老人ホームの食事は軽減税率の対象になる?

老人ホーム 介護

レストランやファストフードなどの外食で提供される飲食料品は、軽減税率の対象とならず10%が適用されます。

では、有料老人ホームで入居者に提供される食事の税率は、8%なのでしょうか10%なのでしょうか。
答えは、「原則8%」なのですが、「例外」があります。

有料老人ホームの経営者や経理担当者は、軽減税率の仕組みを正確に理解して、入居者から消費税を正確に徴収する必要があります。

1.軽減税率の対象となる施設

老人福祉法第29条1項による届出が行われている有料老人ホームでの飲食料品には軽減税率が適用され、税率は2019年10月以降も8%のままです。入居している高齢者の負担はその分軽減されます。
また、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)における飲食料品も軽減税率の対象になります。

この2つの施設の特徴を紹介します。

1-1.有料老人ホーム

有料老人ホームには介護付有料老人ホームと住宅型有料老人ホームがありますが、いずれも介護が必要な高齢者が入居します。
その形態によって、入居している高齢者に食事、洗濯、清掃などのサービスを提供しています。

介護付有料老人ホームは介護保険制度上の施設で、入居者に排泄介助、入浴介助、身体介護、機能訓練、レクリエーションなどの「特定施設入居者生活介護」を提供します。
また住宅型有料老人ホームの入居者も、訪問介護を受けることで、介護付き有料老人ホームと同じ介護サービスを受けることができます。

1-2.サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

サービス付き高齢者向け住宅とは「高齢者の居住の安定確保に関する法律」第6条1項で規定された住宅です。

サービス付き高齢者向け住宅は、有料老人ホームより一般賃貸住宅に近い形態の共同住宅です。ただ入居者を60歳以上の高齢者や、60歳未満の要介護認定者を対象にしています。

サービス付き高齢者向け住宅の経営者(大家)は、高齢を理由に入居を断ることはできませんし、契約更新もありません。高齢者が一般賃貸住宅の入居を断られることが社会問題化したため、サービス付き高齢者向け住宅が誕生しました。
有料老人ホーム同様、サービス付き高齢者向け住宅も「終の棲家(ついのすみか)」になり得る家です。

2.食事の価格の条件

有料老人ホームなどで提供される食事などの飲食料品が軽減税率の対象になるには、一定金額より安い料金にする必要があります。

2-1.価格条件と具体例

軽減税率8%の対象になるのは、1食640円以下1日1,920円以下の飲食料品に限られます。8%の対象になるケースとならないケースを紹介します。

<8%対象になるケース>
・朝食640円、昼食640円、夕食640円(1日1,920円)
・朝食400円、昼食500円、夕食640円(1日1,540円)
<8%対象にならないケース>
・朝食640円、昼食640円、夕食800円(1日2,080円)
→総額が1,920円を超えているので、朝食と昼食のみ8%、夕食は10%   

・朝食400円、昼食500円、夕食1,020円(1日1,920円)
→夕食が640円を超えているので、朝食と昼食のみ8%、夕食は10%

例えば、朝食や昼食のグレードを落として夕食だけ豪華にして1日1,920円以下にしても10%が適用されてしまいます。

2-2.書面で決められている場合

有料老人ホームによっては、3食の値段を定めず「1日いくら」と決めていますが、軽減税率導入後は、「1食いくら」と決めたほうが、入居者(高齢者)に有利になります。

それというのも、国税庁が「累計額の計算の対象となる飲食料品の提供(640円以下のものに限る)をあらかじめ書面により明らかにしている場合は、その対象飲食料品の提供の対価の額により、その累計額を計算する」というルールを設けているからです(※)。

つまり、書面に「朝食、昼食、夕食をそれぞれ1食640円以下とし、累計額の計算の対象とする」と書けば、軽減税率の対象になるということです。

また、朝昼夕の3食に加えて、おやつを出しいている場合も同じルールが適用されます。このとき、軽減税率の対象を書面にするか・しないかで、同じ飲食料品を提供していても消費税の総額が変わってきます。

2-2-1.軽減税率の対象を書面にしないケース

まずは「軽減税率の対象を書面にしないケース」を解説します。
この有料老人ホームで3食とおやつの価格を次のように決めていたとします。

朝食600円、昼食600円、おやつ300円、夕食600円

朝食と昼食とおやつで1,500円となり、ここまでは1,920円以下なので軽減税率の対象となります。しかしここに夕食を加えてしまうと2,100円となり、1,920円を超えてしまいます。この場合、夕食600円分は税率10%が適用されます。

飲食料品の提供を受ける人(入居している高齢者)は、1日分の食事として税込総額2,280円/日を支払うことになります。
計算式は以下のとおりです。

・1,500円×1.08+600円×1.1=2,280円

2-2-2.軽減税率の対象を書面にしているケース

次に「軽減税率8%の対象は朝昼夕食の3食、標準税率10%の対象はおやつ」と書面にしているケースを解説します。
この有料老人ホームで3食とおやつの価格を次のように決めていたとします。

朝食600円(軽減税率)、昼食600円(軽減税率)、おやつ300円(標準税率)、夕食600円(軽減税率)

飲食料品の提供を受ける人(入居している高齢者)は、税込総額2,274円/日支払うことになります。計算式は以下のとおりです。

・(600円+600円+600円)×1.08+300円×1.1=2,274円

つまり同じ内容の食事とおやつを提供していても、軽減税率の対象を書面にしているか・していないかで、入居者の負担金額が変わってくるのです。
入居者の税負担を軽減するには「書面にしたほうがよい」のです。

※【出典】国税庁:消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)

3.【参考】老人ホームでの消費税

有料老人ホームでの飲食料品の軽減税率の解説は以上ですが、「参考」として老人ホームでの消費税について紹介します。

3-1.介護保険

要介護認定などを受けている高齢者は、介護保険制度の介護サービスを利用できます。介護保険制度の介護サービスは、自己負担1~2割で受けることができます。
この自己負担の金額には消費税はかかりません。

介護サービスのなかには、食事づくりや部屋のなかの掃除が含まれ、これらのサービスを介護保険制度ではない形で受けると、消費税が発生します。
介護保険制度の食事づくりや掃除が非課税になるのは、社会政策的な配慮から非課税が適切であるとみなされているからです。

3-2.日常生活費

老人ホーム内の高齢者は、介護保険制度上のサービスだけでなく、日常生活に必要なものやサービスの提供を受けています。

介護サービスの種類によっては、老人ホーム内の日常生活費については、消費税の対象とはならず、非課税です。
ただ、日常生活費は全額、高齢者が自己負担することになります。

日常生活費以外は、標準税率で課税されます。

まとめ

有料老人ホームの食事には原則、軽減税率が適用されますが、次のような条件があります。

  • 法律で定められた届出を行っていること
  • 1食640円以下、1日1,920円以下であること

軽減税率制度により入居者(介護高齢者)の負担を減らすことができますので、有料老人ホームの経営者や経理担当者は軽減税率について熟知しておいてください。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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