2016年都知事選 税金・経済面の公約比較 東京都の税収・予算
前舛添要一都知事が政治資金流用をはじめとする公私混同問題の疑惑を受けて2016年6月21日付けで都知事を辞任したことにより、東京都では2016年7月14日告示、同年7月31日投開票の予定で都知事選が行われます。
これを受けて10人以上が立候補を表明しておりますが、今回の都知事選は前知事の辞任が突然決まり告示までの期間が短いことから、各候補者とも公約(マニフェスト)がほとんど出来上がっていない感が見られます。
ただ、東京都知事といえば、平成27年末時点で人口約1,350万人、財席規模約13.9兆円を抱える東京都の首長であり、その役割は非常に大きく、一部では都知事の権限は日本の首相よりも強いとも言われています。2020年には東京オリンピックを控えていますが、東京都だけでなく日本全体にも影響する大イベントであり、今後4年間の都知事の役割はますます大きくなっています。その都知事選が単なる人気投票で終わることは大変残念なことですので、ほとんど情報がない中ではありますが、各候補者の公約を探し出してみました。
都知事の政策分野は、経済・福祉・教育・文化・都市計画など幅広い分野に及びますが、相続税を中心に税金を専門に解説する本サイトでは、税金・財政・経済面に焦点を絞って候補者の公約(マニフェスト)を比較します。公約(マニフェスト)をまだ発表していない候補者もおりますので、発表され次第、順次更新します。
また、現在の東京都の財政や税収の状況も解説します。
目次
都知事選候補者の公約(マニフェスト)比較
まず、各候補者の政策・公約(マニフェスト)を税制・財政・経済面に絞って箇条書きしてみます。各候補者のホームページやTV・新聞メディアでのニュース情報を参考にしていますが、間違いや不足がある場合にはご容赦ください。
また、公約の実現性については考慮しておりません。その他の内容については、特徴ある内容のみ抽出しています。
なお、立候補届け出の順に掲載しています。各候補者のWEBサイトがある場合は出典としてリンクを掲載しています。各候補者のWEBサイトのリンクについては、都知事選サイトがある場合はそのページに、ない場合はトップページに対してリンクを貼っています。
高橋尚吾氏
【その他の内容】
・政治行政を私たちの手に、少子化問題の解決
・東京の空き家問題の解消として若い人たちに安く貸し出すプロセスを立ち上げる。
【出典】高橋しょうごの政策|高橋しょうご 〜私達の都政〜
https://ameblo.jp/shogotakahashi-tosei/entry-12178165121.html
(現在、リンク先なし)
谷山雄二朗氏
【その他の内容】
・横田米軍基地全面返還のうえ国際空港に、BABY BONUS制度など
【出典】国際人を育む、夢のあるカラフルなTOKYOへ - 谷山ゆうじろう Intenational Tokyo Now!
http://yujirotaniyama.com/Great-Tokyo.html
(現在、リンク先なし)
桜井誠氏
【その他の内容】
・コンパクトな東京五輪の実施
・外国人生活保護の廃止、不法滞在者半減など
【出典】桜井誠オフィシャルサイト
鳥越俊太郎氏
【その他の内容】
・知事の視察費用・公用車利用のルールを見直し
・がん検診受診率100%
・住宅耐震化率100%、再生可能エネルギー割合30%
【出典】鳥越俊太郎公式サイト
増田寛也氏
【その他の内容】
・「子育てについて不安」「高齢化社会への不安」「災害への不安」の解消
・国の成長戦略と連携して東京都のGDPを大幅アップ
【出典】増田寛也オフィシャルウェブサイト
マック赤坂氏
・都知事報酬をゼロにする。
・都議会議員の定数と報酬を大幅カット。
・都職員の人員コスト20%カットを目指す。
・コスト削減を徹底する→公用車廃止・エコノミークラス限定、公共交通機関利用。
・都民税、法人都民税、事業税、固定資産税を半分にカット。
・宗教法人、学校法人、医師優遇税制の見直し。
・中小企業・商店街への助成金を3倍に増やす。
【その他の内容】
