雇用調整助成金はいつまで延長?|期限と自分で申請する方法を解説
5/19、雇用調整助成金の手続きが大幅に簡略化されました。休業せざるを得ないけれど「休業手当」の捻出に苦心している雇…[続きを読む]
新型コロナウィルス感染症の影響により、売上が減少している企業が多くあります。業務量が減った場合には、従業員に休業を命じることもありますが、給与支払いは発生しますので、資金繰りの問題が生じます。
この問題を支援するために、「雇用調整助成金」という制度があります。この助成金は、新型コロナウィルス感染症が問題になる前からあった制度ですが、今回は、その特例という形で内容が拡充されています。
雇用調整助成金の特例について、さらに4月1日~9月30日の期間限定で拡充された特例について詳しく解説します。
【引用】厚生労働省:雇用調整助成金
目次
雇用調整助成金の特例措置には、
の2パターンがあります。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、特例措置が実施されました。さらに、厚生労働省は3月28日、雇用調整助成金の特例措置を、4月1日~9月30日の期間で拡大しました。
また、5月19日に、申請手続き方法が大幅に簡略化されました。
まず、それぞれの特例の期間や、通常の制度との違いを、簡単に表でまとめます。
各内容については、後で詳しく解説していきます。
通常の制度 | 特例措置 | 緊急対応期間 および簡略化 |
|
---|---|---|---|
期間 | - | 1月24日~7月23日 | 4月1日~9月30日 |
対象事業主 | 経済上の理由で、 事業活動が縮小した事業主 |
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主 | |
生産指標要件 (売上高等) |
直近3ヶ月10%以上低下 | 直近1ヶ月10%以上低下 | 直近1ヶ月5%以上低下 |
対象の労働者 | 雇用保険被保険者 (期間6ヶ月以上) |
雇用保険被保険者 (期間要件なし) |
雇用保険被保険者以外も対象 (期間要件なし) |
助成率 | 中小企業:2/3 大企業:1/2 |
中小企業:4/5 大企業:2/3 解雇を行わない場合 |
|
助成額の 算定方法 |
労働保険確定保険料申告書を用いて 平均賃金額を算定 |
小規模事業者: 実際に支払った休業手当額 それ以外: |
|
計画届 | 事前提出 | 事後提出を認める (1月24日~5月31日) |
提出不要 |
クーリング期間 (※1) |
1年間 | なし | なし |
支給限度日数 | 1年100日、3年150日 | 1年100日、3年150日 に加えて、4月1日~9月30日 |
|
休業規模要件 | 中小企業:1/20 大企業:1/15 |
中小企業:1/40 大企業:1/30 |
|
短時間休業 | 短時間一斉休業のみ | 部署・部門単位の 短時間休業も可能 |
|
残業相殺 (※2) |
あり | なし | |
教育訓練の 加算額 |
1,200円 | 中小企業:2,400円 大企業:1,800円 |
|
提出期限 | 支給対象期間の末日の翌日から2ヶ月以内 | 支給対象期間の初日が 1月24日~5月31日の場合 8月31日まで |
※1 ある支給対象期間の終了後、再度、助成金を申請する場合、その終了した日の翌日から1年間空ける必要があり
※2 労働者を休業させながら、一方で、残業や休日出勤をさせた場合、それが突発的・一時的なものであったとしても、労働者を休業させずに働かせる必要性が新たに発生したことになるため、助成の対象となる休業の延べ日数から、その残業や休日出勤した分を控除します。
【引用】厚生労働省:新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大
表に記載していない、特例措置として以下の内容があります。
特例を受けることができるのは、例えば以下のようなケースです。
特例措置では、様々な要件が緩和・撤廃されていますが、それでも、受給条件には多くの制約があります。それらを詳しく解説します。
今回の特例措置の対象になる事業者は、
です。
