ビットコイン それは一つの論文から始まった

ビットコイン

最近、再び仮想通貨(最近は広い定義でデジタル通貨とも呼ばれています。以下、必要に応じて呼称を使い分けます)が脚光を浴びています。理由はおそらく2つです。

1つは、2018年前半にコインチェックを始め、いくつかの仮想通貨流出事件が起こり、世界中の金融当局からコンプライアンスに関する締めつけが厳しくなっていった中で、終わったと思われていたビットコインの価格が今年に入って再び上昇基調に戻っていることです(ただし、2019年8月中旬から再び価格が低迷してきています)。

もう1つは、Facebookが発表したリブラ構想です。錚々たるビジネスパートナーを集めて華々しく発表されて仮想通貨リブラは、世界中の国々に衝撃を与えて、早くも各国首脳や国際機関などから懸念も含めて様々な意見が飛び出しています。

このような中で、私達は今、仮想通貨をどう考えるべきなのでしょうか?

今回は、仮想通貨の始まりまでを振り返り、将来、私達の生活の中に仮想通貨が浸透したらどのような影響があるのか、そして何が便利になり、どのようなことに気を付けなければならないのかについて解説したいと思います。

シリーズ1では、まずは「ビットコイン」を取り上げます。そして、シリーズ2では、「リブラ」を取り上げたいと思います。

1.リーマンショックが生んだビットコイン

皆さんは、リーマンショックを覚えていますか?リーマンブラザーズの破綻は2008年9月15日でしたが、その前年の2007年からアメリカを始め世界中で金融不安が拡大していきました。

その時、その危機をより深刻化させた要因の一つが、為替相場の急激な変動でした。当時、BRICsと呼ばれていたBrazil, Russia, India, Chinaに加えてSouth Africaなど経済成長を期待されていた国々は、自国通貨の為替レートの大きな変動に見舞われて経済の混乱に拍車をかけました。2007年は、円ドルレートを見ても、年初の1ドル120円から年末には1ドル110円まで円高に振れています。

1-1.世界で金融機関支援に税金が使われている時、一つの論文が発表された

このように世界中が金融危機に翻弄されていた最中に、一つの論文がインターネット上に発表されたのです。それは、2008年10月のことでした。その論文は「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」です。

【論文】Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System

この論文は「サトシ・ナカモト」という日本人を連想させる名前を使った匿名の人物によって書かれたものですが、この論文がビットコインの生みの親です。

この方が、この論文を書いた理由はいくつかあります。それは、リーマンショックで金融の中枢を担う先進国の銀行や証券会社だけが公的資金で救済されることに対する不公平感や、金融機関の思惑で為替レートが変動して損失を被る一般商取引をグローバルで安定的にすることが出来ないかというアイデアが主たる理由だったようです。

1-2.ビットコインのコンセプトは金融機関を介在させない決済

そして、その趣旨に賛同した複数の開発者が協力して実際の開発を進め、2009年1月にブロックチェーンの最初のブロック(genesis block)が誕生しました。これが「ブロックチェーン」によりオペレーションされるビットコインの本当の始まりです。

ブロックチェーンでは、台帳にすべての取引が記録され、その情報を複数の者が保持することにより、中央集権的な管理監督がなくても取引を管理することが出来るために、従前の送金や決済と比較して管理コストが低く抑えられるというのが利点です。また、グローバルに国境を越えて取引をする時でも、為替という概念を必要とせずビットコインという同一の単位で取引が出来ることも画期的な発想です。

これらは、既存の金融機関を必要としない新しい送金・決済手段であることを意味します。既存の金融機関を介在しないため、ビットコインの価値は、ビットコインを介して行われる取引において、その取引を行う者同士(peer to peer)でその価値を決めることになります。

1-3.Cryptocurrency(仮想通貨)の意味

日本では、最近は法律により暗号資産と呼ばれることになりましたが、仮想通貨の英語の正式名称は「Cryptocurrency(クリプトカレンシー)」です。暗号を意味する「crypto」と、通貨を意味する「currency」を組み合わせた「Cryptocurrency(クリプトカレンシー)」が英語の正式名称になります。

暗号を意味する単語が使われたのは、その管理手法がブロックチェーンと呼ばれる改ざんが基本的には不可能(※1)で、即座に読み解くが出来ない手法で管理されているからです。

歴史的にはCryptocurrency(クリプトカレンシー)と呼ばれてきましたが、最近では「Digital currency(デジタルカレンシー、日本語としてはデジタル通貨)」と呼ばれることが多くなってきました。これは、紙幣や貨幣という物理的な存在を必要とする既存の法定通貨を使う国の中で、ブロックチェーンの技術を使ってデジタルのみで存在する法定通貨を作ることを検討している国が出て来て実現が期待されるようになってきたからです。