・スマイル構想→毎月8日をスマイルデーとし都営交通を無料にする、スマイル商品券を配るなど。
【出典】スマイル党公式ホームページ 選挙
山口敏夫氏
・東京五輪の財政削減、五輪組織員刷新
山中雅明氏
・中小企業未来創造経営支援
後藤輝樹氏
・社会義務税、健康税、環境税、ぜいたく税などを創設
【出典】後藤輝樹様のオフィシャルサイト
岸本雅吉氏
【その他の内容】
・都民を健康に、都経済を健全に
・小中学生に徴農制度(農業体験義務化)
【出典】岸本雅吉公式ホームページ
小池百合子氏
・商店街の空き店舗活用。
・中堅、中小企業への事業承継支援。
【その他の内容】
・都議会の冒頭解散
・五輪などの利権追及
・舛添氏問題の第三者委再調査
・都道の電柱ゼロ化
【出典】小池ゆりこ オフィシャルサイト | 小池ゆりこ衆議院議員の公式ホームページです。
上杉隆氏
・知事給与ゼロ(約1億円削減)
・東京オリンピック運営費を当初のコンパクト案に
・横田基地軍民共用化における多摩地域の経済発展
・東京オリンピックまでの地方法人税等の再分配の凍結
【その他の内容】
・都内養護老人ホーム待機者ゼロ、都内保育所待機者ゼロ
【出典】上杉隆 公式ウェブサイト
七海ひろこ氏
・東京都の「消費税5%特区」実現
・法人税や固定資産税の減免
・相続税を廃止
・東京オリンピック・
・容積率の緩和や空中権の活用などにより、
【その他の内容】
・待機児童問題の解消
・羽田空港の24時間運航と、山手線や地下鉄の24時間化
・都庁のシンクタンク機能を活用して事業を展開し、都の収入増に
【出典】七海ひろこ公式サイト │ 東京都知事選挙2016 候補者 幸福実現党公認
中川暢三氏
・都下の市区町村に相当の権限・財源・人員を移譲。
・都下市区町村の国保事業を統合して行政サービスの質や生産性を向上。
・約25兆円ある正味財産の活用・流動化にも取り組む。
・年間総予算14兆円弱の東京都。業務の生産性を僅か2%向上することで、都民一人当たり年間2万円の減税が可能。
・特定都市再生緊急整備地域では複合型の大型ビルが数多く建設され、その課税評価が複雑で多大な時間を要している。所有者からの申告制に基づき賦課すれば、都税事務所の事務量や人件費などが削減でき、その分を固定資産税の減税に充てることができる(概ね5%減税)。
【その他の内容】
・舛添問題の決着→真相究明して結果を公表。不当支出・不適切支出については返還を求める。
【出典】中川ちょうぞう|徹底した現場主義でプラチナシティを創造する
関口安弘氏
【その他の内容】
・横田基地の返還、西東京を国際最高会議場群に
・新しい憲法の試案
立花孝志氏
【その他の内容】
・NHKの無理な受信料徴収から国民を守る。
【出典】NHKをぶっ壊す 政見放送予行演習 東京都知事選挙 NHKから国民を守る党 立花孝志|NHKから国民を守る党 公式ブログ
宮崎正弘氏
【その他の内容】
・プロデューサーシステムの実現
【出典】宮崎正弘 公式サイト - 宮崎正弘[東京都知事候補]
今尾貞夫氏
【その他の内容】
・子育て・教育、老後・介護などの改善
望月義彦氏
【その他の内容】
・共に成長、東京から
武井直子氏
【その他の内容】
・大統領制、災害救助隊など
内藤久遠氏
・東京電力の都営化
・都知事の給料を1/2
・東京の人口を1/2
都知事の大きな権限の一つ:予算編成権と執行権
都知事には様々な権限がありますが、そのうちの一つは、予算編成権と執行権です。地方自治法112条、149条によると、予算編成については、議会では提出することができず、地方公共団体の長が行うことになっています。また、予算を執行したり地方税を徴収したり財産を取得・管理したりするのも都知事の権限です。これは、東京都だけでなく他の都道府県、市町村など地方自治体で一般的にいえることです
地方自治法112条
普通地方公共団体の議会の議員は、議会の議決すべき事件につき、議会に議案を提出することができる。但し、予算については、この限りでない。地方自治法149条(一部抜粋)
普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する。