事業所設置後、1年以内の事業主も対象です。
事業者に対して助成金が支給されます。労働者個人には支給されません。
雇用調整助成金の条件として最もややこしいのが、生産指標です。
「生産指標」とは、売上高や販売数などの雇用の変動と密接に結びつく指標のことを言います。どの値を指標とするかは、自由に選択することができます。
通常は、この生産指標が「3ヵ月10%以上低下」した場合に助成金の対象になりますが、新型コロナウイルス特例では、「1ヵ月10%以上低下」に緩和され、さらに、緊急対応期間(令和2年4月1日~9月30日)については、「1ヵ月5%以上低下」に緩和されています。
【引用】厚生労働省:雇用調整助成金の特例拡充のお知らせ(生産指標関係)
比較の対象は、原則、計画届を提出する月の前月【A】の前年同月【B】となっています。
(例:令和2年4月に計画届を提出する場合、令和2年3月の売上高を生産指標としますので、令和元年3月の売上高と比べて5%以上低下していた場合は雇用調整助成金の対象になります。)
ただし、前年同月と正しい比較ができない場合は、前々年同月(平成30年3月)【C】との比較や、前年同月から12か月のうち適切な1ヵ月【D】との比較が可能になる拡充措置が令和2年5月1日付けで決定しています。
通常時 | 特例措置 | 緊急対応期間 (4月1日~ 9月30日)(※) |
|
---|---|---|---|
生産指標 | 3ヵ月10%以上低下 | 1ヵ月10%以上低下 | 1ヵ月5%以上低下 |
比較対象 | 前年同月 | ・前年同月 ・前々年同月 ・前年同月から12ヶ月のうち適切な1ヶ月 |
※緊急対応期間について要注意ですが、この間に、休業を開始した場合が対象です。3月中に休業を開始している場合は、緊急対応期間の対象にはならず、「1ヵ月10%以上低下」の生産指標で判断されます。
雇用調整助成金の対象の労働者は、雇用保険に加入している労働者です。
通常時は、雇用保険に6ヶ月以上加入している労働者だけが対象でしたが、特例措置では、新卒など短期間での加入でも対象になります。
ただし、次の方を除きます。
アルバイト・パート等で雇用保険に加入していない従業員を休業させた場合は、別途、「緊急雇用安定助成金」という制度で、助成金が支給されます。こちらは、「雇用調整助成金」とほぼ似ていますが別の制度ですので、別途、申請が必要です。
対象の休業についても、細かく条件があります。
事業主が自ら指定して対象期間内(1年間)に行われるものであること。
休業させた従業員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことが必要です。支給した休業手当が60%未満ですと、支給されません。
次のどちらか休業が対象です。
個人単位の場合、丸1日間の休業が原則ですが、部署・部門ごと等で、1時間以上の休業をさせても対象です。
「休業等規模要件」といい、ある一定以上の休業を行う必要があります。
「判定基礎期間」とは、原則、毎月の賃金の締切日の翌日から、次の締切日までの期間です。
たとえば、判定基礎期間における所定労働延日数が22日、所定労働時間が8時間の事業所で、10人の労働者が1日ずつ休業をする場合、「休業延べ日数」は10人×1日=10人日となります。対象労働者の所定労働延日数は、10人×22日=220人日です。よって、10/220>1/40となり、要件を満たすことになります。
特例措置による従業員への休業手当の助成率は、中小企業は4/5、大企業は2/3です。
従業員の解雇を一切行わない場合は、助成率が上がり、中小企業へ9/10、大企業へ3/4になります。
ただし、令和2年5月1日付けで特例措置が更に拡大し、次の要件を満たすことで休業手当の助成率が100%になります。
また、従業員の解雇を行っていない中小企業が支払った休業手当について、休業手当の支払率60%超部分の助成率を特例的に100%に拡大する特例措置が令和2年5月1日に発表されました。この特例措置の拡大により、休業手当の支払率60%を超える中小企業はより多くの助成を受けることができます。
なお、1日1人当たり、8,330円が上限となります。
