転職したら退職金をもらえるのか?
長年勤めた会社を退職する時に「退職金」を貰えることはご存知だと思います。しかし、今の時代、生涯同じ企業に勤めるということは減り、転職をする人が多くいます。では、そんな時、退職金は貰えるのでしょうか。今回は、転職した際の退職金について詳しく解説していきます。
1.転職したときの退職金
1-1.退職金の仕組み
まずは退職金の仕組みから見ていきましょう。
退職金とは、企業が勤めていた従業員に対してその功労をねぎらい、退職後の生活を保障するために支給する、いわば報償的な意味合いの強い給与のことです。その企業への貢献度や勤続年数、役職によって退職金の金額は決まります。
以前は、企業と従業員の間で終身雇用が通常であったため、老後の生活のための資金の意味合いが強いものでした。しかし、働き方改革や労働者の意識の変化などにより、終身雇用制がなくなったり、定年後も働くことができる再雇用制を導入している企業の増加などで、その意味合いは薄れつつあります。
1-2.転職して退職金をもらう
では、転職した場合、退職金はもらえるのでしょうか。
そもそも、退職金は、支給が法律で定められているものではないため、支給の有無やその金額、何年勤務したら退職金がもらえるのかなどは、企業によって異なります。中小企業の場合、退職金の制度がなかったり、退職金の制度のある大企業でも勤続年数が短いと、退職金の支給がないことも多いです。退職金の制度がある場合は、就業規則や支給規定などにその旨が記載されています。
また、退職金は企業への貢献度や勤続年数、役職によって退職金の金額が決まることが多いので、退職理由によっても退職金の支給の有無や金額が変わることもあります。退職理由には、自己都合退職と会社都合退職があります。自己都合退職とは今より待遇の良い会社に転職するなど、従業員の都合での退職のことです。会社都合退職とは業務の縮小や倒産など会社の都合での退職のことです。
東京都産業労働局による「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」によると、集計企業のうち、退職金の支給を受けることができる最低勤続年数は、自己都合退職、会社都合退職ともに3年という企業が最も多い結果となりました。
また、退職金の支給方法は一般的に、退職の際に一括して一時金として受け取る退職一時金制度と、退職金を一時金ではなく、一定期間または生涯にわたって年金として受け取る退職年金制度があります。どちらを採用するか、もしくは併用するかについても企業が独自で決めることができます。
1-3.その他の制度
退職金の支給方法には、退職一時金制度と退職年金制度の2つが一般的ですが、それ以外の制度を採用している企業もあります。ここでは退職一時金制度と退職年金制度以外の方法を確認していきます。退職一時金制度と退職年金制度以外の方法で主なものは次の3つです。
①厚生年金基金
厚生年金基金とは、簡単にいうと企業が運営する年金制度のことです。これと似ているものに厚生年金がありますが、厚生年金は国が運営しています。
厚生年金基金に加入していれば、定年退職後に厚生年金に上乗せして、厚生年金基金からの年金も受け取ることができます。厚生年金基金は、大企業が自分で運営しているものや複数のグループ企業で運営しているもの、同業種の団体などが運営しているものなど、様々です。厚生年金基金への加入は企業ごととなっているため、勤務先が加入しているかどうかで、従業員が加入できるかどうかが決まります。
厚生年金基金に加入している企業から加入していない企業に転職した場合、今までの掛金に対する支給がどうなるかは、その基金ごとで異なりますが、多くの場合、脱退一時金として受け取るか、将来、企業年金連合会などから年金を受取るかになります。
②確定給付企業年金
確定給付企業年金とは、従業員が将来受け取る金額(給付額)があらかじめ決まっている企業年金のことです。企業が拠出や運用などを行います。この制度の一番のメリットは、生命保険会社や信託銀行、企業年金基金など外部の機関が掛金を管理しているため、勤務先が倒産したとしても、掛金が保全されることです。そのため、多くの企業が確定給付企業年金に加入しています。
③確定拠出年金(企業型)
確定拠出年金(企業型)とは、簡単にいうと企業が、毎月一定額の年金資金の積み立てをし、従業員が自ら運用していく制度です。いくらをどの金融商品に配分して運用するかなどを、従業員が自由に配分できます。
運用している資金は、60歳になると一時金または年金の形式で受け取ることが可能です。
