基礎年金と厚生年金の繰り下げは同時と別々、どっちがお得?

老齢年金は、受給開始年齢を遅らせる「繰り下げ受給」を選ぶことで、将来受け取れる年金額を増やすことができます。

このとき、多くの人が悩むのが「老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り下げるべきか、それとも別々に繰り下げたほうが有利なのか」という点です。

そこで本記事では、シミュレーション結果をもとに、それぞれの違いと最適な選び方をわかりやすく解説します。

1.基礎年金と厚生年金は同時に繰り下げるべきか?別々が有利か?

(1)繰り上げと繰り下げの基本ルールの違い

繰り上げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を同時に繰り上げる必要があります。

一方、繰り下げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることができます。どちらか片方だけ繰り下げて片方は65歳受給開始でも良いですし、それぞれ別々の年齢に繰り下げても大丈夫です。

それならば、同時に繰り下げるのと、別々に繰り下げるのとどちらが有利なのでしょうか?

(2)シミュレーションの前提条件

そこで、60~64歳の間で同時に繰り上げた場合と、66~75歳の間で同時または別々に繰り下げた場合の全パターンをシミュレーションしてみました。

老齢基礎年金を約6万9,000円、老齢厚生年金を約9万1,000円で合計16万円として計算しています。なお、手取りベースでの計算は時間がかかり難しいため、額面ベースでの計算を行っています。

(3)同時繰り下げと別々繰り下げの比較結果

想定寿命 基礎年金 厚生年金 想定寿命 基礎年金 厚生年金
60 60 60 81 67 67
61 60 60 82 68 68
62 60 60 83 68 68
63 60 60 84 69 69
64 60 60 85 69 69
65 60 60 86 70 70
66 60 60 87 70 70
67 60 60 88 71 71
68 60 60 89 71 71
69 60 60 90 72 72
70 60 60 91 72 72
71 60 60 92 73 73
72 60 60 93 73 73
73 60 60 94 74 74
74 60 60 95 74 74
75 60 60 96 75 75
76 60 60 97 75 75
77 61 61 98 75 75
78 61 61 99 75 75
79 62 62 100 75 75
80 62 62

その結果、想定寿命がどの年齢の場合でも、もし繰り下げるなら、同時に繰り下げるパターンが最も有利になることがわかりました。

一見、片方だけ繰り下げるほうがなんとなく有利に思えるのですが、結果的には、もし繰り下げるなら同時に繰り下げるほうが有利です。

ただし、これは額面ベースでのシミュレーションです。手取りベースで考えて、年金以外に給与収入などがある場合は、結果が変わる可能性があることをご了承ください。

2.加給年金がある場合は結論が変わる

ここで一つだけ、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げるほうが効果的な場合があります。

それは、加給年金をもらえるときです。

(1)加給年金とは?|仕組みと注意点

加給年金とは、65歳未満の配偶者がいる場合にもらえる年金の家族手当のようなもので、年間41万5,900円(2025年)です

老齢厚生年金を繰り下げると加給年金をもらえなくなるため、老齢基礎年金だけ繰り下げて、老齢厚生年金は65歳から受給開始する方法があります。

(2)加給年金ありの場合の最適パターン

まず、夫婦の年齢差5歳想定してシミュレーションしてみた結果がこちらです。

夫婦の年齢差5歳の場合

想定寿命 基礎年金 厚生年金 想定寿命 基礎年金 厚生年金
60 60 60 81 63 63
61 60 60 82 68 65
62 60 60 83 68 66
63 60 60 84 69 66
64 60 60 85 69 67
65 60 60 86 70 67
66 60 60 87 70 68
67 60 60 88 71 68
68 60 60 89 71 69
69 60 60 90 72 72
70 60 60 91 72 72
71 60 60 92 73 73
72 60 60 93 73 73
73 60 60 94 74 74
74 60 60 95 74 74
75 60 60 96 75 75
76 60 60 97 75 75
77 61 61 98 75 75
78 61 61 99 75 75
79 62 62 100 75 75
80 62 62