2 予算を調製し、及びこれを執行すること。
3 地方税を賦課徴収し、分担金、使用料、加入金又は手数料を徴収し、及び過料を科すること。
5 会計を監督すること。
6 財産を取得し、管理し、及び処分すること。
議会に予算の編成権・執行権がないということは、議会は予算に対して責任も負わないということです。ただ、それでは、議会は有権者の期待に十分に応えられないということで、一部の地方自治体では議会条例の制定により議会でも予算編成に関して議論をするところが出てきていますが、まだ多くの自治体では首長だけが権利と責任を持っています。地方自治体の首長は市民から直接選挙によって選ばれていますので、国の内閣のように各大臣や政党内の意見を調整する必要もなく、単独で実行可能です。これが、都知事は首相よりも強い権限を持っているといわれる所以です。
都知事が予算編成・執行をする権利を持っていますが、合計約14兆円もの予算を一人で編成・執行できるわけはありませんので、実際には、多くの職員と一緒に予算を編成し執行していくことになります。そのため、都知事は単に優秀で実行力があるだけでなく、各方面の関係者とよく協力していく姿勢も重要になってきます。
東京都の財政・税収状況と課題
平成28年度予算
まずは、東京都の平成28年度予算編成ですが、3つの会計区分に分かれていて、一般会計:7兆110億円、特別会計:4兆4,539円、公営企業会計:2兆1,911億円となっています。
【東京都平成28年度予算編成 歳入】
一般会計とは、国や地方公共団体における会計区分の1つで、特別会計に属さない包括的、一般的な会計をさしています。福祉、教育、生活環境、消防などのために使われます。前年に比べて0.8%増加しました。
特別会計とは、特定の事業や資金などについて、その収支を明確にするために一般会計と分けるための会計です。一般家庭に例えるならば、光熱水費やローンの返済などを、別の財布で管理するようなものです。東京都では、特別区財政調整会計、地方消費税清算会計など15会計を設置しています。
公営企業会計とは、水道、電車、バスなど、独立採算制の公営企業の収支を経するための会計です。東京都では、水道事業会計、高速電車事業会計など11会計を設置しています。
これら3つの会計を合わせると13兆6,560億円になります。これは、スウェーデンの国家予算とほぼ同じ予算規模です。
都税収入
平成28年度予算一般会計の歳入の内訳ですが、都税が5兆2,083億円(74.3%)、地方譲与税が2,443億円(3.5%)、国庫支出金が3,778億円(5.4%)、都債が3,533億円(5.0%)、その他収入が8,273億円(11.8%)となっています。
都税の内訳は、法人都民税・事業税(法人二税)が1兆8,126億円(25.9%)、個人都民税・事業税が1兆4,281億円(20.4%)、固定資産税・都市計画税が1兆4,065億円(20.1%)、その他の税金が5,611億円(8.0%)です。
都税収入は、前年度当初予算に比べて3.7%増となりました。法人都民税・事業税が一般会計の25.9%と4分の1を占めることから、都税収入は景気に左右されやすいです。ここ数年は企業収益が堅調なため都税収入も少しずつ伸びていますが、リーマンショック後の2009年(平成21年)には前年より約1兆円減少しました。
【東京都平成28年度予算編成 一般会計】
歳出
一般会計のほとんどは東京都民の生活一般に関わる内容に利用されます。平成28年度予算一般会計の歳出の内訳は、福祉と保健が1兆1,668億円(16.6%)、教育と文化が1兆962億円(15.6%)、労働と経済が4,886億円(7.0%)、生活環境が2,191億円(3.1%)、都市の整備が8,777億円(12.5%)、警察と消防が9,133億円(13.0%)、企画・総務が3,316億円(4.7%)となっています。
2020年オリンピック競技大会開催に向けた準備や都民生活の質を高める取り組み、経済成長を支える施策などに財源を重点的に投入し、全体では前年度に比べて4.8%増の5兆933億円となりました。
