり多いと思います。では、この任意加入制度はどの程度で元が取れるものなのかについて説明をしたいと思います。

日本年金機構の資料でも詳しく説明されていますが、ここでは、かいつまんでポイントを解説していきます。

5-1.任意加入で年金を満額受給すれば民間の保険よりもお得

年金保険料を5年分任意加入で支払う場合、「保険料の総額」と「65歳から受給する年金の増加額の合計額」はそれぞれ以下のようになります。

国民年金保険料支払い総額

996,600 円

65歳から受給する年金の増加額の合計額

  • 65歳から70歳の5年間  約488,000 円
  • 65歳から75歳の10年間  約 976,000円
  • 65歳から80歳の15年間  約 1,464,000円

つまり、今の老齢基礎年金の支給額レベルが維持されたとすると、10.5年間年金を受給出来れば支払った保険料の元が取れることになります。日本人の平均寿命が、男性で約82歳、女性で86歳ですから、仮に老齢基礎年金の支給額自体が減額されることがあっても、かなりのケースでお得であるということが分かると思います。多くの民間企業の保険よりもかなり有利な条件となっています。

5-2.任意加入は5年未満の加入でもOK

また、任意加入制度なので、5年間必ず加入しなければならないということではありません。

年金受給年齢が10年後となる55歳くらいからは、毎年受け取る年金定期便に記載されている65歳からの年金受給予定額はかなり真実味が出てきますので、その金額に応じて、増やしたいと思うだけ加入すれば良いのです。

章の冒頭で紹介した日本年金機構のpdfを見れば、1か月分の保険料で増やすことが出来る年金額がシミュレーションできるようになっています。そちらを参考にして、増やしたい金額を参考にして加入期間を決めることも出来ます。

気を付けないといけないのは、この任意加入制度は、国民年金加入期間が40年を超えると利用できないことです。つまり、過去に減免期間がありその追納をしなかった場合には、加入期間だけは40年ある人もいるわけですが、その場合には利用することは出来ないことに注意してください。

6.まとめ

一時期、納付率70%を切った国民年金ですが、最近では毎年着実に納付率が上昇しています。これは、未納者や国民年金加入手続きをしていない人への地道な働きかけが功を奏したこともありますが、何よりも、年金定期便により、多くの人が将来貰える年金額を把握できるようになったこと、つまり「見える化」したことが大きな要因です。

国民年金保険料の捉え方が、「義務として支払うべきもの」から「将来貰える年金を増やすもの」になってきたということだと思われます。

サラリーマンを辞めた後にフリーランスや自営業になった人は、老齢厚生年金は65歳以降に貰う金額は増えることはありませんが、国民年金保険料をきちんと支払うことで老齢基礎年金は満額に近くなっていきます

毎月必ず給料が貰えるサラリーマンでなくなると、時には国民年金保険料を支払わないで済ませたいと思ってしまうことが多々あるかと思います。けれども、経済的に余裕が出来たら追納をする、それでも60歳になった時に40年間の加入期間を満たさなかった場合には、任意加入をすることで老齢基礎年金は満額、または満額に近い金額まで増やすことが出来るのです。

この老齢基礎年金は、概ね10年程度年金を貰えば保険料を上回る年金を貰うことが出来る、大変リターン率が高いものとなっています。

今後、高齢化社会が進むにつれて、本当に年金が貰えるのか? という心配はありますが、付加部分(いわゆる2階部分)である老齢厚生年金が圧縮されることがあっても、加入者が加入期間に応じて平等にもらえる老齢基礎年金(国民年金)が大幅に圧縮されることは、高齢者の最低限の生活を維持する必要性を考えると考え難いです。

老後資金2,000万円にばかり目を奪われて、株式投資や不動産投資などの積極的な資産運用の情報が気になるものですが、それよりも、まずは国民年金を満額貰えるように、可能な限り整えておくことが、日本で老後を過ごす場合には、高齢者として受けられる便益を確保するという意味で重要なことであると理解して貰えればと思います。

【問題です】
年金を満額受給するための行動として正しいものはどれですか?
120歳から40歳までの40年間、国民年金に加入する
2国民年金に10年間加入する
3年金の支払い免除を申し出る(追納・任意加入しない)

正解!

2021年度において、老齢基礎年金の満額は年間780,900円。次の条件を満たした方が対象です。

・原則として20歳から40歳まで40年間の国民年金加入期間
・定められた年金保険料を満額納めること(2021年度においては16,610円)

年金の支払いについて減免を受けた方は、追納や任意加入によって将来受け取る老齢基礎年金額の算定の際に通常通り年金保険料を支払った場合と同じ条件にすることができます。

惜しい!

年金を受給する条件と、「満額受給する」条件は異なります。年金を満額受け取るための条件は2章、支払いの免除を受けた場合などにあとから受給額を満額にする方法は4章で復習しましょう!

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執筆
荒井 薫(あらい かおる)
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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