不妊治療費用は医療費控除の対象になる?助成金拡充、保険適用も

不妊治療にかかる費用は治療の内容にもよりますが、その多くは自由診療であり、保険外診療の治療が多いです。人工授精や体外受精など高額になることもあります。
実は、不妊治療の費用は保険外診療であっても、医療費控除の対象となり、確定申告により税金の還付を受けることができます。
また、不妊治療には国や自治体による助成制度などが整備されています。
ここでは、次の内容をわかりやすく解説します。
- 医療費控除の対象となる不妊治療費/対象とならない費用
- 確定申告の方法
- 不妊治療と医療費控除によくある質問
目次
1.医療費控除
医療費控除について理解する上でまず「控除」について正しく理解していきましょう。
(1)医療費控除とは?
医療費控除とは1年間にかかった入院、病気の診療代などの合計が一定額を超えている場合に、確定申告することにより税金の還付を受けることの出来る制度です。
控除とは所得税を計算する際に差し引ける一定の金額のことです。
一定の金額とは以下のように計算されます。
※1 1つの治療でかかった費用を超えて補てんされた場合でも他の医療費から差し引くことは出来ません。
※2 その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額の5%の金額
医療費控除を受けると、課税される所得が少なくなりますので、所得税と住民税が最終的に少なくなります。
【参考】国税庁:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
(2)医療費控除の対象になる費用:不妊治療の検査費用など
保険外診療であっても、直接、治療に関わる費用であれば医療費控除の対象になります。
不妊治療に関わる費用のうち医療費控除の対象になるのは以下のような費用です(一部のみ掲載、他にもあります)。
- 不妊治療の検査費用
- 人工授精・体外受精・顕微授精の治療費
- 不妊治療のための指圧やマッサージ代
- 不妊治療の通院の交通費
- 不妊治療のための漢方薬などの購入費
領収書などがあればそれをとっておき、なければ日付や金額などをまとめてメモしておくようにしましょう
(3)医療費控除の対象にならない費用
医療費控除の対象にならない費用は、例えば健康診断の費用やビタミン剤など予防や健康増進のための費用※です。
不妊治療に関わる費用で医療費控除の対象にならないのは以下のような費用です(一部のみ掲載)。
- 自身の希望で遠隔地の病院に受診した場合などの新幹線代
- 入院・通院時の自家用車のガソリン代や駐車料金
- 入院時の差額ベッド代
- 寝巻きや洗面具などの入院時の身の回り用品の購入代金
- 健康食品やサプリメントなどの購入費用
なお、不妊治療に際して助成金を受け取った場合には、その助成金の金額分は医療費控除の対象外となります。
※2017年1月からセルフメディケーション税制により、健康予防や健康増進のための一定の要件を満たす医薬品の購入品などが控除出来るようになりました。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。
(4)不妊治療費用の医療費控除の計算例
実際の不妊治療費用の控除額を具体例で見てみましょう
Aさんは不妊治療費用は昨年体外受精などを行い、合計で80万円の医療費がかかりました。特定不妊治療の助成金が45万円を受け取りました。
この場合の計算式は、80万円-45万円=35万円がAさんの実質負担額です。
よって、ほかに控除する医療費がなければ、35万円-10万円=25万円を医療費として控除出来ます。
Aさんの所得税の税率が10%だとすると25,000円が還付されます。
また、この他にも医療保険や保険対象の治療により高額療養費制度からの払い戻しがあれば補てんされた金額に含めて計算します。
2.医療費控除の申告の方法
不妊治療費用の医療費控除を受けるためには確定申告が必要です。
確定申告に必要なものは以下の通りです。
- 治療費の領収書※
- 医療費控除の明細書
- 保険などから補てんされた金額のわかる書類
- 確定申告書
- 印鑑・還付金の振り込み口座番号・マイナンバー
- 医療費通知の書類
- 勤務先からもらう源泉徴収票の原本
※2017年の確定申告より領収書の取り扱いが変わりました。医療費の領収書は添付せず、医療費の明細書に内容を転記します。領収書は税務署から照会があった場合に備えて5年分は自宅で保管しておくようにしましょう。
確定申告書の用紙は、税務署でもらうことができます。国税庁のホームページよりダウンロードもできます。
医療費控除の明細書も同様です。
必要書類が用意できたら管轄の税務署宛に提出しましょう。
郵送、持参どちらも大丈夫ですが各地域の確定申告会場でも受け付けています。e-Taxを使えばネットからの申告手続きもできます。
確定申告の提出期限は2月16日から3月15日までです。期間中は混み合いますが、還付の申告の場合は1月1日から受け付けてくれますので早めの申告をお勧めします。
確定申告書や医療費控除の明細書などの最寄りの税務署で入手できる他、国税庁のホームページ上で必要項目を入力してダウンロードしても利用できます。
3.不妊治療費用の医療費控除のよくある質問
不妊治療費用の医療費控除の際によくある質問をまとめています。
Q.ブライダルチェックを受けましたが、医療費控除の対象になりますか?