「福祉と保健」は、平成17年度以降12年連続で増加しています。
地方財政計画と比較すると、公債費(都債)の歳出全体に占める割合は低くなっています(地方財政計画:14.9%、東京都:6.2%)。
他、税連動経費等が1兆4,575億円(20.8%)と大きな割合を占めていますが、これについては後で説明します。
平成28年度予算の主要な使途をまとめると次のようになっています。
区分 | 内容 | 予算 |
---|---|---|
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に向けた準備 | 621億円 | |
東京2020オリンピック・パラリンピックの開催準備 | 90億円 | |
オリンピック・パラリンピック競技施設等の整備 | 532億円 | |
2020年以降を見据えた取組 | 543億円 | |
バリアフリー化の推進 | 28億円 | |
障害者スポーツの振興 | 58億円 | |
ボランティア文化の定着 | 3億円 | |
芸術文化施策の推進 | 38億円 | |
オリンピック・パラリンピック教育の推進 | 16億円 | |
水素社会の実現 | 45億円 | |
・・・ | ||
大都市東京にふさわしい福祉施策の展開 | 2,357億円 | |
子育て環境の充実 | 478億円 | |
社会的養護への取組 | 78億円 | |
高齢者の暮らしへの支援 | 412億円 | |
認知症対策 | 40億円 | |
障害者に対する生活支援 | 423億円 | |
安心できる医療体制の確立 | 193億円 | |
医療施設の整備 | 377億円 | |
福祉・医療人材の確保・定着 | 338億円 | |
・・・ | ||
誰もが活躍できる社会の実現 | 715億円 | |
雇用対策・就業支援 | 134億円 | |
子供を伸ばす教育の推進 | 39億円 | |
青少年の健全育成の推進 | 13億円 | |
芸術文化施策の推進 | 38億円 | |
働き方改革の実現 | 18億円 | |
・・・ | ||
安全・安心を実感できる都市の実現 | 3,462億円 | |
テロ・サイバーセキュリティ対策 | 28億円 | |
木造住宅密集地域の不燃化・耐震化 | 943億円 | |
緊急輸送道路の機能確保 | 364億円 | |
豪雨対策 | 670億円 | |
地域防災力・応急対応力の向上 | 503億円 | |
・・・ | ||
ビジネス環境の整備と産業力の強化 | 3,801億円 | |
成長産業の育成・強化とグローバルビジネスの活性化 | 93億円 | |
中小企業等の海外展開の促進 | 25億円 | |
起業・創業の促進 | 15億円 | |
豊洲市場の開場 | 109億円 | |
・・・ | ||
国際的な観光都市の実現 | 212億円 | |
外国人旅行者等の誘致 | 92億円 | |
外国人旅行者等の受入環境の充実 | 78億円 | |
都内に眠る多彩な観光資源の開発・発信 | 31億円 | |
地方と連携した日本全体の魅力の開発・発信 | 10億円 | |
・・・ | ||
都市機能を進化させるインフラ整備 | 2,726億円 | |
都市の骨格を形成する幹線道路の整備等 | 1,269億円 | |
渋滞解消に向けた取組 | 124億円 | |
東京港の整備 | 289億円 | |
「水の都」東京の再生 | 78億円 | |
鉄道の連続立体交差化の推進 | 339億円 | |
・・・ | ||
世界で活躍できる人材の育成 | 48億円 | |
グローバル人材の育成 | 48億円 | |
都市外交の戦略的展開 | 19億円 | |
都市外交の推進 | 19億円 |
実質的な都税収入
都税収入のうち全てが東京都で利用できるわけではありません。地方消費税や自動車取得税のように、都が一度は徴収した後、その一部を区市町村に交付するものがあります。また、都区財政調整制度により、都が徴収する固定資産税、市町村民税(法人分)、特別土地保有税の一定割合を特別区財政調整交付金として交付しています。
