インボイス制度で家賃支払いはどうなる? 口座振替の場合はどうすればいい?
事業者にとって適格請求書等の保管が必要になるインボイス制度では、家賃の支払いについても例外ではありません。家賃の支払いを口座振替で支払っている場合、インボイス制度に適した対応を行わなければ、家賃にかかる消費税を仕入控除できなくなってしまう可能性があります。
この記事では、家賃の支払いにインボイスが必要なケースと不要なケース、どのような対応が必要になるのかについてお伝えします。
目次
1.家賃や駐車場代に消費税はかかる?
(1)消費税がかかる家賃とは?
物件を借りるために支払う家賃には、原則的に消費税がかかります。
「自宅の家賃には消費税がかかっていないけど…」と思われる方もいらっしゃると思いますが、これは平成3年の社会政策で消費税の非課税対象が拡大された際に「居住用物件の家賃は非課税にする」と決まったため、自宅などの居住用物件の家賃は特別に非課税となっています。
居住用物件の家賃は消費税が非課税になりますが、それ以外の家賃については消費税が課税になり、家賃+消費税の支払いが必要です。
【消費税が課税になる家賃】
- 事務所や店舗、工場の家賃、共益費
- 事務所や店舗、工場の礼金
- 事務所や店舗、工場の退去時に返還されない敷金、保証金
- 事務所や店舗、工場の更新料
- 舗装された駐車場
- 貸付期間が1月未満の住宅
【消費税が非課税になる家賃】
- 居住用物件の家賃、共益費
- 居住用物件の礼金
- 居住用物件の退去時に返還されない敷金、保証金
(2)家賃に消費税がかかっているのかの見分け方
家賃に消費税がかかっているのかを見分ける方法は「賃貸借契約書を確認すること」です。
国税庁のタックスアンサーでは「非課税となる取引」として17項目の非課税項目をあげており、住宅の貸付けについては「契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」と記載されています。
つまり、賃貸借契約書において「居住用の貸し付けであること」が明らかになっている場合のみ消費税が非課税であり、それ以外の用途で貸し付ける場合は課税取引になります。
2.家賃や駐車場代にインボイスは必要? 個人から借りている場合はどうなる?
事務所や店舗など、消費税が課税になる家賃には、他の取引と同様にインボイス(適格請求書等)が必要になります。
しかし、多くのケースでは賃貸借契約を行った後、家賃の支払いは口座引き落としで行い、契約期間終了後は自動更新になっており、インボイスの要件を満たしていません。
(1)インボイスの要件を満たさなければ消費税が控除できない
インボイス制度では要件を満たしたインボイス(適格請求書等)のみが仕入控除の対象になります。
そのため、消費税の課税取引である家賃のインボイスを保管していなければ家賃の消費税を控除することができません。
家賃の仕入控除ができなければ、消費税の納付額が増加し、不利になってしまうことになります。家賃のインボイス対応ができていない方は早急に対応が必要です。
(2)簡易課税制度を選択している場合は問題ない
事業者が簡易課税制度を選択している場合は、インボイス制度の仕入控除に関する影響を受けません。
消費税の原則的な計算方法は、売上などで預かった消費税から仕入れなどで支払った消費税を差引いた差額を納付する方法です。ただし、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合は「簡易課税制度」の届出書を提出することで簡易課税制度を選択することができます。
簡易課税制度では、課税売上高と業種に合った「みなし仕入率」を基礎に計算するため、仕入税額控除を考慮する必要がありません。そのため、家賃のインボイスがない場合であっても消費税の計算に影響を与えず、従来通りの消費税額の計算と帳簿保管で問題ありません。
3.インボイス制度への対応策|家賃を口座振替・口座振込にしている場合は?
