奨学金を返済したら税金が控除される?
大学進学を機に学費を支払うため「奨学金」を借りる学生は多いでしょう。奨学金という名前はついているものの基本的には「借金」であるため、卒業後、少しずつ返済していく必要があります。
しかし、社会保障費が増えつつある中、給料の手取りも上昇する期待が薄いと負担は高まるばかり。できれば奨学金の返済に対して税金の控除が適用されれば若者の負担を下げることも可能ですが、現状、奨学金を返済しても税金が控除されることはありません。
今回はそんな奨学金にまつわる税金事情を紹介していきます。
1.奨学金をもらっても税金はかからない
まずは奨学金について簡単に理解をしていきましょう。
「奨学金」と一口に言っても、大きく分けて2つの種類があることを知っているでしょうか。奨学金の給付は「所得」とは認められないため、所得税はかからないのですが、それぞれの奨学金がどのように異なるのか見ていきます。
(1)給付型
「給付型」奨学金は学費を捻出するために支給されるものですが、「返済が不要」なのが大きな特徴です。
返済をする必要がないため卒業後の負担になることもありません。ただ、当然ながら学費を無条件で受け取れるというわけではなく「給付型」奨学金の申込基準は厳しくなっており、全ての学生が受けられるというわけではありません。
イメージとしては私立高校などでよくある「特待生制度(学費が無料)」のような感じです。
しかし、無償で学費を受け取れる「給付型」奨学金ですが、これは「所得」として識別されないのでしょうか。「所得」として法的に認められるのであれば、受け取った金額に対して所得税の支払いが発生します。
「所得税法第九条(非課税所得)第一項第十五号」には以下のような条文が記載されています。
第九条
「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」
第十五号
「学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するもの(給与所得を有する者がその使用者から受けるものにあつては、通常の給与に加算して受けるものであつて、次に掲げる場合に該当するもの以外のものを除く。)を除く。)及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」
(電子政府の総合窓口e-Govより引用)
このように「学資に充てるため給付される金品」として「奨学金」が該当するため、返済の必要がない給付型奨学金は「所得」ではあるものの「非課税」という解釈になります。
(2)貸与型
「貸与型」奨学金は給付型とは異なり「返済の義務」があります。返済に応じて利息の有り/無しといった違いもありますが、返済しなければならない以上これは実質的に「借金」です。
借金は所得ではないため、法律上も所得税がかかることはありません。基本的に、ほとんどの学生がこの「貸与型」奨学金を利用して大学に進学することが多いでしょう。
「奨学金の返済に苦しむ若者」といったニュースがよく話題にもなりますが、この場合には「貸与型」奨学金の返済と判断することができます。
2.奨学金の返済で税金は控除されるのか?
返済が必要な貸与型奨学金。大学卒業後、毎月少しずつ返済していくことになるのですが、社会保障費の増加による手取りの減少やいわゆるブラック企業で生活するのが精一杯な給料しかもらえない若者も多いでしょう。
例えば、このような返済に苦しむ若者の負担を軽くするためには奨学金の返済額を所得税や住民税の控除の対象とするといった制度があるといいのですが、現状、奨学金はあくまで借金であり、経費にはなりません。
控除になるものの一覧に奨学金の項目もありません。
そもそも控除の種類にはこのようなものがあります。
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 寄附金控除
- 医療費控除
全ての人が利用できる「基礎控除」や国民年金や健康保険料などが対象となる「社会保険控除」、ふるさと納税を利用した寄付などを行うことで適用できる「寄附金控除」、一定以上の医療費を支払った場合に適用される「医療費控除」などがあります。
これらの控除に奨学金の返済は該当しません。
奨学金の返済が控除の対象となれば、所得税や住民税の負担を軽くすることができ、若者の生活苦も少しは解消されるはずですが、今後変化していく兆しはあるのでしょうか?
3.控除になる動きはあるのか
少子高齢化が深刻化する中で、人口減少とともに社会保障費の増加が問題視され続けている現場で、私たちが支払う社会保険料もちょっとずつ上がっており、生活に負担をかけています。
若者の中には大学を卒業したにもかかわらず、十分な給与を得られる仕事に就くことができず、社会保険料の負担増と奨学金の返済が相まって生活苦に陥る人も少なくありません。
貸与型奨学金は実質的に「借金」であるのですが、大学進学のための学費として支給されるものであるため「控除」の対象として認められてもいいような気がします。
毎月の奨学金返済額が所得税や住民税の控除の対象になれば、社会保障費や奨学金返済費用は変わりませんが、控除によって支払う税金額を抑えることができます。そうすれば、生活苦に陥っている若者への負担も少しは軽減できるはずです。
しかし、奨学金の返済が控除の対象になるのであれば、奨学金を本来借りなくても大学に進学できる学生であっても、将来的な節税を見越して奨学金を借りるといったことが起きることも考えられます。借金をした人の方が得をするという変な現象も起きうるため制度設計について一考の余地が残されるでしょう。
ただ、今現在奨学金の返済を行っている人とこれから奨学金を利用する人で制度を分けて設計するといった発想も考えられます。
「奨学金の返済」が社会問題化する中で、若者の負担を少しでも軽減しなければ、少子化を軽減するための結婚や子育てといった人生のイベントにエネルギーを割くこともできなくなっていくでしょう。
さまざまな問題がチェーンで繋がっているような状態でその根本的な原因を解決するためにも制度の転換が期待されます。
まとめ
奨学金を返済しても所得税の控除の対象になりません。奨学金を借りるのは18歳の時期と物事を客観的に判断するには難しい年代でもあり、卒業してから奨学金の意味を理解する人も多いかもしれません。
若者にお金がないことが諸問題の根本的な原因としても考えられている中で、奨学金返済を税金の控除の対象とする動きは必要とされるのではないでしょうか。