イギリスEU離脱決定!ポンドの相続税評価にご注意
目次
【緊急速報】イギリスEU離脱決定!ポンドが急落
イギリスで6月23日に行われたEU離脱の是非に関する国民投票の結果、EU離脱が決定しました。離脱が1741万742票で51.9%、残留が1614万1241票で48.1%となっており、僅差で離脱派が勝利しました。
これを受けて、ポンド/円が朝から急落しています。朝6時からの13時までの間、高値160.14円、安値133.18円と、実に約27円の開きが出ています。これは直近3ヶ月の値動きの幅を超え、約17%の値動きとなっています。
イギリスが実際にEUを離脱するまでにある程度の期間がありますが、これからのポンドの値動きが注目されます。
イギリスポンドと外貨預金の現状
6月23日、イギリスでEU残留か離脱かを決める国民投票が行われる予定で、全世界を大きく賑わしています。イギリスはEUの中でもドイツに次ぐ経済大国であり、そのイギリスがEUを離脱することになれば、経済的、政治的にEUに大きな影響を与え、ひいては全世界にも影響を及ぼしかねないと考えられているからです。また、イギリスはEUに加盟しているものの、通貨はユーロではなく独自のポンドであり、ドル、ユーロ、円に次ぐ基軸通貨として流通しています。国際決済銀行(BIS)が3年に1度発表している統計によると、2013年4月時点で、通貨別の取引高シェアは、米ドル43.5%、ユーロ16.7%、円11.5%、英ポンド5.9%、豪ドル4.3%となっています。イギリスのEU離脱により、通貨ポンドの為替レートが大きく変動すれば、多くの取引に影響します。
近年、日本国内では空前の低金利状態が続いており、資産運用のために外貨預金をする人が増えています。ソニー銀行ではホームページにて自行での人気通貨の統計を表示しており、米ドルは49.8%と圧倒的ですが、豪ドル15.2%、NZドル12.7%、ユーロ10.4%、ブラジルレアル4.1%、英ポンド3%と続いています。
イギリスポンドの金利は普通預金で0.05~0.1%程度と他通貨と比較すると低めであり、為替手数料も約0.3~0.5円程度と他通貨よりも高めです。またイギリスポンドは値動きが激しい通貨としても知られており、大幅に為替レートが変動しています。資産運用目的の通貨としては決して条件が良いとはいえません。
ただ、イギリスポンドはかつては世界の基軸通貨であり世界に大きな影響力を及ぼしていました。第二次世界大戦後に、基軸通貨はアメリカドルにとってかわられましたが、歴史のある通貨として今でも根強い人気があるのでしょう。
ところで、被相続人に外貨預金等の外貨建て資産があった場合、円貨に換算して相続財産額を評価し、相続税を計算することになります。相続発生時、つまり被相続人が亡くなった日の為替レートで評価しますので、その後、為替レートが大きく変動すると大変なことになる可能性もあります。特に、イギリスのEU離脱というビッグイベントが予想されているポンド建て資産を所有している場合には、細心の注意が必要になってきます。
イギリスはなぜEUを離脱したいのか?
そもそも、イギリスはなぜEUを離脱したいと考えているのでしょうか?
