交通費精算はインボイス制度で乗車ごとに仕訳が必要、残業増加!

電車

インボイス制度で、交通費精算がかなり大変なことになりそうです。精算をする従業員の手間が増えますし、経理部門の担当者は残業が増加すること、間違いなしです。

インボイス制度で、交通費精算がなぜ大変なことになるのか? 旅費交通費のインボイス制度と、帳簿の入力・仕訳方法を解説します。

1.交通費精算のインボイス対応

会社の従業員が、営業活動や外部へのセミナー・研修などで、公共交通機関を利用することは多いでしょう。

これらの交通費は、不定期に発生し、金額も毎回異なるため、社員がいったん公共交通機関に支払い、後日、会社に対して交通費精算(立替精算)を行って、会社から社員に実費が支払われることが一般的です。

交通費精算(立替精算)に関わる経費は、勘定科目は「旅費交通費」で、消費税の区分は、課税仕入れ10%となります。

インボイス制度では、課税事業者の場合、消費税の仕入税額控除を受けるには、インボイス登録事業者(適格請求書発行事業者)が発行したインボイス(適格請求書)が必要になります。

インボイスには、次のサンプルのように、インボイス登録事業者の登録番号や、税率ごとの対価の金額・消費税額などが記載されます。

請求書 インボイス

▶公共交通機関特例で3万円未満はインボイス不要

交通費精算(立替精算)を行う形式の旅費交通費の支払いについて、従業員は代理で支払いをしているだけで、会社と公共交通機関が取引していることになります

よって、会社は消費税の仕入税額控除を受けるために、公共交通機関が発行したインボイスが必要です。

しかし、電車・バスなどを利用した短距離の移動では、乗車後に回収される切符を自動券売機で購入したり、Suica・PASMOなどの電子マネーを利用したりすることが一般的であり、乗車の都度、インボイスの交付を受けることは困難です。

そこで、インボイス制度では「公共交通機関特例」があり、3万円未満の公共交通機関の運賃に関しては、インボイス不要で、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで、消費税の仕入税額控除を適用できます。

2.公共交通機関特例でインボイス不要

公共交通機関特例でインボイス不要となるのですが、条件と適用方法を説明します。

(1)公共交通機関特例の条件

公共交通機関特例を適用するためには、次の条件があります。

  • 対象の公共交通機関:電車(鉄道・軌道・モノレール)、バス、船舶
    (タクシー、飛行機は対象外)
  • 対象サービス:旅客の運送
    (入場券は対象外)
  • 支払対価の金額が税込みで3万円未満

対象の交通機関は、鉄道・モノレール、バス、船舶に限られます。タクシーや飛行機は対象となりません。

また、鉄道会社に支払う費用のうち、旅客の運賃に該当する部分だけが対象です。特急料金や寝台料金は、旅客の運送に関わる費用ですので、対象です。
一方で、駅構内に立ち入るために支払う「入場料」は対象外です。

3万円未満は1回の取引で判断

公共交通機関特例の基準「税込3万円未満」は1回の取引の金額で判断します。

たとえば、東京→大阪の新幹線代(運賃+特急料金+指定席)は、14,520円です。1人分であればインボイスは不要ですが、3人分まとめて購入したら43,560円で、3万円を超えますので、インボイスが必要になります。

3万円以上でも回収される切符はインボイス不要

税込み3万円以上の運賃、あるいは、入場券でも、使用時に乗車券や切符が回収されてしまい、手元に何も書類が残らない場合は「入場券回収特例」として、インボイスは不要です。

(2)交通機関の情報を帳簿に記載

公共交通機関特例、または入場券回収特例を適用する場合、インボイスは不要ですが、次の内容を帳簿に記載する必要があります。

  • 課税仕入の相手方の氏名または名称 → (例)〇〇鉄道株式会社
  • 取引年月日 → 乗車した日付
  • 取引内容(軽減税率対象の場合はその旨を記載) → 鉄道料金
  • 支払対価の額 → (例)980円
  • 特例の対象となる旨 → 「3万円未満の鉄道料金」

※他の特例と違って、課税仕入の相手方の住所または所在地の記載は不要です。

3.帳簿の記載で、残業増加!

「インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能」

これだけ見ると、良心的な特例のように聞こえますが、実は、この「一定の事項を記載した帳簿」が原因で、経理の業務が大変なことになります。

すでに紹介したとおり、帳簿には「〇〇鉄道株式会社」などと、公共交通機関の名称を記載しますが、なんと、乗車1件ごとに記載する必要があるのです。

どういうことか、具体例で説明しましょう。

ある従業員Aが交通費精算を行い、次の内容だったとします。

日付 経路 金額(税込)
10/5 所沢→小竹向原→渋谷→横浜 875円
10/12 所沢⇔練馬⇔新宿
(往復)
1,108円
  合計 1,983円

旅費交通費は全額、課税仕入れ10%ですので、従来であれば、合計額1,983円に対して、次のような仕訳をすれば大丈夫でした。
(交通費精算1件単位で仕訳をしている会社もあるかもしれませんが、ここでは、月単位でまとめて仕訳をしていると想定しています。)

借方 金額 貸方 金額
旅費交通費(課税10%) 1,803円 預金 1,983円
仮払消費税 180円    

経費精算システムから会計システムに連携されていることも多く、この処理はほぼ自動的に行われていることも多いでしょう。

▶乗車1件ごと、鉄道会社ごとに記載が必要!

ところが、インボイス制度の帳簿保存では、乗車1件ごと、鉄道会社ごとに記載が要求されています。

たとえば、所沢→横浜の経路では、西武鉄道、東京地下鉄(東京メトロ)、東急鉄道の3社を乗り継ぐのですが、それぞれ分解して、会社ごとに仕訳を行い、鉄道会社の名称を記入する必要があります

つまり、こういうことになります。
(旅費交通費は、すべて「課税10%」ですので、区分は省略しています。)

日付 借方 金額 貸方 金額 メモ
10/5 旅費交通費 286円 預金 314円 3万円未満の鉄道料金
西武鉄道株式会社
  仮払消費税 28円      
10/5 旅費交通費 230円 預金 252円 3万円未満の鉄道料金
東京地下鉄株式会社
  仮払消費税 22円      
10/5 旅費交通費 281円 預金 309円 3万円未満の鉄道料金
東急鉄道株式会社
  仮払消費税 28円      
10/12 旅費交通費 257円 預金 282円 3万円未満の鉄道料金
西武鉄道株式会社
  仮払消費税 25円      
10/12 旅費交通費 248円 預金 272円 3万円未満の鉄道料金
東京都交通局
  仮払消費税 24円      
10/12 旅費交通費 257円 預金 282円 3万円未満の鉄道料金
西武鉄道株式会社
  仮払消費税 25円      
10/12 旅費交通費 248円 預金 272円 3万円未満の鉄道料金
東京都交通局
  仮払消費税 24円      

もともと1件で良かった仕訳が7件に増えてしまいました。しかも、それぞれの鉄道会社の名称を調べるのも大変です。

営業職員など、移動件数が多く、経路が複雑な従業員の交通費精算はもっと大変なことになります。

仮に、1つの仕訳に30秒かかるとして、毎月1,000件の交通費精算があったら、少なくとも、1,000件の仕訳が発生し、500分=8時間20分かかることになります。これは、経理担当者の残業時間の増加は間違いなしです。

▶国税庁からの回答は「1件ずつ記載が必要」

さすがに、これはあり得ないだろうと思い、2023年9月27日、国税庁のインボイスコールセンター(インボイス電話相談センター)に問い合せてみました。

電話に出られたオペレーターの方も、大変なことは理解されたようですが、現時点で、まとめて記入しても良いというような記載は、国税庁のホームページにもFAQなどの資料にもどこにもなく、「1件ずつ記載が必要」と回答するしかないとのことでした。

今後、国税庁から新たな指針が発表される可能性はありますが、現時点では、このような状況となっています。

4.公共交通機関の正式名称一覧(全国版)

帳簿に記載する公共交通機関の名称は、原則的には、正式名称になりますが、屋号(サービス名称)などでも、どの公共交通機関かわかれば問題ありません

たとえば、東京の地下鉄である「東京メトロ」は、実際にはそういう会社はなく「東京地下鉄株式会社」が運営していますが、「東京メトロ」と記載しても、他の会社と重複するおそれはありませんので、問題ないでしょう。

ただ、既存の帳簿でも、正式名称で記載していることもあると思いますので、主要な公共交通機関の正式名称とインボイス登録番号の一覧を下記のページにまとめました。是非ご参照ください。

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監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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