なぜ日本のコロナ支援策は迷走するのか?各国比較から考えるその要因

執筆
荒井薫
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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安倍首相が、「困っている家庭に30万円支給をする」と発表してから2週間、迷走に迷走を重ねて、結局、全員一律10万円支給という案に落ち着きました。
当初より、30万円支給の条件は「分かり難い!」という批判が野党や民間エコノミストに加えて、与党からも上がっていました。

そして、突然、給付金の内容が変更されまました。その前代未聞のプロセスを見ている私達国民としては、「うんざりだ…」というのが本音だと思います。

さて、アメリカが迅速に給付金を支給したことは日本でも話題になっています。では、他の各国はどうなっているのでしょうか?各国比較をすることで、日本の迷走の本質に迫りたいと思います。

1.4月21日現在の日本の給付金の概要について

日本の迷走の本質に入る前に、10万円一律給付金の概要をここで整理をしたいと思います。なお、この内容は4月21日現在のものです。
予定では4月27日に国会に付議されて連休中に審議が進められて、5月中に支給手続きが開始される見込みです。

1-1.給付対象者

4月27日時点において、住民基本台帳に記載されたすべての居住者が対象となります。

在留外国人については、3カ月を超える在留資格を持ち、かつ、住民票を届け出ている外国人は住民基本台帳に載っているので、当然支給対象となります。
日本の国籍を持つ人についても、この住民基本台帳に載っているかどうかで判断されることとなる予定です。

1-2.受給方法

住民基本台帳を基づいて、市区町村から世帯主当てに、世帯全員の氏名が記載された申請書を登録された住所に送る方法を取るようです。

受取は、原則として世帯主の金融機関となるため、金融機関の口座番号などを記載して、本人確認書類を添付して返送します。ただし、世帯主がマイナンバーカードを持っている場合は、オンラインでの手続きが可能になる予定です。

1-3.支給時期

政府は、本案を「4月27日に国会に付議する」こととしています。管轄官庁は総務省となります。本来は手続きとしては、国会での承認後に支給手続きを開始させることとなりますが、迅速な支給を進めるために、現在国会審議のための準備と共に支給手続きの具体的な準備も進めているようです。

支給手続き事務は、各市区町村に委ねられますので、実際の支給時期は、住んでいる市区町村によって違ってくる見込みです。人口規模が小さい自治体では、5月から給付が開始できるとの見通しが立っているとのことです。

1-4.申請した人だけが受け取れる給付金

世帯主に送られる申請書の氏名欄の横に、希望しない場合のチェック欄が付けられることとなっています。従って、この給付金は、受給資格がある個人が、その受給する、しないの判断をすることが出来るようになっています。

仮に、世帯全員が受給を希望しない場合には、当該申請書を返信しなければよいことになるようです。なお、受給可能期間は、3か月となる予定です。

1-5.支給対象者基準日の意味

支給手続きを可能な限り簡素化するために、支給対象基準日を設けています。従って、この日に住民基本台帳に載っている人を対象とするため、基準日以降に亡くなられた方も対象になる一方で、出生届が遅れるなどがあり、台帳に載らなければ支給対象にはならないこととなります。

長期の海外旅行や海外赴任から急遽帰国した方で、住民票を日本に戻す手続きをしていない人は注意が必要となります。

1-6.金融機関の口座を持っていない場合

日本においては、金融機関での口座開設が難しいという事態に直面したことがある人は極めて稀だと思いますが、最近では、正規な滞留資格があっても外国人が日本の金融機関に口座を開設することが難しくなっています。その場合には、個別に対応を検討するようです。

1-7.その他の留意事項

給付金については、「一律支給を模索⇒困窮した家庭に対象を絞る⇒一律支給」と二転三転する中で、詳細については、色々な情報が飛び交いましたので、その他の留意事項を整理したいと思います。

  1. 10万円一律給付金は税務申告上収入には含まれず、課税対象にはなりません。
  2. 世の中には、少なからず世帯主との関係が悪化している家族がいます(ドメスティックバイオレンスをされて家から出ている家族など)。また離婚協議中という家族もいます。このように、世帯主への一括支給が相応しくない世帯への対応は、詳細をこれから詰めることとなっています。従って、このようなケースに当てはまる方は、住民票が置いてある市区町村が発表する情報をきちんと確認するようにする必要があります。
  3. ホームレスの方の中には、一部住民登録が抹消されてしまっている人がいます。このような方々にも、可能な限り個別対応をすることで準備が進められるようです。このような極めて特殊なケースの場合には、基準日に住民登録がなくても、別途住民登録をすることで受給を可能にするようにする見込みです。

2.30万円給付金の何が問題だったのか?

迷走に迷走を重ねた30万円支給案の矛盾点については、既に分かり易く整理した記事を当サイトではアップしておりますので、詳細はそちらを参照して欲しいと思います。

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2-1.最大の問題は、「基準を世帯主の収入」にしたこと

日本において頻繁に使われる「世帯」や「世帯主」ですが、法律用語としてすべての法律共通の定義を持っていません。世帯や世帯主の定義は、主に判例に基づいていると考えられています。

現行の住民基本台帳法(いわゆる住民票のことで総務省管轄)の下では、「世帯主とは、主として世帯の生計を維持する者」が中心概念である事が判例により確定しています。
この住民基本台帳法下での世帯主の定義を厚生労働省も追認していて、国民健康保険の加入単位を世帯として、国民健康保険証は原則として世帯主当てに送られるようになっています。

しかしながら、実際の私たちの生活を見てみると、世帯主の収入だけで世帯全員の生活が賄なえる状況にある世帯は極めて少ない状況になっています。大抵の世帯では、世帯主だけではなく、世帯に入っている配偶者や大学生などの学生も生活費を賄うために働いているのは現状です。
そのような現状を深く考えることなく、「世帯主の収入を基準」としたことが最大の過ちだったと理解できると思います。

2-2.諸外国では混乱は起こっていないのか?