EUは現在ヨーロッパ28カ国が加盟する大きな政治・経済の共同体です。第二次世界大戦後、繰り返した戦争への反省から欧州統合の考えが生まれ、1952年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が発足しました。その後、1958年に欧州経済共同体(EEC)、1967年に欧州諸共同体(EC)、そして1993年に現在のEU(1993年)へと発展しました。
2015年時点で、EUの人口は5億820万人、GDPは16兆2,204億ドルであり、2002年に導入された単一通貨ユーロは19カ国で使用されています。また、EUの最大の特徴は、EU加盟国間では、人、物、サービスおよび資本がそれぞれの国内と同様に、国境や障壁に妨げられることなく、自由に移動することができることです。こうした移動の自由は、シェンゲン協定によって担保されていおり、22カ国が加盟しています。
しかし、イギリスはこのシェンゲン協定に参加しておらず、単一通貨ユーロも導入していません。イギリスはEUに加盟しながらも一歩引いた立ち位置をとっています。EUのもともとの目的は欧州統合による戦争の撲滅であり、法律、通貨、各種政策を加盟国間で統合していくことにありますが、イギリスには自国独自の法律、通貨、政策を維持したいという思いがあります。
そして、近年大きな問題に発展しているのが移民問題です。シリア、イラク・北アフリカから多くの移民・難民がヨーロッパになだれ込んでおり、ドイツを中心に多くの難民を受け入れていますが、その人数が多すぎるために、自国民との間で社会問題を引き起こしています。特にイギリスは社会保障が充実していますが、移民・難民を受け入れることになれば同じ保障を提供しなければならず、国民の税金負担が重くなります。
しかし、EU加盟国には難民受け入れを拒否できないという法律があり、EUに加盟している以上は、イギリスも難民受け入れを拒否できません。そこで、EUを離脱しようとする動きが強まり、国民投票によってEUを離脱するか残留するか決断する事態となりました。
難民問題以外にも、イギリス国内の漁業従事者の90%以上がEU離脱に賛成しているなど、他の面でも欧州統合に対して反感を持っている国民が多いと考えられます。ただ、EU離脱派と残留派は現在拮抗しており、実際どうなるかは予断を許さない状況です。
イギリスEU離脱によるポンドへの影響は?
イギリスはEU諸国向けの輸出が全体の約半分近くを占めています。EU加盟国間の関税は撤廃されておりEU諸国内での貿易は関税なしで行うことができます。もしイギリスがEUから離脱するとEU諸国との取引に関税を課されることになり大きな負担を強いられます。
オズボーン財務相は6月15日朝、BBCのラジオに出演し、「EUから離脱すれば投資が損なわれ、国民や経済に打撃となる」と改めて強調しました。そのうえで、財政への悪影響を補うために「300億ポンド(約4兆5千億円)の緊急予算を組む必要が出てくる」と表明しました。具体的には基本的な所得税率、相続税を引き上げ、また、アルコールやガソリンに対する税金も引き上げることになると説明しています。
このような状況ではイギリスに対する信用が損なわれポンドの下落が予想されます。2016年6月15日現在、1ポンド150円ですが、120円くらいまで下落する可能性もあります。しかし一方で、ギリシャ危機など負債を抱えた国の影響を正常な国も受けてしまうというEUのデメリットもありますので、EUから離脱すればリスクを切り離せるという意味でプラスにとらえる見方もあります。
[ポンド/円 月足チャート]
もともと、ポンドはドルやユーロと比較して値動きの激しい通貨です。ここ10年のポンド/円の月足チャートを見ますと、2007年7月に高値251円台を記録し、2011年9月に低値116円台を記録していますので、実に2倍以上の開きがあります。ドルでは、2012年12月に低値76円台、2015年8月に高値125円台ですので、ポンドのほうが値動きが大きいことがわかります。日足で見ても、ポンド/円は3~5円程度変動しますので、荒い値動きです。
長期のチャート分析では、ポンドは現在下落傾向にあり、まだ底を打っているとは言いがたい状況ですので、おそらくさらに下落する可能性が強いと思われます。イギリスEU離脱により、ポンドが下落するか上昇するかは、6月23日を過ぎてみなければわかりませんが、十分な注意が必要といえるでしょう。
【追記】6月23日の国民投票の結果、EU離脱が決定しました。
ポンド建て資産の相続が発生したら?
