なぜ宿泊税を導入する?その使い道と課題

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 あなたは宿泊税を支払ったことがありますか? 記憶になくても、旅行や出張などで東京、大阪のホテルに泊まった際には、ほとんどの人が支払っている税金です。

宿泊税はなぜあるのか、何に使われているのかなど、今後の課題も含めて徹底解説します。

1.宿泊税とは

宿泊税を導入している地域において、宿泊施設を利用した場合に課される税金のことをいいます。
宿泊税は地域によって名称が異なり、ホテル税、滞在税、客室税などと呼ばれることもあります。

1-1.宿泊税は地方税

宿泊税は法定外目的税であり、地方自治体の条例により制定される地方税です。
よって、導入している地方自治体ごとに税額や対象施設が異なることになります。

既にアメリカやカナダでは多くの地域で導入されており、日本では東京都(2002年)、大阪府(2017年)が導入し、京都市では2018年10月1から導入されました。

1-2.納税者は宿泊施設、負担者は宿泊者

宿泊税を納税する義務があるのは、課税対象施設となっている宿泊施設ですが、その金額を負担するのは宿泊者です。 宿泊施設は地方自治体と宿泊者との間に入って、徴収と納税をしているイメージです。

1-3.課税対象となる宿泊施設

宿泊税を導入している地域で宿泊した場合でも、その宿泊施設が課税対象外であれば宿泊税を請求されることはありません。
各地方自治体で定められている課税対象施設は次の通りです。

  • 東京都…旅館業法に規定された都知事の許可を受けて、ホテル営業または旅館営業を行う施設が対象となります。簡易宿泊施設や国家戦略特区で都知事の許可を得ない民泊は対象外となっており、基本的には民宿やペンションなどは課税対象施設になりません。
  • 大阪府…ホテル、旅館、簡易宿泊施設、国家戦略特区で都知事の許可を得ない民泊などほとんどの宿泊施設が対象となります。
  • 京都市…いわゆる違法民泊を含むすべての宿泊施設が対象となります。

1-4.税額

宿泊料金※ 税額
東京都 大阪府 京都市
10,000円未満 非課税 非課税 200円
10,000円~15,000円未満 100円 100円
15,000円~20,000円未満 200円 200円
20,000円~50,000円未満 300円 500円
50,000円以上 1,000円

※宿泊料金は、素泊まりの料金で判断します。

東京都と大阪府が同じような税額であるのに対して、京都市は定額の宿泊料金であっても非課税とはならず、税額も全体的に高額となっています。
非課税を設けないのは、全ての宿泊者に税金を支払ってもらうことで公平性を確保するとされており、高額な税額については、より多くの税収を確保するためでしょう。

京都市は日本屈指の観光都市なのですが、その分固定資産税が非課税となる神社仏閣が多くなっており、また厳しい景観規制があるため高層建物があまりありません。 国内はもちろん世界各国からの旅行者で財政は潤っていると想像してしまいますが、実は税収が少なく、厳しい財政状況にあるのです。
そこで新たな財源を確保するため宿泊税導入となったのです。

2.導入の目的、使い道

宿泊税導入の目的や使い道の柱は、観光都市としてより良くなるためであり、どの自治体も基本的には同じです。

【目的】

  • 国際都市としての発展
  • 都市の魅力を高める
  • 観光の振興

【使い道】

  • より魅力的な観光地になるための観光資源の開発
  • 旅行客誘致のためのSNSなどを使った広告宣伝
  • 旅行客がスムーズに観光をできるような観光案内や情報提供の充実
  • 旅行客が快適に滞在できる宿泊施設の充実
  • 旅行中に災害が起こった場合への備え

3.課題はどこにあるのか

2018年現在において宿泊税が導入されているまたは導入予定となっているのは、3つの地方自治体のみであることからも分かるように、宿泊税は様々な課題を抱えています。

3-1.県と市の二重課税

地方自治体とは県市区町村のことをいいますので、県と市が宿泊税を導入することになった場合には、宿泊者は県と市の両者に対しての納税を求められる事態となってしまいます。

仮に2か所に納税する場合でも、単純に倍の税額とならないようにするなどの対策が必要です。

3-2.観光客の減少や地域格差

訪日外国人観光客は年々増加しており、2012年には年間840万人であったのが、2016年には2,400万人、2020年には4,000万人の目標が掲げられています。
このような中で宿泊税を導入すれば、大きな税収を生むのは間違いありません。

しかし、東京都、大阪府、京都市のように観光都市としてのブランド力がある地域であれば、宿泊税を支払ってでも宿泊したいと思う人が多いでしょうが、それほど高いブランド力を持っていない地方都市の場合には、宿泊税の導入は観光客減少につながる恐れがあります。

3-3.旅行業界への影響

観光客の誘致は地方自治体同士で激しい競争が続いています。
そのような中で観光客に負担を強いる宿泊税の導入は、訪日外国人観光客をはじめ、国内旅行者も減ってしまうのではないかとの懸念があり、旅行業界から不安の声があがっています。

3-4.使途が不明確

宿泊税は、観光をより良いものにするために使われるとされており、その税額を観光客が負担するというのは合理的に感じます。
しかし、例えば観光環境を良くするために道路を整備したとします。この道路は観光客のみならず、その地域の住民も通るでしょう。

このように宿泊税は、徴収されたすべての税額が観光客のために使われるのではないのです。

4.導入を検討している地方自治体

大阪府が宿泊税を導入してからは、京都市を含め、流れに乗って導入を検討する地方自治体が増加しました。
検討しているのはどれも日本を代表する観光都市である、北海道、福岡、金沢、沖縄で、どの地方自治体も宿泊税の導入による税収は、億単位で増加する見込みとなっています。

この流れは今後しばらく続きそうです。

まとめ

宿泊税は今後更に全国的に広がっていくと考えられます。
導入する地方自治体には、不公平感のない、その地域全体が納得できる制度作りが求められます。

【参考サイト】

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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