妊娠・出産・分娩にかかる費用は医療費控除の対象になる?

出産

人生の一大イベントである妊娠・出産はおめでたいことです。ただ、何かと費用がかかることもあり、きちんと準備をしておきたいものです。

出産費用は医療費控除の対象となりますので、かかった費用の一部は税金の還付を受けることが出来ます。出産費用の控除の申告の仕方を見ていきましょう。

1.妊娠から出産までの費用と医療費控除

医療費控除について理解する上でまず「控除」について正しく理解していきましょう。

(1)医療費控除とは?

そもそも医療費控除とは1年間にかかった入院、病気の診療代などの合計が一定額を超えている場合に確定申告することにより税金の還付を受けることの出来る制度です。

控除とは所得税を計算する際に差し引ける一定の金額のことです。一定の金額とは以下のように計算されます。

実際に支払った医療費の合計額-保険などで補てんされる金額(※1)-10万円(※2)

※1  1つの治療でかかった費用を超えて補てんされた場合でも他の医療費から差し引くことは出来ません。
※2  その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額の5%の金額

医療費控除を受けると、課税される所得が少なくなりますので、所得税と住民税が最終的に少なくなります。

【参考】国税庁:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)

(2)医療費控除の対象になる費用

医療費控除の対象になるのは、直接医療機関に支払った診療代のほか、分娩費用、義足や義手などの医療用器具の購入費用、入院の際の食事代や交通費なども対象になります。

妊娠・出産に関わる費用のうち医療費控除の対象になるのは以下のような費用です。

  • 妊娠後の定期検診や検査費用
  • 出産・分娩費用
  • 通院・入院のための交通費
  • 出産のための入院の際のタクシー代
  • 産後の検診費用
  • 赤ちゃんの入院費

領収書などがあればそれをとっておき、なければ日付や金額などをまとめてメモしておくようにしましょう

(3)医療費控除の対象にならない費用

医療費控除の対象にならない費用は、例えば健康診断の費用やビタミン剤など予防や健康増進のための費用※です。合理性のないタクシー代や新幹線代なども控除の対象外です。ただし妊婦の方が緊急で入院のためタクシーを利用したようなケースは控除の対象です。

※2017年1月からセルフメディケーション税制により、健康予防や健康増進のための一定の要件を満たす医薬品の購入品などが控除出来るようになりました。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。

妊娠・出産に関わる費用で医療費控除の対象にならないのは以下のような費用です。

  • 里帰り出産のための交通費
  • おむつ代やミルク代
  • 妊娠検査薬の購入代金
  • 入院時の差額ベッド代
  • 寝巻きや洗面具などの入院時の身の回り用品の購入代金
  • 入院・通院時の自家用車のガソリン代や駐車料金

(4)出産費用の医療費控除の計算例

実際の出産費用の控除額を具体例で見てみましょう

Aさんは出産費用が合計で70万円かかりました。
また、健康保険の出産育児一時金(※1)が42万円、加入している医療保険により10万円が補てんされました。
この場合の計算式は、

70万円-42万円-10万円=18万円

がAさんの実質負担額です。

※1   出産育児一時金とは健康保険から支給される分娩費用の補助金です。制度の詳細は各健康保険組合によって異なります。

よって、ほかに控除する医療費がなければ、

18万円-10万円=8万円を医療費として控除出来ます。
Aさんの所得税の税率が10%だとすると8,000円が還付されます。

また、この他にも高額療養費制度により払い戻しがあれば補てんされた金額に含めて計算します。健康保険には高額療養費制度があり、同一月にかかった医療費の合計額が一定の金額(対象者の収入により異なります)を超えた場合に、超えた金額の払い戻しを受けることができる制度です。

出産育児一時金に似た補助金で休業補償の性質をもつ出産手当金がありますが、こちらは医療費控除の補てんされた額には当たりません。

【参照】国税庁:No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例

2.医療費控除の申告の方法

出産費用の医療費控除を受けるためには確定申告が必要です。

確定申告に必要なものは以下の通りです。

  • 治療費の領収書※
  • 確定申告書
  • 医療費控除の明細書
  • 保険などから補てんされた金額のわかる書類
  • 医療費通知の書類
  • 勤務先からもらう源泉徴収票の原本
  • 印鑑・還付金の振り込み口座番号・マイナンバー

※2017年の確定申告より領収書の取り扱いが変わりました。医療費の領収書は添付せず、医療費の明細書に内容を転記します。領収書は税務署から照会があった場合に備えて5年分は自宅で保管しておく必要があります。

確定申告書の用紙は、税務署でもらうことができます。国税庁のホームページよりダウンロードもできます。

医療費控除の明細書も同様です。

医療費控除の明細書

必要書類が用意できたら管轄の税務署宛に郵送するか持参して提出します。各地域の確定申告会場でも受け付けています。e-Taxを使えばネットからの申告手続きもできます。

確定申告の提出期限は2月16日から3月15日までです。期間中は混み合いますが、還付の申告の場合は1月1日から受け付けてくれますので早めの申告をお勧めします。

確定申告書や医療費控除の明細書などの最寄りの税務署で入手できる他、国税庁のホームページ上で必要項目を入力してダウンロードしても利用できます。

3.出産費用の医療費控除のよくある質問

出産費用の医療費控除の際によくある質問をまとめています。

(1)医療費控除の申告を忘れてしまいました。

医療費控除の申告は過去5年までは遡って申告することが出来ます。
すでに確定申告済みの年度であれば更生の申告が必要です。

(2)家族の医療費をまとめて申告できる?

医療費控除の申告の際には患者本人だけでなく、生計をともにする家族や親族の分の医療費を支払った場合はまとめて控除の申告が出来ます。

生計を一つにしていることが要件などで必ずしも同居している必要はありません。遠隔地で一人暮らしの息子や別居の親なども対象に含めることが出来ます。この場合扶養していなくても対象となります。

税金の控除は所得が高く税率が高い人が控除の申告をした方が節税額が大きくなりますので、生計を一つにする家族の中で所得の高い人が控除の申告をするようにするのがよいでしょう。

(3)産後にかかった費用なども控除の対象になる?

産後の1ヶ月検診費用や助産師による産後ケア、母乳指導、母乳マッサージ費用などは控除の対象になります。

(4)交通費は控除出来る?

出産のための入院や検診の際に電車やバスなど公共交通機関を利用した交通費は控除の対象に含める事が出来ます。出産時に緊急でタクシーを利用した場合なども必要性があると認められるので控除の対象となります。

里帰り出産の帰省費用や自家用車のガソリン代、駐車料金やSuicaなどのチャージ代などは控除の対象になりません。

まとめ

出産費用は医療費控除の対象であり、税金の還付を受けることが出来ます。出産の前後はバタバタしているでしょうから可能であれば事前にポイントを押さえておくとよいでしょう。

出産育児一時金や出産手当金、保険からの給付など出産に対しては補助金なども多いのでかんたんに整理しておくことをお勧めします。

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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