つまり、「デジタル通貨」の中には、法定デジタル通貨も、ネット上の概念から生まれた仮想通貨も含まれることになります。

※1:実際には仮想通貨が普及する中でブロックチェーンの情報が改ざんされる事件がおこっていることに留意してください

2.ピザのデリバリーで始まった通貨としての機能

2009年10月には、ビットコインと法定通貨の交換レートがネット上で提示されました。その交換レートを使って実際にビットコインの取引が行われたわけですが、当時はビットコインの価格は1BTC(BTCとはビットコインの数量を表す単位です)に対して1円以下でした。

そして2010年5月、アメリカでビットコインがはじめて決済に使われました。それは、ピザ2枚と1万BTCを交換するというものでした。今でも、このピザの取引がされた5月25日は、ビットコインの日として関係者の間では特別な記念日として認識されています。

その後、ビットコインは徐々に世の中で認知されているようになりますが、2014年2月に当時世界最大のビットコイン取引事業者であったマウントゴックス社が、同社のビットコイン消滅事件を原因として会社を閉鎖する事件が起きるまでは、主にアメリカにおいて、新しい決済手段として先駆的な決済が試みられていたもので、比較的健全なFintechのトレンドの1つとして捉えられていました。

2-1.ビットコインの価格が変動し始めた理由

「思惑で買って事実で売る」

これは、株式投資の実態を表した有名な相場格言です。

2019年に入って再び価格が上昇基調になったビットコインですが、その経緯を振り返ってみたいと思います。

仮想通貨 ビットコイン

2014年2月に当時世界最大だった仮想通貨取引所マウントゴックスから、ハッキングにより顧客分の75万BTCと自社で保有している10万BTC、そして預り金約28億円が消失していることが判明して、マウントゴックスは事実上経営破綻しました。その後、国によっては仮想通貨の利用や流通を禁止する国が出て来ました。

同時に、資金決済法で仮想通貨の存在を認めた日本を始め、いくつかの国では仮想通貨を投資対象として取引をすることを主たる目的とした取引所や売買所が次々と誕生していきました。

このようなトレンドの中で徐々にビットコインは投資商品(一部の見解としては投機商品とも言えます)として世界中で認知されていきました。

2-2.2018年までのビットコインの価格の推移について

2017年になると、次から次へと新しい仮想通貨が生み出され、ビットコイン以外にも取引が出来る仮想通貨のラインナップが充実してきたこともあり、その取引手法の中に先物取引が出来る取引所なども出来て取引量が急激に増加していきました。

ここで、ビットコインの価格推移を見てみたいと思います(※)。

ビットコイン 価格推移

Bitcoin日本語情報サイト を利用して作った価格推移です。この価格推移は各月末時点の価格を拾っているので、瞬間的に240万円弱となった価格は反映されていません。

このグラフを見ると、2017年にはビットコインの価格が上り調子で上がっている様子が見て取れると思います。この頃には、仮想通貨に関するすべての情報がポジティブに捉えられて、まさにバブルの様相となっていったのです。

そして、そのバブルの終わりを告げる事件が日本で起こりました。2018年1月26日に、コインチェックにおける被害額580億円となる仮想通貨流出事件です。コインチェックで被害に遭ったのはビットコインではありませんでしたが、この事件を契機として仮想通貨のバブルは終わりを告げたのでした。

「思惑で買って事実で売る」これが、投資の実態を表す適切な格言です。しかしながら、コインチェックの事件が起こるまで、仮想通貨は、「思惑で買って思惑で売る」だったのです。これは、まさにバブルを意味します。実態のないバブルはいつか崩壊します。崩壊の引き金は直接的でないことが多いですが、多くの場合、事実がきっかけとなっています。その意味で、コインチェックの事件は、仮想通貨バブルの崩壊につながる事実だったわけです。

2-3.2019年のビットコインの価格の推移について

2019年に入ってから、バブル崩壊によって終わったと思われていたビットコインの価格が再び上昇に転じました。

【詳細】みんかぶ 仮装通貨 チャート一覧

2018年1月のコインチェック事件以後も、ビットコインの可能性を信じる事業家は残っていました。その中でも世界的に有名なのは、Facebook創業者のザッカーバーグの大学時代の友人であり、ザッカーバーグを相手に訴訟をして和解を勝ち取ったウィンクルボス兄弟です。彼らの言い分は、「ビットコインは投機商品ではなく金よりも安全な投資商品である」というものでした。

実際に、2019年に入ると、ビットコインの価格は金の歴史的価格変動と相似しているというレポートがいくつも出ています。以下のサイトでは分かり易く詳細を説明しています。

【参照】NEXT MONEY 「金」と「ビットコイン」を比較したレポート

3.ビットコインの価格変動は何故起こるのか?

