新型コロナ中小企業への支援策「資本注入」とは?

ビジネス

新型コロナにおける中小企業への支援策の一つとして、「資本注入」というニュースが流れていますが、融資が基本の中小企業を経営されている方にはあまり聞き慣れない内容かと思います。

そこで、資本注入のその意味と支援策について詳しく解説します

1. 資本注入とは何か?融資との違いは?

まず資本注入について確認していきます。

(1) 資本注入とは

資本注入の定義は経営難に陥った企業や金融機関の破綻を防ぐために、公的資金を使って増資や優先株の引き受けや劣後ローンによる貸付を行うことです。

資本注入を受けた企業は増資により新株を発行して払い込みを受け、運転資金や設備投資資金に充てることができます。

(2) 資本注入のメリット、デメリット

資本注入のメリットは、まず資本を増強することにより、企業の信用力の増加につながることです。
また、返済期限のある融資とは違い、出資という形態での資金調達のため、短期で返済する必要がないため、より長期での事業計画を立てやすくなることが挙げられます。

融資は返済期限のある借入のため、自己資本比率が低下し、信用力が低下してしまうが、資本注入は自己資本の増強のため信用力は低下しません。

資本注入のデメリットは、まず増資により、資本金が増えることで法人住民税額が高くなったり、赤字でも課税される事業税の外形標準課税が適用される場合があるなど納税額が高くなる場合があります。
また、出資を受けると出資者は株主となるため、既存の株主の権利が減る可能性があります。例えばベンチャー企業がベンチャーキャピタルから出資を受けると、経営に対して意見されたり、短期間での配当や出資額の回収を迫られたりするため経営に影響が出る場合があります。

このようなデメリットを防ぐため、公的資金による資本注入では議決権のない優先株や資本に近い性質を持つ劣後ローンなどが用いられます。

2. なぜ中小企業に資本注入するのか?

(1) 中小企業の定義

中小企業庁の定義では、中小企業とは製造業や建設、運輸業、その他の業種であれば、資本金3億円以下もしくは常時雇用の従業員数が300人以下の条件を満たす企業が対象となります。さらに従業員数が少ない企業は、小規模企業者に分類されます。

詳細な定義は以下の表を参照してください。

業種 中小企業者 小規模事業者
資本金の金額
又は出資の総額
常時雇用する
従業員の数
常時雇用する
従業員の数
製造業、建設業、運輸業、
その他業種
3億円以下 300人以下 20人以下
卸売業 1億円以下 100人以下 5人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下 5人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下 5人以下

【引用】中小企業庁:FAQ「中小企業の定義について」

(2) 中小企業に資本注入するのはなぜか?

コロナ後の経営悪化に対応するために、政府は日本政策金融公庫による融資や信用保証協会による信用保証の枠組みを強化するなど対策に乗り出しています。

しかし、これらの支援策は当面の必要資金の手当という側面が大きく、今後コロナの影響による経済活動の落ち込みにより、本格化すると見られる景気悪化の局面では、体力の弱い中小企業や小規模企業者の倒産が多く予想されます。

倒産の増加により地域金融機関の経営悪化などに波及する恐れもあるため、より長期での抜本的な支援策が必要となっていることが理由です。

3.今回の資本注入による支援策の内容

(1)第2次補正予算の閣議決定の概要

5月末に閣議決定された令和2年度第2次補正予算案のうち中⼩企業向けの資本性資⾦供給・資本増強⽀援事業は予算案額1兆2442億円で、新型コロナウイルスによる影響を受けた中小企業等に出資などの資本注入を行う枠組みです。

具体的には、⼀時的に財務状況が悪化した中⼩企業等に対して、⽇本政策⾦融公庫等及び商⼯組合中央⾦庫が、⺠間⾦融機関が資本とみなすことができる⻑期間元本返済のない劣後ローン(後述)を供給します。

【参考】経済産業省:令和2年度第2次補正予算案等における⾦融⽀援策

(2) 劣後ローンとは

劣後ローンとは、増資と融資の中間の性質を持っています。
その名の通り、出資者は企業の破綻などの際の優先順位が後回しになる(劣後する)代わりに、通常の融資よりも高い金利を受けとることができるローン(負債)となります。

劣後ローンの融資は資本の増強に近い性質を持ち、金融機関の信用リスク判定などにおいて一部が自己資本と見なされるため、財務の健全性が維持され融資よりも信用力に影響しにくいメリットがあります。
返済期限も5年〜15年など通常のローンよりも長めに設定されることが多いです。

ただし、あくまで融資ですので会計のバランスシート上は基本的に負債に分類され、返済の義務はきちんと履行しなくてはなりません。

(3)投資ファンドによる資本注入

その他、中⼩機構が出資する官⺠連携の中⼩企業経営⼒強化⽀援や中小企業再生ファンドなどを組成して、ファンドを通じた出資や債権買取などを⾏い、経営改善まで幅広い⽀援を実施するというものです。

まとめると今回の資本注入では、中小企業等には劣後ローンをメインに投資ファンドによる出資も活用した支援を行います。この他、大企業には議決権のない優先株なども用いて別途の支援を行う方針のようです。

4. どの企業が対象になるのか?自社も受けたいときはどうすればいい?

(1) 対象の企業や貸付条件

今回の資本注入による支援の枠組みは、日本政策金融公庫や商工中金などの提携金融機関を通じて実施されるため、条件等の詳細は各金融機関によって異なります。

ただし、大枠としては対象企業として新型コロナウイルス感染症の影響により、キャッシュフローが不⾜するスタートアップ企業や⼀時的に財務状況が悪化し企業再建等に取り組む企業となっています。

貸付限度は最⼤7.2億円(別枠)となり、 貸付期間5年1ヶ⽉、10年、20年(期限⼀括償還)となる予定です。

(2) 支援を受けるためにはどのようにしたら良いか

支援を受けるためには、日本政策金融公庫、商工中金や提携金融機関への申込みが必要となります。まずは各窓口でのご相談をお勧めいたします。

問い合わせ先は以下のホームページ等をご参照下さい。

まとめ

中小企業向けの資本注入について解説しました。

新型コロナ感染拡大による経営への影響は日に日に深くなっており、対応する支援策も様々な枠組みにより行われています。今回の記事などを参考にして情報を整理して頂き、最適な支援を受けて頂ければ幸いです。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
服部 貞昭 プロフィール この監修者の記事一覧
\この記事が役に立った方は是非シェアをお願いします/
  • Pocket