想定寿命が81歳までなら同時繰り上げが有利です。

想定寿命が82歳以降は繰り下げが有利になりますが、想定寿命82歳では、老齢基礎年金を68歳に繰り下げ、老齢厚生年金は65歳受給開始が最適となりました。

想定寿命があがるにつれて、最適な受給開始年齢は少しずつあがっていきますが、老齢基礎年金は老齢厚生年金よりも2、3年くらい遅く繰り下げてもらうのが最適なパターンです。

65歳から69歳まで5年間、加給年金41万5,900円をもらえますので、この期間はなるべく老齢厚生年金を受給したほうが有利になるわけです。なお、想定寿命が90歳以降は、両方繰り下げたほうが有利になります。

夫婦の年齢差10歳の場合

次に、夫婦の年齢差を10歳と想定してシミュレーションしました。

夫婦の年齢差5歳のときと結果はだいたい同じですが、想定寿命が90歳以降でも、老齢厚生年金を老齢基礎年金より2、3年早目に受給開始することが最適になります。

65歳から74歳まで10年間、加給年金をもらえますので、老齢厚生年金はできるだけ早目に受給開始したほうが有利になるわけです。

想定寿命 基礎年金 厚生年金 想定寿命 基礎年金 厚生年金
60 60 60 81 63 63
61 60 60 82 68 65
62 60 60 83 68 66
63 60 60 84 69 66
64 60 60 85 69 67
65 60 60 86 70 67
66 60 60 87 70 68
67 60 60 88 71 68
68 60 60 89 71 69
69 60 60 90 72 69
70 60 60 91 72 70
71 60 60 92 73 70
72 60 60 93 73 71
73 60 60 94 74 71
74 60 60 95 74 72
75 60 60 96 75 72
76 60 60 97 75 73
77 61 61 98 75 73
78 61 61 99 75 74
79 62 62 100 75 74
80 62 62

夫婦の年齢差15歳の場合

次に、夫婦の年齢差を15歳と想定してシミュレーションしました。

想定寿命 基礎年金 厚生年金 想定寿命 基礎年金 厚生年金
60 60 60 81 63 63
61 60 60 82 68 65
62 60 60 83 68 66
63 60 60 84 69 66
64 60 60 85 69 67
65 60 60 86 70 67
66 60 60 87 70 68
67 60 60 88 71 68
68 60 60 89 71 69
69 60 60 90 72 69
70 60 60 91 72 70
71 60 60 92 73 70
72 60 60 93 73 71
73 60 60 94 74 71
74 60 60 95 74 72
75 60 60 96 75 72
76 60 60 97 75 73
77 61 61 98 75 73
78 61 61 99 75 74
79 62 62 100 75 74
80 62 62

このように、加給年金をもらえる場合に繰り下げるのであれば、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げ、2、3年差をつけたうえで、老齢厚生年金を早目に受給開始することが良いでしょう。

3.振替加算がある場合

ここでもう一つ、見落とされがちですが重要なのが「振替加算」です。

加給年金とは逆に、振替加算は主に配偶者側の年金に影響するため、繰り下げの判断にも違いが出てきます。

(1)振替加算とは?|仕組みと注意点

振替加算とは、加給年金を受けていた配偶者が65歳になったときに、その配偶者の老齢基礎年金に上乗せされる年金です。

もともと加給年金は、65歳未満の配偶者がいる場合に支給されますが、配偶者が65歳になると加給年金は終了します。その代わりとして、一定の条件を満たす場合に振替加算が支給される仕組みです。

振替加算のポイントは次のとおりです。

  • 配偶者本人の老齢基礎年金に上乗せされる
  • 加給年金と違い、老齢厚生年金の受給状況には直接左右されない
  • ただし、老齢基礎年金を繰り下げると、その間は振替加算も受け取れない