家賃の支払いをインボイス制度に対応させるためには「貸主が適格請求書発行事業者かどうかを確認する」必要があります。
インボイスは適格請求書発行事業者のみが発行できるものであるため、貸主が消費税の課税事業者ではなく、適格請求書発行事業者の登録を行っていない場合はインボイスの要件を満たすことができません。
(1)貸主が適格請求書発行事業者ではない場合の経過措置
貸主が免税事業者のため適格請求書発行事業者ではない場合には、消費税の仕入税額控除が行えません。
ただし、インボイス制度導入後6年間については経過措置が設けられており、適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについて、一定割合を控除することが可能です。
【経過措置】
- 令和5年10月1日~令和8年9月30日⇨仕入税額控除の80%を控除可
- 令和8年10月1日~令和11年9月30日⇨仕入税額控除の50%を控除可
経過措置はあるものの、仕入税額控除の全額を控除することはできませんので、貸主との賃貸借契約の条件の見直しなどを検討してもいいでしょう。ただし、双方の負担を考慮した話し合いでなければ独占禁止法の「優越的地位の濫用」に抵触するおそれがありますので注意しましょう。
(2)貸主が適格請求書発行事業者である場合の対応|通知書・覚書の作成など
貸主が適格請求書発行事業者である場合は、書類上の要件を満たすことでインボイス制度に対応することができます。賃貸借契約時期ごとの対応策を見ていきましょう。
令和5年9月30日より前からの賃貸借契約
従来は賃貸借契約書と家賃の支払い記録があれば問題ありませんでした。しかし、インボイス制度ではこれらの書類だけでは情報が不足しています。
インボイス(適格請求書等)には記載が必要な事項が定められており、全て確認できることで仕入税額控除を行うことができます。ここでのポイントは「1つの書類だけで全ての記載要件を満たす必要がない点」です。賃貸借契約書や他の書類などを合わせてインボイスの要件を満たし、通帳などで取引の事実が確認することができれば問題ありません。
具体的には、貸主に
- 適格請求書発行事業者登録番号
- 賃貸借契約の賃料(適用税率の追記等)
- どの書類をインボイスとして取り扱うか
などを記載した覚書を作成してもらうことで対応することができます。
この場合、賃貸借契約書と上記覚書、取引がわかる通帳や入出金明細照会などを合わせるとインボイスの要件を満たすことになるため、インボイス制度に対応した仕入税額控除が可能になります。
令和5年10月1日以降の賃貸借契約
令和5年10月1日以降に賃貸借契約を結ぶ場合には、インボイスに必要な事項を契約書の中に記載し、取引がわかる通帳や入出金明細照会を保存することでインボイスの要件を満たすことができます。賃貸借契約書に記載が必要な内容は次の通りです。
- 賃貸人の名称と適格請求書発行事業者登録番号
- 賃借人の名称
- 賃貸物件の内容
- 家賃の額と適用税率
- 税率ごとの消費税額
4.家賃のインボイスは何月分から必要? 前払している場合は?
家賃に関するインボイスは「令和5年10月分」から必要になると考えられます。
なぜ断言できないかというと、同じ取引であっても貸主の家賃収入の計上時期と借手の家賃の計上時期が必ずしも一致しないためです。
インボイス制度では、原則的に「貸主の課税時期が令和5年10月1日以降の取引」からインボイスが必要になります。そのため、貸主の収入計上の時期によってインボイスがいつから必要になるのかが異なります。
貸主が個人である場合、貸主の収入の計上時期は原則として「契約上の支払日」になります。10月分の家賃を9月に受け取っている場合は9月の収入として計上することになるため、9月に支払った10月分の家賃にインボイスは必要ありません。
ただし、継続的な記帳を行っている場合については貸付期間に対応して収入を計上することも認められており、この場合は9月に受け取った家賃は10月の収入になるためインボイスが必要です。
貸主が法人の場合は貸付期間に対応して収入を計上するため、9月に受け取った家賃は10月の収入になり、インボイスが必要です。
また、借主の経理処理によってもインボイスがいつから必要なのかが異なります。継続適用を条件に10月分以降の家賃であっても、9月以前の支払い時に費用にできる「短期前払費用」というルールがあります。借主が短期前払費用として家賃を経費にしている場合は、10月分以降の家賃であってもインボイスは必要ありません。
このように、9月に支払った家賃のインボイスの要否は経理処理によって異なりますので、混乱しないように貸主と借主で話し合いましょう。