退職金にかかる税金の計算方法は?確定申告は必要?

一般的に、退職する際には「退職金」というものを貰えることはご存知だと思います。
退職金は税金面では優遇されていますが、特定のケースでは自ら確定申告をしないと損をしてしまうような場合もあります。
今回は他にも、退職金に係る住民税など「退職金」について幅広く、丁寧に解説していきます。
目次
1.退職金とは
1-1.退職金の意義
退職金とは、企業が長年勤めていた従業員に対してその功労をねぎらうために支給する、いわば報償的給与のことです。退職金の支給は法律で決められているものではないため、支給の有無やその金額、何年勤務したら退職金がもらえるのかなどは、その企業の裁量に任されています。
終身雇用制が一般的であった時代では、老後の生活のための資金の意味合いが強いものでしたが、終身雇用制の崩壊や再雇用制を導入する企業の増加などで、その意味合いは薄れつつあります。とはいえ、退職金制度を導入している企業は数多くあります。
1-2.退職金の平均
では、一般的に退職金はいくらぐらい支給されているのでしょうか。
一般社団法人日本経済団体連合会では、2年に一度、退職金・年金に関する実態調査を行っています。2017年に発表された「2016年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」によれば、卒業してから退職するまで、1つの会社で働いた「管理・事務・技術労働者(総合職)」の60歳での退職金の平均額は、大学卒が 2,374.2 万円、高校 卒が 2,047.7 万円となっています。
1-3.退職金の条件
退職金は、その支給が法律で決められているものではありません。しかし、東京都産業労働局による「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」によると、集計企業のうち、退職金制度について「制度あり」と回答した企業は69.8%。多くの企業が退職金制度を導入しています。
また、同調査では、退職一時金受給のための最低勤続年数についても記されており、それによると退職金の支給を受けることができる最低勤続年数は、3年という企業が最も多いことがわかります。
では、パートやアルバイトでも退職金はもらえるのでしょうか。一般的に、パートやアルバイトに退職金を支払っている企業は多くはありません。しかし、「パートタイム労働法」の改定や「同一労働同一賃金」が進むことにより、今後、パートやアルバイトでも、正社員と同じ仕事をしている場合は、退職金の支給を受けることができる可能性は高くなると考えられます。
1-4.退職金の種類
退職金には、その受け取り方に応じて大きく次の2種類に分けられます。
①退職一時金制度
退職の際に一括して一時金として受け取る制度です。退職一時金制度で受け取る退職金は「退職所得」に該当します。
この後詳しく説明します。
②退職年金制度
退職金を一時金ではなく、一定期間または生涯にわたって年金として受け取る制度です。
実は、退職年金制度は、所得税の取り扱いが退職一時金制度と異なります。
2.退職金と所得税
ここからは、退職金と税金について見ていきましょう。まずは、所得税からです。
2-1.所得区分とは
所得税とは、個人が1年間のもうけ(所得)に対して支払わなければならない税金のことです。
しかし、個人が1年間に受け取る収入には、給与であったり、物を販売して得るものであったりとさまざまです。そこで、その収入の発生原因に応じた課税方法を採用するため、収入に応じて以下の10種類の所得に区分されています。
- 利子所得
- 配当所得
- 不動産所得
- 事業所得
- 給与所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 退職所得
- 山林所得
- 雑所得
退職金についても退職所得として、給料とは別の課税方法がとられています。
2-2.退職所得とは
退職所得とは、退職したことに基因し、一時に支払われることとなった給与(退職手当等)の所得のことです。原則、勤続期間等に応じて計算されます。そのため、会社を退職して受け取る退職金だけでなく、従業員から執行役員になった場合の、従業員として勤務した期間に応じて支払われる一時金は退職金とみなされます。また、退職時に支給される給与でも、勤続期間等に応じたものでなく、通常の賞与の一部として考えられるものは、退職金にはなりません。
具体的には、退職手当、退職一時金、一時恩給、社会保険や共済など各制度から受ける一時金などが退職所得の対象となります。
退職所得の計算方法
では、退職所得はどのように計算されるのでしょうか。原則、退職所得は次の計算式で計算されます。
退職所得=(その年の退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は、勤続年数に応じて次のように定められています。
【退職所得控除額】
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
※勤続年数に1年未満の端数があるときは、1年とします。
具体例を見てみましょう。
例1)勤続年数が19年で退職金1,000万円の場合
退職所得控除額=40万円×勤続年数19年=760万円
退職所得=(その年の退職手当等の収入金額1,000万円-退職所得控除額760万円)×1/2=120万円
例2)勤続年数が21年で退職金1,500万円の場合
退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数21年-20年)=870万円
退職所得=(その年の退職手当等の収入金額1,500万円-退職所得控除額870万円)×1/2=315万円
所得税は、上記で計算した退職所得に所得税率を乗じ、控除額を差し引いて計算します。所得税率は給与所得や事業所得と同じ税率(累進課税)を用います。所得税率は以下のとおりです。
退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
例1の場合、退職所得は120万円で、「税率5%」のため所得税の金額は次のようになります。
