総額20億円!年金過少支給はなぜ起ったのか?

年金手帳

 年金の過少支給があったことを、日本年金機構が3月3日と26日に相次いで公表しました。
確実な処理が求められる年金において、なぜこのようなことが起こってしまったのでしょうか。問題の内容と原因、及び日本年金機構の対応をわかりやすく解説していきます。

1.年金過少支給問題の概要

20億円を超える被害額となった今回の年金過少支給問題は、2つの原因が合わさって大きな金額となってしまいました。

1-1.130万人の年金過少支給(2018年3月3日公表)

2018年2月に支給された年金のうち130万人分について、所得税の控除がされていない状態での支給額となり、本来の支給額よりも少ない金額で支払われていたことが判明しました。人によっては2ヶ月分で数万円程度少なかったケースもあるようです。

原因は、扶養親族等申告書の様式変更によるものでした。

1-2.10万4千人の年金過少支給と、4万5千人の過大支給(2018年3月26日公表)

同じく2018年2月に支給された年金のうち、10万4千人が過少支給、4万5千人が過大支給される事態となりました。 過少支給では最大5万円、平均2万5,000円程度であり、過大支給は平均1,800円程度となっています。

原因は、日本年金機構が個人データ入力を依頼した委託業者がデータ入力を行った際に、約15万人分のデータについて誤入力や入力漏れがあったためでした。

2.扶養親族等申告書の様式変更による混乱

2017年に送付された扶養親族等申告書は、それまでの様式とは大きく異なる新様式となりました。
それにより多くの人が混乱してしまい、未提出や誤記入が起こり、正しい所得税の控除が行われないままの年金が支給されてしまったのです。

2-1.扶養親族等申告書とは

年金にも給与と同じように源泉徴収があり、その源泉徴収税額は各年金受給者の様々状況に応じた控除が行われて決定されます。その人にどのような控除があるのかを知るために、扶養親族等申告書があるのです。

扶養親族等申告書は、1年間の年金受給額が次に該当する人に対して送付されます。

  • 65歳未満で108万円以上
  • 65歳以上で158万円以上

2-2.2017年に様式が変更された

2018年分から所得税の大幅な税制改正があったことと、マイナンバー制度の導入されたことによるデータ整備を行うために、2017年8、9月に送付された扶養親族等申告書から様式が変更されました。

【変更前(平成29年分)】公的年金 扶養親族等申告書

【変更後(平成30年分)】公的年金 扶養親族等申告書

変更前は往復ハガキでの簡単な様式であり、変更がない場合にはチェックマークを付けるだけで済んでいました。変更後は、A3用紙での複雑な記載内容となっています。
これでは、記載が億劫で後回しにしてしまったり、誤記入が発生してしまうことはうなずけます。

3.委託業者のずさんな情報入力

ここで委託業者の1つである情報処理会社のSAY企画(東京都豊島区)がずさんな情報入力を行ったことで、10万4千人の年金過少支給と4万5千人の年金過大支給が起こってしまいました。

3-1.入力作業を外部に委託する場合がある

年金情報をコンピューターで管理するためには、手作業でデータを入力する必要がありますが、国民の年金情報は膨大な量であり、全てを日本年金機構が作業するには無理があるため、民間の委託業者に依頼する場合があります

年金は国民の老後の生活を保障する国の大切な制度であり、重要な個人情報でもあるため、そのデータ入力の委託には決して誤りが起こることがないように、日本年金機構と委託業者は、作業方法などに関して厳重な契約を結んでいます。

3-2.委託業者の年金データ入力契約違反

今回の問題は、委託業者の1つである情報処理会社のSAY企画(東京都豊島区)のずさんなデータ入力が原因であり、次のような契約違反があったと公表されています。

  • 入力は2人1組で手作業により行うことと契約で定められていたにもかかわらず、情報を機器に読み込ませてデータ化したうえ、その読み取りのチェックも怠っていた。
  • 再委託は厳禁であるが、中国の業者への再委託を行っていた。

4.日本年金機構の対応

今回の問題に対して日本年金機構は、主に次のような対応を取っています。

ミスの種類 対応
扶養親族等申告書の
未提出や誤記入など
2018年2月中に提出した人 4月分の支給額に上乗せ
2018年3月以降に提出した人 5月分以降の支給額に上乗せ
入力漏れによる過少支給 3、4月分の支給額に上乗せ
誤入力による過少支給 4月分の支給額に上乗せ
誤入力による過大支給 4月分の支給額から差し引く
誤入力による源泉徴収票の氏名表記の誤り 修正書類を1月末に再送

原因となった扶養親族等申告書については、来年度からは今回提出した申告書の写しを受給者に送付して、変更の有無を確認してもらう形にし、手続きを簡便化する予定としています。

また、日本年金機構はこの問題のためのフリーダイヤル対応窓口を設置しています。少しでも自分が関係しているのではと疑問に思う場合には、電話確認すると安心です。
0120-051-217(受付は平日8:30~17:00)

まとめ

年金は全ての人に平等であるべきもので、決して間違いがあってはなりません。 扶養親族等申告書や、委託業者の人的ミスなど今後の年金機構の対応が問われます。

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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