被相続人にポンド建て資産があり、ここ数ヶ月前に相続が発生した、あるいは、数ヶ月先以内に相続が発生しそうだという場合には、為替レートをよく見ておく必要があります。
相続税や贈与税の計算をする場合の外貨は、円貨に換算しますが、その換算ルールは以下のようになります。
②対顧客直物電信買相場(TTB)またはTTBに準じる相場によって評価する。
ルール①について、被相続人の死亡日のレートは、1ポンド150円であったとしましょう。その後、遺産分割協議や銀行での預金引き下ろし手続きをしているうちに数ヶ月経過したら、1ポンド120円になってしまったとします。1万ポンドの外貨だとしたら、相続税の計算では評価額が150万円なのに、相続人が取得できるのは120万円になってしまいます(実際には、手数料が引かれてもっと低くなります)。ポンドのまま持ち続けていれば将来的にまた上昇する可能性もありますが、外貨預金を一度もしたことがなければ不安で持っていたくないでしょう。
ルール②について、外貨⇔円貨の取引をする際のレートにはいくつかの種類があります。
「対顧客直物電信買相場(TTB: Telegraphic Transfer Buying)」とは、外貨を円に交換するときの為替レートです。TTBに対するのは、「対顧客直物電信売相場(TTS: Telegraphic Transfer Selling)」であり、円を外貨に交換するときの為替レートです。ドル・円の場合、通常、実際の為替レートより、TTBは1円安く、TTSは1円高くなっています。
TTB、TTSの他に、現金買相場(CASH B: Cash Buying Rate)、現金売相場(CASH S: Cash Selling Rate)もあります。銀行が一般顧客に外貨を現金で売買するときのレートであり、ドル・円の場合、実際の為替レートより、CASH Bは3円安く、CASH Sは3円高くなっています。
ただし、相続税の計算においては、TTBによって評価します。債務があった場合にはTTSを適用します。
いずれにしても、円預金や円建ての資産ならば、いくらと決まればその金額を取得できますが、外貨建て資産の場合は、為替レートに左右され、実際に円に変えるまでいくらになるか確定しません。そのため、相続財産に外貨が含まれていると、遺産分割でトラブルになる可能性もあります。
外貨で相続トラブルが心配な場合は為替予約を
為替レート変動によるリスクを避けるために為替予約(先物為替予約)という手段があります。「為替予約」とは、為替レートの変動によって生じるリスク(為替リスク)をリスクヘッジするための取引で、将来の一定時期においての為替レートを現時点で決めてしまうというものです。ただし、自由にレートを設定できるわけではなく、先物予約レートという為替レートでの予約となります。
たとえば、半年後に1ポンド150円で取引すると決めてしまえば、ポンドが120円に下落したとしても150円で円に換金することができます。逆にポンドが上昇しても、当初契約した150円で換金します。
為替予約がある場合の外貨の相続税評価は、為替予約で設定されたレートによります。1ポンド150円で為替予約していれば、相続財産も150円で評価します。円での金額が確定しているため、相続トラブルが発生しにくいといえるでしょう。
為替予約の注意点
為替予約は銀行と締結しますが、銀行は顧客に先物為替予約の実行能力があるかどうか、事前に審査を行います。もし、顧客が倒産などの理由で為替予約の実行ができなくなってしまった場合に、銀行が締結している予約レートと不履行になった時点での市場実勢レートとの差損金を顧客から回収出来なくなるリスクがあり、先物為替予約の締結は顧客に対する与信行為とみなしているからです。
為替予約では一定期間に決まったレートで取引するという契約をしていますので、あらかじめ決めた予約の実行日または実行期間内に予約金額の全てを取引しなければなりません。半年後に1万ポンドを円に換金するという契約をしたなら、必ず半年後に1万ポンドを円に変えなければなりません。しかし、戦争や暴動・テロ、または、港湾ストライキや悪天候などのやむをえない理由がある場合には、先物為替予約の取消や期日変更(予約の延長など)に応じてもらえることもあります。
先物為替予約の期日延長などの必要性が生じた場合には、銀行内部での審査・事務処理などの手続きに時間を要する場合がありますので、為替予約の変更が必要とわかったらなるべく早めに、取引銀行と相談することをお勧めします。