所得税額=退職所得金額120万円×税率5%=6万円
退職年金制度の場合
退職年金制度として受け取る年金は、他の公的年金と合わせて「雑所得」として所得税を計算します。公的年金等に係る雑所得は、次の計算式で計算します。
区分 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 割合 | 控除額 |
---|---|---|---|
65歳未満 | 130万円未満 | 100% | 70万円 |
130万円以上410万円未満 | 75% | 37.5万円 | |
410万円以上770万円未満 | 85% | 78.5万円 | |
770万円以上 | 95% | 155.5万円 | |
65歳以上 | 330万円未満 | 100% | 120万円 |
330万円以上410万円未満 | 75% | 37.5万円 | |
410万円以上770万円未満 | 85% | 78.5万円 | |
770万円以上 | 95% | 155.5万円 |
例えば、66歳で年間400万円の退職年金を受け取っている場合の、公的年金等に係る雑所得の金額は次のとおりです。
公的年金等に係る雑所得の金額=公的年金等の収入金額の合計額400万円×割合75%-控除額37.5万円=262.5万円
※公的年金等に係る雑所得は、給与所得など他の所得と合算し、所得税の金額を求めます。
基本的に退職年金についても所得税は天引き(源泉徴収)されているため確定申告の必要はありませんが、他の所得がある場合や医療費控除による所得税の還付を受ける場合などは、確定申告を行います。
2-3.なぜ優遇されるのか
退職金は、退職所得控除があるなど税制面での優遇があります。例1の場合、退職金1,000万円に対して、所得税は6万円のみです。では、なぜ退職金は優遇されているのでしょうか。
それは退職金が、今まで会社に貢献してきた人に対する功労報償的性格と、退職後の生活のために支給される生活保障的性格を併せ持っているためです。功労報償的性格や生活保障的性格を併せ持つ退職金に対して、多額の所得税を課すのは社会通念上そぐわないことから、税制面で優遇を受けています。
3.退職金と確定申告・年末調整
ここからは、退職金を受け取った場合の手続きについて見ていきましょう。退職金の所得税は、分離課税制度を採用しています。分離課税制度とは、通常の所得税とは分けて申告・計算する制度のことです。
3-1.退職金の確定申告
では、退職金を受け取った人が必ず確定申告しなければならないかというと、そうではありません。
通常、退職金の支給がある場合は、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。用紙は勤務先で用意されていることが多いです。
勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、勤務先の方で退職金に対する所得税を計算し、所得税を天引き(源泉徴収)した後の金額を退職者に支給します。所得税については源泉徴収で課税関係が終わるため、その後、退職金を受け取った人が確定申告をする必要はありません。
しかし、以下のケースでは自分で確定申告を行ったほうが良いでしょう。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合
勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、一律20.42%の所得税(復興特別所得税を含む)が天引きされています。
確定申告を行い所得税の精算をすると払いすぎた税金が還付されます。その場合は、確定申告書Bの第一表、第二表に加え、第三表(分離課税用)の提出が必要となります。
所得控除の金額が余っている場合
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していても、その年に受け取った給与が少なく所得控除の金額が余った場合、余った控除分を退職所得から差し引くことができます。
確定申告をすることで、源泉徴収された税金の一部を取り戻せる可能性があります。
副業で赤字がある場合
事業所得や不動産所得があり、赤字が出ている場合も確定申告をしたほうがいいケースです。
退職所得を申告すると、それらと損益通算ができるため、源泉徴収された税金が戻ることがあるからです。
3-2.退職金の年末調整
ここまで説明した通り、退職金は分離課税ですので年末調整は行いません。
一方で退職後に再就職していない場合は、その年の所得税の年末調整が終わっていません。
この場合は確定申告が必要になります。
4.退職金と住民税
4-1.住民税とは
個人が1年間にもうけ(所得)がある場合に、国に納める税金が所得税です。これに対し、都道府県や市区町村などの地方に納める税金を住民税といいます。では、退職金(一時金)を受け取った場合の住民税はどうなるのでしょうか。実は、退職金についても住民税がかかります。
4-2.住民税の計算方法
では、退職金に対する住民税の計算方法を見ていきましょう。退職金に対する住民税の税率は、会社員や個人事業主と同じく10%(市町村民税6%・道府県民税4%)です。ただし、退職金には所得税と同じように退職所得控除があります。退職所得の計算は、所得税と同じく次の計算式で求めます。
退職所得控除額の計算も所得税と同じです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
例1の場合の住民税は次のようになります。
勤続年数が19年で退職金1,000万円の場合
退職所得控除額=40万円×勤続年数19年=760万円
退職所得=(その年の退職手当等の収入金額1,000万円-退職所得控除額760万円)×1/2=120万円
住民税の金額=120万円×10%=12万円
※住民税についても原則、退職金等から天引きされるため、退職者が申告等を行うことはありません。
まとめ
退職金について、詳しく解説しました。退職金を受け取る際には、企業側ともしっかり話し合い、申告書類などに不備のないようにすることが大切でしょう。