このように、法令の定めにより税収の一定割合を支出しなければならない経費を税連動経費と呼び、特別区財政調整交付金の配分割合の変更や、消費税率の引上げに伴う、地方消費税交付金の拡大などにより増加しています。平成28年度には都税収入全体の約4分の1の規模となっています。
1991年度(平成3年度)と2016年度(平成28年度)を比較してみると、都税及び地方譲与税を合計した額は増加しているにもかかわらず、そこから税連動経費を除いた「実質的な都税収入」は、減少しています。
一人当たり一般財源
東京は人口も多く企業も多いため、当然ながら地方税の収入は他の都道府県より大きいのですが、逆に税収が少ない都道府県の財源を賄うために、地方交付税や地方譲与税などが国から援助されています。つまり、税収の多い/少ないに関わらず一定の公共サービスを住民に提供できるように、財源の均等化が図られます。
下の図は、平成27年1月1日現在の1人当たりの一般財源額を示しています。掲載されている団体は、人口上位5都府県(東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、埼玉県)及び下位5県(福井県、徳島県、高知県、島根県、鳥取県)です。
一般財源とは、使途が特定されておらず各自治体で自由に使えるお金です。これを見ると、東京都は1人当たりの税収が最も多いですが、地方交付税は全くもらっていませんので、結果として、東京都1人当たりの一般財源額(約196,000円)は全国平均(約193,000円)とほぼ等しくなっています。地方交付税をもらっている県のほうが逆に1人当たりの一般財源は多くなっています。国家財政規模といわれる東京都ですが、一人当たりの自由に使えるお金は全国とあまり変わらないことがわかります。
東京都の財源が奪われている
三位一体改革
約10年前、地方の歳出に占める地方税の割合が3分の1と財源が大きく不足しており、国庫補助負担金や地方交付税など国からの援助に頼らざるを得ず、国が地方を大きくコントロールしていることが大きな問題となっていました。
そこで、当時の小泉内閣の下で「三位一体の改革」として、
- 国庫補助負担金の改革(4.7兆円)
- 所得税から個人住民税への税源移譲(3兆円)
- 地方交付税の大幅な抑制、不交付団体の増加(5.1兆円)
が行われることになりました。
具体的には、2007年(平成19年)1月から所得税(国税)が減り、その分6月から住民税(地方税)が増えました。一方で、国庫負担の割合が2分の1から3分の1に減らされ、地方交付税も大幅に抑制されたことで、大都市圏以外のもともと財源の少ない地方では、さらに財政が厳しくなりました。そして、東京都などの地方交付税を受けない地方自治体(不交付団体)と、地方交付税に頼っている自治体(交付団体)の格差が広がりました。
地方法人特別税・譲与税制度の導入(法人事業税の暫定措置)
東京一極集中への批判が高まったため、都市部と地方の格差をなくすための方策がとられました。
その一つ目が2008年度(平成20年度)から始まった「法人事業税の暫定措置」です。地方税の法人事業税を国税化し、譲与税として地方自治体に配分する制度です。消費税増税で税体系の抜本的改革が行われるまでの間の暫定措置として、地方法人特別税・地方法人特別譲与税の制度が導入されました。
2014年(平成26年)4月に消費税が8%に増税され、本来であれば暫定措置は廃止されるはずでしたが、平成26年度税制改正では、復元は3分の1にとどまりました。これらの暫定措置の影響で、東京都では累計1兆円を超える財源を失いました。
【出典】東京都:報道発表資料[2015年2月掲載] (図1 法人事業税の暫定措置の仕組み)
※金額は27年度当初予算ベース
平成28年度税制改正による見直しでは、この暫定措置を廃止し、法人事業税として復元する予定となっています。ただし、消費税10%増税が前提でしたが、それが見送られたため、今後どうなるかはまだわかりません。
参考までに、この制度の導入を打ち出したのは、当時、総務大臣として就任していて、今回、都知事選に立候補している増田寛也氏です。格差是正のための制度ですが東京都は減収となりましたので、今回、都知事としてふさわしいのかどうかが問題となっています。
