書籍・雑誌はなぜ軽減税率の対象にならないのか?
軽減税率の対象は「飲食料品」と「新聞」です。
読書家の方は、「あれ?なぜ新聞は軽減税率の対象なのに、書籍と雑誌は対象にならないの?」と疑問を持たれることでしょう。
実は、書籍と雑誌を軽減税率の対象にしようという動きはありましたが、結局、見送られてしまったのです。その経緯を追ってみます。
目次
1.新聞はなぜ軽減税率の対象なのか?
「そもそもなぜ新聞が軽減税率の対象に含まれているの?」と疑問をお持ちの方も多いでしょう。
そこでまずは、新聞が軽減税率の対象となった理由を簡単にまとめます。
- 新聞は国民の生活に密着しており、公共性がある
- 広くあまねく情報を均質に伝えるメディアである
- 活字文化の維持・普及のため
- 世界各国でも新聞に軽減税率を適用している国が多い
様々な憶測がインターネット上で流れていますが、業界団体の声明や政府の発言をまとめるとおおむね上記の理由にまとめられるでしょう。
日本に先行して軽減税率を導入しているヨーロッパ諸国では新聞を軽減税率の対象としている国が多く、その辺も判断基準のひとつになったと思われます。
2.欧米では書籍・雑誌も軽減税率
新聞が軽減税率対象であることの是非はさておき、「活字文化」という意味では書籍・雑誌もそれに該当します。
新聞と同様に、ヨーロッパ諸国では書籍・雑誌を軽減税率対象としている国も多いです。主要国での税率を表にしましたが、どの国でも、書籍・雑誌は優遇されていることが分かります。
国 | 標準税率 | 新聞 | 書籍 | 雑誌 |
---|---|---|---|---|
イギリス | 20% | 0% | 0% | 0% |
フランス | 20% | 2.1% | 5.5% | 2.1% |
ドイツ | 19% | 7% | 7% | 7% |
イタリア | 22% | 4% | 4% | 4% |
スペイン | 21% | 4% | 4% | 4% |
3.日本の書籍・雑誌では有害図書が問題に
政府や自治体、公益法人が出版する書籍・雑誌には公共性もありますし、これらの根拠をまとめると一見軽減税率の対象となっても良さそうに思えます。
しかし、日本では、書籍・雑誌が軽減税率の対象となるには「有害図書」の存在が障害となったのです。
有害図書とは、性や暴力表現などの反社会的な描写を含むとして地方自治体等から指定された書籍のことを言います。
書籍や雑誌を軽減税率対象に含めるとなると、同時に有害図書についての取り扱いを決定しなければなりません。
今後、書籍や雑誌が軽減税率の対象に追加される可能性が無いとは言えませんが、最終的にはこの有害図書の存在がネックになり見送られたという背景があります。
4.出版業界と政府が対立
書籍・雑誌を軽減税率の対象に含めて欲しい出版業界の各団体は、政府に対してロビー活動を続けています。
数年前から現在までの経緯をまとめておきます。
- 2016年度の税制改正大綱では、有害図書排除の仕組みの構築状況等を考慮しながら引き続き検討すると提言
- 2018年6月11日、出版系の4団体が自主的な方針を決定。有害図書の基準を作成したうえで、軽減税率対象となる書籍に「出版倫理コード」を付与することで対応。併せてコードを管理する団体を出版社団体で設立するとした。
- 2018年12月14日、自民・公明両党は書籍・雑誌への軽減税率適用を見送った
ひとまず軽減税率導入開始と同時に書籍・雑誌が軽減税率の対象となることは見送られました。
しかし出版社団体は今後も引き続き適用を求めると声明を出しており、しばらくは出版業界と政府との攻防が続くものと思われます。
出版社団体の主張
「そもそも書籍・雑誌が軽減税率の対象にふさわしいのか?」という疑問をお持ちの方もいると思います。
出版社団体は、生活必需品である食料品が「身体の糧」であるならば、出版物は「心の糧」であり、人生には欠かせないものであると主張しています。
また、増税によって出版物の買い控えが起きれば、民主主義の健全な発展と知的生活の向上の妨げになるという意見もあります。
先ほど触れたヨーロッパでの導入例も含めて、これらが出版物を軽減税率対象とすべきという主張の根拠です。
5.有害図書排除の問題点
書籍や雑誌が軽減税率の対象から見送られた要因である「有害図書」の存在ですが、なぜ問題がこじれているのでしょうか。
まず、何をもって「有害図書」とするのかの判断が非常に難しいという点が挙げられます。
「露骨な性や暴力表現」という基準もあいまいですし、現在は各都道府県によって判断が異なる部分もあります。
有害図書を軽減税率の対象から除外するとなれば基準の統一は不可避ですが、国が有害図書を指定する行為は検閲に当たる恐れもあり、政府に都合が悪い書籍が有害図書に指定されるなどの悪影響も懸念されるところです。
さらに言えば、自費出版の書籍まで含めると判定しなければならない出版物は膨大な数にのぼるでしょう。
これらの問題解決策として出版社団体は有害図書の基準を作成したうえで、「出版倫理コード」によって有害図書を振り分ける方針を打ち出しました。
しかしこの対策にも問題点が指摘されているところでもあります。
租税法律主義に違反するとの見解も
先ほど触れた通り、出版社団体はコードを管理する団体によって有害図書を判定する案を出しました。
しかし「民間団体が判定すること」自体が問題となる可能性があるのです。
日本の税制は「法律の根拠に基づいて課税する」という租税法律主義に基づいています。
出版業界などの民間団体が「出版倫理コード」によって有害図書の振り分けをすることは、実質的に民間団体が税率を決定しているようなものです。
この方式は租税法律主義に反するのではないかという見解も出されており、実現に至るまでにはまだまだハードルが存在していると言えるでしょう。
まとめ
新聞が軽減税率の対象となる一方、書籍や雑誌が軽減税率の対象から除外された理由について解説してきました。
新聞同様に書籍や雑誌も「活字文化」として守っていかなければならないものであり、欧米の各国では、書籍・雑誌も新聞と同様に軽減税率の対象となっています。
一方、日本では、書籍・雑誌が軽減税率の対象となるためには有害図書の取り扱いが問題になりました。
出版業界団体はなんとか軽減税率の対象に選定されるようロビー活動を継続しているので今後の展開はわかりませんが、まだまだ解決しなければならない問題は山積みです。
そもそも各業界がロビー活動によって軽減税率を勝ち取るといった構図は癒着の温床にもなりかねませんし、その点も問題視されています。
いずれにしても私たちの生活にも影響してくることなので、引き続き注目していきましょう。