つまり、振替加算は「老齢基礎年金とセットで支給される」ため、基礎年金を繰り下げると、その分だけ振替加算の受給開始も遅れる点に注意が必要です。

(2)振替加算ありの場合の最適パターン

では、振替加算がある場合は、繰り下げ戦略にどのような影響があるのでしょうか。

振替加算額16,033円の場合

想定寿命 基礎年金 厚生年金 想定寿命 基礎年金 厚生年金
60 60 60 81 67 67
61 60 60 82 67 68
62 60 60 83 68 68
63 60 60 84 68 69
64 60 60 85 69 69
65 60 60 86 69 70
66 60 60 87 70 70
67 60 60 88 70 71
68 60 60 89 71 71
69 60 60 90 71 72
70 60 60 91 72 72
71 60 60 92 72 73
72 60 60 93 73 73
73 60 60 94 73 74
74 60 60 95 74 74
75 60 60 96 74 75
76 60 60 97 75 75
77 61 61 98 75 75
78 61 61 99 75 75
79 62 62 100 75 75
80 62 62

振替加算額41,399円の場合

想定寿命 基礎年金 厚生年金 想定寿命 基礎年金 厚生年金
60 60 60 81 67 67
61 60 60 82 67 68
62 60 60 83 68 68
63 60 60 84 68 69
64 60 60 85 69 69
65 60 60 86 69 70
66 60 60 87 70 70
67 60 60 88 70 71
68 60 60 89 71 71
69 60 60 90 71 72
70 60 60 91 72 72
71 60 60 92 72 73
72 60 60 93 73 73
73 60 60 94 73 74
74 60 60 95 74 74
75 60 60 96 74 75
76 60 60 97 75 75
77 61 61 98 75 75
78 61 61 99 75 75
79 62 62 100 75 75
80 62 62

シミュレーション結果を見ると、基本的な傾向は次のとおりです。

  • 振替加算がある場合でも、繰り下げるなら「同時繰り下げ」が有利なケースが多い
  • ただし、振替加算が大きい場合は、老齢基礎年金の繰り下げを慎重に判断する必要がある

振替加算が与える影響|なぜ結論は大きく変わらないのか

振替加算は、金額としては加給年金より小さいものの、基礎年金と一体で長期間受け取ることになるため、繰り下げによる影響が積み上がりやすい特徴があります。

ただし、加給年金のように「受給できるかどうか」が大きく変わる制度ではないため、繰り下げ戦略そのものを大きく変えるほどのインパクトはありません。

その結果、最適パターン自体は大きくは変わらないというわけです。

振替加算額ごとの考え方|実務的な判断基準

そのため、次のような判断になります。

  • 振替加算額が小さい場合
    基本どおり、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り下げるのが合理的
  • 振替加算額が大きい場合
    老齢基礎年金の繰り下げを短めにする、あるいは65歳から受給開始する選択肢も検討余地あり

もっとも、今回のシミュレーション結果を見てもわかるとおり、振替加算が16,033円の場合でも41,399円の場合でも、最適パターンは大きくは変わっていません。

まとめ

したがって結論としては、振替加算がある場合でも、

  • 基本は同時繰り下げをベースに考える
  • ただし、振替加算分だけ基礎年金の繰り下げ開始を少し早める余地がある

というスタンスで判断するのが現実的です。

本ページで説明した内容について、拙著『知れば知るほど得する年金の本』(三笠書房、CFP 服部貞昭 著)でさらに詳しく解説しています。
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP®(日本FP協会認定)、日商簿記検定1級。
税理士試験 財務諸表論 科目合格。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を10年以上担当。
税金やお金に関することが大好きで、関連記事を2000本以上、執筆・監修。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
著書「届け出だけでもらえるお金大全」「知れば知るほど得する年金の本
服部 貞昭 プロフィール この監修者の記事一覧
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