地方法人税の導入(地方交付税原資化)
都市部と地方の格差是正のもう一つの施策が、2014度(平成26年度)から始まった「法人住民税の地方交付税原資化」です。つまり、法人住民税の一部を国税化し、地方交付税として地方自治体に配分する制度です。
2014年(平成26年)4月に消費税が5%→8%に増税されましたが、このうち国の分は4%→6.3%、地方の分は1%→1.7%の増税となっており、地方が受けとる地方消費税も多くなります。そこで、東京都をはじめとする地方交付税の不交付団体の場合は、需要を超える増収が生じるとの理由から、消費税増税で増収となる金額に相当する法人住民税を一部国税化し、その全額を地方交付税に割り当てるための、地方法人税の制度が導入されました。
東京都では、本来増えるであった消費税増税分約2,200億円の税収を失うことになりました。
【出典】東京都:報道発表資料[2015年2月掲載] (図2 地方法人税の仕組み)
※金額は27年度当初予算ベース
平成28年度税制改正による見直しでは、消費税10%増税(国7.8%、地方2.2%)に伴い、さらに強化される予定でしたが、10%増税が延期されましたので、現状のままとなっています。
東京特有の財政事情と都知事の役割
地方税制改革
地方税の一部を国税化し地方に分配する制度について、東京都としては、限られた地方財源の奪い合いであり地方の自立的な財政運営を阻害するものであると考えています。真の地方自治とは、地方自治体自らの権限と財源によってその役割を果たすことで実現するとしています。現在の不合理な是正措置を解消し、本質的な課題の解決に向けて、国に強く働きかけていく方向を示しています。
このような状況の中で、次の都知事が東京都のトップとしてどのような対応をとっていくかは非常に重要な局面といえます。東京都は確かに税収が多く自営できている地方自治体といえますが、都民全員が経済的に豊かなわけではなく一部の富裕層と大衆層での格差も広まっており、国や他の自治体と同じ問題を抱えています。特に人口過密から発生する、環境問題、都市計画の問題、待機児童の問題、老人ホームの問題など深刻な課題も多くあります。2020年東京オリンピックに向けた準備においても、会場建設の見直しやエンブレムの再募集など予想外の出費が課される中で、今後どこまで東京都として対応していくのかも課題です。訪日外国人の宿泊場所の確保、テロ対策に向けた警備の強化も欠かせません。
国政のように大幅な税制改革や経済再生の公約を打ち出すことはできませんが、国と地方自治体の役割や財源のあり方を踏まえながら、国や各地方自治体と連携し、都民の豊かな生活の確保のために努力する都知事が必要になってくるでしょう。
大都市に特有の財政事情
東京一極集中とよく言われるとおり、東京都には政治・経済・行政・金融・サービスなどの機能が集中し、首都機能を担っているため特有の事情を抱えています。
大きな問題の一つは、保育所入所を待つ待機児童の問題ですが、待機児童は都市部に集中しており東京だけで7,670人と全国の約3割を占めています。保育所を増やす取り組みがされていますが、財政面のほか建設予定地の周囲の住民の理解を得る必要もあり、難航しています。
また、東京都の公共施設等整備に係る用地取得単価ですが、1㎡当たり33.3万円と全国平均に比べて18倍の高さとなっています。
首都直下地震の危険性もかなり前から指摘されており、仮に震度7クラスの地震が発生すると、資産的な被害だけで約47~90兆円、さらに経済活動の停滞で全国に及ぶ被害額は約48~70兆円に及ぶとされています。日本の政治・経済・行政の機能が不全に陥れば、日本全体で大きな被害が及ぶため、防災インフラや体制の整備が欠かせません。
警察業務においても、東京都としてだけでなく首都警察の機能も持っており、皇室関係、外国公館、国会・総理官邸等の警備も担っています。
予算が他の自治体より多くあるから自由に使えるわけではなく、むしろ大都市特有の財政事情を踏まえた予算を組み執行していく必要があるでしょう。