ビットコインが金と同様な投資商品であるかどうかは、まだ断定的なことは言えない状況です。実際に、現在(2019年8月中旬)、米中貿易戦争や緊張したイラン情勢等を背景にした株安の中で、金は避難先となって価格が上昇していますが、ビットコインは下落基調です。

しかしながら、いずれにしても、一時期のバブルの様相はなくなり、価格変動はある種の投資商品のようになってきています。

3-1.政治不安

トランプ大統領をはじめとして、現在世界中で自国第一主義を唱える国のトップが増えています。

このような中で、米中貿易戦争や、メキシコと米国の国境閉鎖問題などで世界的な政治不安が起こると、ビットコインの価格は上昇する傾向がみられます。

3-2.資源価格等の変動

ウィンクルボス兄弟は現在、仮想通貨取引所Geminiを運営しています。

ビットコインはある種の資源商品であると唱える彼らが取引所を運営することで、おのずと資源価格との連動性が出てきています。これは、「思惑で買って事実で売る」という投資格言が生きた投資格言であることを示しているともいえると思います。

3-3.為替相場の変動

世界的にリスクオフ(リスク回避)がトレンドとなると、安全通貨である円が上昇するのはもはや常識ですが、ビットコインを始めとするいくつかの主要な仮想通貨も、マーケット環境がリスクオフトレンドとなると価格が上昇するようになってきています。

3-4.新しい仮想通貨の登場

株式市場において将来有望なユニコーン企業が上場すると、株価が活況となることはよく知られています。同様に、新しい仮想通貨が登場することで、既存の仮想通貨であるビットコインの価格が上昇するという連動性があります。最近では、Facebookがリブラ構想を発表した時に、ビットコインの価格は上昇しています。

3-5.機関投資家によるテクニカル売買の増加

現在、アメリカや一部の欧州の国では、仮想通貨の運用手段が複雑化しています。先物取引が加わっており、その多くは機関投資家によるものです。したがって、動かす資金も大きいことから、一種のテクニカル売買によってビットコインの価格は変動するようになってきています。

4.まとめ

ここまでビットコインの誕生から、そのバブルの崩壊、そして今年に入ってからの価格変動の要素などについて見て来ました。世界のマーケットの中で、ビットコインは飛び抜けた存在ではありますが、残念ながら当初その論文が唱えていたような法定通貨に取って代わる新しい通貨の概念を定着させているとは言い難いです。

しかしながら、ビットコインが誕生したことで、金融の世界では画期的な動きが生まれています。一つは、ブロックチェーン技術の活用であり、もう一つは本格的なデジタル通貨が生まれる可能性です。

ブロックチェーン技術の活用

ブロックチェーン技術は、これまで金融機関が担ってきた金融の中核を成す「フレームワーク」において、金融の仕組みそのものを大きく変えようとしています。ブロックチェーン技術は、巨大なサーバーを要する中央集権的な取引管理手法を否定する新しい技術という立場を確たるものにしつつあります。そのインパクトは、ビットコインなどの仮想通貨とは比較にならないほど大きいものになるはずです。

そして、そのブロックチェーン技術を活用して、いくつかの国々では、法定デジタル通貨の発行を検討しています。法定デジタル通貨に関しては、その最先端を走っているのはキャッシュレスが進んでいるスウェーデンです。eクローネという法定デジタル通貨がこの世に生まれる日も近いと思われます。

Facebookが発表したリブラ構想

そして、もう一つは、Facebookが発表したリブラ構想です。リブラ構想こそが、まさにビットコインの欠点を補って、当初ビットコインが目指したシームレスな決済や送金をグローバル規模で可能とする画期的な構想であると言えます。

しかしながら、世界中の国々や国際機関から、リブラ構想に対して否定的な発言が続いています。それは、最近何かと問題を起しているFacebookというGAFAの一角を成す巨大企業が提案者であることだけが理由ではなさそうです。

では、リブラ構想の何が画期的なのか?リブラ構想の発表から数か月が経ち、その内容分析も進んできたことから、改めてリブラ構想とは何かを仮想通貨シリーズ2で考えてみたいと思います。

関連記事
Libra logo
世界を震撼させたリブラとは?-国家が持つ通貨発行権に挑戦したFacebook
最近、仮想通貨(最近は広い定義でデジタル通貨とも呼ばれています。以下、必要に応じて呼称を使い分けます。)が再び注目さ…[続きを読む]
執筆
荒井 薫(あらい かおる)
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
荒井 薫 ブログサイト この執筆者の記事一覧
\この記事が役に立った方は是非シェアをお願いします/
  • Pocket