この上限について、低すぎるという意見があり、政府では15,000円程度まで引き上げる検討が行われています。
本助成金では、次のような用語が登場します。
たとえば、対象期間を2020年1月1日~12月31日の1年間とし、賃金の締切日は毎月末日とします。
判定基礎期間は、1月1日~1月31日、2月1日~2月29日、3月1日~3月31日、4月1日~4月30日、・・・となります。
支給対象期間は、最大3ヶ月を選択可能ですので、1月1日~3月31日、あるいは、2月1日~4月30日などと選択できます。
支給限度日数は、1年間で100日分、3年間で150日分です。
ただし、緊急対応期間に実施した休業は、この支給限度日数とは別に支給を受けることができます。
支給限度日数とは、労働者に休業をさせた日数のことではありません。
休業の延べ日数を、休業を実施する事業所の労働者のうち本助成金の対象となりうる「対象労働者」人数で割った日数を用います。
たとえば、対象労働者10人のうち6人が5日休業した場合、6人×5日=30人日/10人=支給日数3日となります。
申請方法については、書類の数が多いなど、やや複雑になりますので、別途、こちらの記事で解説しています。
企業の資金繰りや従業員の生活に大きく関わる雇用調整助成金ですが、申請書類の多さや申請手続きの複雑さに加え、日々条件や要件が変化していくため、専門家である社労士も苦心している状況です。また、申請に必要な帳票類を日頃から管理している会社も多くなく、遡って書類を作成すると書類偽装になる可能性もあります。
5月12日の報道では、相談件数はおよそ27万件で、実際に申請された数はおよそ1万2800件(1万2857件)、このうち支給が決まったのはおよそ5000件(5054件)となっています。
この状況を受け、5月19日、雇用調整助成金の申請手続きについて簡素化されました。
さらに、5月20日、オンライン申請も始まりました。
5月19日、雇用調整助成金の申請手続きが大幅に簡素化されました。
小規模事業主(従業員がおよそ20人以下)の申請書の様式が6種類から3種類に半減しました。
従来 | 見直し後 | |
---|---|---|
計画届 提出時 |
休業等実施計画届 | 不要 |
雇用調整事業所の事業活動の 状況に関する申出書 |
不要 (支給申請書に記載) |
|
支給申請書 提出時 |
支給要件確認申立書 | |
(休業等)支給申請書 | ||
助成額算定書 | 不要 (休業手当総額から計算可能) |
|
実績一覧表 |
これまでは、「平均賃金額」を用いて助成額を計算していました。ただ「平均賃金額」の計算がかなり面倒でした。
そこで、小規模事業主(従業員がだいたい20人以下)は、「実際に支払った休業手当額」により計算できるようになります。
今までは、休業等計画届の提出が必要でした。特例により、事後の提出も認められますが、書類作成が複雑でした。
今後は、休業等計画届の提出が不要となり、支給申請のみの手続きでOKとなります。
ただし、休業協定書など計画届と一緒に提出していた各種添付書類は、今後も提出の必要があります。
小規模事業主(従業員がだいたい20人以下)以外は、今までどおり、「平均賃金額」を利用しますが、この計算も簡単になります。
平均賃金額の算定は、これまで、「労働保険確定保険料申告書」を用いて計算していましたが、「源泉所得税」の納付書により計算できるようになります。
実際に支払った給与支給額を基に計算されますので、ほとんどのケースで「平均賃金額」は従来の計算よりも多くなります。
年間所定労働日数は、これまで過去1年分の実績を用いて計算していましたが、休業実施前の任意の1か月分をもとに計算できるよう
になります。
上記以外で、現在、検討されている雇用調整助成金の改善案には、次のようなものがあります。まだ決定していませんので、最新の情報をご確認ください。
最短2週間で支給を行えるように改善する予定です。
通常、社労士が代理申請した企業の申請書類に虚偽があった場合は、社労士の連帯責任が課されます。そのため、社労士は法定書類の作成を行っていない多くの中小企業の依頼に二の足を踏んでいる状態です。多くの中小企業が助成金制度を利用しやすいように、社労士の連帯責任解除が検討されています。