転職する場合は、原則、資金の移管が必要です。転職先が確定拠出年金(企業型)に加入している場合は転職先に、加入いていない場合は確定拠出年金(個人型)に移管されます。
1-4.退職金の相場
では、転職する場合の退職金の相場はどうなっているのでしょうか。一般社団法人日本経済団体連合会では、2年に一度、退職金・年金に関する実態調査を行っています。
2017年に発表された「2016年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」によれば、学校を卒業してすぐに入社した「管理・事務・技術労働者(総合職)」の場合、3年での退職の退職金の平均額は、大学卒が 67.9万円、高校卒が 48.5 万円、5年での退職の退職金の平均額は、大学卒が 118.6万円、高校卒が 82.3 万円となっています。勤続年数が長いほど退職金の金額も多くなります。
2.過去の裁判例
2-1.10年退職金事件
実は、転職による退職金について過去に裁判が起きています。ここではその中でも有名な「10年退職金事件」について見ていきましょう。
2-1-1.事件概要
この事件は、ある会社が勤続満10年をもって定年とし、退職金を支給する制度を採用していたことが発端となっています。この会社に勤める従業員は10年経つと定年退職し、退職金を受け取ります。しかし、実際は、定年後も改めての採用があり得る制度であったため、ほとんどの従業員が引き続き、しかも以前と変わらない形態で同じ会社に勤務、社会保険などもそのままになっていました。
会社は、退職金に対する所得税を退職金から天引きし、国にきちんと納めていたのですが、退職金には大きな非課税枠があるため、通常の給料よりも少ない所得税で済みます。
税務署としては、これは退職金ではなく給与であるとして、給与としての所得税を支払う旨告知したため、この会社が訴訟を起こしました。
2-1-2.判決
この事件は、その支給が退職金になるかどうかを争ったものです。結論から言うと、この給付は退職金でなく給与であるとの判決となりました。最高裁判所では、退職金になるためには、以下の3つの要件が必要と規範を論じました。
- 退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること
- 従来の継続的な勤務に対する報償、ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること
- 一時金として支払われること
また、形式的にこれらの要件を満たしていなくても、実質的にみてこれらの要件を満たしている場合は、退職金に該当するということも述べています。
その上で、今回の10年定年退職の制度は、従前の勤務関係をそのまま継続させることを予定して運用されていた制度であり、退職すなわち勤務関係の終了という事実には該当しない。そのため、退職金ではなく給与とみなすべきであると結論づけました。
2-2.退職金の注意点
10年退職金事件では、「退職」とは何かが問題になりました。現在、多くの企業で再雇用制度を採用しており、定年退職以外でもいったん退職して退職金を受け取り、元の企業に再就職できる企業も増えています。こうした場合にも、退職の認定について注意を払う必要があります。
10年退職金事件の判決を踏まえると、退職すなわち勤務関係の終了を認定するには、再雇用後の勤務関係が退職前の勤務関係の延長ではなく、新たな雇用関係に基づくものであり、その事実を総合的に判断できなければならないことになります。
企業は再雇用制度を実施するに当たり、就業規則にその旨を明記したり、再雇用者に対して新たな雇用契約書の作成や社会保険の切り替えを行うなどの体制を構築し、その制度を導入するに至った背景をきちんと説明できるようにしなければなりません。また、同じ企業への再就職だけなく、グループ会社などに転職する場合も、同じことが問題になる可能性があります。
一方、再雇用やグループ会社などへの転職時に退職金を受け取る側も、自分の受け取った退職金がのちに給与として認定されると、追加で源泉所得税を支払わなくてはいけないことがあります。会社の制度などをきちんと確認しておくことが必要でしょう。
まとめ
転職と退職金の関係について理解していただいたでしょうか。一定期間在籍すれば、中途退職しても、退職金を受け取ることができる企業は多いですが、長く勤めている人よりも退職金が少なくなるなどデメリットもあります。転職について考える際は、退職金のことも考慮に入れましょう。