健康診断や予防診療に関する費用は医療費控除の対象になりません。ブライダルチェックは健康診断に分類されるため医療費控除を受けることはできません。
Q.サプリメントの購入費用は、医療費控除の対象になりますか?
医師の判断で治療の一環として、サプリメントが処方され服用した場合には、医療費控除の対象となります。
ただし、個人の判断でサプリメントを購入して服用した場合は、医療費控除の対象となりません。
不妊治療に関わるサプリメントは高額なものも多いですので、医師に相談のうえ、可能な場合は処方してもらうと良いでしょう。
Q.交通費は控除出来る?
不妊治療のための入院や検診の際に電車やバスなど公共交通機関を利用した交通費は控除の対象に含める事が出来ます。
里帰り出産の帰省費用や自家用車のガソリン代、駐車料金やSuicaなどのチャージ代などは控除の対象になりません。
Q.家族の医療費をまとめて申告できますか?事実婚の場合は?
医療費控除の申告の際には患者本人だけでなく、生計をともにする家族や親族の分の医療費を支払った場合はまとめて控除の申告が出来ます。
生計を一つにしていることが要件などで必ずしも同居している必要はありません。遠隔地で一人暮らしの息子や別居の親なども対象に含めることが出来ます。この場合扶養していなくても対象となります。
民法上の関係が配偶者でない場合はパートナーの医療費について医療費控除が受けられません。授精や培養などカップル両方に関わる治療の費用は合理的な割合で両者それぞれが控除を受けることが出来ます。
その合理的な割合について、病院が明細書に記載する場合もありますが、現状、対応しない病院も多くあります。その場合、ご自分で合理的な割合を判断して申告することになります。個別には管轄の税務署の判断となりますので該当される方は税務署にお問い合わせをお勧めします。
※たとえば、人工授精・顕微授精にかかる費用のうち、採卵は女性側の治療ですが、授精および培養は、男性・女性両方が関係する治療であるともいえます。その場合、男性・女性の割合がいくつになるのかは、一般的な見解はなく、病院の判断、もしくは、税務署の判断に委ねることになります。
4.【参考】不妊治療の保険適用の見直し
不妊治療について、健康保険については、従来は適用外のものがほとんどでした。
検査や排卵誘発については、保険でカバーしていますが、体外受精・顕微授精など、数十万円単位で費用がかかる治療については、すべて自費負担となっていました。これが、子供を望みながらも治療を断念する原因にもなっています。
そこで、2022年4月から、体外受精・顕微授精などの一部の不妊治療にも健康保険を適用することが決定しました。
- 対象の治療:人工授精/体外受精
- 適用年齢:治療開始時に43歳未満の女性、男性は年齢制限なし
- 対象回数:女性の年齢が40歳未満の場合、子ども1人につき最大6回まで、40歳以上43歳未満の場合、子ども1人につき最大3回まで
- 婚姻届を出していない事実婚も対象
5.【参考】特定不妊治療費助成制度とは
特定不妊治療費助成制度とは高額の費用で負担が大きい不妊治療を行う夫婦に対して負担を和らげるために国や自治体が不妊治療費を一定の金額・回数に限って助成を行うものです。
要件や助成額は国や自治体により異なります。参考として国が行なっている助成制度の概要を案内します。
(1)対象
- 特定不妊治療以外の治療法による妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと判断される法律上の婚姻をしている夫婦
- 治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦
- 夫婦の所得が合算で730万円以下(東京は905万円以下)
(2)対象となる治療
体外受精及び顕微授精
(3) 給付の内容
- 特定不妊治療に要した費用に対して1回の治療に対して15万円
- 初回の治療に限り30万円
- 通算では初めて助成を受けた際の治療期間の初日の妻の年齢が40歳未満の時は6回まで(40才以上の時は通算3回まで)
この他にも自治体によっては人工授精などに対して助成を行なっている自治体もあります。所得制限や助成額、要件などは自治体によって異なるため詳細は各自治体のホームページでご確認ください。
なお、助成金を受領した場合には、その分は医療費から除いて、医療費控除を計算します。
不妊治療助成の見直し
上記の不妊治療助成の対象や給付内容が、2021年以降、次のように見直される予定です。
2020年まで | 2021年以降 | |
---|---|---|
所得制限 | 夫婦合算で730万円未満 | 制限撤廃 |
一回の助成額 | 15万円/回(初回のみ30万円) | 30万円/回 |
回数制限 | 通算6回(40歳以上43際未満3回) | 1子ごと6回(40歳以上43際未満3回) |
事実婚 | 対象外 | 対象 |
年齢制限 | 妻の年齢が43歳未満 | (変更なし) |
まとめ
不妊治療費用は医療費控除の対象であり、税金の還付を受けることが出来ます。
費用が高額になりがちな不妊治療だけに特定不妊治療費助成制度とあわせて医療費控除を活用して費用を少しでも少なく抑えたいところです。