筆者の友人は、海外に住んでいる人もいます。何人かの人に聞いてみましたが、日本のような混乱は起こっていないようです。海外では、国によって、このような非常事態における国民への対応を、国だけが行う、国と州の両方が行う(アメリカのように、市や郡が独自に付加する施策がある国もあります)、州や市町村が行う国と、国の在り方によって異なります。
しかしながら、今回のコロナ禍だけ、特別に体系を変えたという国はないようです。その辺りが、混乱が少ない主要因のようです。

また、海外の多くの国では、雇用の流動性が高くなっています。これは、不況時には、企業が「レイオフ」を活用することが出来るからです。「レイオフ」は、日本の「解雇」と同義だと思っている人が多いようですが、正確には意味が違います。
「レイオフ」は、確かに解雇されますが、正確には「一時解雇」という方が正しく、もし経済環境が戻ったら、元の職場に復職できるのです。職場で、仕事がない場合に、「一時的に解雇を行い、その間は失業手当を貰う」という慣習に慣れていることから、日本のようにパニックになるというよりも、「今回のレイオフはいつもより深刻かもしれない」という思考になったようです。

このため、アメリカ、イギリス、フランスなど多くの国で、レイオフ中の失業給付を厚くする施策が取られました。
その上で、アメリカでは、一定の所得以下の国民には、一律給付金を支給したのです。
日本と諸外国の大きな違いは、既存のセーフティネットを最大限に活用したか否かの違いと言えると思います。

2-3.アメリカの直接給付は一種のベーシックインカム

アメリカでも、当然のようにレイオフが行われています。もちろん、レイオフはされないまでも、短時間就業になっている人もいます。そのため、アメリカは2段階で保証を厚くしています。

一段階目は、所得補償に当たる失業保険の給付を厚くすることです。その上で、一定の所得以下の人に、直接給付を実施したのです。この直接給付は、所得の制限を設けたとは言え、いわば一種のベーシックインカムです。アメリカ以外にも、スペインが同様の措置を行うことを計画しているとのことです。

2-4.そもそも高福祉国家である国はセーフティネットが手厚い

直接給付金がなくても大騒ぎにならない国は、元々高福祉国家な国々です。
そのため、コロナ禍のために、急遽制度を作らなくても、既にベースの制度があり、その制度の運用を変えることで、対応出来ることが多くなっています。

アメリカを始め、本来は低福祉国家の場合には、そのセーフティネットが本来は貧弱です。そのため、アメリカはいち早く直接給付を決定しました。

欧州の国々でも、高福祉国家度が高い国ほど、直接給付は話題にならないようです。

高福祉と低福祉の真ん中、又は政策転換中の国であるイタリアやスペインなどが、施策が他の欧州の国々と違うのは基盤となる福祉政策が変更の過渡期だからだと思われます。

3.まとめ-国民全員10万円は不公平か?-

日本だけではなく、世界中どこの国でも富裕層は、今回のコロナ禍で本当に困っている人はいないと思われます。
確かに株価が下がって含み損が生じている可能性はありますが、富裕層は資産を分散投資しているので、それも想定内でしょう。むしろ、この株価暴落は絶好の投資タイミングと思っているはずです。

そんな富裕層にも10万円とは言え給付金を配るのは、結果的に日本だけということになってしまいました。
これはよく言えば、日本の平等意識の表れであり、かつては国民総中流社会だったために、自分が富裕層、中間層、貧困層のどこの層に属しているか、実は本人達も自覚がないのが日本の特徴であるからとも言えます。

3-1.国としての戦略の明確化を後回しにしてきた日本

先日、アメリカのニューヨーク州のクオモ知事が、定例の記者会見で、「Our strategy is
That we should do based on the data.」と発言をしていました。国にも州にもStrategy、すなわち戦略があるのがアメリカ合衆国という国であると改めて感じた瞬間でした。

それに対して、日本は、長い間、高福祉国家と低福祉国家のどっちつかずの政策を取り続けました。
そして、雇用の流動性を高める必要性を叫ぶ声が多かったにもかかわらず、労働法の大胆な改正にも着手してきませんでした。

今回、安倍政権は、トランプ大統領と同様に、株価対策をメインに経済対策を主眼において、企業に対する政策に重きを置いてきました。一方で、その企業に雇用される労働者をどうするべきか?については、日本独特の曖昧な中でやりくりしながら、老後資金2000万円問題に端を発して、その方針を固めようとしていた矢先だったと言えます。

そのような中で、突然直面したコロナ禍によって、安倍政権の矛盾が一気に噴き出したというのが実情です。30万円給付金の迷走は、その象徴と言えます。

日本の選挙権行使率が低迷する状況が、これを機会に改善されるのではないか?と密かに期待したいところです。

執筆
荒井薫
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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