タワマンの空室税とは?意味合いと問題点
神戸市で、誰も居住していないタワマン(タワーマンション)の部屋に「空室税」をかけることが検討されています。
空室に税金をかけることの意味合いと、その問題点について解説します。
目次
1.神戸市が提唱するタワマンの空室税とは?
都市部を中心にタワーマンションが増加しており、東京カンテイの調査(2023年)によると、タマワンの数は、1994年の117から2023年には1,515と約13倍に増えています。また、販売価格が高騰しており、新築分譲の購入価格が1億円を超えることが当たり前となりつつあります。
一方で、勤労世帯の賃金はここ数年で上昇しているものの、物価に対する実質賃金はマイナスとなっています。通常のマンションでも年収の約10倍の価格になっており、若い世帯や子育て世帯が都心部で住宅を購入することが難しくなりつつあります。
その中で、タワマンを居住目的ではなく投資目的で購入する人が増えています。円安・海外でのインフレという状況で、海外からは日本の不動産は割安という印象があり、外国人によるタワーマンション購入も増えています。
その場合に、問題となるのは、マンションの管理が行き届かなくなることです。マンションの管理責任は、全所有者で構成される「管理組合」にあり、その管理組合から選出された理事を中心に運営を担っています。ところが、居住していない所有者は、マンション管理に対する関心が薄くなりがちで、管理組合の総会に出席しないことも多くあります。そうなると、管理組合で重要な意思決定ができず、必要な大規模修繕等も放置される状態となり、マンションの資産価値の低下や、環境の悪化など社会問題を引き起こします。
そこで、空室に税金をかけることで、空室が増えるのを防いで上記のような課題を解決し、マンションの資産価値や住環境を保とうと、神戸市が提唱しています。
定義は特にありませんが、一般的には20階以上の超高層マンションを指しています。周囲に高層建築物がない地方エリア等では、20階未満でもタマンと称されることもあります。
2.神戸市のタワマン空室の現状
神戸市では、三宮、神戸駅、新神戸駅の周辺にタワマンが集中しています。神戸市は日本の三大夜景に選ばれた都市でもあり人気があります。ところが、マンション価格が高騰する中で、居住目的でなく、投資目的であったり、セカンドハウスとして購入する人が増えています。
神戸市によると、住民登録がされていない「空き部屋」の割合が増えており、40階以上では30%を超えています。
階数 | 空き部屋の割合 |
---|---|
40階~ | 33.7% |
30~39階 | 21.2% |
20~29階 | 19.3% |
10~19階 | 14.7% |
1~9階 | 14.0% |
神戸市では、空き室が増加すると、マンション管理組合による修繕や解体などの合意形成が困難となり、最悪の場合、廃墟化することを懸念しています。
そこで、空室税を導入することで、空き室が増えるのを防ごうとしています。2025年度から具体的な条例案などについて市議会で議論を進める予定です。仮に、空室税を導入すれば全国の自治体で初の試みとなります。
空室税で徴収したお金は、マンション管理や防災・防犯にかかる費用に充てることが検討されています。
3.空室税の問題点
空室税をかけることで、空き室が増加に歯止めをかけることはできるかもしれませんが、いくつかの問題点が考えられます。
▷「居住しない」ことに対して税金をかけるのは憲法違反のおそれ
日本国憲法第29条では、「財産権」が規定されており、タワマンを含めた財産を自由に所有する権利が認められています。そして、所有した財産をどのように扱うかについては、特に規定はありません。不動産であれば、居住する/居住しないは自由です。
ただし、第2項に「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」とありますので、公共の福祉に反する場合には、一定の制限をかけることができると考えられます。
たとえば、最近問題になっているのは、劣化した空き家です。空き家の壁や屋根が道路に崩れて通行者に被害を及ぼすことが想定される場合は、自治体が所有者に対して撤去命令を出すことが認められています。
しかし「居住しない」ことが、公共の福祉に反しているかというと、なかなか難しいかもしれません。管理組合が機能しないことでタマワンの資産価値が劣化し直接影響を受けるのは、タマワンの居住者や所有者ですが、市民全体に影響を及ぼしているとは言い難いからです。
「居住しない」ことで管理が行き届かず、建物の壁がはがれ落ちるとかであれば何らかの制限がかけられますが、現時点できちんと管理や修繕がなされているのであれば、「未来の廃墟化のおそれ」に対して、制限をかけることは難しいでしょう。
人によっては、もともと居住目的で購入したものの、転勤等で住まなくなり空き室になっていることもあります。
仮に、空室税を導入すれば、憲法違反であるとして、訴訟を起こされる可能性があります。
▷タワマンだけを対象とすることは不公平
空き室が問題となっているのはタワマンだけではありません。国土交通省によると、築40年以上のマンションは、2023年時点で約137万戸あり、20年後の2043年には約464万戸になると予想されています。特に、高齢者が多い郊外や地方のマンションでは、管理組合が機能しないばかりか、修繕や解体のための費用を捻出することが難しく、まさに廃墟化することが懸念されています。
むしろ、建築年が比較的新しく、富裕層の所有者が多いタマワンのほうが、管理費や修繕費の用意という意味では、課題を解決しやすいといえるかもしれません。
また、マンションだけでなく「空き家」も大きな課題です。国土交通省によると、2023時点の空き家の件数は約900万件となり、空き家率は13.8%となりました。鉄骨鉄筋のマンションと比較して、木造の戸建ては老朽化が進みやすく、また、道路に直接面している家も多いため、通行人に被害が及ぶおそれが高いです。さらに悪臭が漂ったり、防災・防犯の観点でも問題となります。
にもかかわらず、タマワンだけを対象として空室税をかけることは不公平といえるかもしれません。
4.タマワンの空室を解決するなら他の手段もある
今回、問題となっている「タマワンの空室」ですが、一般的なマンションの「空き室」「空き部屋」とは、異なる理由で発生していると考えられます。
一般的なマンションであれば、老朽化して人気がなくなったり、地域の人口が減ったりすることで、居住者が少なくなります。
しかし、タマワンの空き室が増えているのは、購入価格が高騰しすぎて一般的な勤労世帯が購入できず、投資目的の富裕層が増えているからです。タマワンの多くは都心部に建築されており、駅近で立地的には申し分なく、共用設備も整っており、価格さえ見合えば、住みたい若者世帯・子育て世帯は多くいるはずです。
そこで、都心部のタマワンに住みたい勤労世帯に対して、購入や賃貸にかかる費用の一部を助成するなどの政策が考えられます。
賛否はあるかもしれませんが、市民の住む場所を用意してその地域を豊かにすることは自治体の重要な業務の一つです。実際、地方の自治体では、復興したいエリアに移住する人に対して助成金や補助金が支給されています。その際には、最低5年以上居住するなどの条件が設けられていることが多いです。
タマワンの空室を解決するなら、空室税よりも効果的な手段は他にもいくつかあるでしょう。